論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

「WUG駅メロ」を作るまで。ついでに全曲ひとことコメント

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東京メトロ風のサムネを作ったがそういやJR-SH風だった
イルリキウムです。

先般、4回に分けて投稿した「Wake Up, Girls! 発車メロディ風アレンジ」。
「FINAL LIVE 想い出のパレード」で披露された全33曲を、セットリスト順に並べて制作したものである。

 
おかげさまで、「環状線で延々と聴きたい」「どの駅の近くに住みたいか悩む」などといった好意的な反応をいただき、「WUG状線」などといったワードも飛び出した。
 
さて、本記事では、
駅メロWUGに触れてくださったみなさんへの感謝と、原曲の制作陣へのリスペクト、そして何よりWUGちゃんたちへの愛を込めて、
この駅メロアレンジの制作背景と、各曲のこだわりポイントなどについてコメントを綴りたいと思う。
 
制作環境や、アレンジの際に気を付けたことなどにも少なからず触れているので、
「好きな曲を駅メロアレンジしてみたい!」という方にも読んでいただけると発見があるかもしれない。
 
もしかしたら、私のアレンジを聴いて、「自分だったらこの部分を使うな……」というワグナーがいたのではないか。
もう、大歓迎である。DTMに多少心得があるなら、ぜひ作ってみてほしい。
いろいろな人の想いがつまった作品を聴いてみたいぞ。

※「全曲通して聴きたい」という方、Youtubeにアップロードしたのでこちらからどうぞ。

それでは、出発進行!
 


きっかけ


今回「WUG楽曲を発車メロディ風にしてみよう」と思いついたのは、勤め先の最寄り駅で帰りの電車を待っているときであった。
その駅では、採用駅のほとんど無いレアな駅メロを使っており、
「不思議な曲調だなあ……」と何の気なしに放送を聴いていたのだった。
 
ところで私は音楽が好きである。
テレビや店内で流れているBGMが気になるし、ちょっとしたチャイムや効果音の音も取りたくなってしまう。
絶対音感は無いので、聴いた瞬間に譜面におこせるわけではないのだが……)
 
駅メロも、生活に溶け込んだ"音楽"として前々から興味の対象であった。
中学生の頃、松澤健氏が採譜した発車メロディの楽譜集『鉄のバイエル』が発売された。
勇んで購入した私は、ピアノ教室の先生に見せびらかし、学校でも多目的室のピアノでよく弾いていたものである。
「そういえば、アイマスの発車メロディ風アレンジの動画を見たことがあるな」
やってきた下り列車に乗り込みつつ、私は思考を深めていた。
ってことは、DAWそれっぽい音源があれば、自分でも作れるのでは?
世の中には色々な人がいるもので、駅メロアレンジも先駆者がたくさん存在する。
例えばそうだな……、と調べてみると、WUGちゃんの楽曲でまとまった駅メロ作品は無さそうであった。
 
肚は決まった。無いなら作ったる。


作業環境


そうと決まれば音源について調べなくてはならない。

駅メロといえば王道はJR-SHシリーズだ。都内の多くの駅で使われているので、聞き覚えがある首都圏民は多かろう。
JR-SHシリーズを生み出したのは塩塚博氏(SHはShiozuka Hiroshiの頭文字である)。
ジャズやフュージョンを得意としつつも、クラシックのエッセンスを持ち合わせた作曲家で、作品からもそのテイストは色濃く感じられる。
最近でも、東京メトロやご当地メロディなど多数の駅メロ作品を手掛けているヤバいお方だ。
 
どうやら、前述の松澤健氏によると、SHシリーズにはあのヤマハの生み出した名機・DX7の音色が使われているという。
そしてなんと。DX7を再現したVSTiも存在するのである。
その名を「DEXED」。
オープンソース! もちろんフリー! さすが歴史的シンセサイザーDX7、研究されてる~!
※DLはこちらから可能:http://asb2m10.github.io/dexed/
 

いやぁ、待て待て。テンション上がってっけどさ。
要はシンセサイザって、音作り自分でやらなきゃいけないわけでしょ。
プリセット(最初からソフトに設定されている音色)でなんとかなるの? ん??
 
……む。冷徹さとローテンションを司る脳の一部が語りかけてきた。
その通り。シンセで思い通りの音を作ること。醍醐味でもあるが、これが一番難しいところでもあるのだ。
ましてや今回は、駅メロアレンジをするのが目的。より近い音を求めたい。

私は世界一信頼している先生であるGoogle先生に教えを請うた。

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Google先生かく語りき。
あるではないかーー!!
どうやら、有志が集めた"Dexed Cart"なる膨大な音色セットの中に、類似の音色が収録されているとのこと。
(最も正確な音源は、DX7Ⅱ用のパラメータを用いているようで、DEXEDではうまく再現できないらしい。残念)
こうして、私は相棒のCubase Studio 5ちゃんにDEXEDを追加し、Dexed Cartから目当ての音色を導入した。
 
今回作った33曲には、以下の3音色のみを使用している。
・Fuyu(ベルのような金属的な音色)
・Melodrama(ビャンビャンした奥行きのある音色)
・KinzkHarp(ポロンポロンした撥弦楽器的な音色)
 
準備は整った。さあ作っていこう。

 

駅メロ"風"の作り方


制作に当たって意識したのは、①切り取るフレーズの選定、②伴奏のパターン、③終止の重音の3点である。

 

①フレーズ選定

つまるところ「曲のどこを使うか」という話。
発車メロディの時間に明確な制限は無いのだが、多くは10秒前後だ。
4-5分ある曲から、10秒程度の一部のみを切り出すわけだから、"その曲っぽさ"が現れている場所が良いに決まっている。
鉄板はサビ終わりだろう。メロディの終止感が最も出るし、アレンジもしやすい。
また、イントロ部分も良い。イントロが曲の印象を決めている場合も多く、メロが乗っていない箇所の中では選びやすい。
 
33曲の中には、少し意外な部分を選んでいるものもあるが、"その曲っぽさ"を意識してのチョイスとご理解いただけると幸いである。


②伴奏パターン

駅メロの伴奏は分散和音が多い。
あるいは、メロディ自体が細かいパッセージになっていることがとにかく多い。
これは恐らく、駅メロが「警告音」としての役割を持っているためで、
重音でジャーンジャーン、と鳴るよりは、テロテロテロテロ鳴っていた方が、音符と一緒に自分もせっせか動こうという気になろう。
 
また、駅のように横にながーーい空間でスピーカから音を流すと、否が応でもラグが生じる。
その際、重音の連打だとズレが分かりやすいが、分散和音ならばズレた音に紛れ、より空間的広がりを感じる音となって飛び込んでくる。同一コード内なら違和感も無い。
 
例えば、JR-SH3-1の低音部を 分散和音ver. (原曲) 重音ver. で聴き比べてみよう。
 
分散和音ver. (原曲)

 
重音ver.

かなり印象が異なるのではないだろうか。


③終止

これだよこれ。
正直駅メロの終止は読めない。素直に解決しないことが往々にしてあるからだ。
塩塚氏はこれを「テクニック」と明言した上で、「偽終止などを盛り込むことで緊張感を出す」としている。
やはり、駅メロの持つアラートとしての要素を意識した作曲法である。
まあ、連続で聴く場合、あまり乱発すると飽きてしまうが、33曲の中にもちょっとばかり盛り込んでみた。
おっと思わせる終止は、「駅メロっぽいな」と感じるひとつの要因にもなっているだろう。
 
他にも、私の思う駅メロ作曲テクとしては、
・音数を出来るだけ減らして、ぼやけないようにする
・厚みを持たせるために、メロディの一部を伴奏パートが受け持つ
輪唱のようにフレーズを重ねて繰り返す
・音量を揺らして波のような聴覚効果を生み出す
などがある。
 
今回のアレンジの際も意識していたつもりなのだが、曲が進むにつれ原曲忠実主義の自分が影響力を増してきてしまい、
なんだか"駅メロっぽい音でWUG曲をなぞった"みたいなアレンジになってしまったことをご容赦願いたい……。


全曲解説


1. タチアガレ!(作編曲:神前暁(MONACA))
初っ端から、どの部分を選ぶか非常に迷った一曲だ。
サビの〈Wake Up!〉からが最も馴染み深いのだろうが、4小節では物足りない。8小節だと長い。
では、まゆしぃの歌い上げるDメロか? これも同様の問題を生じる。
ここは幕開けということで、イントロを採用し、テンポを大胆に上げた。
音色はMelodramaしか使っていないが、カウンターとして小さめの音量でおかずを入れている(楽譜参照)。塩塚リスペクト。

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弾きにくい。
2. 16歳のアガペー(作編曲:広川恵一(MONACA))
こちらは音色をKinzkHarpで統一。
駅メロは基本的に、メロディにハモの旋律を重ねることは多くない。音数を減らしたいからだ。
……しかし私は誘惑に負けた。この曲からめちゃくちゃハモメロを入れている。
 
そして早速、終止に捻りを入れてみた。
原曲ではトニックで気持ちよく終止するのだが、ここでは【Ⅳ/♭Ⅲ】とした。
サブドミナント(ⅣorⅣ△7)で終わるパターンは歌モノ楽曲で割とよく見るので、ベースを全音下げて、min7thの響きを加えた。
"終止した感"が無くて気持ち良いねえ。へらへら。

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へらへら。
この左手のパターンは、かなり王道を往く分散のさせ方だろう。ピアノ基礎教則本のハノンなんかで練習させられる音型だ。
そして、【Ⅰ→Ⅲm→Ⅳ→Ⅴ】と進行して【Ⅵ】で終止、というこれまた展開の読みやすい終止形となった。
右手を分散させ、リタルダンドをかけて終わるのは、JR-SH2などで使われている手法を参考にしている。
スタンダードナンバーにはスタンダードな展開!

4. ゆき模様 恋のもよう(作編曲:広川恵一(MONACA))
これめっちゃ気に入ってるんだよな……。
キラキラ感を出すために、掟破りの3音色同時遣いをやっている(この後の曲でも結構やらかしているが)。
切り出す箇所は、最初は素直に〈そっとまわり始めた〉の4小節とするつもりだったのだが、伴奏がしっくり来ず。
かといってサビはメロディが間延びしてこれまた合わず。
試行錯誤の末、サビ前に落ち着いたのである。
〈冬の結晶〉の部分、3パートがそれぞれに動いている感じが、原曲の重奏感を思わせて素敵……だよね?

5. 言の葉 青葉(作編曲:岡部啓一(MONACA))
言の葉 青葉』は、唯一現実に駅メロに採用されている曲である。
仙台空港アクセス線仙台空港駅で、2016年3月27日より流れているこのメロディは、前奏のピアノ部分を取り出している。
……カブったら先達に失礼極まりない。
ということで、私は歌が入っている部分を拝借した。
バラードは極力シンプルに。終止も穏やかに。
こういうのは"焦らせるメロディ"ではなく、駆け込みを防ぐ"歩かせるメロディ"と言える。

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ご存知、杜みなせさん
6. One In A Billion(作曲:渡辺未来、編曲:R・O・N
曲が素直なので、イントロでもAメロでも難なく作れそうだったが、
イントロにしてしまうと「これ何の曲や?」と期せずしてクイズになってしまいそうだったので、一番分かりやすいサビに決定。
〈ワイナビリオーン!〉まで入れようかと思ったが、散らかりそうなのでやめておいた。
低音域でかなりドスドス動いているので、地下ホームとかで聴くとうるさいかもしれない。

7. 素顔でKISS ME(作曲:田中秀和(MONACA)、編曲:広川恵一(MONACA))
これはインパクトの強いイントロ部分を採用するしかない!
同一の音型を2回繰り返す形式であることに加え、
1拍目に打ち鳴らされる重音と、実音でミ♭を中心に細かく裏打つメロディ部分の組み合わせで、切迫感のある仕上がりとなった。
これは難しい。
Aメロ部分を使い、テンポもリズムも変えて、付点のウキウキ系にする方向性も考えたが、
最後のトリルをやりたくなったため、アバンを使うことに落ち着いた。
もちろんこのトリルは『Water crown』(作曲:三留研介・若林剛太)オマージュである。
 
『Water crown』

 
9-1. ハジマル(作編曲:広川恵一(MONACA))
珍しくテンポを遅くしたのは、原曲通り1, 3拍目に大きなヒットを入れると、駅メロとしては重くなってしまいそうだったからである。
代わりに16分のパッセージとして、柔らかく展開するようにした。
そして、この曲で外せないのは〈ハジマル はじまる〉のフレーズ。
ということで、無理に終わりにくっつけた。

9-2. 可笑しの国(作編曲:高橋邦幸(MONACA))
2拍目に重音を放つことで、原曲とは違った独特の雰囲気が出てきた。
こういうエレクトロ系の曲はアレンジに難渋することが多い。なんとかBメロに使いやすいホップするメロディがあってよかった……。
今回末尾に活用したのは『JR-SH-1』のパターン。"っぽい"よね。
 
『JR-SH-1』


9-3. ステラ・ドライブ(作編曲:田中秀和(MONACA))
これ時間かかったんだよな……。
秀和さんの曲は割と研究しているし、何なら一度"ブラスバンド応援アレンジ"もしているので、
余裕やろハッハアと思っていたらどうしてなかなかまーー難しい。
四和音を一気に鳴らすとうるさくなるし、かといって1拍ずつズラすと音域の問題なのか埋もれてしまう。
あれはよっぴーの美しいロングトーンだからこそ為せる業だったのだ。
 
ちなみにブラバンアレンジはこちら↓

 

9-4. スキ キライ ナイト(作編曲:帆足圭吾(MONACA))
これも時間かかったんだよな……。
推しの曲やしめっちゃ聴いとるし、なんて高を括っていたらどうしてなかなかまーー難しい。
キャラソンは全体的に明るい曲が多いので、弦中心にややダークめのアレンジとした。

9-5. オオカミとピアノ(作編曲:田中秀和(MONACA))
聴かせたいところが多すぎて迷ったのはこれ。
A'メロの掛け合いなんかも合いそうだ。でも音色どうしようかな。

9-6. 歌と魚とハダシとわたし(作編曲:永谷喬夫
33曲中、最も大胆に曲調が変わったと感じるのはこの曲だ。
4つ打ちをシャッフルチックなシンコペーションに変え、音をかなり疎にしたので、
子供っぽいのか大人っぽいのか分からない雰囲気になった気がする。

9-7. WOO YEAH!(作編曲:広川恵一(MONACA))
広川さんが本当にどストレートな曲を書いていた頃……というと語弊があるかもしれないが、
とりあえず『ハジマル』と『WOO YEAH!』はトニック祭りなのだ。
これをそのまま駅メロにしてただ漫然と流していると、誰の耳にも止まらずドアに挟まる通勤客が多発する。
せめてもの、というわけで【Ⅵadd9】で締めている。add9は単に私のお気に入り。
ちなみに、Ⅵadd9のアルペジオは、高音に向けて僅かにクレシェンドをかけている。
大人しい終止にしたい場合は、逆に小節頭に最大音量を持ってきて、しぼむようにデクレシェンドをかけている。

9-8. Non stop diamond hope(作曲:深澤祐貴、編曲:ハマサキユウジ
ノンダイはこの区画の最終曲で、内容的にもあんまり捻るようなタイプの楽曲ではない。
したがって捻っていない。手なりで作った。
ニゾンで終わらせているのもその一環と言えよう。

10. ワグ・ズーズー(作編曲:高橋邦幸(MONACA))
原作に登場するのは人を喰う(物理)ような猛獣たちであるが、ちょこちょこした小動物感を出したかったので高音域でまとめた。
これもadd9で終わっている……と見せかけて、実際鳴らしているのはsus2である(と解釈してほしい)。

11. HIGAWARI PRINCESS(作編曲:広川恵一(MONACA))
本来ならハモメロ入れない方がそれっぽいんだけどな~~と葛藤しつつも、原曲に近付けたくて入れてしまった。懺悔。
メロディが跳ねるので、伴奏も付随して以下のような跳ね気味のパターンとした。

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タカタカターンッ
"アウフタクトで次のフレーズに行くと見せかけて行かない終止"も炸裂しているのが見どころ。
 
12. スキノスキル(作編曲:田中秀和(MONACA))
会心の一作。
原曲が良すぎるのは言うまでもないが、この「低音下降」と「高音の規則的な動き」の組み合わせは非常に駅メロライクなのだ。
好き過ぎる曲なので、音符割りにもこだわった。
以下の譜面を見ながら、よーくメロディを聴いてほしい。

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こんなん正確に弾けんよ
僅かに! 付点32分の単位で! 揺らしているのです!!
実際のところ、これは原曲でフィドルが弾いているパッセージであり、きっちりかっちり記譜できない代物なのだ。
無理に打ち込みで"らしさ"を作るためには、こうするしかなかったのだ。
この曲が好きな方々は、清涼感のあるこの冒頭の和音が好きなのだと私は信じている。
故に、冒頭を選ばないといけなかった。
日光を見ずして結構と言うな。同じことである。

14. 7 Senses(作編曲:田中秀和(MONACA))
原曲に分数augという注意喚起能力がバチボコ高い和音があるので、そのまま使わせていただきました。
……Blackadder chordで終わる駅メロってあんのかね。ご存知の方ご一報ください。

15. 極上スマイル(作編曲:田中秀和(MONACA))
原曲の形を踏襲したアレンジ。
もっとウキウキにしたかったのだが、ホームで流れている絵を想像するとこのくらいが妥当か。

16. 雫の冠(作編曲:岡部啓一(MONACA))
バラードは! シンプルに!!
言の葉 青葉』と対になっているような作りの本楽曲。
調も同じで進行も類似しているので、敢えて後半部分には『言の葉 青葉』と全く同一の伴奏をあてがった。
以下の譜面で、上の声部が『言の葉 青葉』、下が『雫の冠』である。同時に弾いてもまた良き。

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最後の和音も転回しただけで同一である

17. 少女交響曲(作編曲:田中秀和(MONACA))
ワグナー以外にも認知度が高い人気曲なので、割とスタンダードにアレンジするよう心がけた。
かなり音が密集しているため、地下で聴くと響きすぎる可能性がある。

18. Beyond the Bottom(作編曲:田中秀和(MONACA))
BtBを司る〈Change your mind, my friend...〉の箇所は取り入れたかったので、必然この箇所となった。
少女交響曲』に比べると、どちらかといえば、静謐に威厳を持って、マエストーソ、というイメージで作ったのだが、
なんだろう、聴けば聴くほどなんか違う気がしてきた……あれっマズいな……。

19. 海そしてシャッター通り(作編曲:高橋邦幸(MONACA))
WUG組曲と対峙する時は常にプレッシャーを感じる。弾いてみた動画もド緊張したのに、アレンジなんて所業は畏れ多い。
真摯に向き合って抜き出す箇所を選んだが、この4曲は他の楽曲に比べて、明らかに長いのがお分かりいただけたかと思う。
葛藤の結果である。
 
シャッター通りは悩み抜いて、間奏を選んだ。
ここは、劇伴曲の『小さな一歩』が引用されている箇所。全ワグナー感涙のパートである。
10数秒に押し込むには重すぎる意味が込められている楽曲だが、
このフルートのフレーズはそれをすべて包含して、ワグナーに届けてくれると考えた。
Fuyuのメロディと、KinzkHarpの伴奏。極力音を削ぎ落として澄んだ空気感をイメージした。

20. 言葉の結晶(作編曲:広川恵一(MONACA))
何度も繰り返されるこの音型が、この曲のコアとなっている。抜き出すならここしかない。
メロディを担当してもらったMelodramaは、最終音でアルペジオを弾かず、そのまま引っ込んでもらった。
これは、原曲でのWUGちゃんの彼方へ消えていくような歌い方をイメージしている。
その代わりに下からFuyuが駆け上がって、辛うじて駅メロらしさを保っている。

21. 土曜日のフライト(作編曲:田中秀和(MONACA))
この3音色に、原曲のピアノのような重音連打はキツいのである。
KinzkHarpで出来ないことはないが、音の鳴らないブランクタイムが曲を分断してしまって良くない。
なので、伴奏は敢えて崩した。一音ずつ鳴らしてもらうことによって、更に郷愁を増したように感じる。

22. さようならのパレード(作編曲:神前暁(MONACA))
シリーズ最長、20秒。仕方ない。どこも切れないのだから。
希望溢れる未来に向かっていくように、最後のフェルマータは通常より長めに伸ばした。
そこには、名残惜しさも入っているのかもしれない。
 
ちなみに、「音量を揺らす」というのはこの曲の分散和音を聴いてもらえば分かりやすいと思う。
DAWのモニタ上ではこう映る。下のグラフが音量(ヴェロシティ)。
色が赤に近いほど音量が大きく、青に近いほど小さいことを意味している。

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私はMIDIキーを持っていないのでマウスでカチカチしている
23. SHIFT(作編曲:広川恵一(MONACA))
『SHIFT』には、HOMEツアーPartⅠのいわゆる"開幕SHIFT"と、WUGSSAの"En.開幕SHIFT"という興奮の想い出が付随する。
最大限にワクワクするように、リズムパターンに工夫を凝らした。

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No Swing, No Life
駅メロにドラムを参加させるわけにはいかない。
したがって、グルーヴ感は伴奏で出すしかないのだが、メロディを際立たせなくてはならない関係上、その兼ね合いが難しいところでもある。

24. 地下鉄ラビリンス(作編曲:広川恵一(MONACA))
電車とWUGがはっきり接点を持つ楽曲。
シンプルに、Melodramaの音色で鳴らせば駅メロっぽくなってしまうのだが、そこは少しスパイスを効かせたい。
まずはリズムの変更。〈乗り込めないよ〉の箇所にシンコペーションを施す。
そしてコードの変更。分数augに降臨を賜った。そしてそのまま終止。

25. TUNAGO(作編曲:広川恵一(MONACA))
バラードといえど、この曲はテンションの乗った厚いコードがあってこそ輝く。
原曲では係留音としてストリングスが鳴らしてくれているところを適度に拾って、薄っぺらくならないようにした。
2回目の〈きみの想いも〉を別の音色にしているのは、原曲厨のこだわりである。

26. Polaris(作編曲:田中秀和(MONACA))
みんなで肩組んで歌いましょ。
『さようならのパレード』以上に名残惜しくなってしまい、最後のトリルはもうめっちゃ長く取った。
気の短い駅員さんだったら途中でボタンを離してしまうかもしれない。
 
こちらが終点。おつかれさまでした。


おわりに



やっぱMONACA曲多いな!!
 
 
参考:
塩塚博公式ブログ「鉄のみゅーじしゃん」2008.11.27付エントリ
塩塚博氏の駅メロ作曲テクニック「小さな違和感を残す」
「つくみ島だより」2018.12.5付エントリ
ご当地駅メロディー資料館-ご当地メロディー