論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

強引に "WAKE UP GIRLS" であいうえお曲紹介2020

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本エントリは、我が知己朋友・なまおじ氏が主宰する「楽曲オタク Advent Calendar 2020」第22日目の記事です。

adventar.org

 

※ タイトルに「Wake Up, Girls!」の名がありますが、WUG Adventは別企画となります。紛らわしくて申し訳ありません。

↓ WUG Advent 2020も熱の籠った記事たちばかり。ご興味ある方はこちらもどうぞ

adventar.org

 


 

イルリキウムです。

 

当ブログ「論理の感情武装」では、好きな音楽を理論的にあるいは感情的に攻め立て、その曲が持つ特異的な音の景色を言葉で描出してきた。

好きを言葉にする。

この営みは尊いものだという信念を持っている。

 

さて、2020年にアップした10本の記事(本記事含まず)を振り返ってみると、

駅メロアレンジしちゃったやつ

・曲を聴いて思い浮かんだ医療器具を語ったやつ

劇伴1本だけをゴリゴリに掘り下げたやつ

・『箱根八里』の歌詞に出てくる漢字を語ったやつ

 

 

……え? なんか変な人じゃない? 大丈夫?

 

 

「音楽オタク」を名乗るには散らかりすぎた記事群である。

白状すると、私は、物事を考えるときに”寄り道しないこと"が極端に苦手だ。一つの音楽作品を聴いたときに、音も気になるし歌詞も気になる。
音への興味は、「楽器の種類」「発声法」「コード進行」「メロディライン」「曲全体の構成」などなどに分かれていく。
そして、例えば一番最初に挙げた「楽器の種類」についての思考は、「使っている道具による音色の違い」や「類似の楽器を使った別の楽曲」などに繋がっていく……。
そして、気になったことは全部喋ってしまう。

 

精選・推敲すれば良いのだが、私はその労力を惜しんでいる。

また同時に、全部ひっくるめて書いちゃった方が、誰かしらにリーチする可能性が高まるのではないか、とも思っている。"下手な鉄砲"理論だ。

そんなことをぼんやり考えながら鉄砲を撃ちまくっていたら、当たってほしいところに命中することが今年は数度あった。とても光栄なことである。好き好き言っていると、いつか届くのだと実感できてしまった。

 

というわけで、この記事でも変な人を辞めることはせず、好き好き言おうと思う。いつも通りだね。

 

問題は選曲なんだけど


 

恒例の風呂場で考える大作戦。ちゃぷん。

今年のリリース楽曲からチョイスするのが一般的だが、今年もそんなに曲をスキャンできていない。
あのアーティストの曲から10曲選ぶか……あー、サブスク解禁してないのね。楽曲オタク諸兄はお分かりになると思うが、曲紹介ブログは読者に曲を聴いてもらわないと話が進まないので、フルサイズのサンプルを希求しているのだ。
うーん、例えば2020に因んで、「オリンピックに関連する曲」みたいなテーマ縛りを設けるのはどうか。でも好きな曲だけでやろうとすると行き詰まりそうだな。
十二直がタイトルに含まれる曲特集とか?
フランス革命歴の月名から連想する曲特集とか?
歌詞に素数が入っている曲特集とか?(そして趣味の世界へ)(2020関係ないじゃん)(fin)

 

迷子を極め、そろそろのぼせそうな私の前に、頭文字の精が現れた。

精「やっぱ頭文字じゃん?」

イ「だよね~~~」

ということで、頭文字を設定し、その字からタイトルが始まる思い出深い曲たちを挙げる方式に決定。よっしゃ風呂あがるぞ

 

10文字程度で、アルファベットの被りが無い語句を考えたところ、

Wake Up, Girls!

が思い浮かんでしまった。これでいこう。

 

はい!

今年の締めは、"WAKE UP GIRLS"であいうえお作文曲紹介しまーーす!!(急展開)

註)2020年総決算記事としての体裁を保つため、「2020年もiPodに入っていて、かつ少なくとも1回は聴いた曲」を選定している。

 

 

W


The Wind Machine/Count Basie Orchestra
作曲:Sammy Nestico

Wind Machine

Wind Machine

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はあぁぁぁかっこい~~……

 

初手から恐縮だが、弊ブログでは触れたことがなかったジャズナンバーである。1975年リリース。

数年前、籍を置いている地元ビッグバンドの定期演奏会で演奏することになったはいいが、楽譜がアルバム "Basie Big Band" でベイシーが弾いているヴァージョンではなかったおかげで、私が必死の耳コピに取り組んだという、実に思い出深い一曲だ。

一聴していただければ解る通り、とにかくテンポが速い。二分音符=152-154くらいなので、およそ1秒に5拍だ。
みなさん、1秒に5回手叩いてみてください。疲れるでしょう?

マチュアビッグバンドのスタンダードナンバーといわれるが、迂闊に手を出すと火傷するパターンの曲である(実際、Youtubeなんかで演奏動画を見ると、火傷しているバンドがたくさん見つかる)。

ハイテンポ故に、縦を揃えるのは一苦労だ。ソロの裏側でもホーンセクションが複雑なシンコペーションを鳴らしている。トランペットが輝くキメの部分もふんだんに盛り込まれている。

キメが揃わないジャズほど格好悪いものはないだろう。このCDを聴くと、プロの凄みを感じる。

 

前述したように、このバンドの元締めであるカウント・ベイシーはピアニストだ。

ジャズにおける彼の演奏スタイルは、いわば"倹約"。
手をちょろっとピアノに触れさせるだけというような、音数の少なさ&休符の多さが特徴的である。
ライブ映像でも、ポロン、ポロン、と撫で斬るような様子をよく見る。ソロであっても、長いフレーズはなかなか弾かず、細切れの音を少しずつ繰り出してくる。
それこそが、彼の演奏する曲に、独特の柔和さや大らかさのようなものを感じさせる要因なのだろう。

ちなみに名前のカウント Countとは、伯爵を意味する愛称である(本名はウィリアム・ジェイムズ・ベイシー)。フランス語のconteから変化した語で、「数える」のcountとは由来を異にする。

 

理論的な話をひとつ。

曲のラスト(2'47")に、こういった節が登場する。

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 聴いてみるとこう。

 

これは……完全4度堆積!!

実音ドからファ、ファからシ♭、のように、完全4度上の音を重ねていくわけだ。一気に鳴らすとものすごい濁りになってしまうが、単音がひとつずつ、次々覆い被さってくるようになっているため、音が増える度に力強さが増す。

4度堆積の強みは、"調性感の無さ"。長短の響きは第3音が司っているが、4度堆積は第3音を欠く。ドの次の次の次に出てくるミ♭は短3度に相当するものの、ここまで離れてしまうと分かりにくく、むしろ、シャープナインスの顔をして複雑に響いてくる。

だからこの音型は、明るいとか暗いとかいうイメージ抜きに、「なんだなんだ、音が上っているぞ……!」という印象を与える。

長短のイメージが無いと、我々は「どんな雰囲気になるんだろう?」と緊張したり、「安定しない感じだな~」と浮遊感を覚えたりする。曲調によって、4度堆積は色々な顔を見せるのだ。

 

同じように4度堆積の分散和音を印象的に使った曲といえば、『美少女戦士セーラームーン』の劇伴「ムーン・プリズム・パワー・メイクアップ!」ではないだろうか。

(0:34~。試聴だと削られている部分)

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この曲では、実音シからスタートし、6つの音が完全4度で積まれている。変身が始まるときの張りつめた感じや、ファンタジックながらもアツい空気がうまく表現されている。

 

 

A


AMAZING MAGUS/TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
作詞・作編曲TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

AMAZING MAGUS

AMAZING MAGUS

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2017年9月27日リリース。『トリニティセブン』シリーズの主題歌・劇伴・キャラソンがぎゅっと詰め込まれた4枚組アルバムより「AMAZING MAGUS」を選曲した。
本楽曲は、劇場版第1作で用いられた劇伴である。

 

今でこそ、TECHNOBOYSは様々なアニメ作品に楽曲を提供し、作風もテクノ以外に広がってきている。しかし遡ると、彼らがトリニティセブンを担当し始めた2014年は、まさに、"TECHNOBOYS×アニメ作品"の黎明期であったのだ。

TECHNOBOYSは、言わずと知れたYMOフォロワーである。
YMOの音楽が骨肉となっている私にとって、彼らの楽曲は常に「YMOの影、香り」と「エッヂィな新鮮さ」をもたらしてくれるものだ。初めて彼らの作品を聴いたときは、尋常ならざるインパクトを受けたのを覚えている。

 

さて本曲。

快速なキックに乗せて、左右から電子音が飛んでくる。デトロイト・テクノ、あるいはアシッド・ハウス辺りに分類されるのだろうか(アシッドというには洗練されすぎているか?)。

その上に、単語レベルに細切れにされたキャラクターヴォイスが乗ってくる。無感情な女声が音楽の一部となり、現れては没する。心地良い。

しばらくすると、男声のユニゾンでフレーズが"歌われる"。
Ⅳ→Ⅵ(しかも9th)をバックにしながら、メロディはマイナー・トライアドの周辺にちんまり収まっているという、不思議な響きを持った層構造だ。ここら辺の歌い方にはやはりYMOの影がちらつく。

 

先んじてリリースされていたTVシリーズの劇伴、「MAGUS MODE」を知っている方はすぐに指摘できたやもしれないが、これを受けて"第2作"として作られたのが、「AMAZING MAGUS」なのである。

MAGUS MODE

MAGUS MODE

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>Connection, Archive, Magus Mode.

>Luxuria. Ira. Invidia. Avaritia. Acedia. Gula. Sperbia.

といった共通のフレーズが用いられており、両者の関係を見出すのは難しいことではない。

その実、私がこれらの楽曲に出会ったのは『トリニティセブン』という漫画の内容を知る前であった。
「何言ってんだここ……あっ、スペルビア……って言ったな? 今?」という取っ掛かりから、七つの大罪が関係していそうなことを嗅ぎ取ったのであった。カトリック系の幼稚園出身なので。あ、でも大罪はよく犯します。主にアケディアとルクスr

 

「MAGUS MODE」には、7人の主要キャラクタたちがそれぞれの専門術式を唱えていくパートがあり、勢揃いの様相でめっちゃカッコいいのだが、個人的にはスピード感のある「AMAZING MAGUS」に一票!

 

 

K


KLING! KLANG!!/TWEEDEES
作詞・作編曲:沖井礼二

KLING! KLANG!! (album mix)

KLING! KLANG!! (album mix)

  • TWEEDEES
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

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【MV→ TWEEDEES(トゥイーディーズ) / KLING! KLANG!! - YouTube

 

もはや大アンセム

2015年1月21日に配信でリリースされ、3月には1st albumのラストを飾ったTWEEDEESのデビュー作、代表曲である。

SCOTT GOES FORでの活動を経て、音に男気が増したというか、Cymbalsのときよりも殺気立ったキラーチューンをぶっこんできた沖井礼二、当時45歳。恐ろしすぎる。

そしてvoc. 清浦夏実さん。CymbalsCymbalsたらしめていた軽妙洒脱かつ魅惑の土岐麻子さんと比べると、夏実さんはより「ふふん♪」と男を軽くあしらいそうな感じがある。それでいて、頭の頂から趾の先まで女性らしさに満ちている、魅力たっぷりのヴォーカリストだ。
この曲で言うと、〈木枯らしでも〉の「でんもー」の言い方とかね。即死。

 

どこが好きって、やっぱりリズムのTWEEDEESなんよ。

 

曲全体に「タンタン ンター」のリズムが張り巡らされている。後半の突っ掛けが持つウキウキ力(うきうきりょく)ったらないね!

もっと言うと、スネアは違うパターンを持っていて、ベースとスネアの絡み合いがウキウキ力(うきうきりょく)を増幅させるんだよね!!

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お聞きいただこう。これだけでもう、ウキウキ力(うきうきりょく)120%だ。

 

更に細かく見たら、Aメロではギターが「ッピャーン」と後半の突っ掛けを担当していたり、ピアノソロの裏ではこのパターンの展開形をギターとベースで仲良くユニゾンしていたり、ラスサビ前ではキーボードがこのパターンを演奏していたり、もうね、語れば語るほどウキウキなのよ。うきうきりょく!!! 

 

今年頭に開催されたセッション会で演奏したのは、とても良い思い出である。

まあ、私が中途半端な採譜しかしてなかったんで、伴奏は全部ギターに任せてずっとメロディ吹いてましたけどね!(その節はすまん)

 

 

E


Eternal Voyage/アルバトロシクス
作詞:quim_underconstruction↓
作編曲:Dr.ARM

Eternal Voyage

Eternal Voyage

  • アルバトロシクス
  • J-Pop
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

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2008年12月29日リリース、アルバトロシクスの3rdミニアルバム『e』より。

 

アルバトロシクスは、東方アレンジを中心に頭角を現し、21世紀初頭から現在に至るまでムーヴメントを起こし続けている札幌の化け物集団・IOSYSイオシスから生まれたユニットである。

作曲のARM氏といえば「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」「チルノのパーフェクトさんすう教室」のパンデミック的ヒットが思い起こされるが、近年では商業作品での活躍も著しい。クラブミュージックやポップスロックを踏み台にして、ブッ飛び電波ソングに仕上げるその手腕は当代随一である。研究も怠っておらず、彼の引き出しは常にアップデートされている。

脳を侵犯してくる掛け声が間奏を埋め尽くし休む間も無いザ・電波「メルヘンデビュー!」(安部菜々アイドルマスターシンデレラガールズ)とか。

columbia.jp

トランス・ブレイクコアを鏤めたARM氏大得意のコラージュ的キャラソン圧 倒 的 存 在 感」(鈴原るる、でびでび・でびる/にじさんじ)とか。

圧 倒 的 存 在 感

圧 倒 的 存 在 感

  • 鈴原るる & でびでび・でびる
  • アニメ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

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フュージョンチックな変拍子に流行りのサビⅠ→♯Ⅳ進行をコロコロ転がる鍵盤と電子音が埋め尽くす「ちくわパフェだよ☆CKP」(山形まり花・芽兎めう/ひなビタ♪)とか。

ちくわパフェだよ☆CKP - Single

ちくわパフェだよ☆CKP - Single

  • 日向美ビタースイーツ♪
  • アニメ
  • ¥255

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やべぇARM様紹介記事になっちゃう

 

作詞とコーラスは、ARM氏の大学時代からの仲間であるquim氏。

そしてヴォーカルは我らがmiko氏!
私世代はみんなmikoヴォイスで寝かしつけられていたので、彼女の曲を聴くと副交感神経系が優位に立つ。しかし電波ソングは生への渇望そのものなので、必然的に交感神経系も賦活される。こうして自律神経のバランスは乱れ人はバグり死ぬ。R.I.P.

 

さて本曲は、随所に差し込まれる硬質なカッティングギターが印象的な、いわゆる”きれいなARM”曲だ。
キメの4拍連発にもパワーがあり、自然に踊り出してしまう。私がこの曲を聴き続けているのはこのキメを聴くためと言っても過言ではない。

 

1'42"の箇所を聴いてもらいたい。1サビから間奏に渡すブリッジの最後の小節だ。

……うっ? しっくりこなくない?

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普通に考えたらこうだ。「タンタンタタン」。
しかし実際は、こう上手く拍にハマらない。恐らく32分音符ほどの単位でズレている
こうして、僅かな違和感を持たせて曲に耳を縛りつけにする……、つまりこの部分がhookの役割を果たしているように思う。渋い。実に緻密。

 

PVも作られており、公式サイトで公開されているのだが、Flash Playerが必要(2020年12月末でサポート完全終了)なので視聴は自己責任でお願いしたい。

ALBATROSICKS Official Site | DISCOGRAPHY 「PLANET LIBERATION」

 

 

U


under the cry/ステイル=マグヌス(CV: 谷山紀章
作詞:くまのきよみ
作編曲:渡辺剛

under the cry

under the cry

  • ステイル=マグヌス(C.V.谷山紀章)
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

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2009年7月24日リリース、『とある魔術の禁書目録 アーカイブス3』よりステイル=マグヌスのキャラクターソング。
彼は14歳なのに、髪は赤いし刺青も入ってるし香水振ってるし煙草まで吸っている。悪い子さんである。

 

作曲を担当する渡辺剛(わたなべ・たけし)さんは長くJ-POP業界で活躍しているキーボーディストでありながら、アニメ作品の劇伴も数多く手掛けている。彼のアニメ劇伴人生に関しては、こちらのインタビュー記事が詳しい。ウィーンで生オケ聴いたなんて羨ましいなあ……。

akiba-souken.com

 

曲は、重苦しさを纏いながらも、それを打破しようとする力が籠ったロックチューン。『禁書目録』のストーリィをご存じなら、ステイルに乗り移ったくまのきよみさん渾身の歌詞も理解いただけるだろう。ここでオタクイルリキウムを発動させていただく。

 

しんどい!!!!

 

はい。曲の話に参りましょう。

イントロのギターリフを引き継いだAメロ。Ⅰの上で、メロディは第5音を軸に〈綺麗ごとなんて 意味がない〉と苦々しい思いを吐く。〈"術"もない〉で9thまで上がってくるのが耳を引くポイント。

Bメロでは伴奏が柔らかく変化しピアノも絡んでくる。
〈祈りや優しさは 過去のお伽話〉のFM7→B♭M7→Bm7→FM7! B minorはD Majorの平行調である。ピアノによるハモメロがf♯を鳴らしているのも効果的な、この長調感のチラ見せ、セクスィですね~~。

そしてやって来るサビ頭はⅠメジャー! ステレオで右から、またもやMajor 3rdのf♯が鳴っているので否が応でも意識させられる。ちらちらとメロディに感じる同主調。晴れそうで晴れない、切々とした表情をエレキギターが奏でる。実にロックだ。

 

最後の〈さっき 決めたことさ〉。

1サビでは〈あの日 決めたことさ〉だったのが変化している。視点が過去から現在に飛んでいるのだ。過去のあのとき、インデックスを守り通すと決めた。そして今、何を思うか。当然その決意に変わりは無い。きっかけがある度に、同じ気持ちが積み重なって強度を増す。

「あの日決めたこと」と同じことを、彼は、常に決め続けているのだ。男ステイル、かっこいいじゃん。煙草吸ってるけど。

 

 

P


Princess Rose田村ゆかり
作詞:三井ゆきこ
作編曲:橋本由香利

Princess Rose

Princess Rose

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2006年12月20日リリース、田村ゆかりさんの11th singleの表題曲。
田村さんがヒロイン役を務めた、TVアニメ『おとぎ銃士 赤ずきん』の第2期OPテーマだ。

 

楽理的に語りたいところがあるわけではないし、私は王国民でもない。ではなぜこの曲を選んだのかというと、偏に、私が『おとぎ銃士 赤ずきん』をゴリゴリに観ていたからだ

もう食い入るように観ていた。土曜日を逃した場合は、金曜のBS再放送で観ていた。当時、イルリキウム小学6年生。卒業間近。下半期クールの放送だったため、アニメのクライマックスと自分の卒業とが重なり、私の小さな胸は千々に乱れた。うぅぅ草太ぁ……赤ずきん……(余談だが、「草太」と私の本名が音的に近いので感情移入したという側面もある)。

 

そういえば翌2007年、初音ミクが発売されたのをきっかけに、私はニコニコ動画に会員登録をした。聴く曲はどんどん増えていった。そして、この頃から私は徐々に、「なぜ自分はこの曲を気に入っているのか?」という視点で音楽を見るようになってくるのだった。

なお、その問いに対する、本楽曲における答えは、間違いなく「好きなアニメの記憶と強く結びついているから」。となる。

 

もちろん、少し思考を巡らせるとこうだ。

〈名前の無い花〉だった〈baby rose〉。このroseは総称であって、生まれたばかりの彼女にやはり名前は無い。でも〈だいすき〉という気持ちはしっかり持っている。タイトルに立ち返ると、〈Princess Rose〉と表記されている。題だから大文字、といった単純なものではないとすると、固有名詞・愛称の可能性が出てくる。つまり、「ローズ王女」だ。果たして彼女は、ローズ王女として自らの存在を確立して、成長した想いを〈あなたに届け〉ることが出来たのだろうか。……んああああ! 届いていてほしいいい!!! だって最後に〈Princess Rose, blooming for you〉って言ってるもんね?! でもまだ願望かな!!??

 

はー取り乱した。すんません。

言うてまあ、これも後付けだ。やっぱり赤ずきんが好きだから、なのだ。この歌詞だって、無意識に赤ずきんが主人公だと思って聴いている節がある。

 

やっぱり好きなものは好き。

「好きだ」って思ってる人がそれ以上説明の言葉を持たないのだから。そう言うしかない。

 

 

G


Greed's Accident/長門有希(CV: 茅原実里
作詞:畑亜貴
作曲:田代智一
編曲:上松範康

Greed's accident

Greed's accident

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2009年1月21日リリース、Wii用ゲームソフト『涼宮ハルヒの激動』ボーカルミニアルバムより。

2020年もそろそろ終わろうかという頃、ハルヒ周辺が大きく動いた。新刊発売に引き続き、関連楽曲のサブスク配信が解禁されたのである。主要キャストのアーティストとしての楽曲を含め、全557曲。なんなんだ。すごい時代よ。

ってな訳で、やや知名度の劣るキャラソンも、大手を振って紹介できる。

 

何を措いてもそのイントロの長さに触れないわけにはいかない。
低音域のヴァイオリンとピアノからしっとり幕が開け、電子的なキックが入り、おっ、モチーフが変わった、テンポ感を増す……Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅴ、そろそろ歌かな……あ、まだー! まだだー! 同じモチーフが倍速になったーーー!!

1分23秒のイントロを終えると、ようやくヴォーカルが登場する。ルートのAが鳴り続ける上を、マイナースケールから逸脱することなく走るメロディ。コンピュータ世界を想起させる電子音に、ストリングスが緊張感を加える。

Bメロで布石を打ち、サビで劇的な転調へ。〈心配なんてしなくていい〉で滑り込むように♭ⅶを鳴らし、ここは歌詞に同調するように優しげなⅤm。

 

怒涛の展開から2番を超えると、カデンツァ的なヴァイオリン独奏が挟まる。これ、最高音Eが鳴ってるけど、ヴァイオリンが綺麗に聞かせられる音域としてはかなり限界に近いだろう(一応もっと鳴るけど、よほど上手くないと金属音のように響いてしまい、耳障りで音量も出ない)。
思い返せば、イントロでは下のGを弾いていた。これはヴァイオリンの音域最低音である。ということで、本楽曲は、ヴァイオリニストの腕試し楽曲なのであった。

 

長門楽曲は殆どにおいて、「長門というか、みのりん」という感想を持ってしまうほどに茅原さんの歌声が力強い。
「Greed's Accident」はそんな彼女の発語のパワフルさを存分に味わえると同時に、エレクトロとアコースティックの融合に浸ることができる、時を忘れて没頭できるような一曲だ。

 

 

I


I Am the Walrus/Beatles
作詞・作曲:Lennon–McCartney
編曲:George Martin

アイ・アム・ザ・ウォルラス

アイ・アム・ザ・ウォルラス

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1967年11月24日リリース(英国)。

この期に及んでビートルズかよ、安定を求め出したか、知名度に逃げるな、イルリキウム終わった、という酷評が聞こえてくるようだ。ちゃうねん。いくつか"I"で始まる曲の候補はあったんだけどこれが一番好きだっただけやねん。

 

家に置いてあった「赤盤」「青盤」を聴き始めたのは確か幼稚園児の頃だと思う。クラシックCDの並びにあったため、何とはなしにプレイヤーにかけた。当然歌詞の意味は分からなかったが、気に入ってよく聴いていたらしい。

ビートルズの曲の趣味は、発達段階によって移り変わってきた。

幼少の頃は、"She Loves You" や "Please Please Me" など、シンプルな編成の初期楽曲。これは赤盤のDisc1ばかり聴いていたせいだろう。

小学生も高学年になると、"Back in the U.S.S.R." と "Magical Mystery Tour" の2曲にドハマりした。どうしてこんなに胸が高鳴るのかなんて考えもせず聴きまくった。ところでU.S.S.R.って何だか分かるか、当時の私よ。

中学生から高校生にかけては、歌詞の意味や背景も分かるようになってきた。謎にテンションの高い"Paperback Writer"や、何もかもがよく分からん "I Am the Walrus" に惹きつけられたのはこの頃である。ピアノで比較的自由が利くようになってきたので、"Lady Madonna" はよく弾いていた。

そして成人して色々と凪いだところで、"The Long And Winding Load" や "The Fool on the Hill" などのしっとりバラードが沁みるようになってきた。

 

しかしまあ実際、ビートルズクラスになると、多くのファンが曲についてやんややんやと書いているため、私が出る幕も無い。

特に本曲は、『鏡の国のアリス』からインスピレーションを得た(と言われている)歌詞が、やけにぬるぬるした音に乗せて半音でふらふらねっちょり歌われて、何というか普通に気持ち悪い。verse1を引用する。

 

I am he as you are he as you are me and we are all together
See how they run like pigs from a gun, see how they fly
I'm crying

 

は?????

 

あとSemolina pilchardsってなに。デュラム・セモリナとイワシのこと?

Goo goo g' joobってなに。鳴き声? セイウチの??

 

……と、頭を悩ませるだけ無駄である。これは完全なナンセンス・リリックとして受け取るのが精神衛生上よろしい。

ナンセンス曲界に燦然と聳える金字塔、それが"I Am the Walrus"なのだ。ググーグジュー。

 

歌詞はナンセンスだとしても、曲の方は多少なり掘り下げることができるのではないか、と期待してじっくり聴いてみると、イントロの由来が中間部のメロディにあることに気付く。

これと似た音型、結構曲中に出てくるなあ、と思って調べてみると、詳細に分析してくださっている方がいた。目から鱗の内容で、ジョージ・マーティンの編曲の妙が解説されているので、興味のある方はご一読されたい。ググーグジュー。

telmusica.com

 

ググーグジュー、ググーグーグジュー。

 

R


Relight My Fire/Dan Hartman
作詞・作曲:Dan Hartman

Vertigo / Relight My Fire

Vertigo / Relight My Fire

  • ダン・ハートマン
  • ポップ
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1979年リリース。生まれる前の楽曲が続く。

私がこの曲を知ったのは大学5年か6年のときで、手伝いで入っていたバンドサークルの一楽団で演奏することになったのがきっかけだったと記憶している。

リーダーは、私含めメンバーの腕と耳コピアビリティを信用しきっており、この曲に限らず全く譜面を準備してくれなかった。「これやるから聞いといて~」と言ったきり、あとはスタジオ練習まで自主練である。あまりに連絡が来ないので、正規の部員ではない私だけハブられてるのかと思った。

そんな訳で私もじっくり腰を据え、近くに野菜ジュースのペットボトルを置いてしばらく机を離れないぞという体制の下、耳コピに取り組み始めたのだが。

気付いたら踊っていた。

そんな曲である。

 

貼付したのは、Vertigo(医学的には「回転性眩暈」)からRelight My Fireに連続するトラックである。後者単独で聴きたい場合は3'02"あたりからだが、ぜひともVertigoから聴いて気分を高めてほしい。長い前奏だと思って! ね!

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Vertigoのリフ

こんな単純な造りなのに、どうしてここまで身体が揺れるのだろう?

ベースはf♯で、上でeのオクターヴが鳴っている。マイナーセブンスだ。ルートと全音離れてるおかげで、e個人でも立脚している。いつトニックに解決しても良さそうなものだが、ずっとeを鳴らし続けていてもいい。なんかここら辺の「不安定だけど安定」ってとこに踊れる要素が隠れている気がする。

あとは不思議な浮遊感のあるc→d→c→d♭。見た目の綺麗さ(cとdが交互に並ぶ)からd♭としたが、これはイコールc♯、歴としたF♯のドミナントである。するとこれは普通にⅥ→Ⅴ→Ⅰの間に、Ⅳの代わりに♯Ⅳが挟まった形なのか。スケール上の音である実音シ(Ⅳ)に入れ換えてみると、下図左のようになる。ならば、「シ(Ⅳ)の代わりに半音上」という音の遷移からすれば、右のような表記の方が出自が分かりやすそうだ。

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"Relight My Fire" は、ディスコティックな曲調から、クラブミュージックとしての文脈に登場することが多い楽曲である。ファンキーなブラスセクションに、扇動するような4つ打ち。そして何といっても、このピアノが本曲を特徴づけている。

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本番のステージでこれを弾いているときの私、絶対にドヤってたな……。目を閉じて口半開きにして、沖井さんみたいなキメ顔してたに違いない。あるいは向谷実さんみたいにお尻ふりふりしてたか。井上薫さん(ブルー・ペパーズ)みたいな無表情マンへの憧れもあるが、多分一生なれないだろう。彼は演奏中、基本的に感情を読み取れない表情で固まっている。時折、眉間に皺を寄せてカッコいいフレーズを弾いているときもあるが、その時でさえ首から下はほぼ動いていないのだ。恐らく彼は、詩家の友達が虎になったとて、「ふぅん」ってな反応しかしてくれないんじゃないか。

何はともあれ、ピアノのおかげでこの曲のメリハリが生まれる。ピアノ大勝利。

 

2019年12月17日、私は思いもよらぬ形でこの曲と再会を果たした。

場所は新木場コースト。フィロソフィーのダンス Glamorous 4 Tour 最終公演のその会場で、客入れBGMとして流れていたのは、宮野弦士氏が千秋楽用に拵えたノンストップ・ディスコ・ミックスであった。彼の手によって、新木場は栄華を極める1979年ニューヨークディスコシーンへと変貌した。

Relight My Fireが流れてきたときは、ソロ参加だったにも拘らず踊らされてしまった。

そのときのソングリストは、宮野氏が公開している。一聴の価値ありだ。

 

 

L


Life is tasty!/燦鳥ノム
作詞・作編曲:じん

youtu.be

 

2019年5月28日リリース。サントリー公式VTuber燦鳥ノムさん(121) 初のオリジナル曲にあたる。どうも彼女、サントリーの母体・鳥井商店と同い年らしい。

公式MVは、2020年12月15日現在、225万再生を記録。
もともと冗談みたいに高い歌唱力で一目置かれる存在ではあったものの、この"歌手デビュー"で界隈の話題を掻っ攫い、企業系VTuberの本気を見せつけた格好となった。

www.suntory.co.jp

 

作詞作曲のじん氏は、自然の敵Pとしてもお馴染みの、VOCALOID発展期を支えたボカロP。「カゲロウプロジェクト」が人気を博したことも記憶に新しい。ホントマジで、当時の女子児童生徒のハマり具合ったらなかった。

 

楽曲は、軽快なドラムとパーカッシヴな鍵盤楽器、そして流れを創り出すストリングスに、透明感カンストノムさんヴォイスが手を組んだ晴れやかなポップス。マジでバイカル湖より透明。透明度100m。

註)透明度はSecchi板という円盤を沈めて目視で測るよ。単位は[m]だよ

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こちらセッキー円盤。真っ白のやつもあるよ

聴いている分には「爽やかいい曲!」で済むが、メロディラインは半音あり跳躍ありと相当エグめ。じんさんも、これまでのノムさんの歌ってみた動画を見て「いけるやろ!」とぶつけていったものと思われるが、後にセルフカバーしてキツさを思い知っている。

 

1番だけだが、メロディラインを見てみよう。

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イントロ。
MVを見れば瞭然だが、冒頭の「ガチャ」という音は冷蔵庫を開けるときの音を表現している。彼女のお決まりの挨拶、「冷蔵庫からこんにちは!」を受けてのものだろう。

フィルタをかけて籠らせているのは、庫内の表現か。フィルタオフとなった〈Sing along & Shake a body!〉で一気に解放され、まさに雲も枷も無い晴れ晴れとした気分が表現されている。これは雲量0ですわ。

 

1, 2小節目の〈Sing along &〉は、【ミ ファ ファ♯ ソ】(移動ド)という半音階のフレージング。あまり意識されないかもしれないが、半音階(クロマチック・スケール)を精確に歌うのは容易ではない。プロの歌手でも、生歌でビシッと当てられる方は多くないように思う。
【ミ ファ ソ ファ】や【レ ミ ファ ソ】という逃げ方はあるが、どうも胸躍る感じに乏しい。狭いレンジで駆け上る音型の威力を感じる。

ちなみに、ソルフェージュなどでは、"Do Sharp"→"Di"などと、半音階でも一音で表せるようにカスタマイズされた階名が使われており、歌唱トレーニングにも用いられる。「ド・ディ・レ・リ・ミ・ファ・フィ・ソ……」と練習したことがある方もいるだろう。

参考動画:Ear Training - Chromatic Solfege - YouTube

(日本のイロハ式音名でも、母音を変えて嬰・変を表す同様の試みが色々為されているが、あんまり定着しなかった。詳しくはWikipedia先生頼んます)
Wikipedia先生\まかせろ/)

 

11小節目~ Aメロ。前半はバッキングが休符を多く持っているため、細かい音価が際立って聞こえてくる。後半はオルガンとベースも暴れ始め、飽きさせない。
〈始まった月曜日〉と〈忙しい日もあるでしょう〉、〈浮かない顔が〉と〈そんなときこそ〉はそれぞれ音型を同一にするが、シンコペーションに僅かな変化が加えられているのがミソだ。

 

この曲の白眉はBメロ。ストリングスと鍵盤が長い音価を取る下で、タムがドンドコドンドコ下支え。タムをフィル・インではなくこういう場所に使うのめっちゃ好き。メロディにも付点8分+付点8分+8分(3:3:2)の新たな形が現れて、顕著に雰囲気を変える部分となる。

〈ひとり〉は【ソラド】と歌われるだが、代わりを考えると【ラシド】というメロが初めに思いつく。

ラ(6th)は狭義の三和音/四和音には無い音であるため、基本的に解決に向かう力が強い。ラはドに向かおうとしている、と考えれば、【ラシド】は、かなり順当、悪く言えば当たり障りの無い、面白みのない順次上行である。
ここを【ソラド】にするとどうか。まず、Aメロ最終音のドからソに下がった段階で4度の跳躍が生じており、更にラからドに戻るときにも跳躍するという、ダイナミックさが生まれる

Bメロは全体的に音が飛び回り、1, 3拍目(コードの変わり目)に位置するメロもルートに対して7thだったり13thだったり、複雑なコードワークを持っているため、この【ソラド】という導入は、Bメロのもつ雰囲気を提示する上で非常に役立っているといえそうだ。

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上:ソラド(実際) 下:ラシド

30小節目(Bメロ4小節目)の3拍目、やけにMaj7th(実音レ♯)が強く叩かれているのが気になった。他の和音内の音を掻き消すほどで、堅い響きになっている。2番では入っていないため故意なのだろう。これが「一人ひとり違う生き方の香り」の暗喩だとしたら、そのセンスには地に伏す他ない。

いや、それを言ったら、Bメロそのものがバリエーション豊かな香りを持っている。まさに歌詞を表現した音楽を奏でていた。ちょっと魔改造してみましょうか……。

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特徴的なノンダイアトニックコードやテンションを外して、メロディの跳躍を小さくしてみた。悪くはない、けど、やっぱりあっさりしすぎてしまう。

このBメロ、練り上げられているのでここだけでも必聴!

 

サビでは、〈不思議で〉〈パァっと色〉〈素敵な今日〉の上行音型が印象的。〈暮らし〉のハイトーン、美しいね。

変わって 其れもありふれて〉。かなりハッとさせられる歌詞だ。変化は世の常で、いずれ変わった事実すら忘れられ、日常のひとつとして受け入れられていく。
【変わっていく世にあって、この瞬間はもう二度と訪れない。だから繰り返しのように思えても、「変わらない日々」を楽しもう……】とはよく語られる内容ではあるが、変化したものが"ありふれたもの"になるという時間的レンジの広い視点は、私にフレッシュな気付きをもたらしてくれた。

2AはリハーモナイズされてⅣからスタートする。2番の歌詞も素敵滅法に心を打つので、ぜひ味わってほしい。曲を聴いて自らを取り巻く環境を見渡してみると、彩度が上がっているはずだ。 

 

 

S


SHADOWS ON THE GROUND/Yellow Magic Orchestra
作詞:坂本龍一高橋幸宏ピーター・バラカン(英訳)
作編曲:坂本龍一高橋幸宏

SHADOWS ON THE GROUND

SHADOWS ON THE GROUND

  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

 

1983年12月14日リリース、8th album『SERVICE』より。

このアルバムは、YMOの歴史の中では最終盤に位置している。前作の『浮気なぼくら』が最後のアルバムの予定だったのに、"散開"ツアー中になぜかもう1枚リリースされたのが本作である。ある意味ボーナスステージ。

後期のYMOは、代表曲の「RYDEEN」や「TECHNOPOLIS」とは一線を画す、ポップスライクな歌モノ楽曲が多い。たまにYMOのことをインストバンドだと思っている方がいるが、そんなことはない。めっちゃ歌う。ユキヒロ(Dr. 高橋幸宏)がクセ強めに歌う

 

といったところで、この曲はぜひ頭から飛ばさずに聴いてほしい。少なくとも2分くらいまでは。

 

……聴いていただけましたか?

 

 

拍、ズレませんでした?

 

 

振り返ってみよう。イントロは以下の譜面のように聞こえていたのではないだろうか。

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進んでいこう。ヴォーカルが入ってくる。譜面を見ながらサンプル音源を聞いてみてほしい。イントロから普通に聞いていればこうなるはずだ(最上段がヴォーカル)。

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まだまだ行く。歌がワンフレーズ終わると、スネアのアタックが入ってくる。通常の8beatとは異なり、遅れて最後の弱拍に位置しているのが珍しい。独特のノリになる。

(サンプル音声は、スネアが入る前の4小節を含めている)

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 もうワンコーラスあってから、さあ、サビ……

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あれれぇ~~おかしいぞぉ~~?↗

サビに入った瞬間、どっかで8分音符ぶん余計な拍が入り、スネアは通常の8beat(つまり3つめに強勢)を叩き始めたように聞こえたのではないだろうか。

はて、と思って20秒ほど戻って聴き直しても、もうスネアはただの8beatにしか聞こえない。サビには何の違和感もなく突入していく。変拍子の面影はそこには無い。

さっきのは何だったんだ? と狐につままれたような気分……。こわいですね~~~

 

 

お分かりいただけただろうか?

別に、サビで変拍子になるわけではない。最初っからこの曲が半拍遅れて聞こえていたのだ

冒頭からそう聞こえていただけ。思い違いをしているのはこちらの方だ。だから、4つめに入っていて不思議に聞こえた8beatも、こちらの勘違い。本来は半拍早いので、こういった楽譜になるはずである(サビ前)。

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これを踏まえ、今度は1拍ずつ手拍子をつけて冒頭部分を聞いてみよう。

 

こう聴くと、拍感を惑わせてくる一番の要因は、強拍に先んじるベースと思われる。私は、和音もベースも、アウフタクトで出ていると種明かしがなされた後も、最初から聴き直すとまたもや最初の聴感に戻ってしまい、サビの部分で「あぁっ! 拍が余った!」と悶えるということを優に200回以上は繰り返してきた。

〈Maybe it's just an illusion〉という歌詞があるが、奇術はこの曲そのものだよ全くもう……。

 

「頭の拍が取れない」ことについては山下達郎も言及していたようで、こうしたトリッキーな曲を狂いなく演奏できるYMOの技術を称賛したのだとか。

たまに、ポップスやアニソンでも、「最初思った拍とズレてたな~てへっ」ということはあるが、ここまで長回しで感覚を狂わせてくる曲は珍しい。

最初っから間違いなく聴けてたよ!」という方は教えてください。今までどんな音楽聴いて耳鍛えてきたか質問攻めにしてやらァ。

 

ヴァースの継ぎ目で、〈insight〉と〈Inside〉、〈ice〉と〈I〉を掛けているのも"歌詞"として上手いポイント!

 

 

おわりに


 

めっちゃ長くなっちゃった……。
最後まで読んでくださったそこのあなた。音楽中毒か活字中毒ですね。ありがとうございます。

曲選定の方法からして適当ぶっこいたので、構成を考えることもせず、いつも以上に私の頭の中をそのままお見せした感じの記事になった。

1曲でも、印象に残った、あるいは印象が変わった曲があればウレシノキワミである。

 

来年も良い曲との出会いが多からんことを!