論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

「Why don't you eat MONACA? Vol.5」の感想→和の伝統色にたとえてみるぞ!

イルリキウムです。

 

好きな夏野菜料理はズッキーニのソテーです。塩コショウとオリーブオイルで。

 

 * * *

 

2023年4月30日に開催された音系作品同人即売会・M3-2023春において、
MOタクコンピ Vol.5がリリースされた。

穿いてる……?

装丁はおなじみ、イタリアめがね (@italia_megane) 氏。

MOタクコンピのイメージカラーであるオレンジを打ち出し、茶目っ気たっぷりの表情を湛えたキャラクタがポーズを取る。どことなく折り曲げた身体が"5"の形に見えなくもない。そう思うと指の形も"Ⅴ"に見えてきた。

 

私イルリキウム、これまでMOタクコンピについては毎度レビュー記事を書いてきた。まくら(MOタクコンピ主宰)君とは友達だが、ギャランティはもちろん、依頼も貰っているわけではない。勝手にやっている。

・Vol.1, 1.5, 2では全曲を医療機器にたとえた。
https://i-verum43.hatenablog.com/entry/2020/05/10/222818

 

・Vol.3では全曲を人体の一部にたとえた。
https://i-verum43.hatenablog.com/entry/2021/07/23/233113

 

・Vol.4では全曲を鉱物にたとえた。
https://i-verum43.hatenablog.com/entry/2022/05/04/180000

 

 

いや、そろそろ真面目にやった方がいいと思ってるんだけどさ?

でも"たとえてみる"系で貫いてきてしまった手前、こちらも引き下がるわけにはいかないのである。「MOタクコンピ感想芸人・イルリキウム」としてMOタクコミュニティ内での認知度を上げてきてしまった。かくなる上は、せめて、もうちょっと取っつき易いテーマでたとえてみたいものだ。どうする……?

ワイの頭の中(星の名前……源氏物語の巻名……海外ミステリの探偵役キャラ……日本の温泉地……冬季夏季オリンピック競技……元素……クトゥルフ神話の神々……世界の文字……絶滅危惧種……小児慢性特定疾病……)ノウミソボンッッ

 

 

それだ!!!!!!

 

 * * *

 

というわけで、今回は曲紹介の後に、私が曲を聴いて思い浮かべた和の伝統色を提示していく。

難しいのは、要素が「色」というそれそのものしかない点だ。例えば鉱物であれば、「質感」や「輝度」や「生成の仕方」など複数の要素があり、それらに着目して楽曲と絡めることで類似点を示せたが、「色」だとそうはいかない。したがって、普段よりもなお、直感の働いた部分が強い。

もう一点注意すべきは、示した色名に対応する色には幅があるということだ。同じ名前の色を調べても、色票は文献によってかなり異なっている。染料の配分こそ細かく定められてはいるが、染まり具合は天候や時代によって変化していたのである。
そして何より、和色は生地の染色(CMYK)であり、ディスプレイの光色(RGB)とは見え方が違う。したがって、本記事で示す色票もあくまで参考であることをご理解いただきたい。

ご意見ご感想ご罵詈ご雑言がある方は、任意の媒体でイルリキウムまで。テレパシーは30歳を目前にした私の受信感度が低下してきたため不可とする。

 


曲紹介の前に

今回、アルバムとしての完成度が非常に高いように感じた。

トラック数が9曲とこれまでの作品に比べてやや抑えめで、それが総体としての聞きやすさに繋がっている。加えて、以前から指摘してきたように、まくら君が担う曲順の巧妙さも光っている。かつ、1曲1曲の「重み」がある、言い換えるならアルバム中である種の「役割」を果たしているように思えた。曲としてのメッセージ性であったり、音世界の複雑さであったりと、表現型は様々だが、それぞれの強さがアピールされていたのではないだろうか。

MONACAらしさを再解釈する」というコンセプトが設けられた今作。
vol.5にして、MOタクコンピとしてひとつの完成形を、でなくてもそれに近い物を示してくれた気がする。

それでは1曲ずつ見ていこう。

 

1. case by step

 作詞・作曲・編曲:相葉まこと
 Vocal:蕾可-Raika-

最終音が消えた瞬間、「おもしろ……」と口に出して呟いてしまった。
様々なモティーフが次々に出没するコラージュ的な全景。テクノとフュージョンの雰囲気をバランス良く持ち合わせており、盛りだくさんだけれども胃もたれしない

イントロは"喰い"の多いシンコペーション
ハイハットが必ずしも拍頭を叩かずに主旋律とリズム的にユニゾンしているので、聴き手は頭の中で「1, 2, 3, 4,...」とカウントをしなくてはならない。シンコペの不安定な感触が増していて非常に良い。私は、牛丼の紅ショウガとシンコペの不安定性は増せば増すほど良いと思っている。

かけすぎはやめましょう

呼応するように、メロディにもシンコペーションが多用されている。
同時に、歌詞には/k/や/t/といった破裂音も多く、跳ねるリズムに一役買っている。
〈ホントの気持ちが〉や〈そう答えてくれるの〉では語音を詰め込んで装飾音符的にすることもされている。1番の〈そう答えての〉と対応していることも見逃せない。

サビに相当すると思われる〈きっと またきっと〉はⅠ→♭Ⅶ→Ⅵ→♭Ⅵの進行。メジャートライアドが係留するので上下の幅が生まれてドラマティックだ。ここ好き。

アウトロは、F.O.していく中に派手な電子音のおかずが残っており、ちょっと驚かされる。F.O.せず、このおかずにリバーブをかけて締める、といった方法もあるかもしれないが、それだとお利口さんすぎるか。

 

歌詞は何かについて明言することを避けているようだ。ストレートに聞けば、好きだった人との今後の距離感について悩んでいる感じだろうか。最後に〈「あなたを」〉というセリフの形で断ち切れない思いが漏れているのもいじらしい。もしかして相手が人ではなく、何らかの事物である可能性もあるだろうか?

〈僅かなSukiが〉はダブルミーニングだろう。対句もあり、細かく練られた歌詞である。

タイトルは……なんだろう。case by caseとstep by stepを合成した造語かなぁ。一歩ずつ"あなた"から離れていこうとしてるけど、その時々によって、感情によって、もしかしたら戻ってきてしまうかもしれない。別にそれでいいと思ってる。みたいな?

そう、なんとなくサッパリしているのだ。この歌詞の主人公は。vocalの蕾可さん(現・ライカ;宇宙猫Vsinger)のフラットな声質も相俟ってそう聞こえる。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

浮かんできたのはグレー寄りの色調だった。それはいまいち晴れない心持ちを反映したものであって、私自身はグレーに対して強いネガティヴなイメージは持っていないのだが、英語でgrayの類語を引くと、"dismal"だの"boredom"だの"gloomy"だのといったまるで可愛くない単語が並ぶ。そんな中で"mature"(成熟した)は比較的イメージに合っている気がするものの。

そういうマイナスなことを言いたいのではない。この主人公は常にstepを踏み出そうとはしており、晴れ間も見えている。青みの差した明るい灰色。白銅色はどうだろう。

C10-M3-Y0-K15

2. はなまるエブリデイ (TVサイズ)

 作詞・作曲・編曲:くらっちい
 Vocal:小春六花、夏色花梨、花隈千冬

89秒の満足感。ウォーキングベース、シロフォンやグロッケンといったちょこまか動く鍵盤、おしゃれなアコーディオン系の音色、華を添えるブラス、そして小樽潮風高校の面々の合いの手が、譜面上を埋め尽くして、常に賑やかである。

何しろ89秒だ。イントロは短く仕上げなくてはならない。実際、原曲には数十秒あるはずのイントロがぶった切られているアニメのOP/EDなどをよく見かける。
本曲ではイントロに4小節充てられているが、最初の2小節はコード弾き延ばしなので、実質2小節で歌までの軌道を作らなくてはいけない。ここがお見事。先に挙げた鍵盤楽器やブラスが効いており、曲全体の雰囲気を紹介するイントロとなっている。
キメも地に足がついている印象(譜例上段)。これがもし下段のように「ンダッッダー、ンダッッダー」と16分音符ぶんズレていたら、相当浮ついた曲調になっただろう。小樽女子たちが渋谷に繰り出してしまう。

上段:小樽、下段:渋谷

サビメロも素敵。〈やりたいことからしちゃお〉は階名ソから上っていき、オク上のソからドに着地する。シンプルながら強力な盛り上げ。〈まあるく遠回り〉では、後半のソードドを残して短めのフレーズとなるが、最初のオクターブ駆け上がりの印象が残るため勢いが落ちない。

ヴォーカルはSynthesizer V AIシリーズより。夏色、花隈、小春とリレーしながら曲が始まっていくが、Aメロはじめのこの音域でいうと、花隈・小春のサンプリング元である奥野香耶青山吉能の声質にひっじょ~~に近い。それぞれ〈ドキドキは〉と〈とりあえず〉を歌っているが、WUG時代に"低音域組"と分類されていた2人にとって、よく響く音域だ。
一方、高音域組の高木美佑=夏色らしさが出ているのは〈ハッピーエンディング〉の辺りだろう。そう考えると、鮮やかに歌声が響くように、譜割りも考えられているようだ。

それにしても恐ろしい音源である。リン・レンが出た頃に「うわぁ、あさぽんだ!!」とまではならなかった記憶があるが、この3人は「うわぁ」レヴェルで顔が浮かぶ。私がワグナーだってのもあるだろうけど、AI技術、マジで怖い。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

青春とはすなわち目を刺すような眩しさ! 黄色系のところから選びたい。蒲公英や向日葵もあるが、赤みのより弱い鬱金にしよう。
ウコンは、インドにおいて最古の黄色染料として使われ、生命力の象徴とされた。中国でも、五行思想で黄と中央は結びつけられ、皇帝の色として捉えられた。
青春を謳歌する高校生は、みんなそれぞれ世界の中心だ。

C0-M19-Y95-K0

3. オモカゲスイート

 作詞:Akelei, kanakanakanatch
 作曲:kanakanakanatch
 編曲:白川雛茶
 Vocal:夢芽
 Bass:原一生

 Guitar:なっさん

 All Other Instruments & Programming:白川雛茶

スウィーツをテーマとしたカワイイポップ系チューン。「面影」という言葉がスイーツとすぐには結びつかないため、興味を引くタイトルになっている。

MONACAの得意とするジャンルでありリファレンスも多いからか、"型"がしっかりしている。その型を、少しずつkanakanakanatchさんなりに、しろひなさんなりに崩していった結果がこちら、ということだろう。崩しすぎると形無しとなってしまうが、彼らは曲全体のバランスを俯瞰できる作曲家であるので、もちろんそんな愚行は犯さない。

サビ後半の転調、2Aからの展開、リバースピアノなど、随所にちりばめられた彼ららしい遊びが愉快だ。

アラザンみたいだよね

スイーツが目立っているものの、この歌詞の主眼は、主人公の「夢を追う姿」であろう。幼いころに自分の抱いた夢。薄れそうになるその初心をすんでのところで取り戻し、再度手にして前進する

〈砂糖の小人〉〈魔法に虜〉、〈チョコレート〉〈デコレート〉〈ビスケット〉〈シークレット〉のあたりは押韻が固く楽しい。また、イントロでは"romance"や"smile"といった肌触りの良いソフトな単語に塗られていた心が、アウトロでは"passion"や"courage"など力強い単語にパワーを借りている。エンジンがかかってきたのだろう。可愛いばかりの曲ではない。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

いやもうこれはピンクでいいんじゃなかろうか。夢芽さんのイメージにも合う。黄色みが入りすぎると可愛さがやや薄れてしまうので、桃か撫子か。すると、日本女子の美称たる大和撫子の名にもあるように、撫子色を選びたくなるのが本能というものである。

ビスケットとかチョコレートとか西洋菓子の名前が入っているけどいいのか、って? それ言ったらもう和の伝統色とか一個も選べなくなっちゃうんで、スマソ

C0-M60-Y0-K0

4. たからものにしよう

 作詞・作曲・編曲:namaozi
 Vocal:夢芽・ぽぽ
 Bass:原一生
 Drum Programming:内野
 Piano:青田圭
 All Other Instruments:namaozi

やったな。

私はこの曲の作編曲を担当したnamaoziなる人物と、心情の深い部分に関与する会話を交わすことがあるが、彼は自分の葛藤を直視し、自覚できる人物である。
冒頭の同音連打は、異常に籠っている。間奏の電脳空間をイメージさせる音色や、Aメロのボーカルをかなり際立たせたミックス。苦悩がダイレクトに伝わってくるようで、こちらも苦しい。その分、サビでの解放で、少しだけ救われる。

「たからものにしよう」という言葉自体、彼がたまに口にするものだ。おそらく意識的に、「宝物」ではなく「たからもの」と書いているのだろう。
海賊が宝箱から溢れるほどの金銀財宝を宙に放り投げている、あれが"宝物"のイメージとするならば、"たからもの"とは、もっともっと心の奥底にしまって、優しく包まなくてはすぐに壊れてしまうような、そんなfragileなモノだ。それは物質とも限らない。目に見えないかもしれない。

冒頭のやったな、というのは、「曲にして、多少かもしれないけど消化できてよかったな」、というのと、「こんな曲をぶつけてきやがって、やりやがったな」という両方の意味を含んでいる。

 

主張してくるわけではない、むしろ抑えられたミキシングにされているものの、このベースとピアノはあまりに強烈だ。わざわざ、名プレイヤーの原氏と青田くんに依頼していることからも、この楽器群に背負わせるものが大きかったことが読み取れる。

夢芽さんとぽぽさんのデュエットである意味を考える。歌詞主人公はひとりなのに、歌声は2つだ。なんなら、3重(以上?)に歌のラインがある箇所もある。サビ後半だ。これは思考の多層性を暗喩しているだろうか……思念とは相異なる内容が頭の中に常に出ては消えるもの。そんな思考がまとまらない、このような印象を受けたのだ。大サビ前で恐らくハモメロが消え、大サビでカウンターラインが消えているのは、思考が徐々にまとまっていく様……だったりしないか?

〈エアポート〉だったり〈カレンダー〉だったり、ちらほらとその人物を連想させるようなワードが散っているが、最後に堪えきれなかったように、〈きらきらきら〉と『Polaris』の一節を音もそのまま引用している。もしや、このためのGes-Dur(変ト長調)か。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

黝色(ゆうしょく)という色がある。一文字で黝(あおぐろ)い、黝(くろ)ずむ、などとも読むが、青みがかった暗めの黒だ。感情を抑えた厳格な色。

「黒の詩人」と称されるファッションデザイナーの山本耀司は、黒の示す意図について「そちらの邪魔はしないから、こちらもほうっておいてくれ」と語っている。自らを守ってくれる、それが黒色だ。しかしその中にあって、夜明けの柔らかさを感じる、温かみのある色だと私は思っている。

C20-M15-Y0-K80

5. 144Months

 作詞・作曲・編曲:4423
 Vocal:可不

輪郭の丸いギターカッティングが主体となった、モダン・ファンクの系統だろうか。だが、柔和なメロディと、可不のブレスの多く厭世的な歌声のタッチも相俟って、スローロックの雰囲気を湛える。ジャンルは何にせよ、私はこういうのが大好物だ。

144か月、すなわち丸12年。この年月と、〈クローゼットにしまった腕時計は/あの日のままで止まったままさ〉〈水底の街〉といった歌詞を参考にすると、自ずとこの曲のテーマが見えてくる。そうなると、アウトロで鳴らされる学校のチャイムのような音は、かつての記憶なのだろうか。

チャイム

年月は残酷にも進んでいく。しかし、それは救いでもあるかもしれない。時が経てば変わっていくものがある。人間は、他者との関わりの中で生きていくものだから、その変わっていくものに応じて、自分も少しずつ、意識的にせよ無意識的にせよ、変わっていくのだろう。

サビに入るまで調性が明確ではないが、サビでしっかりとメジャーの響きとなる。3625の進行が、いつまでも循環していく。これも、未来へ続いていく人生の歩みを暗示しているようでグッとくる。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

全身をゆるやかに揺らして街をぶらぶらしながら聴きたい。こんな曲は、自然と人工物のぶつかったような色味がしっくりくる。青が混ざった深い緑あたりと考えると、真鴨色はどうだろう。孔雀色に近いが、それよりもやや明度が下がる。
オスの真鴨は、頭から頬にかけてこの緑をもつ。池にのんびり佇む彼らを彩る、洒落た色合いではないだろうか。

C100-M0-Y63-K25

6. Creator

 作詞・作曲・編曲:そめし
 Vocal:Mai、夏色花梨、花隈千冬

奇を衒ったところのない、ストレート一本勝負のバンドロックがやって来た。
MOタクコンピでは、これまでもエレキギター主体のロック曲が無かったわけではない。魚座アシンメトリーが手掛けたシューゲイザー・『FLUORITE GIRL』などが記憶に残っている。だが、ここまでまっすぐな瞳でこちらを見据えてくるロックは、無かったのではないかと思う。
ちりそめレコードのそめしさんは、この土俵で闘いたかったのだと、想いがつたわってくるようであった。

ライブハウスという場所は、往々にして人の想いがぶつかり合い、火花を散らし、それがまた居合わせた人間の心を揺らす。この曲を聴くと、そんな"想い"の剛速球を、一身に受けている気がしてくるのだ

気持ちが昂る

〈あんなに好きだったのに/"好き"の理由探してる〉とは、切実な呻き声である。
外から見たら好きだったはずの世界なのに、飛び込んだあとはそう思えない。何かに追われている。でも、好きは裏切れない。「裏切れないから仕方ない」という諦念ではなく、「裏切ることの方が辛いから本能的にできない」のだろう。
だから、ずっと、進むしかない。

ヴォーカル3人は、三者三様の声質を持っていて、これがまたバンドサウンドとガッチリ手を組んでいる。
〈正解か不正解なんて〉から始まり大サビに至るまでのパラグラフは、まさしく3人の声がそれぞれの良さを以て、聴衆の心に訴求する。「自分の好きを認めてくれ」と。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

紫苑色(しおんいろ)という色がある。紫苑の花の色とされ、藤や葵よりわずかながら明度が下がるものの、明るい紫に分類される。紫苑はとある逸話から、「忘れぬ草」と呼ばれることもあり、この曲のストーリィ性にも合うのではないだろうか。

私は実直なギターロックを聴くと紫色を連想してしまう。この曲に紫を当てたのもそれが理由だが、なぜギターロックが紫なのかは自分でもよく分からない。潜在的に、高貴なものだと思っているのかもしれない。

C45-M45-Y0-K5

7. 春探しの旅人へ

 作詞・作曲・編曲:ほたか
 Vocal, Chorus:rimona

ほたか氏がMOタクコンピに寄せた曲には、Vol.4に『Pieris』がある。『Pieris』も、本楽曲も、行雲流水のごとくスムーズな進行で清澄さを出しておきつつ、サビや間奏で急ハンドルを切った進行をみせていた。落ち着いた和声をベースにするか、攻めた進行ベースにするか、どちらかに寄せる人が多い中、どちらもそれなりの重量感を持っている。これが彼の作風なのだろう。

ヴォーカルを担当したrimona氏もまた、MOタクコンピでは過去に『ココニイタコト』(カシラテ)という曲を歌っている。感情を乗せすぎずフラットに音をなぞる、素敵な歌い手さんであると感じる。リフレインされる〈あなたは〉の音域で、微かに声帯で擦れる空気の音が胸を掴んでくる。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

〈瑠璃色に染まるあなた〉とは言いつつ、ストリングスの清涼感が青の強さを引き下げているように思われる。古来の青色といえば縹色。縹には段階があり、一番薄いものを浅縹(あさきはなだ)などと言った。更に薄くなると、白縹や蟹鳥染などがある。このくらいさっぱりしている感じではないだろうか。

C15-M0-Y0-K0

8. 星の道まで (feat. 夏色花梨)

 作詞・作曲:篠沙季ナユタ
 編曲:篠沙季ナユタ、みかんもどき
 Vocal:夏色花梨
 調声:ハチナナ

 Guitar:凪沙かにも
 Piano:篠沙季ナユタ
 Strings Arrangement & Programming:もふりびと
 All Other Programming & Mixing:みかんもどき
 Advisor:ど~でん
 Spetial Thanks:GLAY ZONE

すごい。

これはすごいの一言。アルバムの表題曲を背負わせても、全く遜色無し。もし自分が読んだMOタクコンピの教科書にこれが作例として載っていたら、その本を神書籍としてTwitterで紹介すると同時に、自分は作曲を辞める。だから僕は音楽を辞めた。

まず音に過不足が無い。ハモの欲しいところにハモがあるし、金物カウンターの欲しいところに金物カウンターが入ってくる。
そしてサビメロがあまりに秀逸MONACA楽曲のメロディの良さは今さら語るまでもないことだが、まさにこの曲はMONACAメロディのスピリットを踏襲している。〈光る希望の道へ〉の半音上昇、〈この歌を〉の16分、そしてトニックで終止。う~~ん、美味しい!
サビ後半は、〈今〉という跳ねたメロディ(階名:ド-シ♭)をきっかけとして、シ♭をドミナントに持つミ♭が根音に移る。スムーズかつ、ドラマティックな短三度上転調だ。最高すぎて虹が見える。

いいけしきだねぇ

Dメロの音程はかなりのハイトーンであり、夏色も声を震わせている感触となる。これを故意に作っているのか、自然になってしまうものなのかは、ソフトをいじったことがないので分からないのだが、いずれにしてもマイク片手に歌い上げる歌手の姿を容易に想像することができ、聴く者をも震わせてくる

ナユタさんが長年構想をあたためていたという本楽曲。こうして世の中に出てよかった。聴けてよかった。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

鶸萌黄(ひわもえぎ)

鶸の羽の色である爽やかな黄色が鶸色。春に萌え出づる若葉の色が萌黄色である。いずれも鮮やかな黄緑だが、その中間に位置するのが鶸萌黄だ。爽やかさと若々しさの両方を取りたくて、この色をチョイスした。私は萌黄が大好きな色のひとつ。この曲も、本当に大好きである。

C30-M0-Y100-K10

9. 橙色ノ憧憬/造花

 作曲・編曲:T-makura
 Programming:Tansa

おお~~~

まくらくんが「そろそろこの曲調作らなあかん」とコメントしていたので、どんなチャレンジをしてくるのかと思ったら、本当に意外なところで来た。
重厚でダークな民族音楽系。ジャンル名はあまり聞いたことがないが、シンフォニック・ゴシックとでも言えば伝わるだろうか。
梶浦由記が得意とすることから業界では「梶浦語」とも呼ばれるが、意味をもたないコーラスもこの曲には組み込まれている。スキャットのように「意味のない言葉を言っていることがわかる」のではなく、「何語かを喋っているように聞こえる」ところが重要だ。

重くはあるが、クリアで抜け感のあるミックスである。チキチキのビートと、ハードな打楽器のアタックがそれぞれ独立して聞こえてくる。もうワンコーラス聴いても飽きてはいないだろう。それをさらっとF.O.で終わらせるのもなかなか粋なものだ。

 

この曲を最後に配置したのも興味深い。確かに、1曲目ではないだろう。そして、どこか中間に置いてしまったらその瞬間アルバムの色が赤黒く染まる。なるほど、最後にしか置けないか。
とはいえ、アルバムをフルで聴き終わったときにリスナーに残す印象は強い。「えっ?」と思わせて、もう一度Tr.1から聞かせる魂胆か? さすがだな??

あとタイトルも良いな……。橙色ってこのCDのことなのかなぁ、何だろう。

 

◇◆和の色でたとえるなら◆◇

タイトルは橙色だが、前述したようにこの曲からは赤黒いイメージを受け取った。海老色や蘇芳色などの渋い赤茶でもよいのだが、もっと赤みが強いところでいうと臙脂か。

臙脂色には、植物(紅花)由来の正臙脂と、動物(カイガラムシ)由来の生臙脂とがある。これは生臙脂の方だ。

C0-M100-Y75-K40

 * * *

MONACAオタク」が集まって曲を書くことで始まったこのコンピレーションアルバムシリーズ。

再構築、をテーマとした今回、曲を紡いだ彼らの叫びには、「好きなものを好きでい続けたい」とか、「このまま音楽を続けていくんだ」といった決意が含まれているものが多い気がした。

 

私も、MOタクたちの決意に倣いたい。

MOタクの言語化担当として、MOタクのファンとして、これからも好きを綴っていくと。

 

それではまた次回。

 * * *

【参考文献】

内田広由紀『定本 和の色事典 (第9刷) 』視覚デザイン研究所 (2019)
ポール・シンプソン、中山ゆかり訳『色のコードを読む』フィルムアート社 (2022)