論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

推しがオリジナル曲を出したので楽曲語りをする

イルリキウムです。

 

 

【超朗報】私の推しがオリジナル曲をリリースした

【超朗報】私の推しがオリジナル曲をリリースした

【超朗報】私の推しがオリジナル曲をリリースした

 

当ブログでは、楽曲オタクの端くれこと私、イルリキウムが、好きな楽曲について重めに愛を語ることが度々あった。

例えば、TVアニメ『灼熱の卓球娘』の劇伴「ラブオール!」。

i-verum43.hatenablog.com

 

例えば、MOSAIC.WAVの最推し曲「片道きゃっちぼーる」。

i-verum43.hatenablog.com

 

音色の選択やシンコペーションの意味までを深読みしまくり、コードなどの楽理的解析に立ち入ることもしばしばといったヤンデレ解説ぶりに、「もううんざり~」の読者も多いだろう。

お分かりのように、今までは、「この曲の"ココ"を語りたい!」というモチベーションで記事を書いていた。

だが今回は趣が異なる。何せ、推しがオリジナル曲をリリースしたのだ(4回目)。自分にとっては初めての経験である。曲があれば楽曲語りが出来る。推しの曲について語る。つまり? そう。これは。

 

これは間接的な「推し語り」なのである。

 

違うかもしれない。

 

   ◆◇◆

 

君と太陽/山黒音玄(あおぎり高校)

 作詞:The Herb Shop (USAGI Production)
 作編曲:The Herb Shop (USAGI Production) 

youtu.be

 

【制作陣】

あおぎり高校に所属するメンバーの楽曲・MVを数多く手掛けてきたUSAGI Productionさんから、今回はThe Herb Shop氏が曲を提供してくださった。もちろんイラストも映像もウサプロさん。さすが手広い。

ウサプロ所属の作曲陣は、ほとんどがDJプレイもこなすクラブ界隈の人材であり、作風も"いわゆる"EDMと大まかに括られるジャンルのものが多い。The Herb Shop氏の楽曲も同様である。

「Rebellion (feat. yosumi)」はゴシックテイストなハウスで、治安の悪いドロップが実にdopeだ。

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TATTOO」は、先日惜しまれながら活動を停止したユニット・BOOGEY VOXXのFraがラップを担当しているが、彼得意のテクニカルなラップと嚙み合ったハードコアなトラックが印象的である。

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そんなクラブ畑のThe Herb Shop氏が音玄さんにぶつけてきたのは、EDMとは対極にあるような、明晰で、清澄で、少し切ない、メロウなロックだった。

 

 

【曲全体として】

私の印象は一聴して「シンプル」。しかし数回聴いてみると、なかなか一筋縄ではいかない造りになっていることが分かった。少しずつ繙いていこう。

 

そもそも、何を指してシンプルと言っているのかというと、曲構成コードワークである。

構成について、Aメロ-Bメロ-サビ(Cメロ)のセッティングは1番と2番で崩れていないし、メロディの著しいアレンジもない。イントロとアウトロには相同性がある。かなり教科書通りだ。少し意外だった部分もあるので、その点は後述する。

また、コード進行にも複雑なところはなく、テンションすらさほど乗っていない。ダイアトニックコードの占める割合が多めですっきりしている。

これは、The Herb Shop氏のこれまでの作風を考えれば、「音玄さんのオリ曲として、意図的に行われているミニマライズ」と捉えて、差し支えないだろう。やろうと思えばもっと極端な周波数の音を使うこともできるし、ボーカルにエフェクトをかけることもできるし、AメロとBメロを入れ替えることもできる。しかしそれをしなかったのは、これが音玄さんを象徴する作品になるからだ。

 

音玄さんを、「ニコニコ入り浸りのぶっ飛んだ重度のオタク」としてではなく、「儚さと底知れなさを湛えて絵に住みつく幽霊」として捉え、そちらの側面を押し出していく。そういう意図が音楽から感じられた。

 

 

【0:00~ イントロ】

ポロポロと零れる、日光の粒のよう。スタッカートが効いたピアノのみで奏でられるこの音型は、なかなか不思議なフレーズである。

イントロ

ザ・王道シンプルを貫くならば、ここのコードは[B♭→C→Dm→C]となっていてもおかしくない。僅かにズラしてsus4の響きを持たせる、憎い演出だ。

また、最後の音型にはどこか郷愁のようなものを感じるが、もしかするとそれは、key=Fにおける四七抜きの音で構成されている(実音でいうとファ・ソ・ラ・ド・レ)からかもしれない。

 

 

【0:11~〈閉じた夏の日〉】

音玄さんの歌は、小節の頭、1拍目からきっかり始まる。イントロの最後には空白があるため、印象づくスタートになる。

〈閉じた夏の日〉のメロディラインがイントロと似ていることに気付いた方もいるだろう。イントロとAメロにおいては、呼応するようにして、跳躍の音型が使われている。のちのBメロと比較すると、Aメロはレンジの広いメロディとなっており、Bメロがスムーズに聴こえることに対して一役買っているだろう。

 

ベースが入ってきているが、ここでまたびっくり。

ピアノはイントロと全く同じ音を鳴らし続けている。一方、ベースラインは、先ほど述べたシンプル三和音[B♭→C→Dm→C]を分散させて鳴らしているのだ。結果として度々、全音の幅で音がぶつかっていることになる。このsus4が、耳を引くフックとして機能している。

Aメロ後半には、金属感の強いグロッケンが乗ってきている点も聴き逃せない。

 

 

【0:32~〈誰かに描かれた〉】

メロディはここから、隣同士の音を動く「順次進行」の音型がメインになる。スムーズに移動していくため滑らかさが際立ち、同時に、歌いやすさの面では、サビに向かって力を溜めて盛り上がりを作りやすい。

そして、借用和音を使った部分転調(冒頭のE♭。keyに対して♭Ⅶ)が炸裂している。このコードが持つ吸引力はなかなかのものよね……。

 

〈何が懐かしいんだろう〉直前のブレス! 聞こえました? 聞こえたよね?

この曲はほとんどの箇所でブレスが取り除かれているのだが、ここは残してあるんですね~~ 歌の勢い、ヴォーカルの生を感じる、最高だねぇ

 

 

【0:42~〈君と違う太陽を見る〉】

私がこの曲で一番グッと来たのは、このサビ冒頭の〈き〉の音価

サビへ向けて助走がばっちりついた状態で、最後の最後にグッとロイター板に沈み込むようなこの2拍※が、サビの解放感を引き上げているゥ~!!

(※私は、二分音符=およそ90の2/2拍子で取っています)

 

これが半分の1拍だったら、あっさりと〈き、みーとちがう たいよーをみるー〉と流れてしまっていたところだ。

2拍だからこそ、〈きー…… みーとちがう たいよーをみるー〉と感情のタメも生まれる。エモい。言っちゃった。いやエモいよこれ

 

上段:原曲。下段:これだとあっさり

 

サビには最高音Gが出現する。
あおぎり歌枠リレーにて音玄さんが披露した「Give it back」にはA♭が出てきていたことを思い出す。ここが彼女の音域の上限に近いところかと推測していたが、なんと音玄さん、ラクそうに、綺麗に発声している。まったく、恐れ入りました。

 

 

【1:15~〈朝を祝うような〉】

2番に入ってマイナーチェンジがいくつかある。

ベースの動きが大きくなり、ギターが分散和音を伸ばして帯域を埋めている。サビ前にはドラムスのフィルインが新たに顔を出して、高揚感を維持している。〈憂鬱な顔をしているだけ〉など、1番とメロディの変わっている箇所がちょくちょくあることにも注意されたい。

サビ前〈抜け出せずもがいている〉は、音玄さんの声質に僅かな変化がある。1番よりも切々と歌い上げる雰囲気が出ている。

 

〈君がたどり着く日まで〉前のブレスね! たぶんこれは、短すぎてブレス切れなかったんじゃないかな……? でもありがとう、ありがとう……。

 

 

【2:38~〈…なんてね〉】

ア"ッ 可愛い

 

 

【2:40~〈誰かが描いた世界を〉】

大サビ前の常套手段・リハーモナイゼーション。ベースが[Ⅵ→♭Ⅵ→Ⅴ→♭Ⅴ]と半音下行する一方で、メロは上行する。この離れていく感じが愛おしい。好きなリハモだなぁ。こっから大サビだな……

 

と思っていたら!

この曲はここでアウトロに接続し、そのまま終わるのである!

大サビを期待させておいて、そんなに力強く歌い上げておいて、気づいたら「はっ 終わっちゃった」とこちらの気持ちを宙ぶらりんにさせる。掴もうと思っても掴めない、そんな印象を受けた。MVですっと背景に消えていく音玄さんも併せ、これほど心を締め付けるラストがあるだろうか?

音的にも、最終音はDmの根音と第三音のみである。まだ続きそうじゃない? 最高音がルートではないため、解決していないようにも聞こえるし、マイナーコードの第三音というのは、平行調メジャーのルートにあたる。曲中でも、サビなどでkey=Fは顔を出していた。ここにきてFで終わるのは、ズルい以外の何者でもない。あ~~~~~~

 

   ◆◇◆

 

ということで、推しのオリ曲、良かったよというお話でした。

もっと持ち曲が増えて、たくさん歌ってほしいものですね!

 

 

追記:

好きな曲はとりあえずまず弾いてみることから