論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

IOSYSの東方アレンジの話をしようかしら? 在ること3割、無いこと8割。

イルリキウムです。

 

www.iosysos.com

平成のインターネッツを生き抜いてきた剛の者なら、イオシスIOSYSの名を知らないなんてことは無いだろう。

北海道を拠点に活動する音楽制作ユニットの彼らは、今年2023年の10月10日(目の愛護デーでもある)に活動25周年を迎えた。四半世紀という大きな区切りである。めでたい。銀製品を送らなきゃ。

 

え、IOSYSって聞いたことない? おかしいなぁ……。

ニコニコ動画の興隆期を生きていたなら、さすがに魔理沙は大変なものを盗んでいきました』『チルノのパーフェクトさんすう教室』を知らないとは言わせない。こちら、IOSYSである。

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インターネットはあんまりで、音ゲーしかやらない? BEMANIにも太鼓の達人にもCHUNITHMにも楽曲提供してるよ。「ひなビタ♪」の『めうめうぺったんたん!!』。こちら、IOSYSである。

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なになに? VTuberオタクだから? なるほどそうですか、壱百満天原サロメさまの初オリ曲とか、ご存知ですよね。あとはスマッシュヒットしている、しぐれうい(9さい)ちゃんの『粛聖!! ロリ神レクイエム☆』も、もちろんIOSYSである。

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オタクじゃないからな~、TikTokなら分かるんだけどな~、って? しょうがない。『スカーレット警察のゲットーパトロール24時』。「あたいの足技、みさらせやー」で一世を風靡したこの曲もまた、IOSYSである。

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今や、メンバーそれぞれの活動は多岐に亘り、グループを掛け持ちしている方も多いので、全貌を把握するのは難しい。

しかし、IOSYSが活動初期から現在に至るまで一貫してリリースを続けている、ライフワークともいえる作品群が確かに存在する。

東方アレンジである。

 

www.iosysos.com

25周年を記念し、東方アレンジを集めたベストアルバム(3枚組・全51トラック)をリリースするほどに、IOSYSは東方アレンジを愛してやまない。彼らは東方大好き野郎どもなのだ。

 

そして何を隠そう、私イルリキウムは、

IOSYSの東方アレンジ大好き野郎である。

 

中学生のころ、IOSYS東方アレンジの替え歌を作って仲間内でCDに収録したり。
新盤がリリースされれば、知り合いの新聞記者に頼んで貸してもらったり。
高校生になったら、自分でとらのあな千葉店にそそくさ買いに行ったり。
大学時代は実習先の病院に向かいながらiPodで聴いていたり。

そんな感じ。

 

というわけで、今回は私が勝手に選んだ「今聴きたい! IOSYSの東方アレンジ11選」の前編をお送りする。ただし、今聴きたいかどうか、に必然性は無い。よくある言い回しだからつけてみただけである。

ちなみに、中途半端に11曲なのは、記事タイトルにもある、八雲紫のセリフにあやかってのことだ。「在る曲3曲、無い曲8曲」ではない。全曲在るので安心してほしい。

 

註1)対象は、IOSYSが公式に<東方アレンジアルバム第●弾>と銘打っているアルバムに収録されている楽曲に限った。そうでもしないと相手しなくてはいけない曲が膨大な数になるからだ。ただそのせいで、名曲揃いの『東方アゲハ』シリーズや、minami氏によるインストギターアレンジシリーズ、夕野ヨシミ氏の個人サークル・ユウノウミのリリースしたアルバムなどを外さなくてはならなかった。痛恨である。悪しからず。

註2)楽曲情報はすべて、IOSYSの公開データベースに基づいている。Googleスプレッドシートで誰でも見られるのだが、なにしろ情報量がすさまじい。著作権の帰属やカラオケ配信情報なども纏められていて、すべてのIOSYSファンは頭が上がらない。仕事の丁寧さと細やかさが伺える。

docs.google.com

 

【もくじ ~前編~】

 

star river/あさな (2010)

 収録:第13弾『東方銀晶天獄(クリスタライズドオーシャン)』
 原曲:感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind
   (『東方星蓮船』6面ボス・聖白蓮のテーマ)
 作詞:七条レタス
 編曲:ARM、D.watt

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これ。

正直この曲さえ聴いてくれれば、本記事を生み出した我が目的は達成されたも同然。

印象的な4小節のピアノリフから始まる本楽曲。3456進行で、どこかに行きそうで行かない、でも着実な足取り。ぽつりぽつりと、1拍に1音ずつ文字を載せるようにヴォーカルが詞を紡ぎはじめると、少しずつその空間は広がり、星々を思わせる高音が散っていく。サビに辿り着いたとき、リスナーはそれぞれの宇宙を感じることだろう。その「宇宙」は、科学の最先端を代表するものではなく、まして、浮ついたロマンティックさを標榜するものでもない。〈銀色の問いをかざし〉〈まだ見つけぬ答えを信じ〉て進んでいく我々を待ち受ける、果てのない未来路である。

↓曲も良ければ歌詞も良いので、読んでくだしあ
https://www.iosysos.com/data/IO-0163.txt

IOSYS東方アレンジの中にピアノメインの曲はいくつもあるが、この曲ほど低音域も高音域もイキイキしている作品はなかなか見つからない。大サビ前には2拍のみの小節がひとつ挟まり、そこに重なって下りてくるピアノのパッセージが壮大さを演出している。

本曲は、2012年リリースのベストアルバム、25周年記念アルバム、「きれいなイオシス」、など各種再録盤にも入っているし、アレンジも幾度となくされている。ファンにとっては知られた名曲ながら、電波曲のようなキャッチーさは無いのでファン以外にはさほど浸透していないと思われる。ぜひ広めて。頼むから

 

Miracle∞Hinacle/3L (2008)

 収録:第8弾『東方想幽森雛(そうゆうしんぴ)』
 原曲:厄神様の通り道  ~ Dark Road
   (『東方風神録』2面道中のテーマ)
    運命のダークサイド
   (『東方風神録』2面ボス・鍵山雛のテーマ)
 作詞:夕野ヨシミ
 編曲:ぼいど

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ジャケットに描かれているのは<厄神様>鍵山雛。アルバムタイトルには「雛」の字が含まれる。スカートの渦巻き模様は、"厄"の字を象っていると同時に、彼女のくるくる回る動きを連想させる。このくるくるはタイトルのMira"cle"、Hina"cle"に通じる。そして形のイメージから、第"8"弾、Miracle"∞"Hinacle。ここまで言えば、『東方想幽森雛』自体が、鍵山雛をフィーチャーしたアルバムであることがなんとなく分かってくるだろう。

事実、この曲はアルバムの5曲目でありながら、表題曲といっても過言ではない存在感を放っている。可愛らしいピッツィカートと強めのスネアが耳を引く前奏。それが終わるとすぐに3Lさんのキューティ・キューティ・ヴォイスが襲ってくるもんだからさあ大変。なお、本アルバムのTr.1「タイヨウノハナ」も彼女が歌唱を担当しているのだが、こちらはバチバチのロックチューンなので、温度差に鼻水を垂らしてしまった人が多いとか。

メロディがとにかく強い。もちろん東方アレンジなので、原曲を聴けばその原型を垣間見ることが出来るのだが、本楽曲は原曲から切り離されたところに、メロの主張が聞こえてきてやまない。比較してみよう。サビメロは〈始めがある〉で一旦切れるが、原曲「厄神様の通り道」でここに相当するメロには、切れ目が無いのだ。こういう細かいアレンジにこだわりをたくさん忍ばせた結果として、本曲の「幼気な可愛さ」が、揺らぐことなく屹立しているわけだ。この曲嫌いな人、いないんじゃないか……?

 

レトロスペクティブ札幌 (2006)

 収録:第2弾『東方乙女囃子(おとめばやし)』
 原曲:レトロスペクティブ京都
   (『東方文花帖』撮影曲4)
 編曲:D.wat.

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これがchillの原体験かもしれない。

タイトルが「京都」から「札幌」になっているのは、言わずもがな、IOSYSが拠点とする土地の名前に変えているからだ。編曲のD.wat.氏は、現在はD.watt表記で活動している。作詞を行う際は七条レタスの名義だ。いずれの名も覚えておいた方がよい。なぜなら、曲を作らせても詞を作らせても抜きん出たセンスを発揮してしまう彼は、方々で名を見る存在だからである。

アルバム曰く、この曲は<インテリジェントラウンジ>なのだそうだ。ラウンジミュージックというのは、ホテルの待合でかかっているような、ゆったりとして人々の会話を邪魔しない音楽を指すのだが……マジで? 確かにスロウ・アンビエントの雰囲気だけど、キツめの電子音がドスドス鳴ったりしていて、最近の言い方だと<チルアウト>なんじゃないか。まあでも、「インテリジェント」という語との組み合わせは聞いたことがなく、想像力を喚起させる。

なんだかんだ言って、私はこんな曲が流れてるラウンジだったら居座っちゃいますね。なんか薄暗くて、天井のシャンデリアから青白い火花がシャパシャパと流れ出ていて、でもその火花は熱くない、みたいな空間。ええやん。チルいやん。

 

黒い星/あさな (2010)

 収録:第14弾『東方恋苺娘+(こいいちごむすめ)』
 原曲:恋色マスタースパーク
   (『東方永夜抄』4B面ボス・霧雨魔理沙のテーマ)
 作詞:夕野ヨシミ
 編曲:D.watt

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D.wattの名前を覚えておけって言ったでしょ? すぐ役に立ちましたね(ニッコリ

とりあえず、アルバムのジャケットを見てください。見ましたか? 早苗と霊夢魔理沙ですね。可愛い。2009年リリースの『東方星蓮船』で初めて早苗が自機として選択できるようになって、この3名が主人公グループとして認識されるようになったのも記憶に新しい。俗に言う「チーム星蓮船」ですね。可愛い。

さてアルバムの1曲目に陣取るのが「黒い星」である。聴いて度肝を抜かれてくれただろうか。こんなジャケットから想像できるような曲じゃない! 疾走感とソリッドさを併せ持った、パンキッシュなハード・ロック。次のTr.2が、MVも作られたメイン曲の「はたてのバッコイ殺人事件」であることからも、異質さが際立っている。あさなさんのどこか厭世的な声色が、エレキ隊に負けじと曲をグイグイ引っ張っていく。ヴォーカルと演奏陣の殴り合いによって、「黒い星」は女声ロックの良さを十二分に湛える。

ロックは、どこかに執心するように、なりふり構わない雰囲気が魅力だと思っている。変にテクニカルだったり、八方美人になっている曲は、何とはなしに耳が集中できないものだ。「黒い星」にそういった雑念は無い。なぜだろう? 東方アレンジというある種の"枷"があるはずなのに。サビメロは誰が聞いてもはっきりと「恋色マスタースパーク」のあのフレーズなのに。東方アレンジ界には、こうした凄みを感じさせる曲がたまに現れる。引き揚げて手元に置いておこう。そう。この黒い星は、私の手元で13年間輝き続けている。

 

バブミーベイベー/ビートまりお・山本椛・大瀬良あい・96 (2015)

 収録:第23弾『GENSOKYO DEMPA EXPO』
 原曲:少女綺想曲 ~ Dream Battle
   (『東方永夜抄』4A面ボス・博麗霊夢のテーマ)
 作詞:夕野ヨシミ
 編曲:ARM

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青森県からお越しのビートまりお君、魂の叫び。

COOL&CREATEファンならご存知だろうが、まりおが歌っているからといって、曲自体がふざけているとは限らない。まさにその典型である。曲はマジ。内容だけがおかしいのである

電波ソングの雄・ARM氏は、時々こうした肌触りの良いポップスを提供してくる。特に「バブミーベイベー」は、3人の女性ヴォーカルとまりおが厚いコーラスの層を形成し、加えて、アルバムに登場するキャラクタたちも出演しているため、ミュージカルのエンディングテーマのような大団円感に包まれている。サビの〈バ バブ~〉を一緒に歌うとみんなで幸せになれる気がするのだ。尤も、『GENSOKYO DEMPA EXPO』は、アルバムを通して「幻想郷で開かれた万博におけるシーンを描いていく」というストーリィ要素を持ったコンセプトアルバムであるため、10曲中の9曲目に配置された本曲が「大団円感」を持つのも、当然と言えば当然かもしれないが。

タイトルから「ネタ曲でしょ?」と敬遠せず、ぜひ聴いてみてほしい。東方オタクも楽曲オタクもバブバブしてしまうこと請け合いだ。

 


 

それではまた後編で。

大丈夫、生きている間は一緒にいますから。

 

 

 

https://www.iosysos.com/discographyportal.php?cdno=IO-0163