論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

「あおぎり歌枠リレー」に感動した楽曲オタクのうめき声

イルリキウムです。

 

2023年1月31日、VTuberグループ・あおぎり高校の全メンバー7人による、歌枠リレー企画が生配信された。

各30分の持ち時間で4曲ずつ、計3時間30分に亘って28曲が披露された本企画は、メンバーが自主的に立ち上げたもの。ロゴも、メンバーである山黒音玄さんの自作だ。必ずしも歌をメインとした活動をしていない彼女たちが、2月18日に開催されるツーマンライブのために助走をつける、そんな役割を担っていた。

makeup.matereal.jp

 

大盛況のうちに幕を下ろした本企画であるが、そんな中、ひとりの楽曲オタクが自宅で密かに悶え苦しんでいた。

 

「……っっっっっ、良すぎる!!」

 

一曲一曲、イントロがかかる度、膝から崩れ落ち椅子から転げ声にならぬ声をあげた。神セトリによる3時間半。これが無料で聴けてしまうなんてとんでもないことである。パワーバランスが乱れYouTubeを中心として世界に歪みが生まれる前になんとかしなくてはいけない。

というわけで、原曲紹介を交えながら、披露された28曲を簡単に振り返っていこうと思う。

なお、あくまで楽曲を主眼としたまとめなので、メンバーそれぞれの背景には深く立ち入らない。もし私がメンバーについて熱く語り出してしまったらそれは不可抗力なので、ぬるっとスクロールバーを下に動かしていただければそれでよい。

ここがライブ会場だ

 

① 大代真白

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M1. HOT LIMITT.M.Revolution (1998)

 作詞:井上秋緒
 作編曲:浅倉大介

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曲の知名度もさることながら、MVの異常性が際立つ大ヒットナンバー。西川貴教が服とも呼べぬ謎のコスチュームに身を包み、海にセットされた謎の星形ステージで歌っている姿が強烈なインパクトを視聴者に残す。ダンスというよりポージングでは……? ステージのパネルが吹き飛んでいったが……? そう思っている間にも、妖精たちは夏を刺激していくし、曲は脳を侵蝕していく。

作編曲は、シンセサイザー使いの雄・浅倉大介。「ダイスケ的にもオールオッケー」でおなじみの大介である。この曲がどこに出しても盛り上がる仕上がりになっているのは彼の手腕に拠る。全体を埋める種々の打ち込み電子音とエレキギターの融合した、存分にライブを意識した曲作りは、多くの日本人の心を掴んだことだろう。

 ◆◇◆

この曲とともにせり上がってきた、あおぎりの急先鋒・大代真白。このまま歌いきるのかと思いきや、サビのワンコーラスを入場曲としただけだった。なんと贅沢な幕開け! 曲が併せ持つ「ノリの良さ」と「面白さ」のパワーを熟知している。

あと出すとこ出てて、たわわになってた。うん。

 

M2. ネトゲ廃人シュプレヒコール初音ミク (2010)

 作詞:さつき が てんこもり
 作編曲:さつき が てんこもり

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2010年といえば、ハチ、wowaka、DECO*27などが精力的に活動していた、ボカロPの大興隆期であった。そんな中で「ネトゲ廃人シュプレヒコール」も大いに支持を集め、ニコニコ動画での再生数は2023年2月1日現在320万回を超えている。歌ってみた動画も多数アップロードされ、私はこの曲でろんさんにのめり込んだ。青春の一曲である。

さつき が てんこもり氏は自身がネットゲームの奴隷であり、歌詞にはこれでもかとゲーム用語がちりばめられている。目の細かい打ち込みのビートは電脳世界をイメージさせるが、ピアノのバッキングは上下動の狭いコードで、ひたすらにリフを鳴らし続けている。これが自分の世界に籠るネットゲーマーを想起させて、そら恐ろしい。とはいえ、今やゲーマー界はプロフェッショナルとして活躍する方も増え、将来の夢として挙げられるほどの立派な職業となっているのだから、廃人も極めてみるものだ。

 ◆◇◆

真白さんの〈ネットゲーム〉の発音が可愛くて一生聴いていられますね~。間奏では上を下への大騒ぎをしているのに、なぜ歌となると若干鼻に抜けたくりっとした声質になるのか。完全にやってる。可愛すぎ。

彼女はシンコペーションの把握が正確で、そこが聴衆の耳をキャッチして離さない。〈RMT......tt……RMT〉など、合いの手部分にも手を抜かないのだ。この合いの手重要だもんね!

 

M3. すずめ feat.十明/RADWIMPS (2022)

 作詞:野田洋次郎
 作曲:野田洋次郎

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2022年公開の映画『すずめの戸締まり』(監督/新海誠)の主題歌。

一拍をたっぷり使うブレスが印象的で、コーラスの音型がどことなく民族的、呪術的な雰囲気を湛えているナンバー。ヴォーカルのオーディションを担当した野田洋次郎は、「曲と十明の間に、誰も割って入れない強い結びつきを感じた」と語っており*1、彼女にしか出せない空気を纏った楽曲であることが強調されている。

 ◆◇◆

ビビった。

マジでビビった。確かに、当然だが、十明さんとは声質が異なる。だけど大代の『すずめ』も同様に、歌詞の心象世界を表現しきっているように思えた。高音域で広がるア段の発声や(特に〈もしかした〉)、切なく消えゆく語尾が、彼女の狙い通り「ギャップにやられる」要因となっている。

私はこの配信中、無意識で大代を救う会に入会し、肝臓提供の意思を示したのだが、これを聴いてしまったのがクリティカルだったといえよう。

 

M4. アイウエ feat. 美波, SAKURAmoti/MAISONdes (2022)

 作詞:SAKURAmoti・美波
 作曲:SAKURAmoti・美波
 編曲:SAKURAmoti・真船勝博

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2022年にアニメリメイクされた『うる星やつら』のOP1。

MAISONdesはクリエイターを固定しない音楽プロジェクトであり、本楽曲においては美波が歌唱を担当している。美波といえば、ウィスパーからシャウトまでをくるくる使い分け、現在ポップスシーンで流行している高速パッセージもお手の物の、令和の音楽シーンを駆け抜けるシンガーソングライターである。

 ◆◇◆

大代のポテンシャルをまざまざと見せつけられることとなり、私は放心するしかなかった。サビの〈私全部全部を〉〈「どこがいいの?」なんて〉は譜割りが複雑なシンコペになっているがここを苦にせず滑走し、シャウト発声、いわゆる"がなり"もピンポイントに当ててくる。

これが、勉強以外は全部できる女の実力か……バタッ

 

② 石狩あかり

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M1. 宇宙戦艦ヤマトささきいさお (1974)

 作詞:阿久悠
 作編曲:宮川泰

テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』OP。

各所から「男のロマンを」「勇ましく」などと色々指示されたささきいさおが、困ってしまって結果的に複雑な哀愁を帯びた歌となった、というエピソードでお馴染みだ。イントロのファンファーレも含め、誰もが歌える超メジャーナンバーなのではないだろうか。

 ◆◇◆

「あおぎりの歌姫」と謳われる石狩先輩には、太い声質で朗々と、パワフルに歌い上げる曲が実に似合う。しかしAメロのように、軽くこぶしを回してじっくり聴かせる歌い方もまた、似合っているのである。ファルセットへの切り替えが美しいぃぃぃ!

"姫"だなんて、深窓に閉じ込めておくにはもったいない。もっと多くの臣民の目に触れるようにした方がよい。そうすれば国全体の士気、連帯感も上がるというものである。皇族にしよう、そうすれば象徴として国民の前にお姿を見せてくださる。あおぎりの歌内親王。これだ。

 

M2. いけないボーダーラインワルキューレ (2016)

 作詞:西直紀
 作編曲:コモリタミノル

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テレビアニメ『マクロスΔ』挿入歌。ワルキューレのエースヴォーカルである、美雲・ギンヌメール(歌唱担当:JUNNA)が歌い射抜く。他の4人が支えるハモりも美しい神曲である。

作編曲は、SMAP「SHAKE」やV6「グッデイ!!」など、気持ちのアガるイケイケポップスを多数手掛けている小森田実。本楽曲のように大人の香気を纏わせている曲は珍しいように聞こえるが、分厚いブラスセクションにはやはり、彼の培ってきた御業を感じることができる。

 ◆◇◆

「い、け、な、い……」と石狩先輩がセトリを打ち込み始めた瞬間、私は「えっ、ボーダーライン!?!!?!」と叫びながら床に体を打ちつけ、「JUNNAじゃん!!」と天井に向かって声をぶつけた。いけない。これはいけない。前奏が聞こえてきたことで、予想が当たったことが判明する。あーーーー(昇天)

何が良いって、石狩先輩のスパンと鋭く放つ発声と、語尾の音程を下げていくテクスチャが、JUNNAそのものなのである。これは惚れる。全人類惚れる。

 

M3. カワキヲアメク/美波 (2019)

 作詞:美波
 作曲:美波

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テレビアニメ『ドメスティックな彼女』OP。美波のデビューシングル「カワキヲアメク」の表題曲に当たる。シングルとはいっても、約1年の間にYouTubeで公開した4曲が収録されている。おトク。

美波に関してもうひとつ私の印象を述べてさせていただくならば、鎖鎌のような歌声。これである。口元でこしょこしょと話していたと思いきや、突如として放たれるシャウトと、それに負けない速度で吸い込まれるブレス。特にこのブレスが、一気に空気を吸い込んでいるせいで高く擦れた音を出すのだ。軌道は読めず、ひとたび命中すれば掻っ捌かれる歌声なのである。

 ◆◇◆

再現度たっけぇ~……。サビの強度ももちろんのことながら、ふっと抜いたセリフ部分と、それに連続する〈美しくあれ〉〈傘を閉じて 濡れて帰ろうよ〉のメロディパートが、すっと「美波の曲」として理解される。

もし一緒にカラオケ行った友達にこんなん聞かされたら、もうその友達にタメ口利けなくなるよね。3歩下がって彼女の影を踏まないように歩こうと思います。

 

M4. ジョジョ ~その血の運命~/富永TOMMY弘明 (2012)

 作詞:藤林聖子
 作曲:田中公平
 編曲:大谷幸

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テレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 Part1 ファントムブラッド』OP。

ジョジョ1部の原作漫画は1980年代に連載されていたもの。スタンドを用いて洗練された戦いを繰り広げる3部以降とは異なり、血と汗の弾け飛ぶ、実に男クサい内容であるのだが、それを反映した曲風になっている。実際、田中公平氏も、70年代を意識して作ったようだ*2

作詞の藤林聖子さんへの言及も忘れてはならない。特撮モノの作詞も手掛けることが多いのだが、作品の展開を知らないはずなのに、まるでストーリィを予知しているかのような詞を書きあげることがあり、界隈では"予言者"とも言われている。「男同士の因縁」をテーマに詞を書かせたら、この人の右に出るものはいなかろう。

 ◆◇◆

Aメロに最低音のDが出現し、石狩先輩はここが音域の底らしい。「最低音域聞かせてくれて嬉しいわね」などと思っていたが、私も歌ってみたところ、Dが安定して出せる最低音だった。一緒じゃん! いぇ~い!(?)

この曲の激アツポイントはなんといっても、ラスサビのジョジョ〉14拍吹き伸ばしだろう。超ロングトーンというわけではないが、これまでは6拍だったところに2小節もボーナスされていれば、聴衆のヴォルテージを頂まで持っていくのには十分な長さである。コメ欄と共に気持ちよく歌い上げた石狩先輩、ただただ、聴き惚れたの一言です……。

 

③ 我部りえる

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M1. Music S.T.A.R.T!!/µ's (2013)

 作詞:畑亜貴
 作編曲:山口朗彦

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メディアミックス作品『ラブライブ!』シリーズが産声を上げたのは2010年。主人公として9人組のスクールアイドルユニット・µ'sの結成が発表された。10年代前半のアイドルムーヴメントを牽引した彼女たちの、本楽曲は6thシングルにあたる。

山口朗彦らしい、煌めきを曲全体に溢れさせたパワフルなポップスだ。彼はこうしたキラキラ系アイドルソング(「正解はひとつ!じゃない!!」「ときめきスクランブル」など)を得意とする一方で、ソリッドな作りのエレクトロロック(「Persona Voice」「FAKE SELF TRUE SELF」など)もよく提供している。テレテレテレテレ!と16分で駆け上がるパッセージが特徴的なので聴けば一発で分かる。

 ◆◇◆

我部先の歌声は、芯はありつつも、表面はふんわりとした感触で、いつまでも浴びていたくなる。そう、それはまるで上質な今治タオル。今治りえる。なんでもない。

原曲を歌うのは高校生9人組であり、ある意味で"大人の色気"のようなものが溶け込んではいないため、更に我部先のソフトさが際立つ。なるほどつまり、やっぱ先生だったんだ……! 実はあおぎり来る前、音ノ木坂学院の先生だったんじゃないの……!?

 

M2. アカシア/BUMP OF CHICKEN (2020)

 作詞:藤原基央
 作曲:藤原基央
 編曲:BUMP OF CHICKEN & MOR

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ポケットモンスタースペシャルMV『GOTCHA!』のテーマソングとして起用された楽曲。シリーズのファンなら感涙間違いなしの仕上がりとなっている。何せポケモンはルビーしかまともにプレイしていない私が泣いたくらいなのだから(涙腺よわよわマン)。

楽曲そのものは、誰がどう聞いても藤原基央の曲である。跳躍が少なく、音価が長めに取られていて、複雑なメロディの割り当てはほとんど無い。このオケに張り付いたメロがひとつの特徴であろう。何も、「オゥ イェーイ アハーン」があるから藤原基央だと言っているのではない。断じて。

 ◆◇◆

親和性!! 高し!!

Aメロ辺りが、我部先ヴォイスの干したてお布団のごとき柔らかさを一番味わえる音域かもしれない。サビ〈魂がここだよって〉の8度&10度跳躍もふつくしい……。藤原基央と我部先がこれほどまでしっくり融和するとは思っていなかったので、ひと月前に彼女が開いていたBUMP歌枠のアーカイブを聴きにいった次第である。オゥイェーイアハーンになってしまいましたね (ニッコリ

 

M3. 可愛くてごめん feat. ちゅーたん (CV: 早見沙織) /HoneyWorks (2022)

 作詞:shito
 作曲:shito
 編曲:HoneyWorks

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TikTokでダンスが流行ると原曲がなんだか分からなくなる現代の病に巻き込まれてしまったように思われるが、もともとは、HoneyWorksの楽曲から生まれた『告白実行委員会』シリーズの登場キャラクタである、中村千鶴(CV: 早見沙織)のキャラクターソングだ。

超絶煽りソングと受け取られることも多いものの、推しに可愛い姿を見てもらおうと自分磨きを怠らない一途で熱心な愛い奴ソングと捉えられないことはない。しかし、それにしても早見さん、どんなこと考えながら歌っているんだろう……。

 ◆◇◆

顔で煽られた。

この曲は、心から好きだな、と思っている子が歌ってくれないと、全ての歌詞が煽りに聞こえてきて、坊主憎けりゃ理論で楽器隊まで煽ってきているように聞こえる。何だァそのテロテロした電子音はァ!?

しかし我部先にはもっと煽られたい。いいんです。だって好きだもの。ありがとうございます。曲が終わってから誤魔化すように繰り出した笑顔もめっちゃ可愛かったけど、だんだんとこの笑顔も煽っているように見えてきたから不思議なものです。

 

M4. 天使にふれたよ!/放課後ティータイム (2010)

 作詞:稲葉エミ
 作編曲:川口進

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テレビアニメ『けいおん!!』第24話挿入歌。HTTの卒業メンバーが、ひとり残る後輩の中野梓に贈った楽曲である。このエピソードだけでもグッと来るものがあるが、曲は曲で涙を誘う。

彼女らの持ち曲としてはTom-H@ckが手掛けたアニメの各OPが有名でありつつ、これらは年齢不相応にテクニカルで演奏するとなったら笑うしかない曲ばかり。一方で本曲は、テンションコードすらほとんど出てこないシンプルな進行だ。そんな中でも、サビ頭の〈もね会えたよ!〉の実音ド(=Ⅰに対して9th)と、サビ13-14小節目の〈いつまでも輝いる〉の実音ラ♭(=Ⅲに対して♯11th)がほんっとに、ほんっとに輝かしい、宝石のごとき2音。たった2音で、人は泣けるんですねェ……。

 ◆◇◆

天使やん。いや実際天使なんだけど。

普段煽り散らかしてきてた子が、別れる段でこんな曲歌い出したらどうします? 普通に感情ぶっ壊れて細胞同士の結合が全部用を為さなくなって雲散霧消しますよね 多細胞生物として形を保てなくなりますよね 

「だいだーいすきっ」ですってよ

あーー まったくまったく…… 

 

(昇天)

 

④ 山黒音玄

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サムネ可愛すぎん?

M1. ココロオドルnobodyknows+ (2004)

 作詞:nobodyknows+
 作編曲:DJ MITSU

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ヒップホップユニット・nobodyknows+最大のヒットナンバーであり、我々ネット民からするとMAD動画のベース曲でもある。ニコニコ動画におけるMAD文化への貢献は計り知れず、数多のキャラクタたちがビートの上でファンキーをシビレサセていた。リリース元が権利に厳しいソニーさんだったため、儚く動画の命が散ることも度々あったのだが……。

SDガンダムフォース』のEDテーマにも使用されていたという、タイアップ系アニソンの顔も持っている。

 ◆◇◆

いやいやいやいや

音玄さん、日頃から魂子さんと歌苦手同盟を組んで傷を舐め合い、歌枠リレー中も互いに励まし合っていましたよね? もしや度肝を抜くための策略ですか?

崩れずにラップを歌うには、トラックの拍を意識して言葉を紡がなくてならない。ラップが歌えない原因は「口が回らない=噛む」か、「言葉が滑る=早く言い終わってしまう」のいずれかであり、特に後者は音楽を聴く耳も必要とする。口元が滑ってしまえば、詞の方が早く終わり、トラックとリリックがズレていく。しかし音玄さんは崩れなかった。軽微なズレは常にリカバーし続けていた。これが、「歌が苦手」だとどうして言えようか。練習の賜物だとするならば、心からの讃辞を!

 

M2. 不可思議のカルテ/桜島麻衣、古賀朋絵、双葉理央、豊浜のどか、梓川かえで、牧之原翔子(CV:瀬戸麻沙美東山奈央、種﨑敦美、内田真礼久保ユリカ水瀬いのり) (2018)

 作詞:児玉雨子
 作編曲:カワイヒデヒロ (fox capture plan)

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テレビアニメ『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』EDテーマ。ウルトラハイパー名曲なのだがサブスク未解禁である。よって、上に貼ったspotifyの試聴リンクは、作曲家によるセルフインストカヴァー版だ。

児玉雨子さんの名は、ハロプロファンなら目にしたことがあるだろう。歌い手を見つめる犀利な感覚を武器に、活躍の場を広げ続けている。彼女が語っていた「グループのカラーにあえて乗らないことがある」という意識は面白かった*3

曲は、スリーピースインストバンド・fox capture planのベース担当、カワイヒデヒロ氏。ジャズを基調としたオシャレ楽曲を次々とリリースしている彼らは、ドラマ劇伴も数多く担当している(『コンフィデンスマンJP』『カルテット』など)。歌詞の入っていない作業用BGMを探している方、おススメしておきます。

ちなみに、私が好きすぎて感想ツイートをしたところ、翌日カワイ氏が「深く考えてないよ~ん」というツイートをしていたことがある。ワロタ。

 ◆◇◆

山黒・ブラックホール・音玄?

完全に吸い込まれた。私が常々彼女の魅力だと喚いている「曲線的輪郭をもつ声質」が、曲のテイストにピタッとハマっている。無理せず出せる音域なのだろう、声にも力感がまるで無く、まさに歌詞にある通り、Träumerei(夢見心地)を感じさせる

ちなみに、単に「夢」と言いたい場合、Traumという語が用いられる。英語のdreamと同じ語に由来し、音が近いのも頷けるだろう。よく、トラウマ=trauma「(心的)外傷」も同じ語源かと勘違いされるが、こちらはギリシア語を経由して伝わった「傷つける」という意味の単語であり、印欧祖語まで遡っても別源と考えられている。Traumに接尾辞がついて手前の音が変化したものがTräumereiである。au「アォ」→äu「オィ」の変化は、ドイツ語において名詞の複数形変化や動詞の不規則変化にも一般的にみられ……アッスミマセンヤメマス

 

M3. give it back/Cö shu Nie (2021)

 作詞:中村未来
 作曲:中村未来
 編曲:Cö shu Nie

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テレビアニメ『呪術廻戦』第2クールEDテーマ。切々とした中村未来のヴォーカルがストリングスに寄り添い、繊細ながらも烈とした情感の息吹を覚えるバラードである。

Cö shu Nie、というか中村未来が畑としていたのは、いわゆるオルタナティヴ・ロックの文脈だと思っていた。こういった「荒野に一筋の光が射し込むような」系統のバラード曲とは対極で、新しい印象を受けたため、おっ、と耳を引かれたのを覚えている。

 ◆◇◆

第一声から、直感的にヤバさを感じ取った。

音玄さんは普段、喉から口にかけての空間を狭めた発声をしているのだが、この曲の冒頭では喉をたっぷり開いて口腔内に反響を作っている。ウィスパー・ヴォイスの楽曲ではこうしないと、空気がさわさわしているだけの平べったい声になってしまうのだが、いつもの音玄さんではなさすぎる……中村未来が憑依している……!

困ったような表情も、雪降るエフェクトも、すべてが相俟って、玄人は感涙を禁じ得なかったのではないだろうか。

 

M4. トウキョウ・シャンディ・ランデヴ feat. 花譜, ツミキ/MAISONdes (2022)

 作詞:ツミキ
 作編曲:ツミキ

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2022年リメイク版テレビアニメ『うる星やつら』ED1。

花譜×ツミキのタッグときたら神曲に決まっているだろいい加減にしろ(過激派)

ツミキ氏が2021年にリリースしたアルバム『SAKKAC CRAFT』を聴いたときは、彼がこだわりたい点を突き詰め煮詰め、フランス料理でいうところのレデュイールの末に出来上がった、濃厚な音の奔流に叩きつけられる経験をした。一方で、合成音声ライブラリ・可不(KAFU)をヴォーカルに据えた「フォニイ」では、メランコリックな声質に合わせるように、オケの音数も抑えられていたように思う。

ヴァーチャルシンガー・花譜は、そんな可不に音声データを提供した親のような存在だ。ツミキ氏がどう来るか、注目の的だったことは間違いない。

 ◆◇◆

大代が「アイウエ」を披露したときに、「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」も来るかなぁ、とほんの僅かに期待して、しかしそれも束の間、目の前のライブに集中することでそんな期待はすっかり忘れていたのだが、まさか、まさかのである。

 

\ここがスゴい! 山黒音玄!/

まず、全体に掛けられたヴォコーダに通したようなロボットボイスエフェクトおよび、大サビ前の帯域ローパスフィルタ! やってることがDJなんよ。魅せる意識が高すぎて惚れ直しました。

次、早口パート。音玄さん、確かに苦手な発音はあるようなのだが、決して早口が苦手なわけではない。話し手の言葉が淀みなく流れていけば、聞き手の脳内では勝手に近い音素が類推され、違和感を覚えさせにくい。これができるのは、紛れもなく強みといえる。

あとはやっぱり声質が合ってるわぁ。文字通りの発音よりも唇を狭めぎみの調音をする花譜と、音玄さんの元来の発声スタイルが、高いアフィニティを誇っている。音源化して売ってくれ……!

 

そうだ、曲目を歌のあとから発表するのもライヴ感があってよかったです!(こなみ)

 

栗駒こまる

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M1. お願いマッスル/紗倉ひびき(ファイルーズあい)&街雄鳴造(石川界人)(2019)

 作詞:サイドチェスト烏屋
 作曲:サイドチェスト烏屋、シックスパック篠崎
 編曲:シックスパック篠崎

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テレビアニメ『ダンベル何キロ持てる?』OPテーマ。原作は裏サンデーで連載されている同名の漫画なのだが、このOPテーマが狂ったほどにスマッシュヒットした。貼り付けた公式MV(Muscle Video)は、2023年2月1日現在2.68億回再生を超えている。このアニメで鮮烈デビューを果たした主演声優のファイルーズあいさんは、2022年にジョジョ6部ストーンオーシャン空条徐倫役に抜擢された。徐倫に憧れ声優を志した彼女が、かくも鮮やかに夢を叶えた姿は記憶に新しい*4

なお、クレジットの「サイドチェスト烏屋」とはボカロPとしても名の売れている烏屋茶房(カラスヤサボウ)氏、「シックスパック篠崎」とはMassive New Krewの篠崎あやと氏のことである。

 ◆◇◆

数回のプッシュアップでへばりそうな超絶キュートひびきと、セクシィお姉さんに変貌した街雄さん。日本のあちこちでさんざんコスられた本曲が、また新たな顔を見せてしまったなァ

レーニングパートのインストラクター栗駒にズキュンと来たので、「こまるとトレーニング」みたいなガチ筋トレ動画を上げてくれたら私も肉体改造に励める気がする。原作みたいに色っぽさを含んだ吐息さえなければ……いや、ラーメン啜るだけで喘いじゃうこまるんが吐息を抑えるのは無理か……。

M2. 阿修羅ちゃん/Ado (2021)

 作詞:Neru
 作編曲:Neru

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テレビドラマ『ドクターX ~外科医・大門未知子〜』第7シリーズ主題歌。作編曲のNeruさんが「ファンク、フュージョン愛を込めた」とコメントを寄せているように、ブラスが暴れる高速ファンクに仕上がっている。

Ado曲の中ではメロディラインが落ち着いており、比較的歌いやすいほうとは思えるが、それでもやはり歌いきるのは大変である。Neruさんのヒット曲「ロストワンの号哭」や「脱法ロック」と同様、2サビからラスサビに休憩なく突っ込んでいくからだ。疲れちゃう。聴いてる方はアガるんだけどね。Hoooo~~~!!

 ◆◇◆

目を見開いてしまった。あ、こういうこまるさん……イイ!

平時のくりくりした声があるからこそ、ドスの利いた唸りが効く。最後の〈頭を垂れないで〉の手前に差し込まれる〈Ahー〉がもうとにかく好き。ひらがなでは表現できない音なのだが、「は」の発音を、「あ」と「う」の間の唇の形からスタートして徐々に「あ」に持っていくと、似たような音が出せるだろう。私はこの阿修羅ちゃんを聴いてからというもの、眼精疲労が治り、首の凝りが解れた

 

M3. 花に亡霊/ヨルシカ (2020)

 作詞:n-buna
 作編曲:n-buna

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映画『泣きたい私は猫をかぶる』主題歌。

「ヨルシカ」と検索ウィンドウに打ち込むと、共に「YOASOBI」と「ずっと真夜中でいいのに。」がサジェストされるようになって久しい。確かにこれらのグループがJ-POP界で存在感を増してきたタイミングは似通っており、表記は違えど、いずれのグループにも"夜"にまつわるワードが含まれている。「ずとまよ」と略せば4音で揃ってしまい、いよいよ渾沌としてくる。そうして、彼らのことを"夜系"、彼らのファンを"夜好性"と呼ぶ向きもあるわけだ。ま、人間は共通点を見出して分類するのが好きなので、面白いなぁという目で見ていたが、音楽性で言えば十把一絡げにしてしまうのは無理があるだろう。

n-bunaの言葉選びは叙景的で、時の移ろいを感じさせ、少し触れたら崩れそうなほどにデリケートだ。そしてsuisの歌声は、中音域で力強く、サビの音域ではすっとファルセットに引けていき、聞き手に何かを強いるところがない。

 ◆◇◆

そうして、こまるんはそんなヨルシカの展開したい曲世界を見事に表現してみせた。きっと、とても好きな曲なのだろう。曲に没入し、自分が今まさに言葉を生み出しているように、歌うというより語るように、同じ景色を見ている隣の人に話しかけるように、彼女は歌ってくれた。ただの萌え声ではなかった。どうなってるんだ……。

 

M4. 丸の内サディスティック/椎名林檎 (1999)

 作詞:椎名林檎
 作曲:椎名林檎
 編曲:亀田誠治

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椎名林檎の代表曲のひとつ。東京事変時代のセルフアレンジ、他のアーティストによるカヴァーなどが盛んに行われている。ポップスのコード理論においてこの曲の和声進行が取り上げられることも多く、俗に「丸サ進行」と呼ばれる(遡るとGrover Washington Jr.の "Just the Two of Us" で用いられた進行である)。

 ◆◇◆

ひとつだけ。

〈肺に映ってトリップ〉の〈〉を聴いてください 現場からは以上です!

 

⑥ 千代浦蝶美

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M1. ウタカタララバイ/Ado (2022)

 作詞:TOPHAMHAT-KYO(FAKE TYPE.)
 作曲:FAKE TYPE.
 編曲:DYES IWASAKI(FAKE TYPE.)

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映画『ONE PIECE FILM RED』挿入歌。Adoが歌唱を担当したキャラクタ・ウタが披露した曲のひとつである。

MVが公開された際に聴いてみた私の率直な感想は「トップハムハット狂がAdoに突き付けた挑戦状」だった。FAKE TYPE.の曲はいくつか知っていたが、素直に歌詞を読んでいては全く間に合わない。"音"として喉と舌に叩き込むしかない。そもそもトップハムハット狂も歌詞通り歌ってないもんね

Adoが完璧な形で提示したアンサーに震え上がり、「あ、こりゃもう、他の人が歌っているのは聴けない」と怖くなってしまった私は、誰の歌ってみた動画も試聴したことがなかったのだが……。

 ◆◇◆

ヤバすぎ。

Listen up baby〉頭の締め切った高音、〈Be my good〉3連発の正確性、〈I wanna make your day,〉直前の「ハハッ」および〈超楽しい〉直後のヒヒヒッという高笑い、〈直に脳を〉からのシャウト。この辺りのディテールを再現しているあたり、凄みを感じざるを得ない。

そしてどうしても言及したかったのは、〈突発的な泡沫なんて言わせない〉を地声で当てている点! ここ、原曲は裏声なのである。マジで最the高。

1/31に生で聴いたときは、「ウ、ウ、ウタカタララバイだーー!!?」とひっくり返ってしまっていたので、まともな耳で聴けていなかったのだが、本記事を書くにあたって何度も聴き直し、ちよちゃんのパワーをダイレクトに喰らっている。歌の圧で心臓を握り潰された。この曲を幕開けに持ってくることから、彼女の歌に対する矜持が見て取れる。

 

M2. 恋は渾沌の隷也後ろから這いより隊G (2013)

 作詞:畑亜貴
 作編曲:田中秀和MONACA

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テレビアニメ『這いよれ!ニャル子さんW』OP。

\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!

1期『這いよれ!ニャル子さん』のOP「太陽曰く燃えよカオス」を手掛けた、畑&秀和の何をしでかすか分からないタッグが再び手を組んでしまった結果こうなりましたとさ。なお、作詞作曲家に興味が無ければ知らないのもおかしくはないが、アニソン業界で仕事をしていて彼らの名を知らぬとしたら、その者はモグリと言い切れるほどの超売れっ子たちなのである。

 ◆◇◆

さすがあおぎりの絶対的アイドル。歌唱力で握り潰したあとは、オタクたちにコールを強いて骨の髄までしゃぶり尽くそうってか……!

やってやんよ……!!

\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!

 

〈やっぱりやっぱり大好き〉は激かわだったし、〈ニャルラトホテプ〉の発音がちくいち着実なのは、やはりアナウンサー。ここのラ行連続は速いパッセージ故に滑りやすく、舌に十分意識を注ぐ必要がある。ちよちゃんはめちゃくちゃ綺麗に歌いこなしているが、これはかつての鍛錬の賜物に違いない。自分も思い出すな……川沿いでラ行の発声練習したな……(遠い目)

この曲が10年前なんて信じられない。だって流行ったのついこの間じゃん。

 

M3. 火炎/女王蜂 (2019)

 作詞:薔薇園アヴ
 作曲:薔薇園アヴ
 編曲:女王蜂、塚田耕司

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2019年にリメイクされたテレビアニメ『どろろ』のOPテーマ。

女王蜂のVo. 薔薇園アヴちゃんについては、THE FIRST TAKEでその存在を認知した。インパクトのあるビジュアルから、高音域にジャンプアップする異常なメロディ設定。さすがに記憶に残ったものである。「火炎」もその際に聴いた。

THE FIRST TAKEではアコースティックギターアレンジされていたが、原曲のほうはEDMの基本構成に則っており聴きやすい。この曲のドロップかっこいいよね……。

アヴちゃんは基本的に男声であるが、突如として、喉を締め付けオクターブ上の音域に飛び出していく。さほど苦しそうに聞こえないのがまずおかしいし、ピッチが狂わないのはもっとおかしい。常人が手を出してはいけない匂いがプンプンする。

 ◆◇◆

ヤバすぎ。(2回目)

事ここに至って、私は「ちよちゃんは常人ではなかった」という事実にようやく思い至った。彼女にとってもA5(オクターブ上のラ)は決して楽ではない音だろうが、まーブレない。一切フラット気味にぶら下がらない。気持ちいぃ……!

歌が終わればケラケラと「緊張する~!」と笑う彼女だが、実は歌唱中は震えが止まっていたりしないだろうか? 歌の世界に身を投じ、自分の歌を磨く覚悟がある彼女なら、どんどんリスナーの支持を集め、自信を伸ばしていけるに違いない。どんどん大きなステージで歌を披露するちよちゃんが見たいものだ。

そういえば、ラップパートには〈千代も八千代〉というリリックが登場する。密かにニヤッとポイントだったかも?

 

M4. 閃光/[Alexandros] (2021)

 作詞:川上洋平
 作曲:川上洋平
 編曲:[Alexandros]、Takashi Saze

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劇場アニメ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』主題歌。

[Alexandros] のVo. 川上洋平氏の声質は、どの音を鳴らしていてもどこまでもソフトで、それはサビにあっても変わらない。テイストもシンプルな手触りのバンドロックであり、「ガンダム主題歌といえば」と言われて人々が思い浮かべる、例えば「ignited」なり「嵐の中で輝いて」なり、そういった力強い曲調とはやや離れたところにいる印象だ。これについて川上氏は、「7割くらい自分たちの曲だと思って作っている。知らないものに無理に合わせて作るのは誠意が無いと思うから」と述べている*5。誠実な態度だ。

なお、ショート動画で楽曲自体がミーム化している面もあるが、詳しくは言及を避けておこうかな……。

 ◆◇◆

キーをトランスポーズした結果、サビの長い音価を持った部分は、ちよちゃんがキャノン砲のごとく気持ちよくぶっ放せる音程に移動している。全体を通して、原曲よりアツい! ここまでの3曲で高まった彼女の熱がまるごと乗っているようだ。

曲間のMCも手練れで、これは紛うことなく、アイドルです!!

 

音霊魂子

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M1. おどるポンポコリン/B.B.クィーンズ (1990)

 作詞:さくらももこ
 作編曲:織田哲郎

テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』主題歌。

個人的には、『ちびまる子ちゃん』が幼稚園時代に読み耽った漫画であることから、この曲にも並ならぬ思い入れがある。さくらももこによるナンセンスを極めた詞は、作品からそのまま人物が飛び出てきたようであり、自分が生まれていなかった時代の「ピーヒャラ感」を間接的に体験させてくれた貴重な歴史書でもある。

作編曲の織田哲郎は、「奇妙さをテーマにしたのでやりたい放題だった」とニヤけ(*6)、ここに稀代のキテレツ曲が生まれたのだった。このメッセージ性の無さが、時代を超えて愛されるひとつの理由なのだろう。

 ◆◇◆

ごめん魂子さん。めっちゃ似合う。

曲紹介で「ナンセンスの極み」「メッセージ性が無い」とか言った上で「似合う」は悪口に聞こえるかもしれない。そんなつもりはないです。けど、似合う。

ナンセンスな世界は、情報漬けの我々現代人が息を抜けるユートピアでもある。魂子さんのぽわっぽわな歌声は、そんな楽園へのベストな水先案内人だ。マジで好き。正直、十何回は聴いた。

あと「たまちゃん」がまるちゃんの曲を歌っているのがなんともいえないよね。

 

M2. 夜もすがら君想ふ/GUMI (2014)

 作詞:西沢さんP
 作編曲:西沢さんP

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西沢さんP(TOKOTOKO氏)の代表曲。彼の作風はいわゆる「ロキノン*7と呼ばれるもので、誤解を恐れずにざっくり言うのなら「明るくノリの良いポップスロック」である。あ~誤解されそォ!

GUMIのやや掠れた大人っぽい声が、荒んだ心を撫でていく。この曲のヒットには、歌唱ソフトの選択も寄与していたのではないだろうか。

 ◆◇◆

はい! かわちいねえ!

〈もっと満たしてくれ〉の〈よ〉が鼻に抜けて「よぅ」ってなるのが、かわちいねえええ!!

歌が苦手とは言いつつ、音程を派手に外すわけではないし、リズム感に関しては平均以上あるように見受けられる。あとは、37万人のチャンネル登録者を骨抜きにするその声質さえあれば、怖いもんないっすよ。

 

M3. ヒッチコック/ヨルシカ (2018)

 作詞:n-buna
 作編曲:n-buna

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いま再びのヨルシカ。

私は基本的に音楽のオタクなので、歌詞を読むのは曲を味わってからなのだが、この楽曲は聴いている間に〈何でなんでしょうか?〉ばっかり言うので、「何の質問なんでしょうか!?」と半ギレになりながら歌詞を見た曲である。そうしたらどうだろう。おやおや。これはこれは。

最後の歌詞で「アッ」と心臓をデコピンされたような心持ちになった。これはまさか、相対性理論「地獄先生」に出てくる〈先生〉みたいなものではないか……。

あ~~尊(たふとし)

 ◆◇◆

輪をかけて可愛くなってしまった。これは魂子さんというよりたまちゃんである。声がトゥルントゥルンの質感を持ったボールのようで、コロコロと転がり放っておくとどこかへ行ってしまいそうだ。スーパーボールほど弾力はないし、ビー玉では固すぎる。ほんっとに適切ではない喩えかとは思うが、そう、消臭ビーズみたいな感じだ。褒めてる。誰が何と言おうと褒めてる!

 

M4. ハッピーシンセサイザ/巡音ルカ・GUMI (2010)

 作詞:Easy Pop
 作編曲:Easy Pop

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BETTI氏によるオンライン楽曲制作ユニット・Easy Pop名義で発表されたテクノポップ

当時はソフトシンセもかなり普及していたはずだが、そうではなく、DAWにハードシンセを5台くらい繋いで作っていたのだという*8。そう言われて原曲を聴くと、温かみのある音色に聞こえてくるから不思議である。

底抜けに明るい楽曲だからこそ、パラドキシカルに寂しさも惹起する。高校の文化祭にて、有志団体で踊ったことがあるが、そのときも踊りながら心がざわめいていた。『ハッピーシンセサイザ』は、盛り上がりが最高潮の締め括りに聴きたい曲でもあり、終わってほしくない気持ちを殊更に喚起させる曲でもある。

 ◆◇◆

そんな心境を知ってか知らずか、目の前のたまちゃんはにこにこと歌っている。

彼女の歌を心から楽しんで聴いている人がたくさんいるのだ。歌手ではないのだから、上手な歌が聴きたいわけではない。「頑張って歌っている魂子さんが見られたら、それで幸せなのだ。余裕の無い中で出てきたMCは、きっと本心だろう。

「あおぎり、もっともっと大きくなります!」

ハピシンめ……しんみりするぜ……。

 

 * * * * * * *

 

あおぎり歌枠リレー、振り返りは以上!

こんなに楽しく、あっという間に過ぎ去った3時間半は久しぶり。7人の個性がそれぞれ光った極上の企画であった。ありがとう!!

*1:新海誠×RADWIMPS、映画『すずめの戸締まり』で3度目のタッグ! 女性ボーカルの正体もついに解禁 – THE FIRST TIMES

*2:『ジョジョ』シリーズ主題歌の制作秘話に迫る!ベスト・アルバム『TVアニメ ジョジョの奇妙な冒険 THEME SONG BEST「Generation」』リリース記念、大森啓幸プロデューサーインタビュー – リスアニ! – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト (lisani.jp)

*3:作詞家・児玉雨子とアイドルソングの歌詞を考える | 佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 1回目 中編 - 音楽ナタリー (natalie.mu)

*4:『ジョジョ』出演という“人生の夢”を叶えたファイルーズあいは、これからどこへ向かうのか? 「やりたいことが多すぎて時間が足りない!」と語った彼女の“次なる目標”【人生における3つの分岐点】 | ニコニコニュース オリジナル (originalnews.nico)

*5:[Alexandros]川上洋平さんに聞く、新曲『閃光』に込めた思いと制作秘話。 | CLASSY.[クラッシィ] (classy-online.jp)

*6:【織田哲郎 あれからこれから Vol.34】大ブーム『おどるポンポコリン』秘話 「誰もそんなに売れるとは思っていなかった」 (1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

*7:TV出演やタイアップによる楽曲提供を盛んに行うメインストリームのバンドに対して、ロック専門雑誌に掲載されたり、フェス形式の屋外ライヴに出演したりするようなインディーズバンドをこう呼ぶことがある。音楽雑誌『ROCKIN'ON JAPAN』、あるいはその出版元であるrockin'on社から。

*8:音楽制作ソフトウェア ABILITY 3.0(アビリティ)|株式会社インターネット (ssw.co.jp)