論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

血液検査の結果を説明しに来たイルリキウム先生

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※写真はイメージです

 

「先生、血液検査の結果はどうでしたか?」

 

結論から言うと、重い感染症ではなさそうです。ざっくりと説明すると、感染症のときは白血球とか、CRPとかいったところの値が上がってくることが多いのですが……、はい、白血球はこのWBCというところですね。そうそうそう、ワールド・ベースボール・クラシックと一緒ですけど、そうじゃなくて、white blood cellですね。まあ白・血・細胞ってまんまなネーミングです。ちなみにその下のRBCは赤血球で、ええ、おっしゃる通りで、redのRです。ただ、ちょっと芸が無いですよね。ってことで、ひと単語の言い方があるんですよ。白血球は、leukocyteっていいます。リューコサイト。これ実はだいぶ分かりやすい名前でして、leuko、の部分はギリシャ語でレウコス、「白」って意味です。医学用語ではleukemia、白血病とかでたまに見る単語なので馴染みがあるといえばあるのですが。あ、そうそう、反対の意味で「黒」、これがギリシャ語でメラスって言います。メラ……そうですそうです、メラニン色素の名前はここからきていますね。で、この黒と白、メラスとレウコス、を組み合わせて、メラノレウカ、って言葉が作られたんです。何かっていうと、とある動物の学名なんですけど、白黒の、あー、シマウマじゃなくて、あっそうですそうです、パンダです! ジャイアントパンダですね。学名をAiluropoda melanoleucaといいます。白黒の、って見た目をそのままつけたんですね。シンプルで分かり易いと思いませんか。えっと、属名のアイルロポダ、これはですね、ギリシャ語の「猫」と「足」からきてます。中国語も大熊猫、ダーシォンマオ、っていいますし、ネコなんですねぇ。話ちょっと変わりますけど、モンスターハンターってご存知ですか? いやね、私はやったことないんですけど、アイルーってキャラクタがいるらしくて。見てみたら猫っぽいキャラクタだったので、まず間違いなくアイルーロスが由来でしょうね。podが足っていうのは意外と単語あるんですよ。なんとかポッド、って思いつくものありますか? なるほどiPodですか……あれは確か、宇宙船だかなんだかの取り外せる部分みたいな意味だったような、ちょっと自信ないですけど。他には……あっいいですねテトラポッド! まさにですよ。テトラが「4」って意味ですから、4本の足が出ている構造物、ってことですね。ちなみにtetrapodには、4本足の脊椎動物って意味もあって、こっちの方がそのままの意味っぽいですよね。専門用語になると、podiatry、足外科とか、podocyte、足細胞とか。podiatricとか、小児科のpediatricと激似でちょっとな、って感じですよね。え? あ、そうなんですよ、手外科とか足外科とかいう言い方するんですよね。整形外科って結構細分化されてて。すんません話ズレましたね。そういえば、leukocyteのcyteの部分の話してなかったんじゃないですっけ。あれは、ギリシャ語のキュトスからきてます。ほら穴とか、空間とか、管とか……そういった意味合いの単語で、医学用語だと総じて「細胞」という意味になります。そうそう! 忘れてた、赤血球にも、erythrocyteって単語があるんですよ。もうお分かりですよね、エリュトロスが「赤」です。こういうのって、植物の学名にいっぱいあるんですよね。赤い樹液の、とか、赤い葉の、とか、赤い萼の、とか……。ここまでくると血小板のお話もしておかないといけないですね。あ、検査結果は正常値でしたのでご安心ください。このPLTって書いてあるのが血小板です。英語でplateletっていいます。我々がよくプレート、プレートって言ってるやつですね。plateはそのまま板ですし、おしりにくっついている-letっていうのは、指小辞といって、「小さい」って意味をくっつけるパーツなんです。小さい板、ってことです。いやー、まんまなんですよこれがまた。ブックレットとかのレットもそうですよ。ちっちゃい本。そういえば、指小辞ってもちろん各言語にあるんですけどね、たとえばドイツ語だと-leinとか-chenですね。あ、ひとつじゃないです。複数種類ある言語もけっこうあります。有名どころだと、女性って意味のフラウ、が、-leinがくっついてちょっと形がかわるんですが、フロイラインになります。フロイラインはたまに聞きません? お嬢さん、って意味ですね。そうそう、なんかかわいらしさとか、幼い、みたいな意味も指小辞は表します。あとはメルヘン。お伽話。これなんかも、元を辿ると-chenがくっついている単語ですね。そうそう……言語好きの間では有名な話ですけど、ロシア語の指小辞は、カっていうんです。ウォッカ。お酒のウォッカってあるじゃないですか。あれは、水って意味のヴァダーに、カがついて変化した形です。言ってみれば「お水ちゃん」なんです。さすがロシア人って感じしません? まあ調べてみると、水による希釈がどうとか、なんかお酒を造るときの過程でそういう表現になったかもって話ですけど、それにしてもね。他はそうだな、イタリア語とかは分かりやすいんじゃないですかね。音楽用語で、アレグレットはややアレグロに、ってことで、なんとか-ettoはやっぱり指小辞です。スパゲット、これスパゲティの単数形ですけど、もともとスパゴ「紐」って意味の単語に-ettoがついたんです。あ、さすがですね、スパゲッティーニね。その通りです。なんとか-inoも指小辞です。複数形が-ini。だから、スパゲッティーニって、スパゴに2回指小辞つけちゃってるんですよ。あっ、パスタ詳しいですか。じゃあカペッリーニもご存じですね。あれは髪の毛って意味のカペッロに-iniがついたものですね。ほっそーいパスタでエンジェル・ヘアーってありますけど、あれはイタリア語のカペッリ・ダンジェロの直訳ですね。あ、ダンジェロは、d'angeloです。まさしく。angelです。オレッキエッテはどうですか? 耳みたいな形したショートパスタ。あれは耳って意味のオレッキオに-etteがついてます。お腹空いてきましたね。そろそろお昼の配膳の時間じゃないですか? えっと、何しに来たんでしたっけ私。

「出たよ友人の筆跡オタク」

これは私の写経


私の彼女は、友人のくれたメッセージカードを見ながら悶える私を見て、そう評した。

筆跡オタク、ではない。

"友人の筆跡"オタク、である。

 

筆跡オタクと言ってしまうと、下のようなイメージになってしまうのではないだろうか。

① 筆跡鑑定士よろしく、点画の特徴を読み解き、「この字とこの字を書いた人は同じ人だな……? 俺にはわかる……」とニヤつく怪しい奴

あるいは、

② 「筆跡から性格が丸わかり!」みたいな根拠の乏しい言説に飛びついて、誰彼に対しても構わず字を論評し内面に踏み込んでくる怪しい奴

 

そう。私は斯様な怪しい奴では断じて無い。

筆跡から愛すべき友人たちの息吹を感じ、彼の者の筆跡を心から愛する求道者。

つまり、先に立つのは友人への愛。"友人オタク -side 筆跡-"とでも言うべき存在である。

 

①や②より怪しい奴かもしれない。

 

 * * *

 

私が一番好きなのは他でもない、私自身の字である。

これはある意味当然の話で、自分が好きな字を書くようにしてきたからに他ならない。

小さな頃より、「字って人前でめっちゃ書かされるけど、"綺麗な字"とかなんとかいう評価が下るってことは、美的センスを晒してるのにほかならんよなぁ。耐えられんなぁ」と思っていた人の目気にしいな私は、お絵描きのセンスが無いのを隠すようにして、自分なりの筆跡を磨くようになった。

結果として、

・父親譲りの真面目な楷書体様の字(硬筆検定など用)
・母親譲りの丸文字様の字(授業ノートなど用)

に加えて、

・それをミックスしたイルリキウムスペシャルオリジナルウルトラハイパーミラクルロマンティック体(人に見せることを前提とした書き物用)

を使うようになったのである。

 

 

例えばこんな。

「とめ」や「はらい」は蔑ろにされ、「はね」などもまるで判然としない。どちらかというと筆画が丸みを帯びている字の含有量が多いのは確かだ。

しかし、漢字とひらがなの大きさを分かりやすく変えている。「い」なんて、場所によっては本当にちっちゃい点2つだったりする。こうしたところでメリハリをつけて、文全体を見たときにぼやぼやにならないようにしている。

 

また、写真の文では分かりにくいが、「り」や「す」などの終わりを下に大きめに突き出すことで、ダイナミックさを出すこともする。

”nurse”よりも"chapel"の方がお洒落に見えるのは(これ私だけ?)、nurseが英語の四線の1階部分に収まっているのに対し、chapelは地下にも2階にも飛び出しているからだ。

 

冒頭に載せた『般若心経』も振り返ってみよう。

分かりやすい癖として、「五」の2/3画目、「行」の3/6画目、「亦」の5画目などの、本来外側に開くか平行に下りるかする点画が、内側に寄ってきている

これは恐らく、こじんまりした方が可愛いという潜在意識がそうさせたのだろう。

 

まあ何はともあれ。

私にとって筆跡というのはやり込み要素なのだ。

お絵描きのセンスが終わっている私にとって、自らがどんな"均整"を美しいと思うかを表出する場というのは、必然、字になるわけなのだった。

 

 * * *

 

私が二番目に好きなのは他でもない、彼女氏の字である。

「え~~それは欲目じゃないの~~~????」と思われるかもしれない。ならば見るがよい。

かるーく、殴り書きまでいかない程度のカジュアルな感じで書いてもらった。

ポイントはやはり、

・漢字とひらがなのサイズ感の差

・小さい画と、伸びる画の組み合わせによるダイナミックさ

であろう。

 

私は彼女の字を見たときに、自分の字に似たものを感じた。

そして、今や彼女の運筆に寄っている文字もある(「か」の1/2画目が下方で狭まり、かつ2画目の方が長くなることで「や」に近づく感じとか、「の」が豆粒のように小さくなる感じとか)。

 

パッと見、私と彼女の字は似ていないように感じるだろうか?

友人の筆跡オタクはそこに類似性を見出す。類似性の奥に、ありもしない意図を見出す。妄想である。妄想こそオタクの得意技。

他にもポイントはたくさんあるのだが割愛するとして。

 

 * * *

 

私を悶えさせた友人のメッセージカードも一部だけお見せしよう。

これだけでもう。素うどん3玉はいける

「し」や「て」の簡略化、「す」の伸びやかさ、「待」の不揃いな足。これら全て私の性癖そのものである。
字に対しても性癖がある。初めて友人の字を見せてもらうときは視界がぼやけるほど緊張するし、うっかり友人の字を見てしまったときなどは思わず目を逸らしてしまう。これが友人の筆跡オタクの習性である。やっぱり前述の①や②より怪しい奴だった

 

※もちろん読者諸賢には釈迦に説法だろうが、このエントリに、字を綺麗に書くのが苦手だと思っている人を貶める意図は微塵も無い。オタクは一方の好きなもののために、他方を貶さない。そういうものである。

 

 * * *

 

これだけ筆跡筆跡言っていれば、ある程度、鑑別はできるというものだ。筆跡鑑定の真似事も、もしかしたらできるのかも。

想像しながら浴槽に浸かっていたら、夢を見てしまった。ぶくぶくぶく……。

 

 

悪い人「この手紙を書いた奴は誰だか分かるかなグェッヘヘヘ分からなかったら大事なお前らの友達の命は無いぞ」

同級生たち「ザーワザワザワ ザーワザワザワ」

私「見せてください。……この『は』や『ほ』、『る』の丸く結ぶ部分が、卵型のように上にやや尖り縦長になっている。それに加えて、『口』というパーツを書くときに、『12』って書くときのように1画目がやや離れて2/3画目が繋がっている。河野ちゃんが自分の名前を書くときはいつもこうなってるよね。ひらがなの特徴も全て合致してるでしょ」

河野「ヒッ」

同級生たち「なんでわかるの……」

同級生たち「こわ……」

同級生たち「そんな仲良かったっけあいつら……」

悪い人「ムムムその通りだ。では今度はこのプリント、誰だか分かるかな」

私「内容が薬理学、そうなると薬理のTAさんの吉沢さんにすごく似てる字だけど、どうも引っ掛かる。吉沢さんはもっと高さの揃った横書きをする人で、『申』とか『た』とかがこんなに上に飛び出ていない気がする。これはひっかけだね。『い』の2画目がここまで右に凸になる子は少ない。少なくとも私の同級生にはいない。やはり教員や院生。アレルギー学教室のクールビューティ、莉衣さんだな」

同級生たち「もう喋るな」

同級生たち「犯罪者」

同級生たち「結局女子の字ばっか見とるやんけ」

 

……はっ!!

目が覚めました。

 

人に迷惑をかけてはいけない。

「字が好きだ」と言われればまあ悪い気はしないだろうが、「これこれこういうところが性癖です」と言ったら人間関係がおしマイケル☆になってしまう可能性がある。

世の友人の筆跡オタクのみなさん。気を付けましょう。

大晦日だから物思いにふけるなんて、月なみすぎることを

open.spotify.com

KIRINJIのニューアルバムを聴く。心が平静に立ち戻る。

 

どうやら大晦日らしい。

いや。そんなことは昨日から分かっていた。
「日付など気にせず生きているもので……(苦笑)」なんて嘯くこともかつてはあったが、そのアピールが何のイメージアップにもならないことに気付いてから、恥ずかしくなってやめたのだ。

12月31日。今日は、起きた時から明確にその日付を意識している。

 

明日は日当直である。朝9時に出勤して、翌朝の9時までの勤務。
病気さんサイドに休業日が無い以上、病気治すさんサイドも全面的に休むわけにはいかない。私は三箇日絶対休みたいマンでは無いので、元日に働くこと自体は苦と感じていない。
どうせ誰かが働かなきゃいけないんだし、私はまだ子供を持たぬ身だ。病棟の看護師さんと、「正月ですねぇ」「ですねぇ」「お雑煮にはば海苔入れます?」「はば海苔ってなんですか?」なんて、猫も欠伸するようなくだらない会話をしながら、いつ急患の受け入れを求めて鳴り出すか分からぬPHSの電話帳整理に勤しむのも一興だろう。ってかぶっちゃけ六興くらいある。

ただ、なんとなく、年末は休みたい。
年始と何が違うのかは分からない。多くの人がほんのりと耳に感じているであろう、年末の寂寥感と慌ただしさの混声合唱を、私だけは腰を据えてちゃんと聴ける態勢になっていたいのかもしれない。

 

母が私の車を洗ってくれていたので、私は最後のワックスがけを引き継いだ。
フロントガラス越しに、箱根彩耶ちゃんの姿が見える。

「旅行が嫌いだ」と頑なに言い続けていた私が、温泉むすめたちに会いに行くために車を出すことを厭わなくなったのは、自分でもかなりの驚きである。

思うに、もともと旅行が嫌いなわけではなかったのだろう。こんなことを言うと、長年「君は旅行が嫌いなわけではない」という説を唱え続けていた彼女にキレられそうだが、その通りだ。彼女は間違っていなかった。
私が真に嫌いなのは、「疲れて重くなった身体を、更に着替えやお土産などの荷物で重くすること」だったのだ。
この、私の旅行嫌いを一手に担っていたファクターは、「宿の浴衣などを借りることで着替えを最小限に抑え、車を使うことで荷物運搬の負担も軽減する」という、小学2年生でもものの数分で捻出できそうな解決策によって吹き飛んでしまった。

それに加えて、私のコレクターマインドと、温泉むすめに喧嘩を売った歪んだフェ(云々)トたちへの怒りが、温泉地巡りのブースターとなったのだ。昔から、キレているときが一番行動的である。厄介な奴だ。
うちの愛車ちゃん、来年もよろしくね。

 

 

車で10分ほどの距離にあるホームセンターに行くことにした。カーフレグランスのリフィルを購入するためだ。
ちなみに、ミッレフィオーリというブランドの出しているディフューザーを使っている。

millefiorimilano.jp

香りにこだわりを持ち始めたのはいつからだったか。

気持ち悪い話だが、小さな頃から、女の子からは甘い香りがするなぁ、なんでだろう、とは思っていた。当時、同級生の女子が振り撒いていた香りは、彼女たち本人が選んで戦略的に纏っていたものではないだろうが、間違いなく私は、そうした香りに好印象を抱いていた。

香りが気分に作用するというのは、さすがにエビデンスを提示しなくても、受け入れられやすい事象だろう。私も気付けば、好きな香りを生活に取り入れ出していた。

国家試験勉強のお供は、ニールズヤードのティートゥリーオイル。

一人暮らしの部屋には、モダンノーツのワインコレクションシリーズ。

難点と言えば、ひとつの空間にはひとつの香りしか設置できないことくらいだろうか。

 

香水は、長らくジバンシィのものを愛用していた。

しかし先日、衝撃の出会いがあったため、現在のおめかし外出パルファム第一選択はその新入りに取って代わられている。

それは、ケーキ好きである友人と、銀座のタルト屋さん・キルフェボンに赴いた日のこと。
目指したその店は突然の水道トラブルに見舞われており、臨時休業のアナウンスをする店員の女性は、店頭で謝り通していた。余談だが、「水道トラブル」という単語を聞くと「クラシアン」が間髪をいれず頭によぎる日本人が多かろうと思う。とてつもない広告力。

ともかくも、このキルフェボン計画は4ヶ月越しであった。すごすごと食べずに帰るわけにはいかない。私たちは、迷わず青山店に向かった。
さすがの人気店とあり、60分ほど待ち時間が出来た。店の周辺を散策していると、ふと展示台に乗っている香水ボトルと目が合った。ぽつんと玄関脇に置かれたその商品の傍らには説明文が立っている。

<16:45 素知らぬ顔で>

はて? この時刻はどういう意味だろう? だが、そのフレグランスは一瞬で私の心を躍らせた。ひと鼻惚れだ。こんな香りには出会ったことがない。

その店の名を、ドルセーという。

dorsay.jp

これは正直、おすすめしまくりたくない。すなわち、自分の中にしまっておきたいと思うほど素敵なお店だったので、ツイートはしなかった。今日こっそりブログに記しておくに留めよう。

友人も香水にはこだわりがあるようで、二人で大興奮に陥っていると、爽やかな店員さんがムエット(試香紙)を持って近づいてきた。彼に導かれて店内へ。先ほど私たちが楽しんでいた香りは部屋用のホームフレグランスなのだという。「普段香水は何を使われてますか?」という彼に、それぞれ答えを返すと、「あ~それは○○なテイストの香りですから、近いのでいうと……」と、棚から自社製品を持ってきて、スマートに香らせてくれる。これが香りのプロか。そしてどの香りも良い。良すぎる。トップとミドルで景色がガラッと変わる。

結局、散々吟味して、二人とも気に入った商品を持ち帰ることにした。キルフェボンの予約時間に遅れること15分。時間を守れない大人はよくない。

 

 

そうして、自宅に車に自分にと、香りに精神安定の役割を担わせていると、同様に香りモノが趣味の子から、「どこのアロマ/香水ですか?」と質問されることがある。

私としては、自分の使っている香りを気に入ってくれて嬉しい限りだし、同じアロマを買ったという報告を受けたときは、一段深い仲間として位置付けてしまう。好きな食べ物が一緒、より、好きな香りが一緒、の方が、好みの合致度が高い気がしないだろうか? ……あー、自分がこんな考えを持っていることに、今初めて気付いたな。今気付いたので、まだ理由は深められていない。一定の見解が得られたときにまた文字にしよう。

だが、若干困ったことに、こうして香り的に同じ趣味を持っていることが判明する相手というのは、九割九分女性である。
私はもともと宝飾品やインテリアなどが好きだ。世間には、女性的な趣味とみられている。とはいえ、アクセサリーを身に着けることはしていないし、化粧もしていない。見た目は完全にただのアラサー男性だ。お腹のお肉も落ちなくなってきているし。
ジェンダーフリーがどうの、性的マイノリティがどうのとは言うものの、それらを言論として意識できることと、感覚的に言動へ反映できることとは、質が異なる。
結果、簡単に言うと、「女っぽくない見た目の奴が、女っぽい趣味をしている」と見られる。いや、それはまだ全然構わない。問題はその先の勘違いをされることだ。

「女の趣味にすり寄って、ナンパしている」

違うっての。趣味が同じ人間と喋るようになるのは当然のことだろって……。

ただ、私は周囲の目を気にしすぎていることにも、薄々気付いている。恐らく、そんな軟派な男だとは思われていないし、ましてや嫌われているなんてこともないだろう。
だがダメなのだ。中学生の頃から周囲へ与える自らの印象をコントロールしながら生きることを信条としてきた私にとって、「周りの目を気にしない」は無理難題だ。アリクイに「明日からアリ抜きね」と言っているようなものだ。
社会人になって、関わる人間の数が膨大となり、コミュニティごと、相手ごとに持っていた自分のペルソナを全て掌握することがほぼ不可能となった今、私は自信をちょっとばかり喪失している。

中学生時代に、日直日誌で行われたとあるやり取りをよく思い出す。

「相手によって自分の見せる一面を使い分ける、百八面相を心掛けています」

「う~ん、使い分けるというより、誰にでも同じように接するのがいいんじゃないかな」

後者は教育実習生から授かった返事だ。

当時は、「この大学生はまるで分かっていないようだが、今までどうやって人生を過ごしてきたのだろう」と思い、それ以降彼に話しかけることは一切しなかった。
少し成長した数年後の私は、「教育者としては、人によって接し方を変える、ある種差別的な意識に同調するわけにはいかなかったのだろう」と"大人な"見方をするようになったが、それでも、彼の言葉には微塵も納得がいっていなかった。

もしかして、彼もペルソナ増えすぎちゃったパターン?

そうなのかもな。それで、仮面を構築しても上手くいかないなら、そういうのは取っ払うことにしたと。私に、労力を使わせないよう、アドヴァイスをしてくれたと。仮に、万が一、だとしたら、そうだな……有難い話だ。

でも私は素直じゃないし、人間関係に悶えているときが一番楽しいので、今の生き方を変えるつもりはない。
友達も減ったり増えたりしている。今いる友達は一生私の元から離れてほしくないが、これまでの人生で、そう上手くはいかないことも知っている。

 

2022年も、

いい観光地と、いい香りと、いい友達に、巡り会えたらいいな。なんて。

 

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南房総の海岸線(動画編集者の友人によるエモedit ver.)