論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

大晦日だから物思いにふけるなんて、月なみすぎることを

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KIRINJIのニューアルバムを聴く。心が平静に立ち戻る。

 

どうやら大晦日らしい。

いや。そんなことは昨日から分かっていた。
「日付など気にせず生きているもので……(苦笑)」なんて嘯くこともかつてはあったが、そのアピールが何のイメージアップにもならないことに気付いてから、恥ずかしくなってやめたのだ。

12月31日。今日は、起きた時から明確にその日付を意識している。

 

明日は日当直である。朝9時に出勤して、翌朝の9時までの勤務。
病気さんサイドに休業日が無い以上、病気治すさんサイドも全面的に休むわけにはいかない。私は三箇日絶対休みたいマンでは無いので、元日に働くこと自体は苦と感じていない。
どうせ誰かが働かなきゃいけないんだし、私はまだ子供を持たぬ身だ。病棟の看護師さんと、「正月ですねぇ」「ですねぇ」「お雑煮にはば海苔入れます?」「はば海苔ってなんですか?」なんて、猫も欠伸するようなくだらない会話をしながら、いつ急患の受け入れを求めて鳴り出すか分からぬPHSの電話帳整理に勤しむのも一興だろう。ってかぶっちゃけ六興くらいある。

ただ、なんとなく、年末は休みたい。
年始と何が違うのかは分からない。多くの人がほんのりと耳に感じているであろう、年末の寂寥感と慌ただしさの混声合唱を、私だけは腰を据えてちゃんと聴ける態勢になっていたいのかもしれない。

 

母が私の車を洗ってくれていたので、私は最後のワックスがけを引き継いだ。
フロントガラス越しに、箱根彩耶ちゃんの姿が見える。

「旅行が嫌いだ」と頑なに言い続けていた私が、温泉むすめたちに会いに行くために車を出すことを厭わなくなったのは、自分でもかなりの驚きである。

思うに、もともと旅行が嫌いなわけではなかったのだろう。こんなことを言うと、長年「君は旅行が嫌いなわけではない」という説を唱え続けていた彼女にキレられそうだが、その通りだ。彼女は間違っていなかった。
私が真に嫌いなのは、「疲れて重くなった身体を、更に着替えやお土産などの荷物で重くすること」だったのだ。
この、私の旅行嫌いを一手に担っていたファクターは、「宿の浴衣などを借りることで着替えを最小限に抑え、車を使うことで荷物運搬の負担も軽減する」という、小学2年生でもものの数分で捻出できそうな解決策によって吹き飛んでしまった。

それに加えて、私のコレクターマインドと、温泉むすめに喧嘩を売った歪んだフェ(云々)トたちへの怒りが、温泉地巡りのブースターとなったのだ。昔から、キレているときが一番行動的である。厄介な奴だ。
うちの愛車ちゃん、来年もよろしくね。

 

 

車で10分ほどの距離にあるホームセンターに行くことにした。カーフレグランスのリフィルを購入するためだ。
ちなみに、ミッレフィオーリというブランドの出しているディフューザーを使っている。

millefiorimilano.jp

香りにこだわりを持ち始めたのはいつからだったか。

気持ち悪い話だが、小さな頃から、女の子からは甘い香りがするなぁ、なんでだろう、とは思っていた。当時、同級生の女子が振り撒いていた香りは、彼女たち本人が選んで戦略的に纏っていたものではないだろうが、間違いなく私は、そうした香りに好印象を抱いていた。

香りが気分に作用するというのは、さすがにエビデンスを提示しなくても、受け入れられやすい事象だろう。私も気付けば、好きな香りを生活に取り入れ出していた。

国家試験勉強のお供は、ニールズヤードのティートゥリーオイル。

一人暮らしの部屋には、モダンノーツのワインコレクションシリーズ。

難点と言えば、ひとつの空間にはひとつの香りしか設置できないことくらいだろうか。

 

香水は、長らくジバンシィのものを愛用していた。

しかし先日、衝撃の出会いがあったため、現在のおめかし外出パルファム第一選択はその新入りに取って代わられている。

それは、ケーキ好きである友人と、銀座のタルト屋さん・キルフェボンに赴いた日のこと。
目指したその店は突然の水道トラブルに見舞われており、臨時休業のアナウンスをする店員の女性は、店頭で謝り通していた。余談だが、「水道トラブル」という単語を聞くと「クラシアン」が間髪をいれず頭によぎる日本人が多かろうと思う。とてつもない広告力。

ともかくも、このキルフェボン計画は4ヶ月越しであった。すごすごと食べずに帰るわけにはいかない。私たちは、迷わず青山店に向かった。
さすがの人気店とあり、60分ほど待ち時間が出来た。店の周辺を散策していると、ふと展示台に乗っている香水ボトルと目が合った。ぽつんと玄関脇に置かれたその商品の傍らには説明文が立っている。

<16:45 素知らぬ顔で>

はて? この時刻はどういう意味だろう? だが、そのフレグランスは一瞬で私の心を躍らせた。ひと鼻惚れだ。こんな香りには出会ったことがない。

その店の名を、ドルセーという。

dorsay.jp

これは正直、おすすめしまくりたくない。すなわち、自分の中にしまっておきたいと思うほど素敵なお店だったので、ツイートはしなかった。今日こっそりブログに記しておくに留めよう。

友人も香水にはこだわりがあるようで、二人で大興奮に陥っていると、爽やかな店員さんがムエット(試香紙)を持って近づいてきた。彼に導かれて店内へ。先ほど私たちが楽しんでいた香りは部屋用のホームフレグランスなのだという。「普段香水は何を使われてますか?」という彼に、それぞれ答えを返すと、「あ~それは○○なテイストの香りですから、近いのでいうと……」と、棚から自社製品を持ってきて、スマートに香らせてくれる。これが香りのプロか。そしてどの香りも良い。良すぎる。トップとミドルで景色がガラッと変わる。

結局、散々吟味して、二人とも気に入った商品を持ち帰ることにした。キルフェボンの予約時間に遅れること15分。時間を守れない大人はよくない。

 

 

そうして、自宅に車に自分にと、香りに精神安定の役割を担わせていると、同様に香りモノが趣味の子から、「どこのアロマ/香水ですか?」と質問されることがある。

私としては、自分の使っている香りを気に入ってくれて嬉しい限りだし、同じアロマを買ったという報告を受けたときは、一段深い仲間として位置付けてしまう。好きな食べ物が一緒、より、好きな香りが一緒、の方が、好みの合致度が高い気がしないだろうか? ……あー、自分がこんな考えを持っていることに、今初めて気付いたな。今気付いたので、まだ理由は深められていない。一定の見解が得られたときにまた文字にしよう。

だが、若干困ったことに、こうして香り的に同じ趣味を持っていることが判明する相手というのは、九割九分女性である。
私はもともと宝飾品やインテリアなどが好きだ。世間には、女性的な趣味とみられている。とはいえ、アクセサリーを身に着けることはしていないし、化粧もしていない。見た目は完全にただのアラサー男性だ。お腹のお肉も落ちなくなってきているし。
ジェンダーフリーがどうの、性的マイノリティがどうのとは言うものの、それらを言論として意識できることと、感覚的に言動へ反映できることとは、質が異なる。
結果、簡単に言うと、「女っぽくない見た目の奴が、女っぽい趣味をしている」と見られる。いや、それはまだ全然構わない。問題はその先の勘違いをされることだ。

「女の趣味にすり寄って、ナンパしている」

違うっての。趣味が同じ人間と喋るようになるのは当然のことだろって……。

ただ、私は周囲の目を気にしすぎていることにも、薄々気付いている。恐らく、そんな軟派な男だとは思われていないし、ましてや嫌われているなんてこともないだろう。
だがダメなのだ。中学生の頃から周囲へ与える自らの印象をコントロールしながら生きることを信条としてきた私にとって、「周りの目を気にしない」は無理難題だ。アリクイに「明日からアリ抜きね」と言っているようなものだ。
社会人になって、関わる人間の数が膨大となり、コミュニティごと、相手ごとに持っていた自分のペルソナを全て掌握することがほぼ不可能となった今、私は自信をちょっとばかり喪失している。

中学生時代に、日直日誌で行われたとあるやり取りをよく思い出す。

「相手によって自分の見せる一面を使い分ける、百八面相を心掛けています」

「う~ん、使い分けるというより、誰にでも同じように接するのがいいんじゃないかな」

後者は教育実習生から授かった返事だ。

当時は、「この大学生はまるで分かっていないようだが、今までどうやって人生を過ごしてきたのだろう」と思い、それ以降彼に話しかけることは一切しなかった。
少し成長した数年後の私は、「教育者としては、人によって接し方を変える、ある種差別的な意識に同調するわけにはいかなかったのだろう」と"大人な"見方をするようになったが、それでも、彼の言葉には微塵も納得がいっていなかった。

もしかして、彼もペルソナ増えすぎちゃったパターン?

そうなのかもな。それで、仮面を構築しても上手くいかないなら、そういうのは取っ払うことにしたと。私に、労力を使わせないよう、アドヴァイスをしてくれたと。仮に、万が一、だとしたら、そうだな……有難い話だ。

でも私は素直じゃないし、人間関係に悶えているときが一番楽しいので、今の生き方を変えるつもりはない。
友達も減ったり増えたりしている。今いる友達は一生私の元から離れてほしくないが、これまでの人生で、そう上手くはいかないことも知っている。

 

2022年も、

いい観光地と、いい香りと、いい友達に、巡り会えたらいいな。なんて。

 

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南房総の海岸線(動画編集者の友人によるエモedit ver.)