イルリキウムです。
本エントリは、「Wake Up, Girls! Advent Calendar 2021」第20日目の記事である。
振り返れば、WUG結成翌年の2014年に1度企画されたものの上手く継続しなかったWUG Adventが、2017年に復活して以降、枠を欠かすことなく襷を繋いでいるのは感慨深い。解散を経てもなお、という点で殊更である。
adventar.org
私はこれまでWUGにまつわる制作物をちらほら生んできたが、WUG AdventについてはROM専だったようだ。自分では意外だったが、まさかの初参加だった。お手柔らかにお願いします。
ここまで、ワグナーたちによる熱の籠った傑作が綴られている。寒い季節のお供にぜひ!
WUG駅メロって?
2020年3月末から4月初旬にかけて私が制作・公開した、SSAファイナルのセットリスト33曲をJR-SH発車メロディ風にアレンジしたものである。
詳細はこちらの記事をご覧いただきたい。
i-verum43.hatenablog.com
どんなもんか聞きたい方はこちらを。
youtu.be
私は"楽曲オタク"の一面を持つため、大好きなコンテンツを深掘りして遊ぶなら、やはり楽曲をターゲットにしてしまうのであった。
でもさでもさ、33曲作って満足してちゃいけないんじゃないの……?
だってWUGにまつわる曲って90曲弱あるよ……?
( ゚д゚)ハッ!
そうなのである。声優名義のソロ曲を含めればそのくらいに上る。
WUG駅メロで作ったのはSSA曲のみ。もちろんソロ曲は無い。第2, 3弾のキャラソンも披露されていない。
そしてあの名作揃いのI-1 club曲も!!
こうしちゃおれん。
WUG駅メロ、第2弾を作らなくては。
そうしてできたのが
先日からtwitterで小出しにしていた「WUG駅メロ 2nd」である。\テッテレー/
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今回の2ndを作成するにあたって、少しだけ気を付けたポイントがある。
「音色を重ねすぎない」ことと、「長くしすぎない」ことの2点。
前回の駅メロアレンジは、曲への思い入れが強すぎて、後半にいくにつれて"駅メロの音色を使った楽曲コピー"と言うべき代物に成り果ててしまった。
『さようならのパレード』は20秒もある。長い。私としては、10秒前後が至適だと思っている。
ということで、今回はあっさりめかもしれない。
その分、19駅を通して、飽きないようにアレンジを加えたつもりだ。
先述のブログでも挙げたように、駅メロ"風"の作成には以下が重要だ。
・ 10秒で「あっ、この曲」と思わせるフレーズを選定する
・ 伴奏パターンは空間的な広がりを意識する
・ 意外性のある終止を盛り込む
・ 音数を出来るだけ減らして、ぼやけないようにする
・ 厚みを持たせるために、メロディの一部を伴奏パートが受け持つ
・ 輪唱のようにフレーズを重ねて繰り返す
・ 音量を揺らして波のような聴覚効果を生み出す
こういったところに着目して聴いていただくと、新たな発見があるかもしれない。
では行こう。WUGちゃんと楽曲制作陣への愛を込めて。
出発進行!
全曲解説
27. お約束たいそう(作編曲:久下真音)
オォゥ血が滾るぜ。
WUGライブ名物、お約束たいそう。原曲の、良い意味で「大人を小馬鹿にしたような」お気楽な雰囲気を損なわないように伴奏を作った。
ほらほら……脳内で田中美海が踊り出し分裂しているだろう……
発車メロディでは『第三の男』が同じ雰囲気を持っている。
左がズンチャ、ズンチャ、のパターン。メロディは2:1の跳ねるリズム。
帰宅時に聴けば、歩行は自然とスキップになり、ヱビスビールを買ってしまうこと請け合いだ。通勤時に聴くのはちょっとやだなぁ。
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28. リトル・チャレンジャー(作編曲:田中秀和(MONACA))
リトチャレは、力強くがむしゃらな若さを感じる、駆け出しI-1の決意の曲。
ただ駅メロにそれをぶつけてしまったら、熱血サラリーマンがウオォォと雪崩れ込み、発車間隔の狭い山手線は容易に玉突き事故を起こしてしまうだろう。
ここは、静かにひしひしといこう。Fuyu(ベルのような音色)を選択した。
しかし! 闘志は出したい!
というわけで、伴奏が間延びしてしまう4拍子から、メロディが詰まって緊迫感のある6/8拍子に変更した。
更に、最終音をDm7-5に差し替えて、次へと繋がりそうな浮遊感を残した。
リトチャレは何回聴いたか分からない。そして聴くたびに自分を奮起させてくれる、稀有な曲である。
29. シャツとブラウス(作編曲:広川恵一(MONACA))
シャツブラは王道アイドルソングであり、展開も単純である。
最初はごくシンプルに作ってみたが、そうするといまいち物足りなかった。
そこで「伴奏とメロディを上下入れ替える大作戦」。
譜面のように、途中でメロディがアルペジオの下に潜り込むようにしている。ダイナミックさが出たような気がしない? するよね? ね?
例のごとく、最終音はD♯m7/G♯と転調し洒落っ気を出してみた。
30. あぁ光塚歌劇団(作編曲:高橋邦幸(MONACA))
曲だけ聴けば華やかな、メタ的な視点からみればコミカルなこの曲。
切り出すなら、タイトルを歌い上げるこの部分が一番分かりやすいだろう。
ところで、駅メロでは伴奏が分散和音になることが多い。
今回は、曲の華々しさを金物楽器のアタックで印象付けるため、強拍の重音としている。
冒頭のアウフタクトには重音を付さないことも考えたものの、やや出し抜けに聞こえたのでこのようにした。
31. DATTE(作編曲:広川恵一(MONACA))
演歌なので和風感を漂わせようと、KinzkHarpという撥弦の音色を使って琴っぽさを出してみた。雑な発想である。
伴奏は、1拍単位のリズムパターンにはせず、オクターブを使った鷹揚な運びとした。こうしておくと、メロディとの嚙み合わせも悪くない。
締めは、前回『恋で?愛で?暴君です!』にも利用した、『Water crown』のトリル。これを聞いて「駅メロっぽい!」と感じる方も多かったようだ。今回も入れちゃえ、ってことで。
『Water crown』
32. ジェラ(作編曲:田中秀和(MONACA))
これは『素顔でKISS ME』と同様の発想で、強さのあるイントロを選択した。
テンポアップするアウトロ部を持ってくるというやり方もあったのだが、メロディのキレが無くなりそうなのと、何の曲かイマイチ分からなくなりそうだったので避けた次第。
完成したものを聴いてみると、同じ音が細かくない音価でカンカンと打ち鳴らされ、回転灯のように迫ってくるイメージがある。最後のaugも硬い感触。注意喚起系の発車メロディとして適していそうだ。
33. 運命の女神(作編曲:広川恵一(MONACA))
めちゃくちゃ好きな曲なので、本当に悩んだ作品。
イントロはブラスセクションが無いとパッとせず、Aメロは間延びし、サビ前にするとぶった切れ感が出てしまう。
サビ……にしても、頭は〈こっちでしょ こっちでしょ〉の同形。となればサビ後半だ。
ここは大胆にリハーモナイズし、dimの物悲しい空気も出してみた。
音色でやや丸みを出してぼやかしているものの、前駅の『ジェラ』からの緊張感を引き摺る感じだ。
34. レザレクション(作編曲:帆足圭吾(MONACA))
メタルは作りにくいのだよ。エレキの音圧で厚みを出しているから、このJR-SH風の音ではスカスカになっちゃう。多分デフォルメのちびキャラになっちゃう。SDキャラに「ふっかつだ!」と言われてもな。
イントロに使いやすいフレーズがあってよかった~。原曲通り使わせていただきました。
35. ハートライン(作編曲:睦月周平)
一般販売されていない楽曲ではあるものの、ここに入れた理由は、前3曲が張りつめていたからである。
もし電車に乗っていてジェラ駅→運命の女神駅→レザレクション駅と通過していたら、どんどん心が締め上げられて、次の駅でもマイナーキーのドギツい曲が来たが最後、緊急停止ボタン押下やむなし、となりかねなかった。危ない。
※これは本当に本筋に関係無いんだけど、「押下」という熟語の起源について面白い記事を見つけたのでシェアしたい
blog.statsbeginner.net
『ハートライン』は曲全体を通して温かみ1000%LOVEで出来ているので、そんな心配はなくゆったり心を溶かしていただける。
だけど、さすがにそれだけではまったりしすぎて、ハートライン駅のホームにいる人は乗り遅れてしまう可能性がある。最終音はぴりりと辛い、♯11thに仕上げた。
36. プラチナ・サンライズ(作編曲:高橋邦幸(MONACA))
ここからはライブ書き下ろし曲。
この曲で一番かっこいいのは言わずもがな、2人のハーモニーが轟くサビ終わりの〈プラチナ・サンライズ〉だと思うのだが、そこに負けず劣らずで、〈私たち出逢った〉のユニゾンも良い。
そこを拝借することにして、駅メロあるあるのアルペジオ伴奏を当てる。音程が下からメロディの高さへ近づいていくにつれ、音量も上がっていくのも常套手段だ。
37. セブンティーン・クライシス(作編曲:広川恵一(MONACA))
原曲には存在しない完全四度下のハモりを入れてある。大きい音で入れたら気持ち悪い感じになったので、うーっすら入れてある。それでも割と違和感があるかも。
更に締めの3和音だが、構成音はただのマイナートライアドながら、転回しているためオンコードのような聞こえ方をするはずだ。迫ってくるものがある。クライシスだからしょうがないね(?)
38. outlander rhapsody(作編曲:永谷たかお)
披露の機会が少なかった曲ゆえ、分かりやすくサビ頭のワンフレーズを拝借した。
サビ頭から4小節取る場合、結び方は考えなくてはならない。完全にサビの途中なので、無理やり解決しないといけないからだ。
ただ、駅メロの場合、無理やり解決することには長けている。
今回は、Ⅰ→Ⅶ→♭Ⅵから、→Ⅵと見せかけての♭Ⅶ(=D♭)。メロディはi(=E♭)なので9thを香らせてはいるが、構成音を下からなぞるとD♭・G♭・B・E♭であり、B/D♭とでも言うべき疎な並びとした。
前言撤回。まるで解決していない。
39. タイトロープ ラナウェイ(作編曲:永谷たかお)
披露の機会が少なかった曲ゆえ、分かりやすくサビ頭のワンフレーズを拝借した(2曲連続2回目)。
伴奏はヴィブラフォンのファンを回しているような残響を手動で作っている。手動クオリティには目を瞑ってほしい。敢えてだから! 多分地下で聴いたら響くから! 新日本橋とか!
40. Knock out(作編曲:田中秀和(MONACA))
誘惑に打ち勝った一曲。
まず、選択できる箇所は割とたくさんあった。イントロは音を伸ばしている裏で縦横無尽に駆け巡るアルペジオがあり映えそうだ。Aメロは途中で切っても違和感が無い。
悪魔が囁く……「間奏のサックスソロやっちまえよ」と……いやいやさすがにやりすぎだろう……。
そんな中でサビ後半を選択したのは、ベースの下行形が一番駅メロっぽかったからである。
この場所を選んでなお、囁きは続く。「音変えちゃいなよ」と。
曰く、ユニゾンの〈Knock out〉と、ソロ歌唱の〈右のBRAIN〉では、音色を変えた方がいいのではないかという悪魔の提案である。
しかし私には、前作の駅メロWUGで、原曲を再現したいがあまりに音色を使い過ぎた苦い思い出がある! ウオオオオ!(悪魔を押し退ける気合い)
結果、音色は変えずに、オクターブを変えるという作戦で見事異なる雰囲気を出すことに成功した。よかったね。
41. 止まらない未来(作編曲:広川恵一(MONACA))
今回、多くの広川I-1曲を弄ることになり、苦心、難渋するだろうなと思っていた。
『止まらない未来』もそのひとつ。洒落たコード運びとシンコペーションが矢継ぎ早に繰り出される。『止まらないお洒落』に改名したらいいと思う。だが、お洒落は駅メロでは使いにくい。
それでも使いたい場所は決まっていた。〈泣いたり 忙しい〉。このD♭M7の解放感は何物にも代え難い。
なんとか重音と分散和音のバランスを取りつつ、単一の音色でまとめた。最後の和音は、上でFm7を鳴らしながら、分散和音の最低音でD♭を押えているので、実質D♭M7(9)である。意外と上手くいったのではないだろうか。お気に入り。
42. 同じ夢を見てる(作曲:吉田詩織、編曲:久下真音)
しんみりさせたかったので。
これ多分誰がアレンジしてもこんな感じになるんじゃないかな? 最後をアルペジオにするか同時に鳴らすかは好みが分かれるだろうが、光がスパーンと弾けるような感じにしたかったから、同時とした。
43. 君とプログレス(作編曲:広川恵一(MONACA))
原曲のシンコペを丸ごと全部潰してジュースにしちゃいました……ではなく8分音符に均しちゃいました。
なぜか。
曲の雰囲気から、伴奏を『タイトロープ ラナウェイ』でやったような手動ディレイにしようと思っており、そうすると、音価が長くてちょっとだけダレるメロの部分がある。下図の赤丸。本当に僅か、16分音符一個だけなのだが、この空白は無い方がよいと感じた。
ここは、原曲を崩して、音価を8分音符に統一することを考えた。全体的に均質になり、何者にも染まらない新生I-1clubの清澄さを思い起こさせる。
44. Jewelry Wonderland(作編曲:広川恵一(MONACA))
Jewelryのタイトルに恥じぬよう、一級品(ハイエンド)のキラキラ音色を目指した。
必殺、敷き詰め分散和音。このように、残響を引く音色を用いて32分音符まで細かくすると、コード感を出しつつも隙間無く音で満たすことができる。
加えて、音量を少しだけ変動させて、波打つような聴覚的効果を狙った。
原曲の好きさも相俟って、自分が住むならこの駅の最寄りがいいなぁ……、と思っている。
45. カケル×カケル(作曲:神前暁(MONACA)、編曲:広川恵一(MONACA))
RGRの曲で終着としよう、とはじめから決めていたのだが、はて、どこを取るかがまた難しかった。
当時の彼女たちが曲にぶつけていた清々しい真っ直ぐさを出すならサビ……、だろうけど、駅メロにすると変に綺麗になりすぎてしまう。
むしろ少し落ち着いたところを、という意識でDメロに手を掛けた。
原曲には無いおかずをちりばめ、最後のⅢの上にも7thを放り込んでみた。
このカウンターがちらちら顔を覗かせている構成も、耳を引く必要がある駅メロならではの発想といえる。
(そんなに似てはいないけど、溜池山王オリジナルBを好きな影響が出ている気がするな)
youtu.be
ともあれ、『カケル×カケル』の原曲を知っている人は「あっ!」となり、知らない人にも「スタイリッシュなメロディだな」と思ってもらえる、良い塩梅に落ち着いたのではないだろうか。
当線はここが終点。ご乗車ありがとうございました。