論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

「出たよ友人の筆跡オタク」

これは私の写経


私の彼女は、友人のくれたメッセージカードを見ながら悶える私を見て、そう評した。

筆跡オタク、ではない。

"友人の筆跡"オタク、である。

 

筆跡オタクと言ってしまうと、下のようなイメージになってしまうのではないだろうか。

① 筆跡鑑定士よろしく、点画の特徴を読み解き、「この字とこの字を書いた人は同じ人だな……? 俺にはわかる……」とニヤつく怪しい奴

あるいは、

② 「筆跡から性格が丸わかり!」みたいな根拠の乏しい言説に飛びついて、誰彼に対しても構わず字を論評し内面に踏み込んでくる怪しい奴

 

そう。私は斯様な怪しい奴では断じて無い。

筆跡から愛すべき友人たちの息吹を感じ、彼の者の筆跡を心から愛する求道者。

つまり、先に立つのは友人への愛。"友人オタク -side 筆跡-"とでも言うべき存在である。

 

①や②より怪しい奴かもしれない。

 

 * * *

 

私が一番好きなのは他でもない、私自身の字である。

これはある意味当然の話で、自分が好きな字を書くようにしてきたからに他ならない。

小さな頃より、「字って人前でめっちゃ書かされるけど、"綺麗な字"とかなんとかいう評価が下るってことは、美的センスを晒してるのにほかならんよなぁ。耐えられんなぁ」と思っていた人の目気にしいな私は、お絵描きのセンスが無いのを隠すようにして、自分なりの筆跡を磨くようになった。

結果として、

・父親譲りの真面目な楷書体様の字(硬筆検定など用)
・母親譲りの丸文字様の字(授業ノートなど用)

に加えて、

・それをミックスしたイルリキウムスペシャルオリジナルウルトラハイパーミラクルロマンティック体(人に見せることを前提とした書き物用)

を使うようになったのである。

 

 

例えばこんな。

「とめ」や「はらい」は蔑ろにされ、「はね」などもまるで判然としない。どちらかというと筆画が丸みを帯びている字の含有量が多いのは確かだ。

しかし、漢字とひらがなの大きさを分かりやすく変えている。「い」なんて、場所によっては本当にちっちゃい点2つだったりする。こうしたところでメリハリをつけて、文全体を見たときにぼやぼやにならないようにしている。

 

また、写真の文では分かりにくいが、「り」や「す」などの終わりを下に大きめに突き出すことで、ダイナミックさを出すこともする。

”nurse”よりも"chapel"の方がお洒落に見えるのは(これ私だけ?)、nurseが英語の四線の1階部分に収まっているのに対し、chapelは地下にも2階にも飛び出しているからだ。

 

冒頭に載せた『般若心経』も振り返ってみよう。

分かりやすい癖として、「五」の2/3画目、「行」の3/6画目、「亦」の5画目などの、本来外側に開くか平行に下りるかする点画が、内側に寄ってきている

これは恐らく、こじんまりした方が可愛いという潜在意識がそうさせたのだろう。

 

まあ何はともあれ。

私にとって筆跡というのはやり込み要素なのだ。

お絵描きのセンスが終わっている私にとって、自らがどんな"均整"を美しいと思うかを表出する場というのは、必然、字になるわけなのだった。

 

 * * *

 

私が二番目に好きなのは他でもない、彼女氏の字である。

「え~~それは欲目じゃないの~~~????」と思われるかもしれない。ならば見るがよい。

かるーく、殴り書きまでいかない程度のカジュアルな感じで書いてもらった。

ポイントはやはり、

・漢字とひらがなのサイズ感の差

・小さい画と、伸びる画の組み合わせによるダイナミックさ

であろう。

 

私は彼女の字を見たときに、自分の字に似たものを感じた。

そして、今や彼女の運筆に寄っている文字もある(「か」の1/2画目が下方で狭まり、かつ2画目の方が長くなることで「や」に近づく感じとか、「の」が豆粒のように小さくなる感じとか)。

 

パッと見、私と彼女の字は似ていないように感じるだろうか?

友人の筆跡オタクはそこに類似性を見出す。類似性の奥に、ありもしない意図を見出す。妄想である。妄想こそオタクの得意技。

他にもポイントはたくさんあるのだが割愛するとして。

 

 * * *

 

私を悶えさせた友人のメッセージカードも一部だけお見せしよう。

これだけでもう。素うどん3玉はいける

「し」や「て」の簡略化、「す」の伸びやかさ、「待」の不揃いな足。これら全て私の性癖そのものである。
字に対しても性癖がある。初めて友人の字を見せてもらうときは視界がぼやけるほど緊張するし、うっかり友人の字を見てしまったときなどは思わず目を逸らしてしまう。これが友人の筆跡オタクの習性である。やっぱり前述の①や②より怪しい奴だった

 

※もちろん読者諸賢には釈迦に説法だろうが、このエントリに、字を綺麗に書くのが苦手だと思っている人を貶める意図は微塵も無い。オタクは一方の好きなもののために、他方を貶さない。そういうものである。

 

 * * *

 

これだけ筆跡筆跡言っていれば、ある程度、鑑別はできるというものだ。筆跡鑑定の真似事も、もしかしたらできるのかも。

想像しながら浴槽に浸かっていたら、夢を見てしまった。ぶくぶくぶく……。

 

 

悪い人「この手紙を書いた奴は誰だか分かるかなグェッヘヘヘ分からなかったら大事なお前らの友達の命は無いぞ」

同級生たち「ザーワザワザワ ザーワザワザワ」

私「見せてください。……この『は』や『ほ』、『る』の丸く結ぶ部分が、卵型のように上にやや尖り縦長になっている。それに加えて、『口』というパーツを書くときに、『12』って書くときのように1画目がやや離れて2/3画目が繋がっている。河野ちゃんが自分の名前を書くときはいつもこうなってるよね。ひらがなの特徴も全て合致してるでしょ」

河野「ヒッ」

同級生たち「なんでわかるの……」

同級生たち「こわ……」

同級生たち「そんな仲良かったっけあいつら……」

悪い人「ムムムその通りだ。では今度はこのプリント、誰だか分かるかな」

私「内容が薬理学、そうなると薬理のTAさんの吉沢さんにすごく似てる字だけど、どうも引っ掛かる。吉沢さんはもっと高さの揃った横書きをする人で、『申』とか『た』とかがこんなに上に飛び出ていない気がする。これはひっかけだね。『い』の2画目がここまで右に凸になる子は少ない。少なくとも私の同級生にはいない。やはり教員や院生。アレルギー学教室のクールビューティ、莉衣さんだな」

同級生たち「もう喋るな」

同級生たち「犯罪者」

同級生たち「結局女子の字ばっか見とるやんけ」

 

……はっ!!

目が覚めました。

 

人に迷惑をかけてはいけない。

「字が好きだ」と言われればまあ悪い気はしないだろうが、「これこれこういうところが性癖です」と言ったら人間関係がおしマイケル☆になってしまう可能性がある。

世の友人の筆跡オタクのみなさん。気を付けましょう。

大晦日だから物思いにふけるなんて、月なみすぎることを

open.spotify.com

KIRINJIのニューアルバムを聴く。心が平静に立ち戻る。

 

どうやら大晦日らしい。

いや。そんなことは昨日から分かっていた。
「日付など気にせず生きているもので……(苦笑)」なんて嘯くこともかつてはあったが、そのアピールが何のイメージアップにもならないことに気付いてから、恥ずかしくなってやめたのだ。

12月31日。今日は、起きた時から明確にその日付を意識している。

 

明日は日当直である。朝9時に出勤して、翌朝の9時までの勤務。
病気さんサイドに休業日が無い以上、病気治すさんサイドも全面的に休むわけにはいかない。私は三箇日絶対休みたいマンでは無いので、元日に働くこと自体は苦と感じていない。
どうせ誰かが働かなきゃいけないんだし、私はまだ子供を持たぬ身だ。病棟の看護師さんと、「正月ですねぇ」「ですねぇ」「お雑煮にはば海苔入れます?」「はば海苔ってなんですか?」なんて、猫も欠伸するようなくだらない会話をしながら、いつ急患の受け入れを求めて鳴り出すか分からぬPHSの電話帳整理に勤しむのも一興だろう。ってかぶっちゃけ六興くらいある。

ただ、なんとなく、年末は休みたい。
年始と何が違うのかは分からない。多くの人がほんのりと耳に感じているであろう、年末の寂寥感と慌ただしさの混声合唱を、私だけは腰を据えてちゃんと聴ける態勢になっていたいのかもしれない。

 

母が私の車を洗ってくれていたので、私は最後のワックスがけを引き継いだ。
フロントガラス越しに、箱根彩耶ちゃんの姿が見える。

「旅行が嫌いだ」と頑なに言い続けていた私が、温泉むすめたちに会いに行くために車を出すことを厭わなくなったのは、自分でもかなりの驚きである。

思うに、もともと旅行が嫌いなわけではなかったのだろう。こんなことを言うと、長年「君は旅行が嫌いなわけではない」という説を唱え続けていた彼女にキレられそうだが、その通りだ。彼女は間違っていなかった。
私が真に嫌いなのは、「疲れて重くなった身体を、更に着替えやお土産などの荷物で重くすること」だったのだ。
この、私の旅行嫌いを一手に担っていたファクターは、「宿の浴衣などを借りることで着替えを最小限に抑え、車を使うことで荷物運搬の負担も軽減する」という、小学2年生でもものの数分で捻出できそうな解決策によって吹き飛んでしまった。

それに加えて、私のコレクターマインドと、温泉むすめに喧嘩を売った歪んだフェ(云々)トたちへの怒りが、温泉地巡りのブースターとなったのだ。昔から、キレているときが一番行動的である。厄介な奴だ。
うちの愛車ちゃん、来年もよろしくね。

 

 

車で10分ほどの距離にあるホームセンターに行くことにした。カーフレグランスのリフィルを購入するためだ。
ちなみに、ミッレフィオーリというブランドの出しているディフューザーを使っている。

millefiorimilano.jp

香りにこだわりを持ち始めたのはいつからだったか。

気持ち悪い話だが、小さな頃から、女の子からは甘い香りがするなぁ、なんでだろう、とは思っていた。当時、同級生の女子が振り撒いていた香りは、彼女たち本人が選んで戦略的に纏っていたものではないだろうが、間違いなく私は、そうした香りに好印象を抱いていた。

香りが気分に作用するというのは、さすがにエビデンスを提示しなくても、受け入れられやすい事象だろう。私も気付けば、好きな香りを生活に取り入れ出していた。

国家試験勉強のお供は、ニールズヤードのティートゥリーオイル。

一人暮らしの部屋には、モダンノーツのワインコレクションシリーズ。

難点と言えば、ひとつの空間にはひとつの香りしか設置できないことくらいだろうか。

 

香水は、長らくジバンシィのものを愛用していた。

しかし先日、衝撃の出会いがあったため、現在のおめかし外出パルファム第一選択はその新入りに取って代わられている。

それは、ケーキ好きである友人と、銀座のタルト屋さん・キルフェボンに赴いた日のこと。
目指したその店は突然の水道トラブルに見舞われており、臨時休業のアナウンスをする店員の女性は、店頭で謝り通していた。余談だが、「水道トラブル」という単語を聞くと「クラシアン」が間髪をいれず頭によぎる日本人が多かろうと思う。とてつもない広告力。

ともかくも、このキルフェボン計画は4ヶ月越しであった。すごすごと食べずに帰るわけにはいかない。私たちは、迷わず青山店に向かった。
さすがの人気店とあり、60分ほど待ち時間が出来た。店の周辺を散策していると、ふと展示台に乗っている香水ボトルと目が合った。ぽつんと玄関脇に置かれたその商品の傍らには説明文が立っている。

<16:45 素知らぬ顔で>

はて? この時刻はどういう意味だろう? だが、そのフレグランスは一瞬で私の心を躍らせた。ひと鼻惚れだ。こんな香りには出会ったことがない。

その店の名を、ドルセーという。

dorsay.jp

これは正直、おすすめしまくりたくない。すなわち、自分の中にしまっておきたいと思うほど素敵なお店だったので、ツイートはしなかった。今日こっそりブログに記しておくに留めよう。

友人も香水にはこだわりがあるようで、二人で大興奮に陥っていると、爽やかな店員さんがムエット(試香紙)を持って近づいてきた。彼に導かれて店内へ。先ほど私たちが楽しんでいた香りは部屋用のホームフレグランスなのだという。「普段香水は何を使われてますか?」という彼に、それぞれ答えを返すと、「あ~それは○○なテイストの香りですから、近いのでいうと……」と、棚から自社製品を持ってきて、スマートに香らせてくれる。これが香りのプロか。そしてどの香りも良い。良すぎる。トップとミドルで景色がガラッと変わる。

結局、散々吟味して、二人とも気に入った商品を持ち帰ることにした。キルフェボンの予約時間に遅れること15分。時間を守れない大人はよくない。

 

 

そうして、自宅に車に自分にと、香りに精神安定の役割を担わせていると、同様に香りモノが趣味の子から、「どこのアロマ/香水ですか?」と質問されることがある。

私としては、自分の使っている香りを気に入ってくれて嬉しい限りだし、同じアロマを買ったという報告を受けたときは、一段深い仲間として位置付けてしまう。好きな食べ物が一緒、より、好きな香りが一緒、の方が、好みの合致度が高い気がしないだろうか? ……あー、自分がこんな考えを持っていることに、今初めて気付いたな。今気付いたので、まだ理由は深められていない。一定の見解が得られたときにまた文字にしよう。

だが、若干困ったことに、こうして香り的に同じ趣味を持っていることが判明する相手というのは、九割九分女性である。
私はもともと宝飾品やインテリアなどが好きだ。世間には、女性的な趣味とみられている。とはいえ、アクセサリーを身に着けることはしていないし、化粧もしていない。見た目は完全にただのアラサー男性だ。お腹のお肉も落ちなくなってきているし。
ジェンダーフリーがどうの、性的マイノリティがどうのとは言うものの、それらを言論として意識できることと、感覚的に言動へ反映できることとは、質が異なる。
結果、簡単に言うと、「女っぽくない見た目の奴が、女っぽい趣味をしている」と見られる。いや、それはまだ全然構わない。問題はその先の勘違いをされることだ。

「女の趣味にすり寄って、ナンパしている」

違うっての。趣味が同じ人間と喋るようになるのは当然のことだろって……。

ただ、私は周囲の目を気にしすぎていることにも、薄々気付いている。恐らく、そんな軟派な男だとは思われていないし、ましてや嫌われているなんてこともないだろう。
だがダメなのだ。中学生の頃から周囲へ与える自らの印象をコントロールしながら生きることを信条としてきた私にとって、「周りの目を気にしない」は無理難題だ。アリクイに「明日からアリ抜きね」と言っているようなものだ。
社会人になって、関わる人間の数が膨大となり、コミュニティごと、相手ごとに持っていた自分のペルソナを全て掌握することがほぼ不可能となった今、私は自信をちょっとばかり喪失している。

中学生時代に、日直日誌で行われたとあるやり取りをよく思い出す。

「相手によって自分の見せる一面を使い分ける、百八面相を心掛けています」

「う~ん、使い分けるというより、誰にでも同じように接するのがいいんじゃないかな」

後者は教育実習生から授かった返事だ。

当時は、「この大学生はまるで分かっていないようだが、今までどうやって人生を過ごしてきたのだろう」と思い、それ以降彼に話しかけることは一切しなかった。
少し成長した数年後の私は、「教育者としては、人によって接し方を変える、ある種差別的な意識に同調するわけにはいかなかったのだろう」と"大人な"見方をするようになったが、それでも、彼の言葉には微塵も納得がいっていなかった。

もしかして、彼もペルソナ増えすぎちゃったパターン?

そうなのかもな。それで、仮面を構築しても上手くいかないなら、そういうのは取っ払うことにしたと。私に、労力を使わせないよう、アドヴァイスをしてくれたと。仮に、万が一、だとしたら、そうだな……有難い話だ。

でも私は素直じゃないし、人間関係に悶えているときが一番楽しいので、今の生き方を変えるつもりはない。
友達も減ったり増えたりしている。今いる友達は一生私の元から離れてほしくないが、これまでの人生で、そう上手くはいかないことも知っている。

 

2022年も、

いい観光地と、いい香りと、いい友達に、巡り会えたらいいな。なんて。

 

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南房総の海岸線(動画編集者の友人によるエモedit ver.)



「WUG駅メロ 2nd」全19曲ひとことコメントするよ

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駅名標ジェネレーター」https://tr246.github.io/Sigene/index.html

 

イルリキウムです。

 

 

本エントリは、「Wake Up, Girls! Advent Calendar 2021」第20日目の記事である。

振り返れば、WUG結成翌年の2014年に1度企画されたものの上手く継続しなかったWUG Adventが、2017年に復活して以降、枠を欠かすことなく襷を繋いでいるのは感慨深い。解散を経てもなお、という点で殊更である。

adventar.org

私はこれまでWUGにまつわる制作物をちらほら生んできたが、WUG AdventについてはROM専だったようだ。自分では意外だったが、まさかの初参加だった。お手柔らかにお願いします。
ここまで、ワグナーたちによる熱の籠った傑作が綴られている。寒い季節のお供にぜひ!

 

 

 WUG駅メロって?


 

2020年3月末から4月初旬にかけて私が制作・公開した、SSAファイナルのセットリスト33曲をJR-SH発車メロディ風にアレンジしたものである。

詳細はこちらの記事をご覧いただきたい。

i-verum43.hatenablog.com

 

どんなもんか聞きたい方はこちらを。

youtu.be

 

私は"楽曲オタク"の一面を持つため、大好きなコンテンツを深掘りして遊ぶなら、やはり楽曲をターゲットにしてしまうのであった。

 

でもさでもさ、33曲作って満足してちゃいけないんじゃないの……?

だってWUGにまつわる曲って90曲弱あるよ……?

 

 

( ゚д゚)ハッ!

 

 

そうなのである。声優名義のソロ曲を含めればそのくらいに上る。
WUG駅メロで作ったのはSSA曲のみ。もちろんソロ曲は無い。第2, 3弾のキャラソンも披露されていない。
そしてあの名作揃いのI-1 club曲も!!

こうしちゃおれん。

WUG駅メロ、第2弾を作らなくては。

 

 

そうしてできたのが


 

先日からtwitterで小出しにしていた「WUG駅メロ 2nd」である。\テッテレー/

 

www.youtube.com

 

今回の2ndを作成するにあたって、少しだけ気を付けたポイントがある。
音色を重ねすぎない」ことと、「長くしすぎない」ことの2点。

前回の駅メロアレンジは、曲への思い入れが強すぎて、後半にいくにつれて"駅メロの音色を使った楽曲コピー"と言うべき代物に成り果ててしまった。
『さようならのパレード』は20秒もある。長い。私としては、10秒前後が至適だと思っている。

ということで、今回はあっさりめかもしれない。
その分、19駅を通して、飽きないようにアレンジを加えたつもりだ。

 

先述のブログでも挙げたように、駅メロ"風"の作成には以下が重要だ。

・ 10秒で「あっ、この曲」と思わせるフレーズを選定する
伴奏パターンは空間的な広がりを意識する
・ 意外性のある終止を盛り込む
・ 音数を出来るだけ減らして、ぼやけないようにする
・ 厚みを持たせるために、メロディの一部を伴奏パートが受け持つ
輪唱のようにフレーズを重ねて繰り返す
・ 音量を揺らして波のような聴覚効果を生み出す

こういったところに着目して聴いていただくと、新たな発見があるかもしれない。

 

 

では行こう。WUGちゃんと楽曲制作陣への愛を込めて。

出発進行!

 

 

 全曲解説


27. お約束たいそう(作編曲:久下真音)

オォゥ血が滾るぜ。
WUGライブ名物、お約束たいそう。原曲の、良い意味で「大人を小馬鹿にしたような」お気楽な雰囲気を損なわないように伴奏を作った。

ほらほら……脳内で田中美海が踊り出し分裂しているだろう……

発車メロディでは『第三の男』が同じ雰囲気を持っている。
左がズンチャ、ズンチャ、のパターン。メロディは2:1の跳ねるリズム。
帰宅時に聴けば、歩行は自然とスキップになり、ヱビスビールを買ってしまうこと請け合いだ。通勤時に聴くのはちょっとやだなぁ。

www.youtube.com

 

28. リトル・チャレンジャー(作編曲:田中秀和(MONACA))

リトチャレは、力強くがむしゃらな若さを感じる、駆け出しI-1の決意の曲。
ただ駅メロにそれをぶつけてしまったら、熱血サラリーマンがウオォォと雪崩れ込み、発車間隔の狭い山手線は容易に玉突き事故を起こしてしまうだろう。

ここは、静かにひしひしといこう。Fuyu(ベルのような音色)を選択した。
しかし! 闘志は出したい!
というわけで、伴奏が間延びしてしまう4拍子から、メロディが詰まって緊迫感のある6/8拍子に変更した。
更に、最終音をDm7-5に差し替えて、次へと繋がりそうな浮遊感を残した。

リトチャレは何回聴いたか分からない。そして聴くたびに自分を奮起させてくれる、稀有な曲である。

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前も似たようなこと言ってる(『WUG関連楽曲解説』)

 

29. シャツとブラウス(作編曲:広川恵一(MONACA))

シャツブラは王道アイドルソングであり、展開も単純である。
最初はごくシンプルに作ってみたが、そうするといまいち物足りなかった。

そこで「伴奏とメロディを上下入れ替える大作戦」。
譜面のように、途中でメロディがアルペジオの下に潜り込むようにしている。ダイナミックさが出たような気がしない? するよね? ね?

例のごとく、最終音はD♯m7/G♯と転調し洒落っ気を出してみた。

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メロディのオクターブ移動に注目

 

30. あぁ光塚歌劇団(作編曲:高橋邦幸(MONACA))

曲だけ聴けば華やかな、メタ的な視点からみればコミカルなこの曲。
切り出すなら、タイトルを歌い上げるこの部分が一番分かりやすいだろう。

ところで、駅メロでは伴奏が分散和音になることが多い。
今回は、曲の華々しさを金物楽器のアタックで印象付けるため、強拍の重音としている。

冒頭のアウフタクトには重音を付さないことも考えたものの、やや出し抜けに聞こえたのでこのようにした。

 

31. DATTE(作編曲:広川恵一(MONACA))

演歌なので和風感を漂わせようと、KinzkHarpという撥弦の音色を使って琴っぽさを出してみた。雑な発想である。
伴奏は、1拍単位のリズムパターンにはせず、オクターブを使った鷹揚な運びとした。こうしておくと、メロディとの嚙み合わせも悪くない。

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DATTEの伴奏パターン

締めは、前回『恋で?愛で?暴君です!』にも利用した、『Water crown』のトリル。これを聞いて「駅メロっぽい!」と感じる方も多かったようだ。今回も入れちゃえ、ってことで。

『Water crown』

 

32. ジェラ(作編曲:田中秀和(MONACA))

これは『素顔でKISS ME』と同様の発想で、強さのあるイントロを選択した。
テンポアップするアウトロ部を持ってくるというやり方もあったのだが、メロディのキレが無くなりそうなのと、何の曲かイマイチ分からなくなりそうだったので避けた次第。

完成したものを聴いてみると、同じ音が細かくない音価でカンカンと打ち鳴らされ、回転灯のように迫ってくるイメージがある。最後のaugも硬い感触。注意喚起系の発車メロディとして適していそうだ。

 

33. 運命の女神(作編曲:広川恵一(MONACA))

めちゃくちゃ好きな曲なので、本当に悩んだ作品。
イントロはブラスセクションが無いとパッとせず、Aメロは間延びし、サビ前にするとぶった切れ感が出てしまう。
サビ……にしても、頭は〈こっちでしょ こっちでしょ〉の同形。となればサビ後半だ。

ここは大胆にリハーモナイズし、dimの物悲しい空気も出してみた。
音色でやや丸みを出してぼやかしているものの、前駅の『ジェラ』からの緊張感を引き摺る感じだ。

 

34. レザレクション(作編曲:帆足圭吾(MONACA))

メタルは作りにくいのだよ。エレキの音圧で厚みを出しているから、このJR-SH風の音ではスカスカになっちゃう。多分デフォルメのちびキャラになっちゃう。SDキャラに「ふっかつだ!」と言われてもな

イントロに使いやすいフレーズがあってよかった~。原曲通り使わせていただきました。

 

35. ハートライン(作編曲:睦月周平

一般販売されていない楽曲ではあるものの、ここに入れた理由は、前3曲が張りつめていたからである。
もし電車に乗っていてジェラ駅→運命の女神駅→レザレクション駅と通過していたら、どんどん心が締め上げられて、次の駅でもマイナーキーのドギツい曲が来たが最後、緊急停止ボタン押下やむなし、となりかねなかった。危ない。

 

※これは本当に本筋に関係無いんだけど、「押下」という熟語の起源について面白い記事を見つけたのでシェアしたい

blog.statsbeginner.net

 

『ハートライン』は曲全体を通して温かみ1000%LOVEで出来ているので、そんな心配はなくゆったり心を溶かしていただける。
だけど、さすがにそれだけではまったりしすぎて、ハートライン駅のホームにいる人は乗り遅れてしまう可能性がある。最終音はぴりりと辛い、♯11thに仕上げた。

 

36. プラチナ・サンライズ(作編曲:高橋邦幸(MONACA))

ここからはライブ書き下ろし曲。

この曲で一番かっこいいのは言わずもがな、2人のハーモニーが轟くサビ終わりの〈プラチナ・サンライズ〉だと思うのだが、そこに負けず劣らずで、〈私たち出逢った〉のユニゾンも良い。
そこを拝借することにして、駅メロあるあるのアルペジオ伴奏を当てる。音程が下からメロディの高さへ近づいていくにつれ、音量も上がっていくのも常套手段だ。

 

 

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もやごぼはウクライナって一生言ってる

 

37. セブンティーン・クライシス(作編曲:広川恵一(MONACA))

原曲には存在しない完全四度下のハモりを入れてある。大きい音で入れたら気持ち悪い感じになったので、うーっすら入れてある。それでも割と違和感があるかも。

更に締めの3和音だが、構成音はただのマイナートライアドながら、転回しているためオンコードのような聞こえ方をするはずだ。迫ってくるものがある。クライシスだからしょうがないね(?)

 

38. outlander rhapsody(作編曲:永谷たかお

披露の機会が少なかった曲ゆえ、分かりやすくサビ頭のワンフレーズを拝借した。
サビ頭から4小節取る場合、結び方は考えなくてはならない。完全にサビの途中なので、無理やり解決しないといけないからだ。
ただ、駅メロの場合、無理やり解決することには長けている。

今回は、Ⅰ→Ⅶ→♭Ⅵから、→Ⅵと見せかけての♭Ⅶ(=D♭)。メロディはi(=E♭)なので9thを香らせてはいるが、構成音を下からなぞるとD♭・G♭・B・E♭であり、B/D♭とでも言うべき疎な並びとした。

前言撤回。まるで解決していない。

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これは三菱アウトランダー

39. タイトロープ ラナウェイ(作編曲:永谷たかお

披露の機会が少なかった曲ゆえ、分かりやすくサビ頭のワンフレーズを拝借した(2曲連続2回目)。

伴奏はヴィブラフォンのファンを回しているような残響を手動で作っている。手動クオリティには目を瞑ってほしい。敢えてだから! 多分地下で聴いたら響くから! 新日本橋とか!

 

40. Knock out(作編曲:田中秀和(MONACA))

誘惑に打ち勝った一曲。

まず、選択できる箇所は割とたくさんあった。イントロは音を伸ばしている裏で縦横無尽に駆け巡るアルペジオがあり映えそうだ。Aメロは途中で切っても違和感が無い。
悪魔が囁く……「間奏のサックスソロやっちまえよ」と……いやいやさすがにやりすぎだろう……。
そんな中でサビ後半を選択したのは、ベースの下行形が一番駅メロっぽかったからである。

この場所を選んでなお、囁きは続く。「音変えちゃいなよ」と。
曰く、ユニゾンの〈Knock out〉と、ソロ歌唱の〈右のBRAIN〉では、音色を変えた方がいいのではないかという悪魔の提案である。
しかし私には、前作の駅メロWUGで、原曲を再現したいがあまりに音色を使い過ぎた苦い思い出がある! ウオオオオ!(悪魔を押し退ける気合い)

結果、音色は変えずに、オクターブを変えるという作戦で見事異なる雰囲気を出すことに成功した。よかったね。

 

41. 止まらない未来(作編曲:広川恵一(MONACA))

今回、多くの広川I-1曲を弄ることになり、苦心、難渋するだろうなと思っていた。
『止まらない未来』もそのひとつ。洒落たコード運びとシンコペーションが矢継ぎ早に繰り出される。『止まらないお洒落』に改名したらいいと思う。だが、お洒落は駅メロでは使いにくい。

それでも使いたい場所は決まっていた。〈泣いたり 忙しい〉。このD♭M7の解放感は何物にも代え難い。

なんとか重音と分散和音のバランスを取りつつ、単一の音色でまとめた。最後の和音は、上でFm7を鳴らしながら、分散和音の最低音でD♭を押えているので、実質D♭M7(9)である。意外と上手くいったのではないだろうか。お気に入り。

 

42. 同じ夢を見てる(作曲:吉田詩織、編曲:久下真音)

しんみりさせたかったので。
これ多分誰がアレンジしてもこんな感じになるんじゃないかな? 最後をアルペジオにするか同時に鳴らすかは好みが分かれるだろうが、光がスパーンと弾けるような感じにしたかったから、同時とした。

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「光がスパーン」のイメージ(https://w.atwiki.jp/radio_tan/pages/13.html

 

43. 君とプログレス(作編曲:広川恵一(MONACA))

原曲のシンコペを丸ごと全部潰してジュースにしちゃいました……ではなく8分音符に均しちゃいました。
なぜか。
曲の雰囲気から、伴奏を『タイトロープ ラナウェイ』でやったような手動ディレイにしようと思っており、そうすると、音価が長くてちょっとだけダレるメロの部分がある。下図の赤丸。本当に僅か、16分音符一個だけなのだが、この空白は無い方がよいと感じた。

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上が原曲、下が駅メロアレンジ

ここは、原曲を崩して、音価を8分音符に統一することを考えた。全体的に均質になり、何者にも染まらない新生I-1clubの清澄さを思い起こさせる。

 

44. Jewelry Wonderland(作編曲:広川恵一(MONACA))

Jewelryのタイトルに恥じぬよう、一級品(ハイエンド)のキラキラ音色を目指した。
必殺、敷き詰め分散和音。このように、残響を引く音色を用いて32分音符まで細かくすると、コード感を出しつつも隙間無く音で満たすことができる。
加えて、音量を少しだけ変動させて、波打つような聴覚的効果を狙った。

原曲の好きさも相俟って、自分が住むならこの駅の最寄りがいいなぁ……、と思っている。

 

45. カケル×カケル(作曲:神前暁(MONACA)、編曲:広川恵一(MONACA))

RGRの曲で終着としよう、とはじめから決めていたのだが、はて、どこを取るかがまた難しかった。
当時の彼女たちが曲にぶつけていた清々しい真っ直ぐさを出すならサビ……、だろうけど、駅メロにすると変に綺麗になりすぎてしまう。
むしろ少し落ち着いたところを、という意識でDメロに手を掛けた。

原曲には無いおかずをちりばめ、最後のⅢの上にも7thを放り込んでみた。
このカウンターがちらちら顔を覗かせている構成も、耳を引く必要がある駅メロならではの発想といえる。

(そんなに似てはいないけど、溜池山王オリジナルBを好きな影響が出ている気がするな)

youtu.be

 

ともあれ、『カケル×カケル』の原曲を知っている人は「あっ!」となり、知らない人にも「スタイリッシュなメロディだな」と思ってもらえる、良い塩梅に落ち着いたのではないだろうか。

 

当線はここが終点。ご乗車ありがとうございました。