論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

「Why don't you eat MONACA? Vol.3」の感想たちをまとめ、ついでに人体の一部にたとえてみる

イルリキウムです。

 

 

梅雨を越え、太陽の勢いが日に日に増している。雨の代わりに、我が世とばかりに鳴く蝉の声が降り注ぐ今日この頃。

そういえばあの日も暑かったな、と3カ月前を思い出す。

 

去る4月25日。

M3 2021春の会場に足を踏み入れた私は、ひときわ異彩を放つライムグリーンの男に釘付けとなった。

東京ヤクルトスワローズのユニフォームに身を包んだ彼が、サークル・MOタクの元締めである、まくらまくら@MOタクコンピ通販中 (@makura2424) | Twitterその人である

私と彼とは友人ではあるが、オフで会うのは実に1年半振り。
全くそのブランクを感じさせぬ軽口を叩きながら、彼は私にCDを手渡してくれた。

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「Why don't you eat MONACA?」シリーズは回を追うごとにその音楽的重厚感を増し、今回のvol.3は、それはもう、とんでもないことになっている

この曲たちに出会えたことと、この曲たちを生み出した音楽オタクの仲間たちと知り合えたことに感謝しつつ、今回も全曲レヴューに着手しよう。

 

しかし、リリースから3ヶ月経ち、既に多くの同志たちが感想の共有に興じている。
そこで本稿では、①制作陣も含めた多方面からの"言葉"を集めて、楽曲像を炙り出していければいいなと思う。もしかしたらただの引用に終止するかもしれないが。

臨床研究の分野では、同一分野の研究をまとめ、バイアスを取り除き、より質の高い情報を抽出する「システマティック・レヴュー」「メタ・アナリシス」という手法がある。今回試みるのは、それのお気楽版だ。

jspt.japanpt.or.jp

 

それだけではオリジナリティに欠けるので、もちろん私、②イルリキウムの性癖ポイントも述べる

それに加えて、前回記事での企画である医療器具に例えるアレを真似て、今回は③人体の一部に楽曲をたとえてみようと思う。マジでパッと思い浮かんだやつ言うだけだから、そんなに期待しないでね。

※「前回の企画」はこちら↓

i-verum43.hatenablog.com

 

というわけで参ろう。MOタクに愛とリスペクトを込めて。

 

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1. パステルブルー・シンフォニー

作詞・作曲: なっさん
編曲: なっさん、Happiya
Vocal: れにゃた
Guitar&All Other Programming: なっさん
Bass: 原一生
Piano: λ
Strings Arragement: Tansa
Programming Assistant: Happiya
Mixing: たっち(Studio アステロイド)

 

名刺代わりの右ストレート!

突き抜ける爽やかさをTansaストリングスが主に担い、それに絡む縦横無尽のピアノ・ベース・ギター。演奏陣のテクニックが存分に発揮されつつも、全員が同じコンセプトを共有しているからこそ感じられる一体感

感想からは、「疾走感」「爽やか」というキーワードが随所に観測できた。まさしく、春風を体いっぱいに受けて走り出したくなる楽曲である。

voc.のれにゃたさんは、タッチの柔らかな声質をお持ちで、流麗甘美な曲と手を取り合っている。
しかしただ優しいだけではない。歌詞の持っている力強さを表現できる、芯の感じられる歌声だ。

 

この指摘の通り、意外性のあるコード展開、転調もふんだんに盛り込まれているのだが、それに加えて、曲構成の難度が高い。
歌の無い箇所を通常「イントロ」「間奏」「アウトロ」と称して分類する。本作には「間奏」として良さそうな箇所が、少なくとも1-2間・2番後・Dメロ後の3つあるが、テイストが3つとも異なる。その上、全ての箇所で各楽器がバランスよく美味しい。信じられない完成度を誇っている。こわい。あーもう、ここまでくると怖い。

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

迷わずピアノソロだ。特に、2′35″あたりに出現する四度堆積の三和音が下ってくるパッセージにはしてやられた。ビートが緩やかになってピアノだけが大きく歌うパートの最中で、突如として調性感を失わせるこの手法は、聴く者をハッとさせる。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

肝臓 liver だろう。そのはたらきは数百ともいわれるほどの"体内なんでも工場"である肝臓は、内臓の中で最も重い(1.4-1.5kg。ちなみにヘブライ語で肝臓כָּבֵד kavedは「重い」という意味の語根に由来する)。
様々な展開を内包しているのにも関わらず、それをすっきり纏めている曲の姿は、肝臓の表面がトゥルントゥルンで、まるで大したことしてないですよ~と言っているように見えることを思い起こさせる。

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(いらすとや)

  

2. 願いを叶えて!フロマージュ

作詞: 掛川
作曲・編曲: λ
Vocal&Voice: shiorin
Fascinating whisper voice: shiorin
Gaya: 掛川, λ
All Instrument, Programming: λ
Vocal adviser: λ
Recording Enginner: 掛川

 

interludeと名付けられた枕も含めて、shiorinさんの"fascinating"なウィスパーが味わえる、チップチューンの要素を抱えたキュートなナンバー。
Aメロの前半から後半に架橋するハープや、Bメロで裸になるハイハットなど、小物の音遣いに並ならぬ気が払われている。そうした意識が、曲の雰囲気を規定するピッツィカートやアコーディオン系の音色と足並みを揃えていて気持ちが良い。

〈~ちゃって〉〈ふわふわ〉など、軽さを湛えたワードチョイスも憎い。これを掛川ニキが書いたと考えると、マジで憎い……。

 

このキメの音型、音階だと〈ソラシレシレソー〉になるが、この辺りを欲張って〈ソラシレ♯レ♯ソー〉としたくなる向きもあると思う。確かにトニックのaugは可愛さを喚起してくれるが、かなり強力に耳目を引く劇薬だ。ここがストレートな音型でよかった。私はこのキメが大好物である。

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

フロマージュ〉に当てられている9thを推したい。毎度毎度うるさくて申し訳ないが、サビ終わりの音に【階名レ】が存在する、というのが私のスイートスポットである。今回メロディ自体はドなのだが、最も目立つ最高音がレになっている。これを恍惚と言わずして何をか……。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

マイスネル小体 Meissner corpuscle とする。皮膚に存在する感覚受容器のひとつで、ごく狭い範囲の圧・速度をキャッチする。ころころキュンキュンした音世界から、「〇〇小体」と名付けられた身体の一部をいくつか思い浮かべたのだが、決め手は、マイスネルが「痛み」を感じないという点だ(痛覚は自由神経終末が担当している)。痛みとは無縁そうなこの曲にぴったり!

 

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(https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E4%BD%93%E6%80%A7%E6%84%9F%E8%A6%9A)

 

3. Make My Day!!

作詞・作曲・編曲: ACNESS
Vocal: 芽唯
Guitar: 凪沙かにも
Bass: カシラテ
All Other Instruments & Programming: ACNESS
Mixing: EMIRU (METAMORPHOSE STUDIO TOKYO)

 

Aメロからは『PUNCH☆MIND☆HAPPINESS』、Bメロは『人類みなセンパイ!』、アウトロは『The Girls Etiquette (M22)』など、随所に田中さん楽曲のオマージュが大変強く感じられる。

note.com

とはなまおじ氏の指摘だが、一聴しての感想は私も寸分違わずであった。その純度と精確性はものすごい。このフィルイン、このリズム……、など、枚挙に暇がない。だが、それを組み合わせて1曲としての聴き応えを創り出しているのは間違いなくACNESSさんの功績である。

オマージュたっぷりのこの曲にあって、題・歌詞を見てしまったら、「Kawaii make MY day!」を想起してしまうのも致し方ないだろう。
Kawaii~」の方ではメイクやファッションなど、視点が近くにあって、〈最初はあの人に見てほしくって〉とされていたが、本楽曲の視点はもっと遠く、はっきり言葉にして〈夢〉を見据えていて、そのために自分磨きをしている印象を受ける。その辺りにテイストの違いがあるだろうか。

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

大サビ前の上行音型(特に最初4つ)!
サビに重なる終着点のFに向かって全音音階で上るメロと、Ⅴ→♭Ⅱ→Ⅵ→♭Ⅲとダイアトニックスケールを外していくベースが気持ちよく嚙み合っている重音だ。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

平衡砂 otolith を思い浮かべた。まずちょこちょこした動きから小さい構造物。さらに歩き続けるベースは、平衡感覚なくしては道を見失ってしまうだろう。そういうところからの連想である。
平衡砂はまたの名を「耳石」と言い、耳の奥の方にある炭酸カルシウムの欠片だ。直線加速度を感知するために必要な構造であり、これがうっかり剥がれたりすると、本当は動いていないのに脳が"動いた"と勘違いをして、めまいを引き起こす。詳しくは「良性発作性頭位めまい症」で検索!(医療情報サイトみたいになってきちゃったな……) 

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(https://kawamuranaika.jp/blog02/4899)

 

4. オレンジ☆あどれせんすっ!!

作詞: めがねこ
作曲: まくら
編曲: Tansa、まくら
Vocal: shiorin、夢芽、天然水いまり
Vocal Direction: サニーピース好き好き倶楽部
Guirar: 凪沙かにも
Bass: はーら
Piano Arrangement: λ
All Other Programming: Tansa
Mixing: たっち

 

最初のピアノ、マジでびっくりしたけど、あれですか、本当は女社会は怖いよ、っていう暗喩……とかじゃないですよね?

きゃっきゃきゃっきゃした女子トークが何の愁いも無いスカ的ビートに乗せて展開していく。3人の声が持つ表情がそれぞれ異なっていて、聴いていてただ楽しい

1サビは〈だってだって〉からのワンフレーズが無くてもサビとして成立するが、私はここに「話し足りないよね」感を覚えて無限に頷いてしまった。

それにしてもめがねこさん、作詞歴15年くらいの風格がある。単語のみの詞の充て方、1番と2番の音数の揃え方などなど、尋常じゃない。やっぱセンスだなぁ。

 

ツイッター上では「脳内ヘビロテ」とか「メロディがすっと入ってくる」といった言葉が目立ったかな。
奇を衒わないというのは簡単なようだが、そこに「人の印象に残す」という要素を加えるのはそう簡単ではない。まくら氏お見事。主宰自らアルバムの楔となる曲を仕上げてみせた

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

〈たまりませんよねっ〉。可愛い。死んだ。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

これは下垂体 pituitary gland。脳の視床下部からぶら下がっていて、トルコ鞍という骨のくぼみに収まっている部分で、実に様々なホルモンたちを分泌している。なぜ下垂体なのかと言えば、この器官が「前葉」「中葉」「後葉」の3つに構造的・機能的に分かれているからだ。三者三様ってことです。葉子様~!

 

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(https://www.kango-roo.com/learning/3958/)

 

5. 緋色に閉じこめて

作詞・作曲・編曲: ソニオル
Vocal: なずしろ
Bass: 安永恭一[Fluid_Notes]
All Other Instruments: ソニオル

 

触れてはならない、崩れてしまうから。危うげな均衡のもとに曲世界が成り立っている。Aメロで、マイナーのフレージングの末尾にふっと現れるメジャーコードすらも、そんな不安定さを演出しているように思える。

Bメロでは2拍3連が主体となり、ここに〈チープな〉〈ロマンス〉といった細切れの詞が並ぶことで、情景が瞬間的に切りかわって映し出される

最後のEm7(9)、ストリングスの上に硬めのピアノが分散和音で乗っているのは、なんとはなしに昭和終わりの歌謡曲っぽさがある。具体的に何に似ているかは思いつかないけど……。

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

曲中ときどき顔を覗かせるリムショット。付点で跳ねるところもあるが、非常に心を擽ってくる。乾いた音が、ドライな表情を反映するからだろうか。また、ラスサビで聴かれる高速グリッサンド。やったぁ私グリッサンド主食なんすよ。ごちそうさまです!

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

Fas ligand/FasL/CD95L を持ち出してみる。「ファス・リガンド」と読む。もはや器官でも組織でもない。いちタンパク質だ。なになに、そんなミクロな話になるとは聞いてないぞ? ごめんなさい(素直)。
これは、一言でいえば「プログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを発するスイッチ」。FasLがFasという受容体とくっつくことで、細胞は自殺に向けての流れを始める。この曲に満ちるアブない空気感からこんなことを連想してしまった。

ただし、「アポトーシス」というのは「予定外の事故死」ではなく、「死ななきゃいけないor死んだ方が有利、だから最初から死が決まっている死」である。それを考えると、ちょっと曲の空気とは違うかも。

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(http://dimb.w3.kanazawa-u.ac.jp/sousetsuf/sousetsu2.htm)

 

6. ココニイタコト

作詞・作曲: カシラテ
編曲: 中山範一、カシラテ
Vocal: rimona
Guitar: なっさん
Bass: カシラテ
Strings Arrangement / All Other Programming / Mixing: 中山範一

 

この曲を聴き終わったときに胸に去来する気持ち。それをずっと大事に抱えて生きていたいと思わせる。きっと、遠い昔に失ってしまった、濁りの無い感情。それは明日への推進力であり、隣にいてくれた君との間にあった、形は無くとも確かな何かでもある。

 

カシラテさんの10年分の想いも、しっかり伝わってくる。

〈忘れないから〉の音型が何度も繰り返される。とてもクリアで頭に残る音型だ。そして、これと同じ音型で、最後の〈ココニイタコト〉も歌われるのだが、一番最後の一音〈ト〉を小節の頭に持ってくるために、マイナーチェンジを施している。こういった細かな気配りが素晴らしい。タイトルで締めるっていうのも、泣けますね……!

rimonaさん、曲調に合った真っ直ぐなヴォーカリストである。ど~でん氏も同様に感じていたようだ。だよねだよね。

ボーカルのrimonaさんの伸びやかな発声はめちゃこの曲にふさわしいと感じます。

dodensei.hatenablog.com

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

大サビ前〈忘れないでよ〉のバックに鳴る♭Ⅵ
ここから安易に♭Ⅶに行かず、♭Ⅵをキープしているのが良い。僅かだが、♭Ⅶはメロディとぶつかる可能性がある。それが無くても、エレキソロの単音弾き延ばしは、カッコイイのだ。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

動脈管 ductus arteriosus にしよう。胎児期にしか存在しない血管で、大動脈と肺動脈を結んでいる。出生後は呼吸のために肺を使い始めるため、循環動態が大きく変化し、結果的に動脈管は閉じて無くなってしまうのだ。

あの頃、ずっとお世話になったはずなのに。思い出せないこの気持ちを、動脈管に重ねてしまった。みなさんも、かつてあったはずの、自分の動脈管に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

 

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(https://www.pinterest.jp/pin/45739752444388611/)

 

 

7. Youth taste

作詞: はらすん
作曲・編曲: つくね
Vocal: あかつき姉
Guitar: つくね
Bass: はーら
All Other Instruments&Mixing: たっち

 

熱投直球勝負の曲が続く。この辺りには曲順を考えた主宰の手腕が発揮されている。

いやまさにこれは、エレキギターが喜んでいる曲と言ってよいだろう。私には、Tom-H@ck氏のあんな曲こんな曲が浮かんでくる。

あかつき姉さん、こういうコミックタッチの曲もイケちゃうんか。表現力の鬼ですわ。幅広い表現力を「歌」という媒体でやるのってものすごい難易度なのに。

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

先述してしまったが、Tom-H@ckみを感じるイントロの部分。階名で言うと〈ドドラララ♯ラ♯シシ〉を繰り返すあの音型だ。正直これ1時間繰り返してくれても飽きない。しかも本作では、3度上に重ねて繰り返してくれてるじゃん。もう3時間は飽きない

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

β細胞 beta cell ではいかがだろうか。これは有名だろう。膵臓のランゲルハンス島にある細胞の一種で、インスリンの産生と分泌を行っている。焼肉食べたら、血糖値下げないとね!!

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(https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/medicine/karada/karada015.html)

 

8. ループバック

作詞・作曲・編曲: 青茶
Vocal: Synthesizer V Saki

 

えっぐ。完全に一耳惚れしてしまった。

メロディが階名レで始まることにも、サビに向けて霧が晴れるようにメジャー感が増していくのにも、サビ自体の奇妙に喰ったリズムにも、全てに私の心は持っていかれた

ヴォーカル・カットアップの技術が高いことだけでも十分驚きなのに、踏切の音を使うというギミックなど、随所に常人離れしたセンスを感じる。

これで歌詞も青茶さんが手掛けているんだからもう降参だ。
1番では〈線路沿い〉、2番では〈線路上〉。そして2番ではサビに進めずに電車の音に歌が掻き消される。これは何を意味しているのか……。

〈戻れないなら何をしたっていいよ〉。デカダンな空気感に浸ることが出来る、ある意味MOタクコンピらしからぬ、それでいてなお絶対に欠くことのできない一曲

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

2番の警笛直後に入る鍵盤のF♯m(?)。インパクトがもの凄い。あるのとないのとでは本当に、あまりに違う。紅生姜を入れない博多ラーメンみたいになる。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

洞房結節 sinoatrial node/Keith-Flack node とさせてもらう。心臓の収縮は、右心房にあるこの部分によって自律的に行われている。言わば、生まれる前から生涯に亘って働き続けるペースメーカーなのだ。
本曲は打ち込みである故に人間らしさが排されている。テンポが一律であること、容赦なく進んでいく様子が、私にペースメーカーを思い出させた。

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(https://kigyou-pt.hatenablog.jp/entry/stimulus-conduction)

 

9. Sing up!

作詞: 黄身
作曲・編曲: ふじそば
Vocal: 妃苺
Piano: 青田圭
E.Guitar: なっさん
Bass: 原一生
Strings Programming: ふじそば、青田圭
Brass Programming: ふじそば、みかんもどき
Drums Programming: みかんもどき
All Other Programming: ふじそば
Choir Soprano: えつ、未知琉
Alto: 黄身、夢芽
Tenor: 青木四十七、真田雪乃、たまぽん、ひびき
Bass: kenU、純音、ふじそば
Arrangement Assistant & Advisor: みかんもどき
Mixing: みかんもどき

 

ふじそば氏の合唱人としての経験、そして音楽への造詣の深さがこの曲を作り上げたのだろう。一篇の上質な映像作品を見たような……とは月なみな讃辞だが、聴き通したときに浮かび上がるのはまさしくそういった景色だ

妃苺さんを取り囲む音楽隊、彼らの創造した世界は多幸感に満ち溢れている。最後に向けて徐々にテンポを上げ、辿り着く♭Ⅶ/Ⅰaugには遊び心!

〈届けたい〉の階名ミミファソー、「Snow Wings」にも同じ音型が出てくるが、ドミナントに向けてググっと押し込む動きになっていて、力強さで右に出るメロは無いと思っている。さらに、妃苺さんが気持ちよく伸ばせる音ときている。もう泣くしかない。

もちろん、mixのみかん君の功には頭が上がらない。あなた方、凄すぎます。

 

この曲に参加した音楽家たちが、口々に「楽しかった」とツイートしているところを観測した。そりゃ楽しいだろう。聴いているだけでこんなに楽しいのに、歌えたらもっと楽しいに違いない。音楽とは、音を楽しむとは、そういうものだ

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

私も合唱は大好きなので、Bメロのスキャットソリストの背中を支える感じが最高で至高であった。ピアノ1台で伴奏編曲できるのなら、そして今私が中学生だったなら、絶対にこの曲を合唱コンクールで披露すべく、選曲会議で大演説を打ったに違いない。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

重厚感といえば、網膜 retina だろう。実は網膜って10層構造なんですよ。あぁ、順番を覚えさせられた苦い記憶が蘇ってくる……。

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(https://inami.co.jp/inamaga/detail/id=1732)

 

10. Brilliant Tale Continues

作詞: 桜木うみ
作曲: 凪沙かにも
編曲: Tansa
Vocal: 夢芽
Guitar: 凪沙かにも
Bass: 安永恭一[Fluid_Notes]
All Other Programming: Tansa
Mixing: たっち(Studio アステロイド)

 

言うまでもなく、Beyond the Bottomをリファレンスとした一曲。曲自体はそう。

しかし歌詞を見ると景色が一変する。ワンフレーズ、ワンフレーズが、彼女たち7人が私たちの中に残す証たる楽曲たちを、明確に示している。桜木さんはこの離れ業を、押韻も組み込みながらやってのけた。

Kanimo friendsには、「お前らのせいで、まだ上手に忘れられないわ笑」という感謝の言葉を送りたい。いいんだ。忘れたいわけじゃないから。この曲も、WUGの物語のひとつとして、得難い物語のひとつとして、彼女たちのことを忘れずに進んでいくから。

かにちゃん、ありがとう。

 

さて、かなり仕掛けが多い本曲だが、有難いことに制作陣がネタばらしをしてくれている。BTCや7拍子の意味は気付いたけど、なるほどモールスだったのか、気付かなかった、痛恨だなぁ……!

kani-music.hatenablog.com

note.com

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

変拍子フリークなので7拍子の箇所をチョイスしたい。意味が無いと思って聴いていた電子音に意味があったわけだが……、仮に意味が無くても、ああいうウワモノは好きです。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

軸椎 axis を想像した。確固たる信念、肝が据わっている楽曲なので、きっと体幹を支えるものだろう。一本軸が通っているというところから脊椎、というところまですっと思い浮かんだが、その中でも、環椎(第一頸椎)と組み合わさることで回旋運動を可能としている軸椎で。首は大事ですからね。

 

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(https://www.shibire2.com/病名の紹介/頭蓋頚椎移行部病変/環軸椎脱臼症/)

 

11. 夜明け色ホール・ニューワールド

作詞・作曲・編曲: 青田圭
Vocal: 安田みずほ
Guitar&Bass: 凪沙かにも
Drums Programming: Happiya
All Other Instruments&Programming: 青田圭

 

 

「ほんとに沁みる」

「このアカウントのフォロワーで刺さらない人はいない」

「完全神曲

「いまだに飽きない」

これらの称賛を以てして、全く過分ならず。青田さん自らによるピアノの音色が、イントロとアウトロでは表情を異にして聴こえるのは、決して気のせいではないだろう。

〈声も出せずただ泣いた夜に〉〈いつわって生きようって〉など、割と強めのネガティヴな言葉を隠さずに吐露する前半。そして曲が進むにつれ、曲調と共に視界が晴れていく。この感情を揺り動かされるストーリィに触れ、誰もが曲の主人公に心を寄せる。

このニューワールドには、誰の姿があるのだろう。

願わくは、彼の音楽を愛する人たちがたくさんいますように。

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

最終サビのバックでテロテロ鳴る電子音の重音。これだけの高速パッセージなのに、一音一音が粒立って聞こえてくるのが素敵。
この音遣いは彼の作風の広さを感じさせるし、曲を通してみると、寂寥とも軽妙とも愉悦とも取れる、不思議なパートだ。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

緻密斑 macula densa を持ち出してこよう。詳しい話は省略するが、血中の電解質濃度を検知して、血圧を調整する役割がある。曲が緻密に編み込まれているところからマクラ・デンサを想像したのだが、細胞の核が密集して見えるから「緻密(densus)」という名前がついているだけなんだよな。

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(https://twitter.com/goukakuouenman/status/967880891656794113)

 

12. きらめきスタートライン

作詞: めがねこ
作曲: やまい
編曲: Happiya
Vocal: 妃苺
Piano: やまい
Guitar: なっさん
Bass: カシラテ
All Other Programming: Happiya
Mixing: Happiya 

 

MOタクコンピの教科書的楽曲、と表現しても怒られないだろうか。
とにかく、構造から、音の重ね方から、非常によく練られている。珍妙奇天烈なメロディを持ってくることはしない。トニックでメロディを終わらせる。
それでいて金物楽器の使い方やサビ終わりのキメのパターンには、羊水に揺蕩っているような安心感がある。

「最中(さなか)」なんて歌詞で使うこと少ないよなー、めがねこさんのセンスだなー、と思ったが、なるほどそういうことか。クスっと来るトリックだった。

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

グッドラック ライラック」に自分の琴線を数本掌握されている身からすると、サビの〈虹色の物語〉の部分で抉られたわね……。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

ちょっと困ったけど、白線 linea alba はどうでしょうか。左右の腹直筋が正中でくっついている部分が白い線に見えるので、そのままズバリ「白線」と呼ばれる。ラテン語でalbusは「白い」。ちなみにアルビノもこの単語が由来。

曲のスタイルに濁った部分が無く、まっさらに感じられた。そして実直。体の真ん中を突き通す真っ直ぐな白い線といえば、リニア・アルバしか無いのである。

 

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(https://nanohanadouzyou.com/archives/26)

 

13. FLUORITE GIRL

作詞・作曲・編曲: 掛川
Vocal: shiorin
All Instruments, Programming&Mixing: 掛川

 

いや~~~すこすこのすこですわ

まず何が好きって、この歌詞の量。これだけなのに世界観がぐっと入ってくる。
〈吸って 吐いて吸って〉って素晴らしい歌詞ですね。凡百の人間だったら2回目の「吸って」は言わない。メロディと組み合わせたらもはやこれ麻薬。

そんでこの詞数だったら、繰り返しがなければ、かなりの長さを歌詞の無い時間帯が占めてしまうに違いない。そういう曲が好きなんよ私。

期待を持って聴いてみたら性癖ドンズバ。2つのコードをそれこそゆら、ゆらりら、と行ったり来たり掻き鳴らすエレキギターは、何を対象に取るでもない憧憬を喚起させる。永久にこの往復を聴いていられる

しおりんさん、歌声から曲線美を感じる。柔らかくて、水につけたら少しずつふやけて溶けてしまいそう。魚座アシンメトリー、早くメジャーデビューしたら??

 

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

全部。強いて言うなら残響の強いスネア。

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

ダグラス窩 Douglas' pouchだろう。またの名を直腸子宮窩(つまり本来は女性についていう語だが、便宜的に、男性の直腸膀胱窩もダグラスと呼ぶ場合が多い)。

ダグラス窩は何かの臓器というわけではなく空間の名前だが、腹腔の一番低いところに位置するというイメージの合致から選んでみた。ちなみにキュ・ド・サック cul-de-sac「袋小路」という別名もある。

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(http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=9)

 

14. あの澄んだ空の向こうに

作詞・作曲: Happiya
編曲: Happiya、青田圭
Vocal: 綾瀬理恵
Acoustic Guitar&Electric Guitar: なっさん
Piano: 青田圭
All Other Programming&Mixing: Happiya

 

このアルバム、ピアノとストリングスの使い方上手い人多すぎな……。そして後半にかけて、感情を揺さぶられる曲が続く。

自分の想いを捻らずに言葉にして、それをひとつの「楽曲」という形にまとめて、その曲が多くの聴衆の心を動かす尊い営みだ。

この曲も、音に一切の違和感なく聴き通すことができる非常に"上手"な曲だが、間奏の転調祭りはなかなか技巧的だ。プログレを得手とするはぴや氏ならではの作戦であるとお見受けする。

あとはピアノの高音域ね! きれい~!

voc. の綾瀬理恵さん、これまたクリスタライズドな綺麗なお声でいらっしゃる……!

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

サビ後半に入っていく部分、〈(この気持ちを)馳せて〉から〈さあ 進もう〉の部分。ベースがⅤ→♯Ⅴ|→Ⅵ→♯Ⅴと動くのが気持ちいい。一瞬マイナーを覗かせる常套手段ではあるけれど、とっても麗らかだ。

私は『セキレイ』の「おぼえているから」を思い出す音の流れ。しっとりするよね……。

www.nicovideo.jp

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

青空を気分よく滑空する蝶のように。そう、まさに蝶形骨 sphenoid じゃないか。残念ながら英語は、ギリシャ語のσφήν スフェーン「楔」に由来している。日本語の蝶の方がセンスが良い。

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(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9D%B6%E5%BD%A2%E9%AA%A8)

 

15. Growing♡Dreaming

作詞: 夢芽、namaozi
作曲・編曲: namaozi
Produce: 夢芽、namaozi
All intruments & Programming & Mixing: namaozi

 

なまおじ氏とは個人的な交流が多いため、この曲に対する彼の思い入れは相当聞かせてもらった。

一方で、先刻、夢芽さん側の想いも拝読した。

note.com

なるほど。もうこれは、曲を超えている。じゃあ何、と言われると、何だろう。クソデカ感情?(雑)

楽曲に関して、外野が邪推をするのは野暮というものだろう。彼らが……、いや、この曲は「夢芽さんそのもの」であるから、彼女が、この曲に込めて、感じ取って、表現したものがすべてだ

そして、彼女の表現したものが、言葉通り伝わってくる感じがある。

それはきっと、誰かに歌うように言われて歌っている曲ではないから。彼女の五臓六腑が、その音と言葉を外に出したいと、希求しているから

 

音楽は、人のかたちを作ることができる。

そして人と人とを結ぶことができるのだ。

 

◇◆イルリキウムの性癖◆◇

ピアノソロ。なまおじさんの曲では珍しいパワフルなソロ回しの中にある。バトンを受け取って勢いそのままにグリッサンドを振り下ろすピアノからは、決意めいたものを感じざるを得ない。鍵盤弾きだから、本当は言っていないはずの鍵盤の声が聞こえてしまっているだけかもしれないね?

 

◇◆身体の一部でたとえるなら◆◇

ごめん。心 heartと言わせてください。

この曲がMOタクコンピの最終曲にある意味を、今一度噛み締める。
みんな、多かれ少なかれ、楽曲に心を動かされて生きている。きっとMOタクコンピに曲を寄せている作曲家たちは、私と似たような曲を聴いて心を動かされているのだろう。だから、私は彼らの作る曲に対しても、感動を禁じ得ない。

では、MONACA曲を全く聴かない人に、これらの曲は響かないのか?

この問いに、私は「絶対に偽である」と言い切れはしない。それでも、私は偽だと信じている。きっと響くに違いない。

なぜなら、私がMOタクコンピを聴いて揺り動かされた心の部分は、小さな頃から持ち合わせていた部分だから。MONACAに出会う前から、知っていた感情だから。

 


 

15の音世界を私に見せてくれたすべての表現者にありがとう。

vol.4への期待を込めて、ここで擱筆する。

「正義」(ずっと真夜中でいいのに。)のサビ冒頭に驚いた人の集い

イルリキウムです。

 

 

今回はなんの捻りも無く、ただただ好きな楽曲語りに興じる所存である。

こちら。ドン。

 

正義/ずっと真夜中でいいのに。

作詞:ACAね
作曲:ACAね
編曲:久保田真悟

正義

正義

  • ずっと真夜中でいいのに。
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

 

彼女らのデビュー作「秒針を噛む」のMVが公開された頃と、ちょうど私のYouTube巡回の周期が合致し、結果、"界隈に漂う「ヤバい新星が現れた」的空気"を直に感じてしまった私にとって、ずとまよさんは以来ずっと気になる存在である。

というか、既にめっちゃ売れっ子だから気になるどころじゃない。すごい。

 

そんなずとまよさんの曲の中で、私が最も推している楽曲が何を隠そう、「正義」である。

何がそんなに私を惹きつけるのだろうか。

一度腰を据えて考えてみることにする。

 

 

  パッと思いつくところで言うと


・重い強拍と付点のマーチ的リズム隊

・度肝を抜くサビ冒頭メロ

・フレーズ単位でのオクターヴ往復

・貫禄の四七抜きリフ

・これまた貫禄のツーファイヴ・Ⅵm→Ⅴm-Ⅰ

 

こんなところだろうか。

後半の2つはずとまよさんの楽曲に通底するポイントであろう。

ただ、「四七抜き音階」あるいはロック業界風に言うと「ペンタトニックスケール」は、ヒットソングをひっくり返して調べたら死ぬほど出てくる。もちろん、最後のツーファイヴも全く特異的な要素ではないのだ。

それがずとまよさんの"特徴"と(弱いながらも)言えるのは、あまりにその使われる頻度が高いことと、サウンド的な共通点が多いことに因る。

 

※ あと、このツーファイヴは、いわゆる「丸の内サディスティック進行」「Just the Two of Us進行」と呼ばれるコード進行の話と密接に繋がっているのだが……この辺りは、話し始めると長くなるし、何かしらの火種になりかねないので、そそくさと身を引いておく。近年のポップスシーンでそれはもう多用されており、解説している方も多いので、詳しく知りたい方は以下のようなサイトをご覧あれ。

datt-music.com

 

youtu.be

 

 

それよりは前半に挙げた3点に着目したい。すなわち、

・重い強拍と付点のマーチ的リズム

・度肝を抜くサビ冒頭メロ

・フレーズ単位でのオクターヴ往復

これを念頭に、頭から楽曲を聴いていこう。

 


<0:00~ 前奏>

線の細い縦笛のような単音。
伴奏を取るピアノも、寂しい音数のコードをポロロンと鳴らすのみ。
バックには原付のエンジン音だろうか。
全体にレコードを聴いているがごとき薄いノイズの膜が張る。

何とはなしにノスタルジィを喚起する幕開け。

 

<0:20~ つま先だって>

笛が伸ばす最後のC♯の音を引き継いで、歌はC♯からスタートする。ベース音Dの上にM7thで乗るこの音から始まることで、ヴォーカルとオケのラインが変に融和することなく、しっかり聞こえてくる

オケに耳を向けると、コードはサブドミナントとトニックの2つを行ったり来たり。ベースもうねうね動くことは無く、低音域を厚くどっしり埋めている。

一方でメロディはというと、細かなパッセージを盛り込み、〈そっと〉〈散って〉〈抗って〉などの促音を用いたリズミカルなフレージング。この対比も、前述したような歌・オケのラインをそれぞれに聴かせる一助となっている。

もっと言うと、敢えて”分離して”聞こえるようにしているのではないだろうか。
難解かつ多義的に解釈できるような歌詞だが、

つま先だって わからないのさ 

 とか、

ただ体育座りして 抗ってる君と 

 などからは、心理的な距離感を想起せざるを得ない。これが音にも反映されている……、というのはこじつけが過ぎるか?

 

<0:55~ ただ 思い出して>

Bメロを経てサビ。

この冒頭部分〈ただ 思い出して 終わらないで〉を最初に聴いたとき、耳に強烈な違和感を覚えた。とはいえ、途中で止めるわけにもいかず聴き進める。

再び同じようなフレーズが現れた。〈ただ はしゃいだって 譲り合って〉。……ここはスムーズに聴けた。なんだったんだ、冒頭のあれは?

居ても立ってもいられず、一度聴き終わった後に繰り返してサビ部分を聴く。

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【ラ♯ ド♯】!?

まさか、と思う。こんなところで、サビ冒頭の浮いた2音で、両方ともスケールに無い音を当ててくるだろうか。繰り返して聴いてみる……【ラ♯ ド】に聞こえないこともないが、よく耳をすますとやはり【ラ♯ ド♯】だ。

いや、【ラ♯ ド】なら分かる。それはイコール【シ♭ ド】である。シ♭はドと全音離れているし、ドミナントセブンスの構成音でおなじみだし、最終的にドに帰着するなら割と安定したメロディである。

だが【ラ♯ ド♯】は違う。もはやここだけ半音上のキーに上がったとしか考えられない。強烈なインパクトだ。

そして2回目の〈ただ〉では、臆面もなく【ラ ド】に戻っているのだからたまらない。

 

私がこんなにギャーギャー言っているのは、何も音楽的に驚くべきことをしでかしているからばかりではない。

……ここ、めっちゃくちゃ歌いにくいのだ。

カラオケで精確に当てられる人が何人いる? だってACAねさん本人も【ラ ド】で歌っちゃってるもん。名誉のために言っておくが、彼女の歌唱力に難があるわけでは断じてない。メロディが難しい、ということに尽きる

 

もう一つ。

1回目の〈ただ〉の直後にある〈思い出して〉と、2回目の〈はしゃいだって〉とでは、母音に差がみられることにお気づきだろうか。

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ここは大きな跳躍をして、音域のかなり高い位置のF♯を歌うところにあたる。しかもファルセットではなく、地声だ。
1回目のオ段に比べて、2回目のア段の方が口が大きく開くのがイメージできるだろうか。これにより、2回目の方が歌いやすく、声が大きくなり、繰り返しの音型がもたらす印象付けの効果を強めるのに役立つと考える。

 

<1:11~ 生かされてた>

この後の譜割りも歌い手にとってはハードだ。

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〈生かれてた 浅い声の義でるように〉

16分音符ぶん先に飛び出て、拍の頭で伸ばすこのフレージングは、歌ってみると分かるが、非常に音程を取りにくい。
反対に、拍頭に新たな音が来る方が、ビシッと当てやすいのだ。

 

<1:16~ 近づいて遠のいて>

ACAねさんの表現力が発揮されているのが、曲の最後にも登場するこのパート。
全く同じ音型で、上へ下へとオクターヴを往復する。

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彼女の声は、「音域が広い」というよりは、「音域の差による表情の差が豊か」といった方がよいように思う。

低音部ではコーラスと共に歌われて、靄がかったような空気。高音部ではソロで切々と。

この上下動は、〈近づいて遠のいて〉という歌詞ともリンクしているようだ。

 

<1:31~ 間奏>

メロディ楽器に関しては簡潔に述べるが、ここは分かりやすい四七抜きフレーズ。つまり、階名で歌うとファもシも出てこない。撥弦と擦弦のダブルストリングスで奏でられるこちら、さあ一緒に歌ってみよう!

ソララソラーソラ ソラレミレードー|

ソララソラーソラ ソラレミレードー|

ソララソラーソラ ソラレミドーレー|

ソーーーミーーー レーレミレードー|

ラーーーソーーー レーレミレードー|

ソララソラーソラ ソラレミレードー|

ソララソララソラ ソララソララソラ|

ソララソララレド レドラソラーーー|

何とはなしに日本的情緒を感じさせる音階である(なんで日本的かの考察は長くなるので割愛)。

 

間奏でもっと言及したいのはリズム隊である。

実は、サビからずっと同じようなリズムを刻んでいたのだが、間奏では歌が無くなったことによって、非常に分かりやすく聴き手に飛び込むようになっている。

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このような、「ズーンズンタッ、ズーンズンタッ」という付点のリズムを感じられるだろうか? 

一定のテンポをキープするように定常に刻まれるこのパターンに、私はマーチらしさを感じる。フレーズ間に挟まるシンバル4連発も、らしさを増幅させている。

本曲では、そんなマーチのリズムに四七抜きによるメロディが当てがわれているため、勇ましくずんずん進んでいく中にも、僅かながらの侘しさを纏った雰囲気となっている。

「ズーンタズンタッ」の例を挙げておこう。

ホルストの第一組曲から第三楽章。

youtu.be

 

スーザの「星条旗よ永遠なれ」。このように、マーチにはよくあるパターンなのだ。

youtu.be

 

<1:47~ そっと揺り起こしても>

はい。

やってくれましたね。

2Aで新たなメロディの登場です

ずとまよさんは、従来のJ-POPでよく用いられている曲構造を組み替える、あるいは1番と2番で全く異なるメロディを持ってくる、という手法も得意だ。

これだけやられると、1Aは言わば「第2イントロ」みたいなもので、2Aが本当のAメロなのでは? という気にもなってきてしまう。

 

そしてこの2A、メロディどころではなくがっさり曲調も違う。

1Aを思い出してほしい。コード2つを行ったり来たりと揺蕩って、どこかへ展開していく様子などなかった。

他方、2Aはどうだろう。ベースだけ聴いても半音のアプローチが増え、ノンダイアトニックな音遣いが増えている。ちょっとジャズィだ。

 

ぼーっとしていると聴き落してしまうが、2Bもマイナーチェンジが施されている。

1B〈深い昼寝の温度に 慣れてくの?
2B〈青い風声鶴唳 押し込んで

1B〈飛び跳ねた笑みだけ 間違いそうもなくて
2B〈いつでも帰っておいでって 口癖になってゆくんだ

面白いのは、後半に行くにつれて盛り上がる音型になる曲が多いところ、〈慣れてくの?〉と〈押し込んで〉では前者の方が高い音を使っている点だ。2Bではそのあとに〈口癖になってゆくんだ〉のオクターブ上が出現するので、しつこくなるのを避けてメリハリを出すため……だろうか。

 

<3:34~ まだ 聞こえないで>

ラスサビから後奏にかけて、音楽的には前述したとおり。

ただ、曲を聴いただけでは分からない歌詞に、ACAねさんの言語操舵センスが垣間見える。

〈ただ はシャイだって 笑いあって さよなら差?〉

〈地下着いて 問い解いて 笑いあってみタンダ〉

〈チカヅイテ 十ー退イテ 巡り合ってみたんだ〉

詞の解釈ブログは数多あるので内容考察はそちらに任せるが、曲だけではなく歌詞も噛み応えがある一曲である。

 


 

サビ冒頭の話だけがしたかった。

 

また次の楽曲語りでお会いしましょう。

「夜な夜な夜な」しか知らない貴方にお勧めする倉橋ヨエコ5選

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イルリキウムです。

 

みなさんは「夜な夜な夜な」という曲を聴いたことがあるだろうか。

2007年、エジエレキ氏によるFLASH非公式PVがニコニコ動画にアップロードされた。
再生回数はミリオンを突破しており、"幻想狂気系ムービー”がお好きでニコニコを巡回していたような仲間たちにおかれては、どこかのタイミングで観たことがあってもおかしくない。

www.nicovideo.jp

 

この心を抉ってくるような歌詞と、力強く纏わりついてくる歌声、嘲るように周囲を飛び回るピアノ。

当時中学生だった私は、「えっ??」と自分の持つ世界観を一瞬揺らされ、そのまま1時間くらいリピート再生した挙句、「はんせーぶん、はんせーぶん、はんせーぶん」と繰り返すロボットと化してしまった。

今思えば、あれが音楽的中毒というやつだった。

 

その後、ヨエコ楽曲で東方MADや艦これMADなどが作られたり、深夜ドラマのくるくる入れ替わるEDテーマに楽曲が起用されたりしているが、「夜な夜な夜な」の知名度には敵わないまま、現在まで時は流れている。

TikTokで「友達のうた」が流行ったらしいので、母集団によってはこっちの方が有名かもしれない)

友達のうた

友達のうた

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music.apple.com

 

倉橋ヨエコは、その歌詞の持つ求心力が強すぎるせいか、感想記事を書いている諸氏の多くは詞に言及することがほとんどである。

しかし楽曲オタクとしては、曲そのものこそ見逃せない。彼女の作品は、掘り下げ甲斐が存分にある。

もし、1曲しか知らない、あるいは倉橋ヨエコ is 誰、と思っている楽曲オタクの方がいたなら、ぜひとも他の曲にも触れてほしい!

ヨエコスキー・イルリキウムのそんな思いを原動力に、今回の記事は展開していく。

 

 

ところで今活動してんの?


彼女は3歳からピアノに触れ、武蔵野音大(器楽科)を卒業。生粋のクラシック出身ピアニストである。

2000年にインディーズデビュー、2005年にメジャーデビューを果たし、作風の幅をどんどん広げていくが、2008年に突如の「廃業」。以来、音楽業界から忽然と姿を消した……。

と、私は思っていたのだが、何やら中国で名義を変えて活動しているという話がある。びっくらこいた。真偽が定かでないので、このことを話題にしているブログ記事を貼るに留めておこう。

jukelog.com

 

※追記 (2023.7.1)

歌手活動再開という一報が。マジなの。

ヨエコ(@new_yoeko)さん / Twitter

 

 

ヨエコ楽曲のポイント


さて、5選を紹介する前に、彼女の楽曲に触れる上で念頭に置いておきたい「特長」を考えてみたい。

 

① クラシック仕込みの暴れるピアノ&情念のヴォーカル

前述したように、彼女はクラシックピアニストだ。

クラシック曲をそのまま引用した曲もあり、「土器の歌」には、ショパンのピアノ・ソナタ第3番 Op.58 第4楽章が現れる(試聴では聴けない部分でごめんなさい)。

土器の歌

土器の歌

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他にも「喫茶ボッサ」では、同じくショパンの木枯らしのエチュード(Op.25-11)をアレンジしている。ボッサ部分にもフレーズが引用されているし、冒頭部分も原曲がほぼ近い形で使われている(CメジャーのところがCM7になっていたり、左手のおかずが増えていたりするが)。

喫茶ボッサ

喫茶ボッサ

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その経験値を反映してか、彼女の初期曲(インディーズ時代)は、ピアノ+ドラムスと歌声をメインとして構成される曲がほとんどである。

シャバダバ」などのスキャットを多用し、ジャズ・ポップスの曲調をベースにしつつも、オクターブの連打や分散和音などクラシックの基礎技法をふんだんに鏤めたその伴奏スタイルは、シンガーソングライター界を見渡しても、特異的な世界を構築しているといってよい。

歌詞には、女性特有の強い情念が籠ったものが目立ち、鍵盤を強いタッチで叩きながら時に腹の底から、時にユーモラスに歌い上げる様子はまさに、自己の音楽に恭順する"狂気"「狂鍵ヨエコ」という二つ名にも納得だ。

 

② 跳躍音型による執拗なリフレイン

前述したように、こちらの心を雑巾絞りにしてくるような言葉たちを繰り出す彼女のもう一つの武器は、「そんなに何度も言わんでも!」と泣きたくなるような言葉の反復である。

これ、歌詞カードにもちゃんと回数分書いてあることが多い。つまり、表現上のリフレインではなくて、最初から「この回数だけ言う」なる意思を持った歌詞なのだ。まるで流鏑馬。直線的な連撃だ。

そして、この連撃の殺傷力を引き上げているのが、跳躍するメロディ。予想していないところに突然飛んでくる高音は、聴き手を射竦める。

 

例えば夜な夜な夜な

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 〈反省文 反省文 反省文〉、〈感想文 感想文 感想文〉という詞に当てられ、【ソ♯→ファ♯】の短7度跳躍が幾度も繰り返される。曲中、実に17回。

 

ここにいる

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 〈私など いないもいっしょ〉なんて悲哀に満ちた詞だと思いきや、ラテン系のリズムに乗せてファンキーに歌われる。跳躍は大きくないが、その代わりに歯切れのよい発音が突き刺さってくる。サビの歌詞は8割がこれ。

 

損と嘘

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〈う〉の音は、GともG♯ともつかない不思議な当て方をしているが、どちらにせよ7度である。「ソーントォウッ ソォォー」の発音も癖になる。

 

などなど、枚挙に暇がない。

 

③ 未練がましい階名シの終止

ヨエコ楽曲には、メロディの最後が主音で終わらないものが少なくない。

そんな中、特に目立つのは、階名シの音。マイナーキーの楽曲が多いので主音をラと考えると、シはトニックに対して2nd(ルートからは離れているので9thと言う方が正確かもしれないが、私は主音の隣ということを意識させたいので、以降も2ndと呼ぶ)に相当する。

f:id:I_verum43:20210131162037p:plainかねてより、私は2ndでメロを終わらせる曲に並々ならぬ愛情を注いでいる。

あと一歩でトニックに帰らないこの音は、すんなりと安定した場所には留まらずに次に進んでいくぞという意識、あるいは、地に足の付かない浮遊感などのイメージを与えてくれる。

例えば、次のメロディを聴き比べてみてほしい。まず主音で終わるメロ。

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主音で終わるメロディ

安定。帰ってきましたよ感。悪く言えば予定調和。みんなの想像通り。

 

次に、全音上げて2ndで終わらせるメロ。

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2ndで終わるメロディ

軽い。ふわっと夢見心地。おっ、と耳目を引く。まだ展開があるかも。

2nd終止の威力、分かっていただけただろうか。

 

話は戻って、ヨエコ節のマイナーキーにおける2nd終止はどう聞こえるかというと、穏やかでない空気を纏っていることがほとんどで、「これで終わりじゃないからな……」という怨念めいたものを感じさせる。
メジャーでは良い意味として捉えられた"浮遊感"は、マイナーにすると"不穏さ"に変貌を遂げてしまうのである。

 

さて聴いてみよう。まずはコール&レスポンスが楽しい依存症 ~レッツゴー!ハイヒール~

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key=Dm。最後のEは2nd(階名シ)に相当する

 

キャバレー。お洒落スウィング。

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key=Bm。最後のC♯はやはり2nd(階名シ)に相当する

 

雰囲気を掴んでいただけただろうか。

ちなみに、これと関連して、ムード歌謡を想起させる以下の音型が出てくることがある。ヨエコ曲を語る上では外せない響き。コード名でマイナー・メジャー・ナインス(mM9)という。

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どことなく郷愁を誘うような、暗いけど暗くなりきらない不思議な音の重なり。

この独特な響きの理由は、5th(=譜例ではE音。音名ミ)を蝶番にして、マイナートライアドとメジャートライアドが結合されていることによるのではないか。土台にはマイナーがあるので全体的に暗めではあるが、上澄みにはメジャーが隠れている。 この真逆の二面相感。ぞくぞくしますな。

 

さあ!

前置きが長スギ薬局になってしまったが、本題の5選参りましょうか!

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「あらスギ薬局」「いらっしゃいませ~」「あ、こんにちは」「ポイント100万ばーい」

 

こんな曲もあるんだよヨエコ5選


 

部屋と幻(歌:タテタカコ

歌演/倉橋ヨエコ
作詞・作編曲/倉橋ヨエコ

部屋と幻

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アルバム『お中元』より。

インディーズデビューミニアルバムである『礼』に収録された楽曲を、ピアノ弾き語りシンガーソングライター・タテタカコさんとの連弾&デュエットとしてリアレンジしたものが本曲である。

お勧めポイントは、原曲に比較して打鍵も発声も、エッヂの効きを増している点だ。互いの演奏に乗せられるように、熱を帯びていくピアノはまさに圧巻。
セコンドの左手(=最低音パート)はまるで、ティンパニに両手でマレットを振り下ろしているがごとく。逆にプリモの右手(=最高音パート)は、一音一音の粒立ちが良く、煌びやかである。私は指の力が弱いので、恐らく彼女たちほど強いタッチで弾けない。鍛えなさいよ。

ヨエコさんは鋭く歌い上げるシンガーなのに対し、タカコさんは丸みを帯びたソフトな歌い上げ方をする歌い手である。
声の芯に通る熱さは似通っている一方で、この表面の鋭・滑が異なっているから、それぞれのソロには無い味わいを生み出している。これぞケミストリー……!

 

余談だが、私がカラオケに行くとエンジン全開で歌える曲が3曲ある。そのうちの1曲がこれだ。
残りは「射手座☆午後九時 Don't be late」と「ZONE//ALONE」っす。

 

 

春待ちガール

作詞・作曲/倉橋ヨエコ
編曲/熊原正幸

春待ちガール

春待ちガール

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本記事のコンセプトは、「『夜な夜な夜な』しか知らない貴方へヨエコ曲を紹介する」である。

換言すると、倉橋ヨエコの曲は『夜な夜な夜な』のようなエグみの強いシャバダバピアノ曲しかないんだろ? と思っている人に別ベクトルの楽曲をぶつけてひゃ~~と仰け反らせる」ことが目的というわけだ。

正直言って初期のアルバムはほとんどシャバダバピアノといって差し支えないが、実は最終作から遡っての2盤『色々』と『解体ピアノ』には、趣向の異なる多彩な曲が収録されているのだ。

 

ラストアルバム『解体ピアノ』のM3、みんなのうたで流れてきそうな、キュート極まりないナンバーが現れる。
初めて聴いたときマジでヨエコさんの作曲じゃないと思ったし、なんならカヴァーかと思ったくらいだ(同アルバムには小坂明子「あなた」のカヴァーが入っていることだし)。
何故って、矢野顕子の「春咲小紅」みたいな雰囲気をひしひしと感じるからだ。特に間奏部分の電子音が飛び交う箇所なんか、当時の坂本龍一のコード回しをめっちゃ思い起こさせる(メジャーセブンスの半音移動とか)し、幸宏のエレドラから出てきそうな音もしてるし! これMoog Ⅲc使ってんじゃないの?

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YMOと共にあった"箪笥" Moog synth. Ⅲc(写真は松武秀樹HPより)

でなければ谷山浩子。彼女がハイテンポカワイイ曲を歌うときに似ている。「ニャコとニャンピ」とかかな。

でもこれ、倉橋ヨエコ作詞作曲なんですよね~! 騙されましたね~~!!

ヨエコはヒトの生存に必須の栄養素なので、シャバダバが苦手な方はこれでヨエコ分を補充してもらおう。

 

 

バルンの不思議な旅

作詞・作編曲/堂島孝平

バルンの不思議な旅

バルンの不思議な旅

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アルバム『解体ピアノ』よりM8もいってみよう。

こちらは作詞作曲を堂島孝平氏が手掛けており、彼のセンスが凝縮された爽やかなポップスに仕上がっている。ニューウェイブとかネオアコとかその辺りの風。

全編に亘ってアコースティックギターがパァっと明るく咲いており、その上を厚いながらも清澄なコーラスが漂っている。こんな曲書いてみたいわ。

間奏のエレピで奏でられる単音、これがまた可愛さに拍車をかけている。

サビのフレーズ、なんか80年代っぽいなぁと聴いていたが、松田聖子赤いスイートピー」のサビと音型が似ていたからかもしれない。調が同じト長調で、カブるのもほんのちょっとだけどね。

 

同じアルバムから3曲も挙げるのはな……と思って選外としたが、M7の「恋予報もシティポップの香りを漂わせる名曲。私と趣味の近い、具体的に言うとMOタクのみなさんにおかれては、「バルン~」や「恋予報」なんか結構グッと来るのでは?

「恋予報」は、ティンバレス的な音のフィルインが鮮やか! 似たような曲を聴いたことがあると思うんだけどなんだっけ。

 

 

マネキン人間 feat.松浦正樹

作詞・作曲/倉橋ヨエコ
編曲/不明

マネキン人間

マネキン人間

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シングル『友達のうた』c/w。「マネキンになる」という思考に囚われる主人公という、歴代屈指のサイコホラー的内容を誇る

イントロ。ひたひたと忍び寄るような半音移動、どっかで聴いたことあるでしょう。

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マネキン人間

 

そう。このパターンは坂本冬美夜桜お七」のリフだ。

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夜桜お七

はい! 全くおんなじ音型ですね!

半音単位で揺らしていること、そしてBPM100を遥かに下回るテンポで歩みを進めてくること。何かが近寄ってくる雰囲気がして非常に不気味である。

 

聴き進めると、〈10日前〉〈7日前〉〈4日前〉〈2日前〉と、これまた奇怪なカウントダウンを聞かされる。〈明日マネキンになる〉なんて言葉、キマった双眸をした誰かに目の前で言われたら絶対声出なくなって生まれたての子馬みたいにカックンカックン逃げ出すだろうし、夜の教室の黒板に書いてあったら失禁して卒倒する。

 

最後のメロディ、これは前述のポイントが効いている。

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これはkey=Cmなので、実音レが階名で言うとシ。2ndの終止。

そして上ってくる音を拾うと、ルート+m3+P5+M7+9。ほーらmM9だ! 最高~~!

 

なお、『解体ピアノ』にはExtra Piano Mixとして、高音のデコレーションがド派手になったアレンジバージョンも収録されている。一聴の価値あり。

 

 

残り者

作詞・作曲/倉橋ヨエコ
編曲/倉橋ヨエコ・根上誠二

残り者

残り者

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最後の1曲、何を持ってくるか悩みに悩んだが、コンセプトを無視して情念系ピアノ曲を持ってきてしまった。
理由は偏に、私がもうめっちゃくちゃこの曲が大好きだからである。

ポップスピアノ弾きにとって唾液すっごい出ちゃうような進行も、
〈美しくはなれぬ〉という3連符の上行音型も、
〈あなたのいない空気吸っても〉という大胆な省略も、
全てが私の心臓をむんずと掴んで離さない。

 

後半の〈いないんだもん〉の連発、これぞ倉橋ヨエコという凄みを感じる。
そしてこれも! key=Fmに対してメロはG音で終わっているのだ……!

もうここまでくると呪いだよ呪い。

逃れられない。

あなたももう。

 


 

―― 痛いよ 温かいよ 出会いはそれの繰り返し

   だからいいんじゃないって思います

  (「輪舞曲」より)