論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

Misty Glorious Cycleの十二支たち(プラス1柱と1匹)を語る

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イルリキウムです。

 

 

2019年10月、MGCproject(MGCproject☯️さん (@MGC_official01) / Twitter)の第1弾企画である"Melty Girls Creamery"について愛を綴った。

「あ~~~~これは~~~すき~~~~~」と語彙数およそ5の状態で書き始めた記事であったが、次第に脳内辞書が自律的に言葉を紡ぎ出し、文章好きでなくては読み切れない量の一作となってしまった。今読み返すと重すぎる。はてなブログの自動文字数カウントによると15,802文字。短編小説か。ここに各フレーバーの歴史的考察まで含めてしまったら、軽く倍の30,000字には達していたところだ。危ない。卒論か。卒論書いたことないけど(私の学部は卒試でした)。

 

 

このエントリは、「可愛い」と「美しい」をどれだけ回りくどくしつこく表現できるかというチャレンジ企画なんじゃないかとも思えるほどのキモ長文だったため、演者の皆さんを震え上がらせた結果ストーカー規制法の拡大解釈によりお縄になるまでありうると考えていたが、好意的な反応をたくさん頂戴し、大変助けられた。私の歓びが演者さんたちに伝わったなら、こんなに嬉しいことはない。

 

昨年秋、第2弾である "Misty Glorious Cycle" にも聊かの協力をさせていただいた。
テーマはアイスクリームから十二支へ。雰囲気も「可愛い」から大きくシフトチェンジしており、「オリエンタル」を前面に押し出す格好となった。

第1弾で目標60万円→230万円の支援を集めたプロジェクトは、今回その勢いをさらに増していた。支援額400万超。設定された目標額の倍以上に相当する。
写真集はヴォリュームたっぷりで100頁以上。
カレンダーやポーチなど豪華なリターン。加えて展示会あり。オプションでモデルさんの音声ガイド付き。

……MGC半端ないって。

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滝川第二高校 中西C

そんな後ろ向きのボールもめっちゃトラップしちゃうMGCさんの展示会に私がお邪魔したのは昨年11月のこと。

会場にいらっしゃった朝比奈さん(朝比奈里奈さん (@f0u0l0v) / Twitter)に「ブログ書きますね!」と高らかに宣言したあの日から……えーっと……

 

======言い訳は良い大人のすることではないので割愛======

 

それでは今回も行ってみよう(敬称略)。
なお、〔 〕に入っている頁数は、モデルさん別にカウントしたものである。通算の頁数ではないので注意されたい。
また、写真集を購入されていない方にも雰囲気を味わってもらえるよう、公式の写真および朝比奈さんのコメントを引用させていただく。

 

the GOD/朝比奈里奈


神って。

表紙を捲ったら、1枚隔てて神降臨よ。
前回はめちゃかわサンタだったのに、華麗なるジョブチェンジ

〔1頁目〕の指先のしなやかさと、直視できない光背。干支入りを目指して走ってきた動物が秒で平伏する。
確かに、写真集の幕開けを飾るこの写真はページいっぱいに見せたい。横長の装丁にしたのはそういった理由からだろうか。

よくよく見ると、頭部を彩る宝飾品は絢爛そのもの。この放射光を模したヘドレ、どこで売ってるの……自作……?
「どこで売ってるの? 自作?」という疑問については前作から度々口にしている"あるある"である。絶対この記事でも何度か漏らすのでお楽しみに)

〔2頁目左〕のとんでもない目力とは対照的に、〔3頁目右〕の表情は慈しみに満ちた穏やかな表情で、何物をも受け入れる心の広さを思わせる。編まれた髪の毛が弧を描いてまとめられており、これも柔和さを醸し出している。個人的には薄めの口元が好きだ。まるでアルカイック・スマイル、ふわっと口元だけで笑みを湛える。ふつくしい……。

 

 

☯️the RAT/松岡侑李


え? やば、 え???

しばらく息止まってた。特に〔8頁目〕の大写し。ちょっと見下ろして相手を見定めるようなクールな表情よ。風呂場からの「オフロガワキマシタ」に刺激を与えられなかったら息の仕方をそのまま忘れて孤独死するところだったあぶね。

十二支をモティーフに据えた作品は世の中にいっぱいあるので、つい、他の"ネズミ"たちを思い浮かべてしまうのだが、実写で最高のネズミキャラ像を塗り替えられるとは思わなかった。可愛いとかっこいいって両立するんですね。無敵じゃん。だって内科治療にも詳しい外科医みたいなもんでしょ? ブラックジャックじゃん

〔3頁目右下〕、困った。制帽はズルい。これ一つで、「組織に属している従順さ」みたいな意識付けがされる。彼女が「本当に従順」なのか、あるいは「表面では恭順の意を示しているが実は腹に一物抱えている」か、どちらに転んでも最高だ。今にも走り出しそうなポーズ、勇ましい。けどカワイイ。うひょ~!(崩壊)

〔7頁目上〕の微笑もいいよね! 髪で片目隠れててちょっとミステリアスなのもいいし、ちょうど手が挙がって「はろー」みたいに言ってそうなのもいいよね。

さて。〔2頁目下〕で明かされているが、彼女の体には以下の梵字が刻印されている。

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hrīḥ/紇哩/キリク

梵字には諸尊を一文字で表す役割があり、これを種子字と呼ぶ。キリクの字は愛染明王阿弥陀如来などの種子として用いられているが、千手観音、子年の守り本尊もそのひとつに挙げられる。

十二支にはそれぞれ、その年の守り本尊が存在し、それを一字で表す種子がまた存在する。彼らの体には種子字が刻まれているというわけだ。

さーあこっから先、体のどこに梵字が隠れているか、楽しみが増えてしまいましたねぇ!

 

(2021.1.17追記)

完全に男性だと勘違いしていました。謹んでお詫びして、文章を一部訂正しております。

 

 

☯️the OX/有馬芳彦


セ、セクスィーーー!!

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セクスィー部長

沢村一樹もびっくりのセクスィー。額から、がばっと開いた胸元にかけての肌色。セクスィー……ああ私の脳内セクスィースカウターが……。

そして見せつけるようにデコルテに浮かび上がる種子字。なになにそんな服開いちゃって何を企んでいるのですか〔3頁目左〕。

〔1頁目〕の瞳を御覧じろ。複雑な光の反射によるその煌めきと深み。吸い込まれそうどころじゃない。もう吸い込んでる。周囲の微粒子を吸い込んで、代わりに彼が生成した同質量の"艶やかさを司る妖精"が吐き出されているのだ。彼が纏う空気だけ色が違うのはそのせいなのだ。MGCの世界観は既存の物理学を超越する

えっ……!? 〔7頁目右下〕、濡れ、てますね? 濡れ場!? ごちそうさまです!

 

 

☯️the TIGER/遠藤沙季


気怠い感じで、そういえばネコ科なのね、と思わせる表情から一転、〔3頁目左下〕のような敵意剥き出しの鋭い顔も見せる。常に野生のセンサーを張り巡らせている彼女には、気安く近づくことは出来ない感じだ。

そういった中で〔7頁目〕の無防備そうな寝姿! 分かってる分かってるよそういうのがいいんだよねこういう子はう~~ん。でも絶対近寄れないんでしょ? リーチに入ったら喉笛イかれるんでしょ? だから眺めるだけにしておきます。
しっかしこの網タイツすごい。変に色気が出過ぎていないのは、彼女の表現力ももちろんのことだが、材質による影響もあるのか。

〔6頁目右下〕、面白い写真だなぁ。まるで光の矢が伸びているように見える。ポーズも相俟って、遊んでいるようだ。

〔4頁目〕の百万円札にくすっとさせられるのもワンポイント。

 

 

☯️the RABBIT/紅葉美緒


 「あかばみお、さん……めっちゃ可愛い女優さんやね」と思ったそこのあなた! きっと最初はみんなそう思うんでしょうけど男性です! \テッテレー/

や、無理があるでしょこれで男は←諦めきれない

蓮の花がまたこの美しさにブーストを掛けている。蓮は地中から真っ直ぐ天に伸びて花をつける、清らかな花だ。

〔5頁目〕顔が良すぎませんか。真っ直ぐこっちを見ているだけなのに。こっちが完全に照れて目線を逸らしてしまう。そういや私、斉藤壮馬くんとか千葉雄大くんみたいな、くりくりした男の子に激弱なんでした。「ねえねえ」とか声掛けられたら「ひぇっ!?」とか言いながら30cmくらい跳び上がってしまうわ。色素薄くて毛細血管の赤みが見える、まさにウサギっぽい感じのメイク、脱帽お手上げ白旗です。

とか思ってたら〔4頁目右〕みたいなやつ来るじゃん。人気の無い倉庫でヤンキーがドンチャカやってそうなさ。完全に男の顔してる……ギャップは人を殺すのだよ……?

 

 

☯️the DRAGON/梅田悠


うめはるさんは、水崎綾さんとコンビで活動しているYouTubeチャンネルでよくお見掛けしているので、おちゃらけた方のイメージが強かったのですが、いや~~とんでもないね。美の巨人だった

朝比奈さんも言及しているように、瞥見しただけでも印象に残るのは四肢の隅々まで行き渡った意識。想像上の生き物であるから如何ようにも形作ることはできるが、彼女でなければこれほどの美麗さを表現できただろうか。しなやかな肢体からは、空をうねるように翔けていく龍の姿をまざまざと思い浮かべることができる。

この部屋も面白いね。背景に歯車がたくさん見える。この龍、理論派か。確かにドラゴンって長年生きてて頭良いイメージあるもんね(私だけ?)。

 

 

☯️the SNAKE/上田悠介


池袋ウエストゲートパーク……。

えっと、なんというか、私の中でこういうダメージドジーンズ履いて、金物で飾り付けて、「ダチやられたら黙ってらんねぇよな」みたいにカッコ良く啖呵切る男の人って、IWGPを想起させちゃうんよね。そう、単純にカッコ良いのよ。私はね、教室で本読んでるなよっちい陰キャで、こういうの無いから、憧れもあんのよ。

というように、今までの干支の雰囲気と大分変わって、雪駄履きに傘というのは現代下町風。だが、だが! 彼の眼と頸元見てください! この世のものじゃないでしょう? 紫基調で妖艶、その奥に毒牙を隠している雰囲気。
何といっても黒いインナー、これ何て言うの? 音声ガイドのちゃんはるじゃないけど、これが似合う男性が他にいるのかという。〔7頁目右〕、網目の下から覗く筋肉の隆起、うっひょー!

支離滅裂になっちゃいましたけど、彼の魅力は、滅多なことじゃ毒牙を表に出さないことなんじゃないかな、と想像します。「奥の手はずっと隠しておくタイプ」っていうよりは、「周りを極端に怖がらせることは良しとしないタイプ」、って感じ。目元が優しいんだよな。

 

 

☯️the HORSE/小玉久仁子


こりゃすげえや。

ウマは古来から人間との関わりが深いが、賢い動物だ。彼女からはそういった誇りを感じる。一介の人間に飼われることは拒み、たとえ独りでも、強かに生き抜く力。全身から相手を打ち据えるオーラを放っている。「生き馬の目を抜く」とはよく言うが、彼女の目を抜くことはどれほど集中していても難しそうだ。

スモーキィな雰囲気ももちろん似合うが、〔8頁目〕の瀟洒な佇まいも素敵。西洋チックな階段との取り合わせが、シックな彼女の出で立ちを際立たせる。

乗馬鞭かなと思ったら、彼女が手にしているのはバラ鞭だ。分散するので音ほどは痛くない、と言われる(打たれたことは無いのでハッキリは知らない)。ちょっと、あれやね、サディスティック・ミカ・バンドやね。ぞくぞく。

 

 

☯️the SHEEP/柳瀬晴日


ピ ン ク だ

柳瀬氏、前回はグリーンティに扮してアンニュイの権化だったのに、今回はスウィート全開じゃないすか。タレ目。「ですぅ~~」とかって語尾つけてそう。

干支でいう未は、『漢書』だと「昧(=くらい。日が届かない)」に通じると説明されていて、後世の格言においても「未辛抱」といわれるので、個人的には可愛いという印象を持ってはいなかった。

それがどうだ? この8ページを目の当たりにして、「可愛い」以外の感想を抱く人間はいるか? いるとしたら相当古い辞書を積んでいるんだろうからアップデートをお薦めする。

シャボン玉といい薔薇といい、〔4頁目〕の両腕を寄せて顎から頬にちょこんと触れさせるポーズといい、ここは平和という名の空間か。ここにいれば核の脅威は消え去るんじゃないか。早く核保有国の首脳連れて来い。

可愛く「めぇめぇ」って鳴いてくれるのかと思って彼女の音声ガイドを聴いていたら、鳴いてくれはしたが、激リアルな声帯模写を披露された。「ベヘェェェェ」みたいな。……上手かった。

余談だが、ちゃんはるさんに「ヒツジ」といえば、想起するのは『Stray Sheep Paradise』である。この時のほうが可愛く「めえめえ」って言ってくれてました、よね? アッ観たくなってきた

twitter.com

 

 

☯️the MONKEY/高田淳


糖質制限……これがプロか……(お腹周りにつき続けるお肉をつまみながら)

めっちゃくちゃ闇抱えてそうだけど、勢いで蹴り飛ばし続けてきた的な。朱色の大盃が似合うこと似合うこと。事あるごとに「っしゃァ!」って言ってるわこの子。
〔7頁目〕で何が起こっているのか気になりますね。

〔2頁目左〕や〔4頁目〕では桃持ってるね。猿と桃は特に中国ではセットで描かれることが多い縁起物。日本でも、桃は魔除けの霊力を持ったありがた~い果実なのである。「オオカムヅミノミコト」と呼ばれ、神として扱われるほどだ。猿と一緒だと、桃太郎のイメージになっちゃうかもしれないけど。

まさにそんな魔除けの力を手に入れたような雰囲気。彼は一瞬で「申年だ」と分かったほどにがっちりと役にハマっていて、とても気持ち良かった。

 

 

☯️the ROOSTER/芹沢尚哉


コルセット男子のおなーーりーーー

マジか……MGCprojectのプロデュース力、これほどとは。
〔1頁目〕の、まるで水を操るマエストロかのような格好や、〔3頁目〕の口がやや開いた状態で視線を外す感じ、彼が自身の生き様や性質に、自信を持っている様が窺える。あー、roosterって単語には「気取り屋さん」って意味もありましたね。

でも自惚れるのも分かる。写真だけど、所作が綺麗なの分かるもん。〔5頁目〕、その透き通ってるようにも見えるキラキラの剣はなんですか……? 自作? 始解すると瑠璃色孔雀になるとか?

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弓親はかなり好きなキャラである

まーしかしコルセット、良い。とても良い。胴から腿の辺りのシルエットがすごくスムーズに見えて柔らかな印象〔7頁目右〕。本来は締め上げているものなんだろうけど、苦しそうじゃないところは、芹沢さんのスタイルの良さなのかな。

 

 

☯️the DOG/星璃


戌年生まれだから犬が好きです(千葉県・26歳男性)

まあ正確には、動物は総じて別に好きでも嫌いでもないのだが、犬は父方の実家で飼っていたので多少の思い入れがあるというだけだ。あとは、ゆるふわ系の先輩医師(2児の母)に「先生って犬みたいだよね~おうち来る~?」と言われたブリリアントな思い出を引き摺っているのもある。

そんなことより星璃さん。ページを捲る度に、「くぅーん」と淋しげに鳴いていそうな切ない表情と、オオカミのような獰猛さを忍ばせた表情がくるくる変わる。まさに犬っぽい、というやつだ。〔4頁目下〕〔6頁目〕の甘えたような顔! ふわっふわ犬耳! 紅葉もいいよねオレンジ可愛いよねあーかわいいねええよしよしよしよし

〔3頁目〕は左右でトーンが大分異なる。右の"覚醒顔"、最of高やでぇ……。

 

 

☯️the BOAR/藤本結衣


あ~……床を転げまわる私~~

イケメンも美少女も大好きなので、ここまでかなりフラットな気持ちで、造形的美しさや可愛さ、衣装と背景の作り込み具合に没入出来ていた。でも、イノシシこと藤本さんを見ると、ダメだ雑念がすごい! 可愛い!!

陰陽五行論』の本を読みながらも、肉まん食べたり筆で遊んだり、全然集中できてないね。チューターだったころの私だったら、仕事だからしょうがなく一言釘を刺すところだけど、彼女が幸せならOKです! なんでも自堕落許しちゃいます!

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彼女は極端にメイクが現代っ娘だよね。これまでの浮世離れした雰囲気が嘘のように、チャイナガールのコスチュームプレイを地で行くような。いかにも新入りちゃんです、みたいな。でも背景の力が加わると、一気にMisty Glorious Cycleの世界の住人となっているのには恐れ入る。

これを機に藤本さんの写真を拝見した。みんな可愛いのだが、その中でも今回のチャイナ、めっちゃ似合ってるんじゃなかろうか。

そうそう。指摘し漏らすわけにはいかないのは太ももの種子字だろう。ちゃんはる音声ガイドでも「男心を擽るのではないか」と語られている。「私は擽られている」とも。なんて男心の分かるちゃんはるさん……感涙。

 

 

☯️the CAT/窪田ゆうり


(参考写真は神様とのツーショットにあります)

出ました。神話ではネズミに騙されたといわれ、史実からはトラより伝来が遅かったといわれ、いずれにせよ干支に名前を連ねることが叶わなかったネコ。

窪田さんという鉄砲玉をネコに取っておいたのはとんでもない英断のように思う、が、予想していたきゃんきゃんしている若いネコとは少し違った。いつか寝首を掻いてやろうと干支の座を狙っているような、大人の思慮を持ったネコのようだ。
左肩がはだけているのも、やんちゃさの表現というよりは、色っぽさなのだろう。スプリングタイムストロベリーもいいけど、この窪田さんもまた素晴らしいな。

本気を出されたら、あんな首輪では繋ぎ留めておけなそうだ。

 


 

読めば読むほど楽しみが生まれる写真集だ。私は第1弾をよく読み返している。

少しでも興味をお持ちになった方、もしMGCの第3弾が企画された際は参加をご検討あれ!

「スイマセン、オネガシマス! オネガシマス!」

大学時代の話。

 

お昼どきに時間が空いたので、友人と共にキャンパスを出てご飯を食べることにした。

友「そういえばこの前、妙な声が流れてるネパール料理屋の前通った」
私「ネパール?」
友「呪詛のようだった」
私「呪詛?

気になったので行ってみることにする。

 

店の近くまで来ると、店頭でモボモボ鳴っている何かが聞こえる。何を言っているのかまでは聞き取れないのだが、確かに人の声だ。
そして、使用人と思しき女性が、手当たり次第といった様相で通行人に自店の紹介カードを配っている。
興味を持つ人はほぼいないように見受けられたが、彼女はめげずに、めっちゃ追いかけてカードを渡そうとしていた。

そのがっつき具合に違和感を覚えた我々は、"経験に勝るものなし"の精神を以て、一度店の前を通過してみることにした。すかさず女性がカードを差し出してくる。

女「よろしくおねがいします」
私「どうも」
友「どうも」

カードを受け取るやいなや、店の中から何かが飛び出してきた。

主「スイマセン、オネガシマス! オネガシマス!
友「!?」

それはなんと店主だった。恐らく。

友「え、あ、はい、まあその、すんません、えっ、怖っ」

あまりの剣幕に私と友人は逃げようとしたが、10mくらい小走りで追いかけてきた。

 

* * * * * * * * *

 

初夏の気候のなか、恐怖体験をした我々は正常な判断力を失った。
せっかく店主を撒いたのに、とぼとぼと店の前に戻ってしまう。

看板を見る。
ティピカルネパール料理』という名らしい。

典型的なネパール料理。

……典型的。

もしかしてネパールでは違う意味なのだろうか。「人を追いかける」みたいな。

 

「オイシィオイシィヤスィ ティピカルネパールリョウリィティピカルネパールリョウリィ ニジュヨジカンヤッテルゥニジュヨジカンヤッテルゥ スミマセンオネガシマス」

 

ラジカセから延々と流れているこれは、さっき聞いた店主の声だった。
変なところにアクセントがついているせいで、脳を蝕む節回しに仕上がっている。
つーか24時間やってんのか。

「オイシィオイシィヤスィ スミマセンオネガシマス」

そんなに美味しくて安いというなら食べてやろう。

 

店に入った我々を先程の店主が出迎えてくれることはなかった。
なんか中央のテーブルで携帯弄ってた。やる気ゼロかよ。

主「コッチドウゾ」

店の端のテーブル席に通された。
店主は厨房に戻る。店内は暗い。開け放たれている入り口。
そして我々は気付く。

私「あれ……メニュー無いね」
友「あのー、メニューくださいー」

戻ってきた店主は、なぜかサラダを2皿持っていた。

主「ドゾ」
友・私「……?」
主「イマノジカン、コレ。オカワリオケィ。ゼンブジブンデ」
友・私「……??」

店主の指先を見ると、B5のコピー用紙にこう書かれている。

【ランチタイム 食べ放題 ¥1,000
カレー3種
タンドリーチキン
ナン
サフランライス
ラッシー】

友・私「……???」

我々は目を合わせ、蟻地獄のような店に迷い込んでしまったことをアイコンタクトだけで慰め合った。

 

* * * * * * * * *

 

店主の横暴はとどまるところを知らない。

主「コッチニカレーアル。ゼンブジブンデ」(真顔)
私「はぁ……、つまり今やってるのはこれだけってことすか」
主「コッチニ。ゼンブネパールリョウリ。オイシイ」(真顔)
友「あ、このプレートに乗せるんですか」
主「ソレハチキン」(ややキレ)
私「はあ、どうも……」

 

まるで「近い内にこの荷物処分しますんで」とでもいうように壁に寄せ置かれていた容器を覗いてみる。
挽肉らしきものが浮いたカレー紛いのスープ。
ひよこ豆のような物体が見え隠れするカレー紛いのスープ。
なんの草か分からない緑のやつが顔を覗かせているカレー紛いのスープ。
トリプルしゃばしゃばカレー。

そして隣に、木炭かあるいは流木かといった見た目のタンドリーチキン(多分)。

店主は、立ち尽くしている我々を見て「あまりに美味しそうでどれから食べるか迷っちゃ~う(はぁと」と思っているとでも感じたのか、少しニヤついて、我々の持っていた容器に勝手に盛り付けを済ませ、席へ置いてしまった。ラッシーも勝手に注いでいる。普通の店なら当たり前のことだが、我々に対して頻りにセルフサーヴィスだとアピールしたのをもう忘れたのか。怒涛のネパール料理。みすず学苑。

 

「ティピカルネパールリョウリィ スイマセンオネガシマス オイシィオイシィヤスィ ニジュヨジカンヤッテルゥ」

 

私「wwwwwwwwww」
友「どうしたwwwwwwww」

スイッチが切れた。

もはや感情は失われた。

我々はティピカルなネパールの奔流に呑まれたのだ。

 

ネパールを口へと運ぶ。

私「wwwwwwwwww」
友「wwwwwwwwwwwwwww」

ご飯は、誰に習った水加減で炊いたのかお粥になりきれない程度のべちゃっと感で、謎の「おばあちゃん家のような味」を感じる。
カレー紛いのスープはすべて同じ味。
流木は味蕾を潰したくなる塩辛さ。
そして頼みの綱であるラッシーは、サ○ガリアでもまだもう少し濃いめに造るだろうという代物。

こうして、我々のランチタイムは圧壊したのだった。

 

* * * * * * * * * *

 

「オイシィオイシィヤスィ ニジュヨジカンヤッテルゥ ネパールアァー ティピカルネパールリョウリィティピカルネパールリョウリィ」

 

ところで、私と友人は、頻繁に昼食を共にする仲である。
そして、普段から互いにお喋りであるため、周囲に比べて食べるのが遅い。

だがしかし。今日は違う。その口数の少なさ!

二人とも、常軌を逸したティピカルネパール料理に、ニューロンの繋ぎ替えを余儀なくされているのだ。
二人とも、この有無を言わせぬ圧から、一刻も早く脱出させてくれと八百万の神に手を合わせているのだ。

もがく我々に、店主がナンもどきを運んできた。
揚げ餃子の皮のようだった。不味くない。奇跡だ。ありがとう店主。

主「オカワリオケ。ジブンデトル」
友・私「……はい」
主「オキャクサンニホンジン?」
友・私「……はい」
主「コノリョウリゼンブアブラツカッテナイ。ヘルシー」
友・私「へえぇ」
主「『ギー』。ギュウニュウヲギーニスル。ネパールデヨクツカウ」
友・私「そうなんですね~!

ひとつ利口になってしまった。不覚の極みだ。

 

「ティピカルネパールリョウリィ スイマセンオネガシマス オイシィヘルシィヤスィ ニジュヨジカンヤッテルゥニジュヨジカンヤッテルゥ」

 

もはや食事をしているのか悟りを開こうとしているのか分からなくなってきた。
もう少し頑張れば開けたかもしれない。悟りは開いておいた方が就職に有利、ってブッダも言ってた。

我々の15分ほど後に入店したおばさまがいた。
「メニューどこ? あら、そう……」の言葉以降、表情が曇りっ放しで、今は書類と睨めっこしている。
日傘を差しながら息急き切って店に飛び込んできたおばさまの姿も、我々からしたら異常だったのだが、そんな異常さはこの空間では些末な問題だった。

 

こうして、我々の努力は報われた。

完食である。

食べ放題? 知らん。

 

* * * * * * * * * *

 

英世。すまん。こんなことに使うつもりじゃなかった。

友「2,160円ですって言われたらどうする」
私「キレる」

もう用は無い。会計を済ませて店を出よう。

ふと店主を見ると、彼は店内ド真ん中のテーブルでiPhoneを見ながら食事をしていた。ラッシーをジョッキで飲んでいる。接客ナメんな。

「ごちそうさまでした!!!!!」と呼びかけるも、同じタイミングで通行人が来たためか、そちらに迫っていく店主。さらに後ろから来た自転車を追いかけていった。
……我々は既に囚われの身なのだ。彼にとっては、会計より新たな客をひっ捕らえることが優先なのだ。

 

こうして尊い2,000円は、ティピカルなネパールの民に渡ってしまったのである。

しかも店主は、まだ奥の手を残していた。

主「コレ、シゴトトカ、ガッコーノトモダチニワタシテ。ヨロシクオネガシマス」

例の店舗名刺である。7枚くらい渡してきた。
今すぐ紙吹雪にして北島三郎に吹き付けてやりたい衝動を抑え、颯爽と店を出て、そして逃げた。遠くまで。

「ティピカルネパールリョウリィ オイシィオイシィヤスィ」と信号待ちのサラリーマンに呟く程度には、私は精神を汚染されてしまった。

 

一ヶ月後、その店は潰れていた。

 

強引に "WAKE UP GIRLS" であいうえお曲紹介2020

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本エントリは、我が知己朋友・なまおじ氏が主宰する「楽曲オタク Advent Calendar 2020」第22日目の記事です。

adventar.org

 

※ タイトルに「Wake Up, Girls!」の名がありますが、WUG Adventは別企画となります。紛らわしくて申し訳ありません。

↓ WUG Advent 2020も熱の籠った記事たちばかり。ご興味ある方はこちらもどうぞ

adventar.org

 


 

イルリキウムです。

 

当ブログ「論理の感情武装」では、好きな音楽を理論的にあるいは感情的に攻め立て、その曲が持つ特異的な音の景色を言葉で描出してきた。

好きを言葉にする。

この営みは尊いものだという信念を持っている。

 

さて、2020年にアップした10本の記事(本記事含まず)を振り返ってみると、

駅メロアレンジしちゃったやつ

・曲を聴いて思い浮かんだ医療器具を語ったやつ

劇伴1本だけをゴリゴリに掘り下げたやつ

・『箱根八里』の歌詞に出てくる漢字を語ったやつ

 

 

……え? なんか変な人じゃない? 大丈夫?

 

 

「音楽オタク」を名乗るには散らかりすぎた記事群である。

白状すると、私は、物事を考えるときに”寄り道しないこと"が極端に苦手だ。一つの音楽作品を聴いたときに、音も気になるし歌詞も気になる。
音への興味は、「楽器の種類」「発声法」「コード進行」「メロディライン」「曲全体の構成」などなどに分かれていく。
そして、例えば一番最初に挙げた「楽器の種類」についての思考は、「使っている道具による音色の違い」や「類似の楽器を使った別の楽曲」などに繋がっていく……。
そして、気になったことは全部喋ってしまう。

 

精選・推敲すれば良いのだが、私はその労力を惜しんでいる。

また同時に、全部ひっくるめて書いちゃった方が、誰かしらにリーチする可能性が高まるのではないか、とも思っている。"下手な鉄砲"理論だ。

そんなことをぼんやり考えながら鉄砲を撃ちまくっていたら、当たってほしいところに命中することが今年は数度あった。とても光栄なことである。好き好き言っていると、いつか届くのだと実感できてしまった。

 

というわけで、この記事でも変な人を辞めることはせず、好き好き言おうと思う。いつも通りだね。

 

問題は選曲なんだけど


 

恒例の風呂場で考える大作戦。ちゃぷん。

今年のリリース楽曲からチョイスするのが一般的だが、今年もそんなに曲をスキャンできていない。
あのアーティストの曲から10曲選ぶか……あー、サブスク解禁してないのね。楽曲オタク諸兄はお分かりになると思うが、曲紹介ブログは読者に曲を聴いてもらわないと話が進まないので、フルサイズのサンプルを希求しているのだ。
うーん、例えば2020に因んで、「オリンピックに関連する曲」みたいなテーマ縛りを設けるのはどうか。でも好きな曲だけでやろうとすると行き詰まりそうだな。
十二直がタイトルに含まれる曲特集とか?
フランス革命歴の月名から連想する曲特集とか?
歌詞に素数が入っている曲特集とか?(そして趣味の世界へ)(2020関係ないじゃん)(fin)

 

迷子を極め、そろそろのぼせそうな私の前に、頭文字の精が現れた。

精「やっぱ頭文字じゃん?」

イ「だよね~~~」

ということで、頭文字を設定し、その字からタイトルが始まる思い出深い曲たちを挙げる方式に決定。よっしゃ風呂あがるぞ

 

10文字程度で、アルファベットの被りが無い語句を考えたところ、

Wake Up, Girls!

が思い浮かんでしまった。これでいこう。

 

はい!

今年の締めは、"WAKE UP GIRLS"であいうえお作文曲紹介しまーーす!!(急展開)

註)2020年総決算記事としての体裁を保つため、「2020年もiPodに入っていて、かつ少なくとも1回は聴いた曲」を選定している。

 

 

W


The Wind Machine/Count Basie Orchestra
作曲:Sammy Nestico

Wind Machine

Wind Machine

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はあぁぁぁかっこい~~……

 

初手から恐縮だが、弊ブログでは触れたことがなかったジャズナンバーである。1975年リリース。

数年前、籍を置いている地元ビッグバンドの定期演奏会で演奏することになったはいいが、楽譜がアルバム "Basie Big Band" でベイシーが弾いているヴァージョンではなかったおかげで、私が必死の耳コピに取り組んだという、実に思い出深い一曲だ。

一聴していただければ解る通り、とにかくテンポが速い。二分音符=152-154くらいなので、およそ1秒に5拍だ。
みなさん、1秒に5回手叩いてみてください。疲れるでしょう?

マチュアビッグバンドのスタンダードナンバーといわれるが、迂闊に手を出すと火傷するパターンの曲である(実際、Youtubeなんかで演奏動画を見ると、火傷しているバンドがたくさん見つかる)。

ハイテンポ故に、縦を揃えるのは一苦労だ。ソロの裏側でもホーンセクションが複雑なシンコペーションを鳴らしている。トランペットが輝くキメの部分もふんだんに盛り込まれている。

キメが揃わないジャズほど格好悪いものはないだろう。このCDを聴くと、プロの凄みを感じる。

 

前述したように、このバンドの元締めであるカウント・ベイシーはピアニストだ。

ジャズにおける彼の演奏スタイルは、いわば"倹約"。
手をちょろっとピアノに触れさせるだけというような、音数の少なさ&休符の多さが特徴的である。
ライブ映像でも、ポロン、ポロン、と撫で斬るような様子をよく見る。ソロであっても、長いフレーズはなかなか弾かず、細切れの音を少しずつ繰り出してくる。
それこそが、彼の演奏する曲に、独特の柔和さや大らかさのようなものを感じさせる要因なのだろう。

ちなみに名前のカウント Countとは、伯爵を意味する愛称である(本名はウィリアム・ジェイムズ・ベイシー)。フランス語のconteから変化した語で、「数える」のcountとは由来を異にする。

 

理論的な話をひとつ。

曲のラスト(2'47")に、こういった節が登場する。

f:id:I_verum43:20201213151552p:plain

 聴いてみるとこう。

 

これは……完全4度堆積!!

実音ドからファ、ファからシ♭、のように、完全4度上の音を重ねていくわけだ。一気に鳴らすとものすごい濁りになってしまうが、単音がひとつずつ、次々覆い被さってくるようになっているため、音が増える度に力強さが増す。

4度堆積の強みは、"調性感の無さ"。長短の響きは第3音が司っているが、4度堆積は第3音を欠く。ドの次の次の次に出てくるミ♭は短3度に相当するものの、ここまで離れてしまうと分かりにくく、むしろ、シャープナインスの顔をして複雑に響いてくる。

だからこの音型は、明るいとか暗いとかいうイメージ抜きに、「なんだなんだ、音が上っているぞ……!」という印象を与える。

長短のイメージが無いと、我々は「どんな雰囲気になるんだろう?」と緊張したり、「安定しない感じだな~」と浮遊感を覚えたりする。曲調によって、4度堆積は色々な顔を見せるのだ。

 

同じように4度堆積の分散和音を印象的に使った曲といえば、『美少女戦士セーラームーン』の劇伴「ムーン・プリズム・パワー・メイクアップ!」ではないだろうか。

(0:34~。試聴だと削られている部分)

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この曲では、実音シからスタートし、6つの音が完全4度で積まれている。変身が始まるときの張りつめた感じや、ファンタジックながらもアツい空気がうまく表現されている。

 

 

A


AMAZING MAGUS/TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
作詞・作編曲TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

AMAZING MAGUS

AMAZING MAGUS

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2017年9月27日リリース。『トリニティセブン』シリーズの主題歌・劇伴・キャラソンがぎゅっと詰め込まれた4枚組アルバムより「AMAZING MAGUS」を選曲した。
本楽曲は、劇場版第1作で用いられた劇伴である。

 

今でこそ、TECHNOBOYSは様々なアニメ作品に楽曲を提供し、作風もテクノ以外に広がってきている。しかし遡ると、彼らがトリニティセブンを担当し始めた2014年は、まさに、"TECHNOBOYS×アニメ作品"の黎明期であったのだ。

TECHNOBOYSは、言わずと知れたYMOフォロワーである。
YMOの音楽が骨肉となっている私にとって、彼らの楽曲は常に「YMOの影、香り」と「エッヂィな新鮮さ」をもたらしてくれるものだ。初めて彼らの作品を聴いたときは、尋常ならざるインパクトを受けたのを覚えている。

 

さて本曲。

快速なキックに乗せて、左右から電子音が飛んでくる。デトロイト・テクノ、あるいはアシッド・ハウス辺りに分類されるのだろうか(アシッドというには洗練されすぎているか?)。

その上に、単語レベルに細切れにされたキャラクターヴォイスが乗ってくる。無感情な女声が音楽の一部となり、現れては没する。心地良い。

しばらくすると、男声のユニゾンでフレーズが"歌われる"。
Ⅳ→Ⅵ(しかも9th)をバックにしながら、メロディはマイナー・トライアドの周辺にちんまり収まっているという、不思議な響きを持った層構造だ。ここら辺の歌い方にはやはりYMOの影がちらつく。

 

先んじてリリースされていたTVシリーズの劇伴、「MAGUS MODE」を知っている方はすぐに指摘できたやもしれないが、これを受けて"第2作"として作られたのが、「AMAZING MAGUS」なのである。

MAGUS MODE

MAGUS MODE

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>Connection, Archive, Magus Mode.

>Luxuria. Ira. Invidia. Avaritia. Acedia. Gula. Sperbia.

といった共通のフレーズが用いられており、両者の関係を見出すのは難しいことではない。

その実、私がこれらの楽曲に出会ったのは『トリニティセブン』という漫画の内容を知る前であった。
「何言ってんだここ……あっ、スペルビア……って言ったな? 今?」という取っ掛かりから、七つの大罪が関係していそうなことを嗅ぎ取ったのであった。カトリック系の幼稚園出身なので。あ、でも大罪はよく犯します。主にアケディアとルクスr

 

「MAGUS MODE」には、7人の主要キャラクタたちがそれぞれの専門術式を唱えていくパートがあり、勢揃いの様相でめっちゃカッコいいのだが、個人的にはスピード感のある「AMAZING MAGUS」に一票!

 

 

K


KLING! KLANG!!/TWEEDEES
作詞・作編曲:沖井礼二

KLING! KLANG!! (album mix)

KLING! KLANG!! (album mix)

  • TWEEDEES
  • J-Pop
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【MV→ TWEEDEES(トゥイーディーズ) / KLING! KLANG!! - YouTube

 

もはや大アンセム

2015年1月21日に配信でリリースされ、3月には1st albumのラストを飾ったTWEEDEESのデビュー作、代表曲である。

SCOTT GOES FORでの活動を経て、音に男気が増したというか、Cymbalsのときよりも殺気立ったキラーチューンをぶっこんできた沖井礼二、当時45歳。恐ろしすぎる。

そしてvoc. 清浦夏実さん。CymbalsCymbalsたらしめていた軽妙洒脱かつ魅惑の土岐麻子さんと比べると、夏実さんはより「ふふん♪」と男を軽くあしらいそうな感じがある。それでいて、頭の頂から趾の先まで女性らしさに満ちている、魅力たっぷりのヴォーカリストだ。
この曲で言うと、〈木枯らしでも〉の「でんもー」の言い方とかね。即死。

 

どこが好きって、やっぱりリズムのTWEEDEESなんよ。

 

曲全体に「タンタン ンター」のリズムが張り巡らされている。後半の突っ掛けが持つウキウキ力(うきうきりょく)ったらないね!

もっと言うと、スネアは違うパターンを持っていて、ベースとスネアの絡み合いがウキウキ力(うきうきりょく)を増幅させるんだよね!!

f:id:I_verum43:20201214002515p:plain

 

お聞きいただこう。これだけでもう、ウキウキ力(うきうきりょく)120%だ。

 

更に細かく見たら、Aメロではギターが「ッピャーン」と後半の突っ掛けを担当していたり、ピアノソロの裏ではこのパターンの展開形をギターとベースで仲良くユニゾンしていたり、ラスサビ前ではキーボードがこのパターンを演奏していたり、もうね、語れば語るほどウキウキなのよ。うきうきりょく!!! 

 

今年頭に開催されたセッション会で演奏したのは、とても良い思い出である。

まあ、私が中途半端な採譜しかしてなかったんで、伴奏は全部ギターに任せてずっとメロディ吹いてましたけどね!(その節はすまん)

 

 

E


Eternal Voyage/アルバトロシクス
作詞:quim_underconstruction↓
作編曲:Dr.ARM

Eternal Voyage

Eternal Voyage

  • アルバトロシクス
  • J-Pop
  • ¥204
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2008年12月29日リリース、アルバトロシクスの3rdミニアルバム『e』より。

 

アルバトロシクスは、東方アレンジを中心に頭角を現し、21世紀初頭から現在に至るまでムーヴメントを起こし続けている札幌の化け物集団・IOSYSイオシスから生まれたユニットである。

作曲のARM氏といえば「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」「チルノのパーフェクトさんすう教室」のパンデミック的ヒットが思い起こされるが、近年では商業作品での活躍も著しい。クラブミュージックやポップスロックを踏み台にして、ブッ飛び電波ソングに仕上げるその手腕は当代随一である。研究も怠っておらず、彼の引き出しは常にアップデートされている。

脳を侵犯してくる掛け声が間奏を埋め尽くし休む間も無いザ・電波「メルヘンデビュー!」(安部菜々アイドルマスターシンデレラガールズ)とか。

columbia.jp

トランス・ブレイクコアを鏤めたARM氏大得意のコラージュ的キャラソン圧 倒 的 存 在 感」(鈴原るる、でびでび・でびる/にじさんじ)とか。

圧 倒 的 存 在 感

圧 倒 的 存 在 感

  • 鈴原るる & でびでび・でびる
  • アニメ
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フュージョンチックな変拍子に流行りのサビⅠ→♯Ⅳ進行をコロコロ転がる鍵盤と電子音が埋め尽くす「ちくわパフェだよ☆CKP」(山形まり花・芽兎めう/ひなビタ♪)とか。

ちくわパフェだよ☆CKP - Single

ちくわパフェだよ☆CKP - Single

  • 日向美ビタースイーツ♪
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やべぇARM様紹介記事になっちゃう

 

作詞とコーラスは、ARM氏の大学時代からの仲間であるquim氏。

そしてヴォーカルは我らがmiko氏!
私世代はみんなmikoヴォイスで寝かしつけられていたので、彼女の曲を聴くと副交感神経系が優位に立つ。しかし電波ソングは生への渇望そのものなので、必然的に交感神経系も賦活される。こうして自律神経のバランスは乱れ人はバグり死ぬ。R.I.P.

 

さて本曲は、随所に差し込まれる硬質なカッティングギターが印象的な、いわゆる”きれいなARM”曲だ。
キメの4拍連発にもパワーがあり、自然に踊り出してしまう。私がこの曲を聴き続けているのはこのキメを聴くためと言っても過言ではない。

 

1'42"の箇所を聴いてもらいたい。1サビから間奏に渡すブリッジの最後の小節だ。

……うっ? しっくりこなくない?

f:id:I_verum43:20201214112828p:plain

普通に考えたらこうだ。「タンタンタタン」。
しかし実際は、こう上手く拍にハマらない。恐らく32分音符ほどの単位でズレている
こうして、僅かな違和感を持たせて曲に耳を縛りつけにする……、つまりこの部分がhookの役割を果たしているように思う。渋い。実に緻密。

 

PVも作られており、公式サイトで公開されているのだが、Flash Playerが必要(2020年12月末でサポート完全終了)なので視聴は自己責任でお願いしたい。

ALBATROSICKS Official Site | DISCOGRAPHY 「PLANET LIBERATION」

 

 

U


under the cry/ステイル=マグヌス(CV: 谷山紀章
作詞:くまのきよみ
作編曲:渡辺剛

under the cry

under the cry

  • ステイル=マグヌス(C.V.谷山紀章)
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2009年7月24日リリース、『とある魔術の禁書目録 アーカイブス3』よりステイル=マグヌスのキャラクターソング。
彼は14歳なのに、髪は赤いし刺青も入ってるし香水振ってるし煙草まで吸っている。悪い子さんである。

 

作曲を担当する渡辺剛(わたなべ・たけし)さんは長くJ-POP業界で活躍しているキーボーディストでありながら、アニメ作品の劇伴も数多く手掛けている。彼のアニメ劇伴人生に関しては、こちらのインタビュー記事が詳しい。ウィーンで生オケ聴いたなんて羨ましいなあ……。

akiba-souken.com

 

曲は、重苦しさを纏いながらも、それを打破しようとする力が籠ったロックチューン。『禁書目録』のストーリィをご存じなら、ステイルに乗り移ったくまのきよみさん渾身の歌詞も理解いただけるだろう。ここでオタクイルリキウムを発動させていただく。

 

しんどい!!!!

 

はい。曲の話に参りましょう。

イントロのギターリフを引き継いだAメロ。Ⅰの上で、メロディは第5音を軸に〈綺麗ごとなんて 意味がない〉と苦々しい思いを吐く。〈"術"もない〉で9thまで上がってくるのが耳を引くポイント。

Bメロでは伴奏が柔らかく変化しピアノも絡んでくる。
〈祈りや優しさは 過去のお伽話〉のFM7→B♭M7→Bm7→FM7! B minorはD Majorの平行調である。ピアノによるハモメロがf♯を鳴らしているのも効果的な、この長調感のチラ見せ、セクスィですね~~。

そしてやって来るサビ頭はⅠメジャー! ステレオで右から、またもやMajor 3rdのf♯が鳴っているので否が応でも意識させられる。ちらちらとメロディに感じる同主調。晴れそうで晴れない、切々とした表情をエレキギターが奏でる。実にロックだ。

 

最後の〈さっき 決めたことさ〉。

1サビでは〈あの日 決めたことさ〉だったのが変化している。視点が過去から現在に飛んでいるのだ。過去のあのとき、インデックスを守り通すと決めた。そして今、何を思うか。当然その決意に変わりは無い。きっかけがある度に、同じ気持ちが積み重なって強度を増す。

「あの日決めたこと」と同じことを、彼は、常に決め続けているのだ。男ステイル、かっこいいじゃん。煙草吸ってるけど。

 

 

P


Princess Rose田村ゆかり
作詞:三井ゆきこ
作編曲:橋本由香利

Princess Rose

Princess Rose

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2006年12月20日リリース、田村ゆかりさんの11th singleの表題曲。
田村さんがヒロイン役を務めた、TVアニメ『おとぎ銃士 赤ずきん』の第2期OPテーマだ。

 

楽理的に語りたいところがあるわけではないし、私は王国民でもない。ではなぜこの曲を選んだのかというと、偏に、私が『おとぎ銃士 赤ずきん』をゴリゴリに観ていたからだ

もう食い入るように観ていた。土曜日を逃した場合は、金曜のBS再放送で観ていた。当時、イルリキウム小学6年生。卒業間近。下半期クールの放送だったため、アニメのクライマックスと自分の卒業とが重なり、私の小さな胸は千々に乱れた。うぅぅ草太ぁ……赤ずきん……(余談だが、「草太」と私の本名が音的に近いので感情移入したという側面もある)。

 

そういえば翌2007年、初音ミクが発売されたのをきっかけに、私はニコニコ動画に会員登録をした。聴く曲はどんどん増えていった。そして、この頃から私は徐々に、「なぜ自分はこの曲を気に入っているのか?」という視点で音楽を見るようになってくるのだった。

なお、その問いに対する、本楽曲における答えは、間違いなく「好きなアニメの記憶と強く結びついているから」。となる。

 

もちろん、少し思考を巡らせるとこうだ。

〈名前の無い花〉だった〈baby rose〉。このroseは総称であって、生まれたばかりの彼女にやはり名前は無い。でも〈だいすき〉という気持ちはしっかり持っている。タイトルに立ち返ると、〈Princess Rose〉と表記されている。題だから大文字、といった単純なものではないとすると、固有名詞・愛称の可能性が出てくる。つまり、「ローズ王女」だ。果たして彼女は、ローズ王女として自らの存在を確立して、成長した想いを〈あなたに届け〉ることが出来たのだろうか。……んああああ! 届いていてほしいいい!!! だって最後に〈Princess Rose, blooming for you〉って言ってるもんね?! でもまだ願望かな!!??

 

はー取り乱した。すんません。

言うてまあ、これも後付けだ。やっぱり赤ずきんが好きだから、なのだ。この歌詞だって、無意識に赤ずきんが主人公だと思って聴いている節がある。

 

やっぱり好きなものは好き。

「好きだ」って思ってる人がそれ以上説明の言葉を持たないのだから。そう言うしかない。

 

 

G


Greed's Accident/長門有希(CV: 茅原実里
作詞:畑亜貴
作曲:田代智一
編曲:上松範康

Greed's accident

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2009年1月21日リリース、Wii用ゲームソフト『涼宮ハルヒの激動』ボーカルミニアルバムより。

2020年もそろそろ終わろうかという頃、ハルヒ周辺が大きく動いた。新刊発売に引き続き、関連楽曲のサブスク配信が解禁されたのである。主要キャストのアーティストとしての楽曲を含め、全557曲。なんなんだ。すごい時代よ。

ってな訳で、やや知名度の劣るキャラソンも、大手を振って紹介できる。

 

何を措いてもそのイントロの長さに触れないわけにはいかない。
低音域のヴァイオリンとピアノからしっとり幕が開け、電子的なキックが入り、おっ、モチーフが変わった、テンポ感を増す……Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅴ、そろそろ歌かな……あ、まだー! まだだー! 同じモチーフが倍速になったーーー!!

1分23秒のイントロを終えると、ようやくヴォーカルが登場する。ルートのAが鳴り続ける上を、マイナースケールから逸脱することなく走るメロディ。コンピュータ世界を想起させる電子音に、ストリングスが緊張感を加える。

Bメロで布石を打ち、サビで劇的な転調へ。〈心配なんてしなくていい〉で滑り込むように♭ⅶを鳴らし、ここは歌詞に同調するように優しげなⅤm。

 

怒涛の展開から2番を超えると、カデンツァ的なヴァイオリン独奏が挟まる。これ、最高音Eが鳴ってるけど、ヴァイオリンが綺麗に聞かせられる音域としてはかなり限界に近いだろう(一応もっと鳴るけど、よほど上手くないと金属音のように響いてしまい、耳障りで音量も出ない)。
思い返せば、イントロでは下のGを弾いていた。これはヴァイオリンの音域最低音である。ということで、本楽曲は、ヴァイオリニストの腕試し楽曲なのであった。

 

長門楽曲は殆どにおいて、「長門というか、みのりん」という感想を持ってしまうほどに茅原さんの歌声が力強い。
「Greed's Accident」はそんな彼女の発語のパワフルさを存分に味わえると同時に、エレクトロとアコースティックの融合に浸ることができる、時を忘れて没頭できるような一曲だ。

 

 

I


I Am the Walrus/Beatles
作詞・作曲:Lennon–McCartney
編曲:George Martin

アイ・アム・ザ・ウォルラス

アイ・アム・ザ・ウォルラス

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1967年11月24日リリース(英国)。

この期に及んでビートルズかよ、安定を求め出したか、知名度に逃げるな、イルリキウム終わった、という酷評が聞こえてくるようだ。ちゃうねん。いくつか"I"で始まる曲の候補はあったんだけどこれが一番好きだっただけやねん。

 

家に置いてあった「赤盤」「青盤」を聴き始めたのは確か幼稚園児の頃だと思う。クラシックCDの並びにあったため、何とはなしにプレイヤーにかけた。当然歌詞の意味は分からなかったが、気に入ってよく聴いていたらしい。

ビートルズの曲の趣味は、発達段階によって移り変わってきた。

幼少の頃は、"She Loves You" や "Please Please Me" など、シンプルな編成の初期楽曲。これは赤盤のDisc1ばかり聴いていたせいだろう。

小学生も高学年になると、"Back in the U.S.S.R." と "Magical Mystery Tour" の2曲にドハマりした。どうしてこんなに胸が高鳴るのかなんて考えもせず聴きまくった。ところでU.S.S.R.って何だか分かるか、当時の私よ。

中学生から高校生にかけては、歌詞の意味や背景も分かるようになってきた。謎にテンションの高い"Paperback Writer"や、何もかもがよく分からん "I Am the Walrus" に惹きつけられたのはこの頃である。ピアノで比較的自由が利くようになってきたので、"Lady Madonna" はよく弾いていた。

そして成人して色々と凪いだところで、"The Long And Winding Load" や "The Fool on the Hill" などのしっとりバラードが沁みるようになってきた。

 

しかしまあ実際、ビートルズクラスになると、多くのファンが曲についてやんややんやと書いているため、私が出る幕も無い。

特に本曲は、『鏡の国のアリス』からインスピレーションを得た(と言われている)歌詞が、やけにぬるぬるした音に乗せて半音でふらふらねっちょり歌われて、何というか普通に気持ち悪い。verse1を引用する。

 

I am he as you are he as you are me and we are all together
See how they run like pigs from a gun, see how they fly
I'm crying

 

は?????

 

あとSemolina pilchardsってなに。デュラム・セモリナとイワシのこと?

Goo goo g' joobってなに。鳴き声? セイウチの??

 

……と、頭を悩ませるだけ無駄である。これは完全なナンセンス・リリックとして受け取るのが精神衛生上よろしい。

ナンセンス曲界に燦然と聳える金字塔、それが"I Am the Walrus"なのだ。ググーグジュー。

 

歌詞はナンセンスだとしても、曲の方は多少なり掘り下げることができるのではないか、と期待してじっくり聴いてみると、イントロの由来が中間部のメロディにあることに気付く。

これと似た音型、結構曲中に出てくるなあ、と思って調べてみると、詳細に分析してくださっている方がいた。目から鱗の内容で、ジョージ・マーティンの編曲の妙が解説されているので、興味のある方はご一読されたい。ググーグジュー。

telmusica.com

 

ググーグジュー、ググーグーグジュー。

 

R


Relight My Fire/Dan Hartman
作詞・作曲:Dan Hartman

Vertigo / Relight My Fire

Vertigo / Relight My Fire

  • ダン・ハートマン
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1979年リリース。生まれる前の楽曲が続く。

私がこの曲を知ったのは大学5年か6年のときで、手伝いで入っていたバンドサークルの一楽団で演奏することになったのがきっかけだったと記憶している。

リーダーは、私含めメンバーの腕と耳コピアビリティを信用しきっており、この曲に限らず全く譜面を準備してくれなかった。「これやるから聞いといて~」と言ったきり、あとはスタジオ練習まで自主練である。あまりに連絡が来ないので、正規の部員ではない私だけハブられてるのかと思った。

そんな訳で私もじっくり腰を据え、近くに野菜ジュースのペットボトルを置いてしばらく机を離れないぞという体制の下、耳コピに取り組み始めたのだが。

気付いたら踊っていた。

そんな曲である。

 

貼付したのは、Vertigo(医学的には「回転性眩暈」)からRelight My Fireに連続するトラックである。後者単独で聴きたい場合は3'02"あたりからだが、ぜひともVertigoから聴いて気分を高めてほしい。長い前奏だと思って! ね!

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Vertigoのリフ

こんな単純な造りなのに、どうしてここまで身体が揺れるのだろう?

ベースはf♯で、上でeのオクターヴが鳴っている。マイナーセブンスだ。ルートと全音離れてるおかげで、e個人でも立脚している。いつトニックに解決しても良さそうなものだが、ずっとeを鳴らし続けていてもいい。なんかここら辺の「不安定だけど安定」ってとこに踊れる要素が隠れている気がする。

あとは不思議な浮遊感のあるc→d→c→d♭。見た目の綺麗さ(cとdが交互に並ぶ)からd♭としたが、これはイコールc♯、歴としたF♯のドミナントである。するとこれは普通にⅥ→Ⅴ→Ⅰの間に、Ⅳの代わりに♯Ⅳが挟まった形なのか。スケール上の音である実音シ(Ⅳ)に入れ換えてみると、下図左のようになる。ならば、「シ(Ⅳ)の代わりに半音上」という音の遷移からすれば、右のような表記の方が出自が分かりやすそうだ。

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"Relight My Fire" は、ディスコティックな曲調から、クラブミュージックとしての文脈に登場することが多い楽曲である。ファンキーなブラスセクションに、扇動するような4つ打ち。そして何といっても、このピアノが本曲を特徴づけている。

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本番のステージでこれを弾いているときの私、絶対にドヤってたな……。目を閉じて口半開きにして、沖井さんみたいなキメ顔してたに違いない。あるいは向谷実さんみたいにお尻ふりふりしてたか。井上薫さん(ブルー・ペパーズ)みたいな無表情マンへの憧れもあるが、多分一生なれないだろう。彼は演奏中、基本的に感情を読み取れない表情で固まっている。時折、眉間に皺を寄せてカッコいいフレーズを弾いているときもあるが、その時でさえ首から下はほぼ動いていないのだ。恐らく彼は、詩家の友達が虎になったとて、「ふぅん」ってな反応しかしてくれないんじゃないか。

何はともあれ、ピアノのおかげでこの曲のメリハリが生まれる。ピアノ大勝利。

 

2019年12月17日、私は思いもよらぬ形でこの曲と再会を果たした。

場所は新木場コースト。フィロソフィーのダンス Glamorous 4 Tour 最終公演のその会場で、客入れBGMとして流れていたのは、宮野弦士氏が千秋楽用に拵えたノンストップ・ディスコ・ミックスであった。彼の手によって、新木場は栄華を極める1979年ニューヨークディスコシーンへと変貌した。

Relight My Fireが流れてきたときは、ソロ参加だったにも拘らず踊らされてしまった。

そのときのソングリストは、宮野氏が公開している。一聴の価値ありだ。

 

 

L


Life is tasty!/燦鳥ノム
作詞・作編曲:じん

youtu.be

 

2019年5月28日リリース。サントリー公式VTuber燦鳥ノムさん(121) 初のオリジナル曲にあたる。どうも彼女、サントリーの母体・鳥井商店と同い年らしい。

公式MVは、2020年12月15日現在、225万再生を記録。
もともと冗談みたいに高い歌唱力で一目置かれる存在ではあったものの、この"歌手デビュー"で界隈の話題を掻っ攫い、企業系VTuberの本気を見せつけた格好となった。

www.suntory.co.jp

 

作詞作曲のじん氏は、自然の敵Pとしてもお馴染みの、VOCALOID発展期を支えたボカロP。「カゲロウプロジェクト」が人気を博したことも記憶に新しい。ホントマジで、当時の女子児童生徒のハマり具合ったらなかった。

 

楽曲は、軽快なドラムとパーカッシヴな鍵盤楽器、そして流れを創り出すストリングスに、透明感カンストノムさんヴォイスが手を組んだ晴れやかなポップス。マジでバイカル湖より透明。透明度100m。

註)透明度はSecchi板という円盤を沈めて目視で測るよ。単位は[m]だよ

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こちらセッキー円盤。真っ白のやつもあるよ

聴いている分には「爽やかいい曲!」で済むが、メロディラインは半音あり跳躍ありと相当エグめ。じんさんも、これまでのノムさんの歌ってみた動画を見て「いけるやろ!」とぶつけていったものと思われるが、後にセルフカバーしてキツさを思い知っている。

 

1番だけだが、メロディラインを見てみよう。

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イントロ。
MVを見れば瞭然だが、冒頭の「ガチャ」という音は冷蔵庫を開けるときの音を表現している。彼女のお決まりの挨拶、「冷蔵庫からこんにちは!」を受けてのものだろう。

フィルタをかけて籠らせているのは、庫内の表現か。フィルタオフとなった〈Sing along & Shake a body!〉で一気に解放され、まさに雲も枷も無い晴れ晴れとした気分が表現されている。これは雲量0ですわ。

 

1, 2小節目の〈Sing along &〉は、【ミ ファ ファ♯ ソ】(移動ド)という半音階のフレージング。あまり意識されないかもしれないが、半音階(クロマチック・スケール)を精確に歌うのは容易ではない。プロの歌手でも、生歌でビシッと当てられる方は多くないように思う。
【ミ ファ ソ ファ】や【レ ミ ファ ソ】という逃げ方はあるが、どうも胸躍る感じに乏しい。狭いレンジで駆け上る音型の威力を感じる。

ちなみに、ソルフェージュなどでは、"Do Sharp"→"Di"などと、半音階でも一音で表せるようにカスタマイズされた階名が使われており、歌唱トレーニングにも用いられる。「ド・ディ・レ・リ・ミ・ファ・フィ・ソ……」と練習したことがある方もいるだろう。

参考動画:Ear Training - Chromatic Solfege - YouTube

(日本のイロハ式音名でも、母音を変えて嬰・変を表す同様の試みが色々為されているが、あんまり定着しなかった。詳しくはWikipedia先生頼んます)
Wikipedia先生\まかせろ/)

 

11小節目~ Aメロ。前半はバッキングが休符を多く持っているため、細かい音価が際立って聞こえてくる。後半はオルガンとベースも暴れ始め、飽きさせない。
〈始まった月曜日〉と〈忙しい日もあるでしょう〉、〈浮かない顔が〉と〈そんなときこそ〉はそれぞれ音型を同一にするが、シンコペーションに僅かな変化が加えられているのがミソだ。

 

この曲の白眉はBメロ。ストリングスと鍵盤が長い音価を取る下で、タムがドンドコドンドコ下支え。タムをフィル・インではなくこういう場所に使うのめっちゃ好き。メロディにも付点8分+付点8分+8分(3:3:2)の新たな形が現れて、顕著に雰囲気を変える部分となる。

〈ひとり〉は【ソラド】と歌われるだが、代わりを考えると【ラシド】というメロが初めに思いつく。

ラ(6th)は狭義の三和音/四和音には無い音であるため、基本的に解決に向かう力が強い。ラはドに向かおうとしている、と考えれば、【ラシド】は、かなり順当、悪く言えば当たり障りの無い、面白みのない順次上行である。
ここを【ソラド】にするとどうか。まず、Aメロ最終音のドからソに下がった段階で4度の跳躍が生じており、更にラからドに戻るときにも跳躍するという、ダイナミックさが生まれる

Bメロは全体的に音が飛び回り、1, 3拍目(コードの変わり目)に位置するメロもルートに対して7thだったり13thだったり、複雑なコードワークを持っているため、この【ソラド】という導入は、Bメロのもつ雰囲気を提示する上で非常に役立っているといえそうだ。

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上:ソラド(実際) 下:ラシド

30小節目(Bメロ4小節目)の3拍目、やけにMaj7th(実音レ♯)が強く叩かれているのが気になった。他の和音内の音を掻き消すほどで、堅い響きになっている。2番では入っていないため故意なのだろう。これが「一人ひとり違う生き方の香り」の暗喩だとしたら、そのセンスには地に伏す他ない。

いや、それを言ったら、Bメロそのものがバリエーション豊かな香りを持っている。まさに歌詞を表現した音楽を奏でていた。ちょっと魔改造してみましょうか……。

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特徴的なノンダイアトニックコードやテンションを外して、メロディの跳躍を小さくしてみた。悪くはない、けど、やっぱりあっさりしすぎてしまう。

このBメロ、練り上げられているのでここだけでも必聴!

 

サビでは、〈不思議で〉〈パァっと色〉〈素敵な今日〉の上行音型が印象的。〈暮らし〉のハイトーン、美しいね。

変わって 其れもありふれて〉。かなりハッとさせられる歌詞だ。変化は世の常で、いずれ変わった事実すら忘れられ、日常のひとつとして受け入れられていく。
【変わっていく世にあって、この瞬間はもう二度と訪れない。だから繰り返しのように思えても、「変わらない日々」を楽しもう……】とはよく語られる内容ではあるが、変化したものが"ありふれたもの"になるという時間的レンジの広い視点は、私にフレッシュな気付きをもたらしてくれた。

2AはリハーモナイズされてⅣからスタートする。2番の歌詞も素敵滅法に心を打つので、ぜひ味わってほしい。曲を聴いて自らを取り巻く環境を見渡してみると、彩度が上がっているはずだ。 

 

 

S


SHADOWS ON THE GROUND/Yellow Magic Orchestra
作詞:坂本龍一高橋幸宏ピーター・バラカン(英訳)
作編曲:坂本龍一高橋幸宏

SHADOWS ON THE GROUND

SHADOWS ON THE GROUND

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1983年12月14日リリース、8th album『SERVICE』より。

このアルバムは、YMOの歴史の中では最終盤に位置している。前作の『浮気なぼくら』が最後のアルバムの予定だったのに、"散開"ツアー中になぜかもう1枚リリースされたのが本作である。ある意味ボーナスステージ。

後期のYMOは、代表曲の「RYDEEN」や「TECHNOPOLIS」とは一線を画す、ポップスライクな歌モノ楽曲が多い。たまにYMOのことをインストバンドだと思っている方がいるが、そんなことはない。めっちゃ歌う。ユキヒロ(Dr. 高橋幸宏)がクセ強めに歌う

 

といったところで、この曲はぜひ頭から飛ばさずに聴いてほしい。少なくとも2分くらいまでは。

 

……聴いていただけましたか?

 

 

拍、ズレませんでした?

 

 

振り返ってみよう。イントロは以下の譜面のように聞こえていたのではないだろうか。

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進んでいこう。ヴォーカルが入ってくる。譜面を見ながらサンプル音源を聞いてみてほしい。イントロから普通に聞いていればこうなるはずだ(最上段がヴォーカル)。

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まだまだ行く。歌がワンフレーズ終わると、スネアのアタックが入ってくる。通常の8beatとは異なり、遅れて最後の弱拍に位置しているのが珍しい。独特のノリになる。

(サンプル音声は、スネアが入る前の4小節を含めている)

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 もうワンコーラスあってから、さあ、サビ……

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あれれぇ~~おかしいぞぉ~~?↗

サビに入った瞬間、どっかで8分音符ぶん余計な拍が入り、スネアは通常の8beat(つまり3つめに強勢)を叩き始めたように聞こえたのではないだろうか。

はて、と思って20秒ほど戻って聴き直しても、もうスネアはただの8beatにしか聞こえない。サビには何の違和感もなく突入していく。変拍子の面影はそこには無い。

さっきのは何だったんだ? と狐につままれたような気分……。こわいですね~~~

 

 

お分かりいただけただろうか?

別に、サビで変拍子になるわけではない。最初っからこの曲が半拍遅れて聞こえていたのだ

冒頭からそう聞こえていただけ。思い違いをしているのはこちらの方だ。だから、4つめに入っていて不思議に聞こえた8beatも、こちらの勘違い。本来は半拍早いので、こういった楽譜になるはずである(サビ前)。

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これを踏まえ、今度は1拍ずつ手拍子をつけて冒頭部分を聞いてみよう。

 

こう聴くと、拍感を惑わせてくる一番の要因は、強拍に先んじるベースと思われる。私は、和音もベースも、アウフタクトで出ていると種明かしがなされた後も、最初から聴き直すとまたもや最初の聴感に戻ってしまい、サビの部分で「あぁっ! 拍が余った!」と悶えるということを優に200回以上は繰り返してきた。

〈Maybe it's just an illusion〉という歌詞があるが、奇術はこの曲そのものだよ全くもう……。

 

「頭の拍が取れない」ことについては山下達郎も言及していたようで、こうしたトリッキーな曲を狂いなく演奏できるYMOの技術を称賛したのだとか。

たまに、ポップスやアニソンでも、「最初思った拍とズレてたな~てへっ」ということはあるが、ここまで長回しで感覚を狂わせてくる曲は珍しい。

最初っから間違いなく聴けてたよ!」という方は教えてください。今までどんな音楽聴いて耳鍛えてきたか質問攻めにしてやらァ。

 

ヴァースの継ぎ目で、〈insight〉と〈Inside〉、〈ice〉と〈I〉を掛けているのも"歌詞"として上手いポイント!

 

 

おわりに


 

めっちゃ長くなっちゃった……。
最後まで読んでくださったそこのあなた。音楽中毒か活字中毒ですね。ありがとうございます。

曲選定の方法からして適当ぶっこいたので、構成を考えることもせず、いつも以上に私の頭の中をそのままお見せした感じの記事になった。

1曲でも、印象に残った、あるいは印象が変わった曲があればウレシノキワミである。

 

来年も良い曲との出会いが多からんことを!