論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

『羅小黒戦記』を観た日の完全なるメモ

イルリキウムです。

 

私には、映画を観る習慣がまるで無い。
映画館に足を運ぶことはもちろん少ないし、映像媒体をレンタルすることはほぼ皆無だ。定額動画配信サービスでは専ら麻雀番組を見ている。

私が映画館に行かない理由は、寝てしまうのが怖いからだ。

何しろ、ひとりでふかふかの椅子に背中を預けてしまったら、よほど活力のある日でなくては寝てしまう。これはマジだ。どれだけ大きな音がしていても、である。
巻戻しの効かない映像を、せっかく大画面で観ているのに、一瞬でも見逃したらもったいない。そういう意識はあるのだが、睡魔はやる気に勝る。常勝軍団スイマーズ。なんか水泳してるみたいになってしまった。

 

しかし今日の私は強気だった。スーパー銭湯で当直明けの体を癒し、昼寝までかましたからだ。こりゃー絶対寝ないわ、スイマーズ見てろよ土付けたるわ。

実は、少し前から、ひとりのフォロワー氏が『羅小黒戦記』を激オススメしていらっしゃったため、気になってここ数日上映館を調べていたのである。加えて、他コミュニティの友人からも、この映画についての好い評価を聞いた。異なる界隈の知人3人以上が高評価を下したものは、一定の信頼に足ると考えている。これはチャンスだ。

 

てなわけで、何年振りかも分からない(もしかすると初めてかもしれない)が、私はひとりで映画館へと赴いた。

 

しかし、間もなく公開終了であるせいか、パンフレットが売り切れてしまっていた。ライブ公演と映画鑑賞の際は必ずパンフレットを購入し、記憶を喚び起こす道具としている私にとっては、かなり残念なことだ。

よって、今回はブログに思い出せることをメモ書きする形で残しておこうと思う。パンフレットは、他の劇場の近くを通ったら売店をチェックしてみよう。あるといいな。

 

 

以下では映画の内容に触れるので、これから作品を観る予定の方は目を通さないことを推奨する。

なお、鑑賞にあたって、予習は全くしていない。知っていたのは「シャオヘイという妖精の話」「中の人は花澤香菜」という2点くらいだ。事後の考察もしていない。そう、ホントにメモである。どこからどう見てもメモである。箇条書きだし。だから何も参考にしないように。

 

 

luoxiaohei-movie.com

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

・妖精がスマホ弄ってんの新鮮。現代の話だというこれ以上ない印象付け。アニメで描かれる携帯がスマホに変化してきたことに関する論考をどこかで目にしたことがあるが、こうしたフィクションにおける"時代の遷移"の表現は、現実世界と同期していればさほど意識されないことがほとんど。それがなんだ、今回は妖精だもんな。意識しないわけにはいかない。〈人間が自分たちの住みよいように自然に手を加えていったせいで……〉とか、〈別種族が反目し合うのか、手を取り合って共栄の道を模索するのか……〉とかといった、割とメジャーなテーマを分かり易く打ち出してはいるものの、「いやそうはいっても妖精なんていないしな~~」と、やっぱりフィクションとしてスクリーンを眺めていた。そこにスマートフォンという大層身近な存在が映ることで、「うお、これは他人事じゃないかも」と意識付けされた

 

・このスマホのシーン、単純にいいな。ムゲンの仲間たちが自然体だ。そんで、ムゲンがほとんど喋らず、周囲の面々とシャオヘイの関わりに目配せしているのがめちゃくちゃ良い。どう考えてもシャオヘイに対する彼のアプローチは強引だし、圧倒的強者がよくやるコミュ障っぷりを遺憾なく発揮していた。でもすっごく気に掛けてるんだよなー

 

・「本当に才能があった」「アクシデントだ」とかの一言ムゲンさん最高っすね。細かい場面割りのコミカルシーンの効果は大きい。そういやあの、主が死んだと勘違いした小坊主のシーンはなんだったんだ。めっちゃポップな放射状の背景じゃなかったか。いや面白かったけども

 

・ムゲンの「善悪が分かるか?」という台詞も印象深い。私は小児科で日々子どもたちに接している中で、5-6歳の子らが"裏のある優しさ"を敏感に嗅ぎ取るということを学んでいる。あのくらいの年頃の子は、理屈で善悪を判断しない。その後、フーシーから人間への恨み語りを聞かされたシャオヘイの心の揺れっぷりはいかばかりであったか。そして、「善悪が分かるか?」は、「お前の中に、ちゃんと答えがあるだろ」に繋がっている。ムゲンがフーシーのことを一度も〈自らとシャオヘイの共通の敵〉と認識していないのが切実だ。弟子の精神的成長を促し、結実させる、すごい指導者だ。師匠……!

 

・とはいうけどさ、やっぱりフーシーも打算だけじゃなかったと思うのよ。多分、最初3人のヤンキーにシャオヘイを襲わせたのはマッチポンプだろうけど(そうだよね、その解釈が一番しっくりくる)、最期には謝ってたもんな……。自らと同じように憂き目に遭ったシャオヘイのことを仲間だと思う意識はずっと持っていたはずで。やー、暴走しちゃう系実はいい人の悪役ってしんどいよ。「死ね」まで言っちゃったもんフーシー。あれ敗北フラグだもん。まあ私バトルの辺りはずっと泣いてましたけど

 

・いやムゲンさん、相手の精神世界に入り込むという圧倒的不利な状況下で、あんだけ立ち回れるのやべぇよ。かっこよすぎ。そしてな、シャオヘイの服をはたいて整えてあげるあのシーンね……。あれ最大の見せ場だわ。あと最後も最後、エンドロールが終わったラストに出てくるムゲンさんの昔のお家ね。色々思うところはあるけど、ちょっとうまく言語化できないのでペンディング

 

・チョーさんと芳忠さんが並んで喋ってるのアツい。あの2人が神妙に会話しているのを10分くらい聴いていたいわ

 

・花の妖精、"市井の人"感がものすごいな、と思ったら宇垣さんかーーい

 

・あ、劇伴も結構楽しかったんですが眠いのでまたの機会に

サクレレモンは、やはり美味しかった

冬は風呂に限る。

いや、夏もお湯に浸かることがあるほどには風呂好きで、肩まで浸かっては「に゛ほ゛ん゛じ゛ん゛~~」と唸るほどには日本人な私であった。前言撤回、年中風呂に限る(ちなみに「じ」に「゛」は熟練の日本人しか発音できない)。

がさごそと箱から適当に選んで浴槽に放り込んだ入浴剤は、爽やかな柚子の香りを浴室中に撒き散らした。そのせいか、私の頭の中は「風呂上がったらサクレレモン買いに行こう」という思考でいっぱいになってしまった。

 

左手に残る抜け毛の数に戦慄しながらも髪の毛を乾かし切り、いやいや季節の変わり目だから、猫っ毛だから、そもそもうち禿げずに白髪になる家系だから、この前行った美容院のイケメソ副店長も「全然髪薄くないっすよォサラサラっすォマジで」って言ってたから、と自分を騙くらかしつつ、湯冷めしないような服に着替えた。

お目当てのサクレレモン(スライスレモンが入ったかき氷。おいしい)は、近くのコンビニと、スーパーなんだか薬局なんだか分からないデカ便利店舗のどっちかに売っていたはずだ。どちらも24時間営業である。徒歩圏内に年中無休の食料品調達手段があるんだもんな、さすがに田舎とは言えないな、と客観的に実家の立地を評価する。

 

玄関を開けると、雨を思わせる独特の匂い、いわゆるペトリコールが漂っていた。実際に足元のアスファルトは斑に濡れている。雨が降ったのか。気付かなかった。そういえば高校時代、東京在住の友達と一緒に雨上がりの道を歩いているときにペトリコールの話題になったが、「雨の匂いなど知らん。鼻の利く田舎者め」と理不尽に罵られた記憶がある。しかし私はアレルギー性鼻炎を患っているので、圧倒的に鼻は利かない。その事実が、より一層「ペトリコールを意識するのは田舎者だけだ」という彼女の意見を鮮やかに映し出した。先ほどの"徒歩圏内に24時間営業の店があれば田舎じゃない"説が俄かに怪しくなってきた。私はただの鼻が利かない田舎者だったのか。つらい。

 

禍々しいほどの鱗雲と、その隙間から僅かに届く月明かりに見守られながら、コンビニに向かって夜道をすたすた歩く。

ふと、なぜ自分が旅行嫌いなのか、その理由のひとつが思い浮かんだ。恐らく、自分の好きなタイミングで一人になったり話し相手を作ったりすることができないからだ。

私は誰か(この「誰か」とはすなわち、語彙レヴェルが同等で、互いのモノの考え方と趣味嗜好をある程度理解している間柄を指す)と話しながら散歩に興じるのも好きだし、一人(この「一人」とはすなわち、ヒトのみならず、メップルやランやバニラやルナやリボーンなど話し相手となり得る人外も伴わない、イルリキウム単独のことを指す)で知らない街を歩くのも同じく好きである。

そして自分勝手なことに、一人でいたいフェイズと、誰かと一緒にいたいフェイズが、かなり頻繁に入れ替わり襲ってくる。

近場であれば、誰かが欲しくなれば誘ってみたり電話したりすることも可能だし、逆に一人になりたくても、早々に解散してまた後日改めて足を伸ばすことが出来る。だが旅行となるとそうはいかない。「ねえさ、いま暇? ちょっと一緒に散歩しない?」「え、どこいるの?」「四条烏丸」。これでは音速で友達を減らす。ちなみに私は千葉在住である。

話し相手になってくれるようなコピーロボットが欲しいなあ、もし今度ドラえもんの道具で何が欲しい、って訊かれたら、コピーロボットって答えるか、いやコピーロボットドラえもんじゃないや、同じ作者の別作品だ。遠くで呼んでる声がする。

 

コンビニに入ってすぐ、棚の商品がいつもより少ないことに気が付いた。張り紙によると、どうやら新しい冷凍庫が入るらしく、そのために店内を整理している最中のようだ。最も煽りを食っているのは当然冷凍食品とアイスで、品揃えは普段の半分ほどだった。氷点下でしか生きられないなんて実に儚い。

かくしてサクレは、まるで福澤朗の一声によってアメリカ行きへの夢を閉ざされたクイズファンのように、情け容赦なく店頭からリストラされてしまっていた。おそらく一時的なリストラだろうが、なんともまあ儚い。

 

コンビニを手ぶらで後にし、薬局スーパーデカ便利店舗に歩を進める。

ところで私はスーパーが好きだ。薬局併設のではなく、純然たるスーパーが好きだ。小さな頃から母親に付き従って夕飯の買い出しなどに繰り出していたときの記憶も良い方向に作用しているだろうが、大人になってから思うのは、スーパーは幸せの香りを纏わせているから好きなのではないか、ということだ。

三千世界の鴉を殺したそうな顔をして、安くなった弁当を手に取っているサラリーマンは見かけるが、少なくとも、悲壮感溢れる顔でカートを引いている大人はほとんどいない。基本的に、みんなうきうきしているのがスーパーだ。「今日の夕飯は何にするー?」「んー、メルジメッキ・チョルバス!」という親子の会話が聞こえてくるようである。

つまりスーパーは、家計を同一にする人間が、この後ともに食事することを前提に集う場所なのである(例外は多いが)。様々な家庭の交錯するハッピーオーラをその身いっぱいに浴びながら選ぶ合挽き肉の、なんと美味しそうに見えることか。

だからデートするならスーパーが良い。同一家計ごっこができるから。

実は大学時代の同期とたまに一緒にスーパーへ行くが、いやもう、隣でカートを押す彼女のことを見ていると、正直言って新婚の気分だ。「バルサミコ酢欲しいんだよね~」なんて、私の小説に出てくる新婚キャラに絶対喋らせたい台詞をリアルで口にしてくれる。こんなこと彼女に言ったらカートの力を借りて爆速で引かれてしまうに違いないのでおくびにも出せないが。なお我が嫁氏は料理にさほど興味がなさそうなので、多分バルサミコ酢なんて欲しがらない。何せ私が念入りに一個売りトマトの選別をしていると、「どれも胃に入っちまえば一緒だよ」と宣うほどの豪胆である。【横文字+漢字】の調味料なんてそもそも知らない可能性すらあ、ごめん殴らないで

 

そんなことを考えながら、体は勝手に任務を遂行しようとしていた。スーパー薬局の冷凍庫にはしっかりとサクレレモンが鎮座しており、その目立つ黄色いパッケージは、スーパー薬局というややくすんだ空間に存在する正当性を主張しているように思えた。

 

レジでは、私が大学時代に塾で教えていた子が応対してくれた。顔と声では一切分からなかったが、この時代にフルネームを名札にバビョーンと記してくれているため、気付くことができた。とは言え、こちらもマスクをしているし、何ならこの前眼鏡を変えたばかりで雰囲気も変わっているだろう。やはり向こうが気付く素振りは無い。

当時は高校生だったのに。そうか、今は深夜バイトも出来る歳になったんだなあ。

そんな感慨に耽る私の胸に、彼女の眠そうな「ありがとうございました」がじんわりと広がっていった。

Merry Songs Project「あみゅ~ずめんと」を聴けば在宅アミューズメントパーク気分になれるって話

イルリキウムです。

 

先日、サークル・魚座アシンメトリーの新盤「side by side」をレヴューした。

今回は、時を同じくしてリリースされた、

Merry Songs Project
2nd album「あみゅ~ずめんと」

について全曲語っていこうと思う。

 

twitter.com

 

このアルバム、2020秋M3前から界隈では話題になっていた。

何せアレンジャーに、若手ドラマー界にその名を轟かす山本真央樹氏 (DEZOLVE) を迎えていたからだ。
加えて、ストリングスアレンジの駿才、Tansa氏も名を連ねる。
他にもなっさん氏、みかんもどき氏、友田ジュン氏 (DEZOLVE) ……。脇を固めるメンバーが豪華なこと。

私は、MOタクコンピで主宰のHappiyaさんの名前を知った。その頃から、彼の書く曲には心を動かされると感じていたのだが、今回アルバムで彼の作風の幅広さを思い知らされた。
通底する"らしさ"のようなものはありつつ、多彩なジャンルを違和感なく仕上げていて、脱帽の一言である。

そして、詞とヴォーカルを担当している奏さんの仕事にもまた凄みを感じる。「これは……!」と立ち止まって歌詞カードを開かせるような、光る言葉選びが随所にある。

 

ところで、私が楽曲語りをする際は、情報を方々から搔き集めて自分の感想に織り交ぜる、という手法を取ることが多い。
それは、他のリスナーの感想ブログであったり、公式がぽろっと漏らしたツイートでああったりするのだが、今回は、Happiyaさん自らが裏話を語ってくれている
自分の好きな楽曲が完成するまでに、何が起こったかを制作陣が明かしてくれる……。こんなに面白く、ワクワクすることはない。

というわけで、ぜひ皆さんそちらもご一読あれ。
(2020/11/21現在、Tr.5までの秘話がアップされている)

note.com

 


 

M1. Sparking Parade (feat. 妃苺)

Vocal:妃苺
Lyrics:奏
Music:Happiya
Arr.:山本真央
Guitar:なっさん

 

これが……真央樹さんのカワイイポップ……!

プログレッシヴのド最先端を突っ走るヤバいドラマーさんのイメージが強かったこともあり、私は、彼の"こういう曲を書く"側面を知らなかった。

Happiyaさんがプログレでいくかカワイイでいくか悩んだというエピソードを明かしてくれたり、なまおじさんが感情を爆発させていたりするのを見て、真央樹さんの新たな一面を見るに至ったのである。

控えめに言って、神。天才。近寄れない。

 

実は、前述したブログにて、原曲をHappiyaさんが公開してくれている。

この時点でとっても可愛くて、Ⅰ→Ⅳ→Ⅰってなんでこんなに可愛いんでしょうね、っていう。部分転調も欲しいところにすっと差し込まれていて、これがまた可愛い。ここまでで可愛いって何回言ったでしょうか。

サビメロの弱起で入る【シドラ|ソ】、この跳躍ですよ……!
耳に残るライン。気付くと口遊んでいる。サビ頭なのでこのフレーズを歌い始めたらサビ全部歌わないと気が済まない。

 

真央樹さんによるアレンジドver.を聴き直すと、随所にリハモが施されていて、一部ベースラインも異なっている。

Ⅰ→Ⅳが好きなのには言及したが、イントロ・Aメロでベースが【ド ド ドレミファ】と一音ずつ動いていくのは更に良い。サブドミに向かって階段をとててて、と上がっていく感じ

あと目立つ変更点は、原曲では最後にしか無かった1小節のドラムス16分連打が、イントロやサビ前にも挿入されているところだ。なるほど、これもまた小動物的な可愛さのイメージを惹起する。

全体的に、キュートさ贅沢盛り!

まさにアミューズメントパークの入り口だ。

 

 

M2. めたもるふぉーぜ! (feat. 松下)

Vocal:松下
Lyrics:奏
Music/Arr.:Happiya
Guitar:なっさん
ガヤ隊:まくら、ふじそば、巫付き和音、NACHI、えるち

 

スカ調で、コミカルな展開を含んだ手放しで楽しめる一曲。

白眉はサビでタイトルの〈メタモルフォーゼ〉を歌い上げる箇所か。最高音のラ(実音E)まで上がるが、松下さんは地声でズバンと当てていて気持ちいい! 

既に指摘されているが、オケは結構シンプルなのだ。サビでブラスがわんさか入ってくるような騒がしさは無く、あくまでフィルイン的に華やかさを添えている。ブラスは添えるだけ。それでも、メロと歌唱力のおかげで、惹きつける力がすごい

 

絶対にここには触れたい! と思っていた部分がある。

〈チョコレートフラペチーノ〉の音ハメだ

ガヤ隊が活躍するラップパートに登場するリリックだが、そもそも、このラップが全体的にめっちゃ素晴らしい。
当方、男くさいフリースタイルから、ガールズポップの間奏周辺に挟まる申し訳程度のラップまで聴く性質だが、この曲のラップパートは本当にバランスが良い。音ハメに関しては、奏さんのセンスに拠るところが大きいだろう。天才かな?

敢えて商業アーティストの名前を挙げると、語尾のメリハリなどがNakamuraEmiさんの力強い言葉の発し方に似ている。アクセントが置かれたところをかなり強めに押し込む(〈体細胞もめる〉など)、言葉のリズムを意識した歌い方も見事だ。

あとは、東方二次創作で有名ないえろ~ぜぶらさんの楽曲にも好きな女性ラップがあるんだけど、話が逸れそうなので留めておくとして。

しかしまあ……いやーそうね……聴けば聴くほど超好きだな。誰か松下さんのラップ曲書いて。せっかくならメリソンで書いて。

 

話を戻す。以下の譜例をご覧いただきたい。

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上:単調 下:ヒャッホウゥゥ

ラップとは、言葉をリズムの構成要素として使役することだ。

ぜひ歌ってみてほしい。上段はシンコペーションを用いずに書いたもの。これだけでも、言葉自体に長音があるおかげで、それなりにノれるかもしれない。

だが、実際に歌われているのは下段のような割付けだ。縮めて押し込んだ音価から解放されたところにアクセントが置かれて伸ばされる。長音と短音がシンコペを形成する。極端にすればするほど、リズムの支配下に置かれてバイブスが上がる(?)。

縮められたところに〈ペ〉と〈チ〉があるのか……、破裂音・破擦音じゃん、そりゃリズミカルにもなるわ。「チョコレートフラペチーノ」という言葉を持ってきたセンスよ……。

 

 

M3. Above The Cloud (feat. 晋太郎)

Vocal:晋太郎
Lyrics:奏
Music/Arr.:Happiya
Guitar:高橋涼之介

 

あ~これはいい、とてもいいですねぇ(ネッチャリ
シティポップ好きのツボを的確に押さえてきていますね、あ~~そこそこ痛気持ちいい……。

Bメロでは調性を感じさせない進行によって、そしてサビ終わりのメロでは3rdで終わらせることによって、ちょっと異なる種類の浮遊感が生まれているように思う。これ何度か言ってるかもしれないけど、拙者、サビが主音で終わらない曲フェチでござる。

サビ最後に関しては、【ⅣM7/Ⅴ→Ⅳm7-5/Ⅴ→Ⅰ9】、これやこの。半音下行ね。性癖です。オルガンのほわんほわんした音も併せて、シティポップらしさが現れている進行でもある。

カッティングはみかんもどきさんで、分散和音は打ち込みとのこと。この両刀遣い、耳が喜んでいる……。

あとはソロね! ドラムソロもfusionチックでめちゃくちゃ好きだけど、このエレピソロよ。弾きたい! 私の中で「弾きたい」以上の讃辞は無いとお考えください! 弾きたい!!

晋太郎さんの声、なかなかの高音域を"攻めて"出しているという感じがして、キュンキュンきてしまう。ふっと、『under the cry』(ステイル=マグヌス/谷山紀章)を思い出した。あっちはロックだけど。

 

 

M4. Techno Girl (feat. 朔白)

Vocal:朔白
Lyrics:奏
Music/Arr.:Happiya

ご、ご、ごちそうさまです……っっ!

涎止まらん。このイルリキウム、Yellow Magic Orchestraに始まり中田ヤスタカまで、テクノポップ、シンセポップは最重要性感帯なんですよあー溶けるがな

 

掘り下げたら語りたいことが山のように出てきそうなので、こういうとき私はどうするかというと、弾きます

そして出来上がったのがこちら↓

 

休日1日を掛けるだけの、それだけの熱量を注ぎ込むだけの価値がこの曲にはあった。

コードを押さえている私には向谷実が憑依していたに違いない(YMOの教授はお尻ふりふりしながらシンセを弾かないので)。

本当は、本当はね! バスドラはもっと16分の引っ掛けを細かく入れてるし、ハイハットももっと細かいんだけど、キードラの限界と考えていただけると……!

 

演奏動画にしてしまうと、歌詞情報とヴォーカルの雰囲気が失われてしまうのだが、私は常に、頭の中に奏さんの歌詞と朔白さんの歌声を思い浮かべながら弾いていた。

可愛すぎるんだよな。〈振り向いて上がる口角はあなた以外ありえないよ〉とか〈手のひらゼロ距離〉とかさあ。

特に後者。カワイイフレーズ2020ノミネート待ったなし。
これは誇張なしに、アルバム内で最もグッと来たメロディ+歌詞だった。

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ベースが♯11thを触っているのですね。優勝

このフレーズは1番でも〈期待しちゃってる〉という歌詞で登場するのだが、サビメロはマイナーチェンジが施されている。2番の方が歌詞が多めなので、短い音価がより高頻度で登場するのだ

『Techno Girl』の素晴らしいところはこのサビメロにもある。短め(16分)の音と、長めの音が絶妙に混在しているのだ。1番のサビを見てほしい。譜面が読める方は、ぜひともなぞっていただきたい。

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オレンジが短めの音、水色が長めの音

短めのところはシンコペを盛ってリズミカルに進めていくが、そこで急に跳ね上がるようにして2拍近くの伸ばしが現れる。歌メロで後ろを適度に伸ばすのは普通と思うだろうか? 確かにそうかもしれないが、「普通」であれば、伸ばしは偶数小節の最後に置かれる。我々は、2小節や4小節の塊を脳内で作り、勝手にそこを切れ目と考えるからだ。一方、この曲は、伸ばしが奇数小節目の頭に飛び出ているのが、やや特異な点なのである。これが独特のふわふわ感を醸し出している。

 

Happiyaさんは、『七つの海のコンサート』(山下七海/作編曲:田中秀和をリファレンスとした、と語っていたが、そのオマージュ元よりも、分数augがほんのり香るくらいに抑えられていて、その分切なさが包んでくるような気がする。比べるものでもないが、私はTechno Girlの方が好みだと感じた次第である。

曲全体はロ短調なのだが、ⅥM7とⅤm7を中心にメジャーっぽい節回しがずーーっと続くので、そんなマイナーっぽくないっていうか。あと、こちらも3rdで終わってるのでめでたく性癖です。

 

 

M5. Mermaid Mythology

Vocal/Lyrics:奏
Music:Happiya
Arr.:Tansa
Guitar:なっさん
Pf., Key.:友田ジュン

 

ストーリィ仕立ての作品。AメロからBメロ、〈だけど〉と逆接をきっかけにして物語が展開していく箇所で、オケも加速してしていくのがなんとも心地良い。

なまおじ氏も指摘していて、直接2人で話もしたのだが、Tansa節というのは既に我々の中に根付いているのではないだろうか? 長い音価の合間に突如現れる、16分で半音を駆け下りるフレーズ、そして再び弾き伸ばし。なんでこんなに心を締め付けられるのか。イントロヤバい。1A後半ヤバい。間奏ヤバい。全部ヤバい(語彙力)

ピンと来ない方は、『黄昏のダイアリー』(RYUTist)の前奏の最後のところに注目して聴いてみてね。「パパパパパパヒャー↑ヒャラララ↓ヒャー」みたいなところよ。

 

www.youtube.com

 

詞を書いた人間が歌を担当することの強みが出ているような気がしてならない。モノにしているというのだろうか。意味を掴んで歌っているからこその自信が声から感じられる。〈Big Bright Smile〉の語感も素晴らしいな。

 

そんでね、毎曲毎曲ソロがいいのよ……。アルバムを通してのテーマじゃなかろうか。ソロが強い。鍵盤弾きだから感じるところもある。強いだけじゃなくて、パターンが豊富。本作はかなりパーカッシヴなフレーズでカッコいいんだ。

 

 

M6. 夢射手 (feat. ぽすとん。)

Vocal:ぽすとん。
Lyrics:奏
Music:Happiya、奏
Arr.:Happiya、なっさん
Guitar:なっさん

 

ひええ鬼の高音だ!

和ロックの基本スタイルに忠実ながら、なっさんのギターソロはかなりハードコア的でアツさが存分に出ている。好き。
C→Dメロ後のプログレ色を出したシンセは一体なんですか!?? そんなんされたらしんでしまいます

丹田〉とか〈かけ〉とか、弓道にまつわる言葉が随所に出てくるのも、曲全体のイメージを引き締めているように思う。かけは弓掛のことだろうか。漢字一文字で書くと(あるいは韘)。これクイズ番組に出るぞー(黒板カンカン)

 

あと好きだなー、と思ったのは1-2番の間奏だろうか。【Ⅰm→Ⅶ/Ⅰ→Ⅵ/Ⅰ】と、主音が通奏してコードはマイナーダイアトニックを下ってくる。力強い音型!

 

 

M7. Line

Vocal/Lyrics:奏
Music/Arr.:Happiya

ここからの2曲は、コアメンバー2人による作品。

下に示すリズムが曲を纏め上げている。ベートーヴェン7番のような「リズムの支配」である。BPMは132。その歩みは着実ながら、軽やかさも感じるテンポだ

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このパターンでスネア叩きながら川沿いを歩きたいマン参上

7thの行ったり来たりは、何か郷愁を誘うような、でもそれだけでなくて、前への推進力もイメージさせるような。

1番と2番でAメロ前半のパターンが全く異なっていて、ここも耳目を引くね。

 

あーーーこれ! これだ! メロを2ndで終わらせるやつ!

数ある終止の中で一番好きなやつよね……M7の上に乗っているこれ。9thの香りがふわっとするんですよ。すとん、とあるべき場所には収まらないよ、次に進んでいくよ、っていう意識を感じるメロディ。私の中では2ndも解決しているうちに入ります(暴論)

これどっかで話したかな……、と思ったら、『逆光』(坂本真綾/作曲:伊澤一葉)だ!

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こんなにトニック終止を避けるなんて、私を歓ばせるために作られたアルバムなのだろうかと疑ってしまうほどである。

 

M8. 青春の架け橋

Vocal/Lyrics/Pf.:奏
Music/Arr.:Happiya

 

主に泣いてます東村アキコ

アーティキュレーションの使い方が効いた鍵盤が、この曲のエモーショナルな温かさを増幅させている。

2サビ前のウッドベース+鍵盤のユニゾン、泣かせに来ているな……。

 

〈終わらない夢を描くこの道には 数えきれないくらいの音 きっと僕の証〉

なんて良い歌詞でしょう。私も振り返ったときに、たくさんの愛すべき音たちが笑顔で迎えてくれるといいなぁ。

 


 

はーー、素敵な曲に囲まれて幸せ。

 

 

【参考】

なまおじ氏の感想記事もぜひぜひ。

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