イルリキウムです。
先日、サークル・魚座とアシンメトリーの新盤「side by side」をレヴューした。
今回は、時を同じくしてリリースされた、
Merry Songs Project
2nd album「あみゅ~ずめんと」
について全曲語っていこうと思う。
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このアルバム、2020秋M3前から界隈では話題になっていた。
何せアレンジャーに、若手ドラマー界にその名を轟かす山本真央樹氏 (DEZOLVE) を迎えていたからだ。
加えて、ストリングスアレンジの駿才、Tansa氏も名を連ねる。
他にもなっさん氏、みかんもどき氏、友田ジュン氏 (DEZOLVE) ……。脇を固めるメンバーが豪華なこと。
私は、MOタクコンピで主宰のHappiyaさんの名前を知った。その頃から、彼の書く曲には心を動かされると感じていたのだが、今回アルバムで彼の作風の幅広さを思い知らされた。
通底する"らしさ"のようなものはありつつ、多彩なジャンルを違和感なく仕上げていて、脱帽の一言である。
そして、詞とヴォーカルを担当している奏さんの仕事にもまた凄みを感じる。「これは……!」と立ち止まって歌詞カードを開かせるような、光る言葉選びが随所にある。
ところで、私が楽曲語りをする際は、情報を方々から搔き集めて自分の感想に織り交ぜる、という手法を取ることが多い。
それは、他のリスナーの感想ブログであったり、公式がぽろっと漏らしたツイートでああったりするのだが、今回は、Happiyaさん自らが裏話を語ってくれている!
自分の好きな楽曲が完成するまでに、何が起こったかを制作陣が明かしてくれる……。こんなに面白く、ワクワクすることはない。
というわけで、ぜひ皆さんそちらもご一読あれ。
(2020/11/21現在、Tr.5までの秘話がアップされている)
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M1. Sparking Parade (feat. 妃苺)
Vocal:妃苺
Lyrics:奏
Music:Happiya
Arr.:山本真央樹
Guitar:なっさん
これが……真央樹さんのカワイイポップ……!
プログレッシヴのド最先端を突っ走るヤバいドラマーさんのイメージが強かったこともあり、私は、彼の"こういう曲を書く"側面を知らなかった。
Happiyaさんがプログレでいくかカワイイでいくか悩んだというエピソードを明かしてくれたり、なまおじさんが感情を爆発させていたりするのを見て、真央樹さんの新たな一面を見るに至ったのである。
控えめに言って、神。天才。近寄れない。
実は、前述したブログにて、原曲をHappiyaさんが公開してくれている。
この時点でとっても可愛くて、Ⅰ→Ⅳ→Ⅰってなんでこんなに可愛いんでしょうね、っていう。部分転調も欲しいところにすっと差し込まれていて、これがまた可愛い。ここまでで可愛いって何回言ったでしょうか。
サビメロの弱起で入る【シドラ|ソ】、この跳躍ですよ……!
耳に残るライン。気付くと口遊んでいる。サビ頭なのでこのフレーズを歌い始めたらサビ全部歌わないと気が済まない。
真央樹さんによるアレンジドver.を聴き直すと、随所にリハモが施されていて、一部ベースラインも異なっている。
Ⅰ→Ⅳが好きなのには言及したが、イントロ・Aメロでベースが【ド ド ドレミファ】と一音ずつ動いていくのは更に良い。サブドミに向かって階段をとててて、と上がっていく感じ。
あと目立つ変更点は、原曲では最後にしか無かった1小節のドラムス16分連打が、イントロやサビ前にも挿入されているところだ。なるほど、これもまた小動物的な可愛さのイメージを惹起する。
全体的に、キュートさ贅沢盛り!
まさにアミューズメントパークの入り口だ。
M2. めたもるふぉーぜ! (feat. 松下)
Vocal:松下
Lyrics:奏
Music/Arr.:Happiya
Guitar:なっさん
ガヤ隊:まくら、ふじそば、巫付き和音、NACHI、えるち
スカ調で、コミカルな展開を含んだ手放しで楽しめる一曲。
白眉はサビでタイトルの〈メタモルフォーゼ〉を歌い上げる箇所か。最高音のラ(実音E)まで上がるが、松下さんは地声でズバンと当てていて気持ちいい!
既に指摘されているが、オケは結構シンプルなのだ。サビでブラスがわんさか入ってくるような騒がしさは無く、あくまでフィルイン的に華やかさを添えている。ブラスは添えるだけ。それでも、メロと歌唱力のおかげで、惹きつける力がすごい。
絶対にここには触れたい! と思っていた部分がある。
〈チョコレートフラペチーノ〉の音ハメだ。
ガヤ隊が活躍するラップパートに登場するリリックだが、そもそも、このラップが全体的にめっちゃ素晴らしい。
当方、男くさいフリースタイルから、ガールズポップの間奏周辺に挟まる申し訳程度のラップまで聴く性質だが、この曲のラップパートは本当にバランスが良い。音ハメに関しては、奏さんのセンスに拠るところが大きいだろう。天才かな?
敢えて商業アーティストの名前を挙げると、語尾のメリハリなどがNakamuraEmiさんの力強い言葉の発し方に似ている。アクセントが置かれたところをかなり強めに押し込む(〈体細胞もとめる〉など)、言葉のリズムを意識した歌い方も見事だ。
あとは、東方二次創作で有名ないえろ~ぜぶらさんの楽曲にも好きな女性ラップがあるんだけど、話が逸れそうなので留めておくとして。
しかしまあ……いやーそうね……聴けば聴くほど超好きだな。誰か松下さんのラップ曲書いて。せっかくならメリソンで書いて。
話を戻す。以下の譜例をご覧いただきたい。
ラップとは、言葉をリズムの構成要素として使役することだ。
ぜひ歌ってみてほしい。上段はシンコペーションを用いずに書いたもの。これだけでも、言葉自体に長音があるおかげで、それなりにノれるかもしれない。
だが、実際に歌われているのは下段のような割付けだ。縮めて押し込んだ音価から解放されたところにアクセントが置かれて伸ばされる。長音と短音がシンコペを形成する。極端にすればするほど、リズムの支配下に置かれてバイブスが上がる(?)。
縮められたところに〈ペ〉と〈チ〉があるのか……、破裂音・破擦音じゃん、そりゃリズミカルにもなるわ。「チョコレートフラペチーノ」という言葉を持ってきたセンスよ……。
M3. Above The Cloud (feat. 晋太郎)
Vocal:晋太郎
Lyrics:奏
Music/Arr.:Happiya
Guitar:高橋涼之介
あ~これはいい、とてもいいですねぇ(ネッチャリ
シティポップ好きのツボを的確に押さえてきていますね、あ~~そこそこ痛気持ちいい……。
Bメロでは調性を感じさせない進行によって、そしてサビ終わりのメロでは3rdで終わらせることによって、ちょっと異なる種類の浮遊感が生まれているように思う。これ何度か言ってるかもしれないけど、拙者、サビが主音で終わらない曲フェチでござる。
サビ最後に関しては、【ⅣM7/Ⅴ→Ⅳm7-5/Ⅴ→Ⅰ9】、これやこの。半音下行ね。性癖です。オルガンのほわんほわんした音も併せて、シティポップらしさが現れている進行でもある。
カッティングはみかんもどきさんで、分散和音は打ち込みとのこと。この両刀遣い、耳が喜んでいる……。
あとはソロね! ドラムソロもfusionチックでめちゃくちゃ好きだけど、このエレピソロよ。弾きたい! 私の中で「弾きたい」以上の讃辞は無いとお考えください! 弾きたい!!
晋太郎さんの声、なかなかの高音域を"攻めて"出しているという感じがして、キュンキュンきてしまう。ふっと、『under the cry』(ステイル=マグヌス/谷山紀章)を思い出した。あっちはロックだけど。
M4. Techno Girl (feat. 朔白)
Vocal:朔白
Lyrics:奏
Music/Arr.:Happiya
ご、ご、ごちそうさまです……っっ!
涎止まらん。このイルリキウム、Yellow Magic Orchestraに始まり中田ヤスタカまで、テクノポップ、シンセポップは最重要性感帯なんですよあー溶けるがな
掘り下げたら語りたいことが山のように出てきそうなので、こういうとき私はどうするかというと、弾きます。
そして出来上がったのがこちら↓
休日1日を掛けるだけの、それだけの熱量を注ぎ込むだけの価値がこの曲にはあった。
コードを押さえている私には向谷実が憑依していたに違いない(YMOの教授はお尻ふりふりしながらシンセを弾かないので)。
本当は、本当はね! バスドラはもっと16分の引っ掛けを細かく入れてるし、ハイハットももっと細かいんだけど、キードラの限界と考えていただけると……!
演奏動画にしてしまうと、歌詞情報とヴォーカルの雰囲気が失われてしまうのだが、私は常に、頭の中に奏さんの歌詞と朔白さんの歌声を思い浮かべながら弾いていた。
可愛すぎるんだよな。〈振り向いて上がる口角はあなた以外ありえないよ〉とか〈手のひらゼロ距離〉とかさあ。
特に後者。カワイイフレーズ2020ノミネート待ったなし。
これは誇張なしに、アルバム内で最もグッと来たメロディ+歌詞だった。
このフレーズは1番でも〈期待しちゃってる〉という歌詞で登場するのだが、サビメロはマイナーチェンジが施されている。2番の方が歌詞が多めなので、短い音価がより高頻度で登場するのだ。
『Techno Girl』の素晴らしいところはこのサビメロにもある。短め(16分)の音と、長めの音が絶妙に混在しているのだ。1番のサビを見てほしい。譜面が読める方は、ぜひともなぞっていただきたい。
短めのところはシンコペを盛ってリズミカルに進めていくが、そこで急に跳ね上がるようにして2拍近くの伸ばしが現れる。歌メロで後ろを適度に伸ばすのは普通と思うだろうか? 確かにそうかもしれないが、「普通」であれば、伸ばしは偶数小節の最後に置かれる。我々は、2小節や4小節の塊を脳内で作り、勝手にそこを切れ目と考えるからだ。一方、この曲は、伸ばしが奇数小節目の頭に飛び出ているのが、やや特異な点なのである。これが独特のふわふわ感を醸し出している。
Happiyaさんは、『七つの海のコンサート』(山下七海/作編曲:田中秀和)をリファレンスとした、と語っていたが、そのオマージュ元よりも、分数augがほんのり香るくらいに抑えられていて、その分切なさが包んでくるような気がする。比べるものでもないが、私はTechno Girlの方が好みだと感じた次第である。
曲全体はロ短調なのだが、ⅥM7とⅤm7を中心にメジャーっぽい節回しがずーーっと続くので、そんなマイナーっぽくないっていうか。あと、こちらも3rdで終わってるのでめでたく性癖です。
M5. Mermaid Mythology
Vocal/Lyrics:奏
Music:Happiya
Arr.:Tansa
Guitar:なっさん
Pf., Key.:友田ジュン
ストーリィ仕立ての作品。AメロからBメロ、〈だけど〉と逆接をきっかけにして物語が展開していく箇所で、オケも加速してしていくのがなんとも心地良い。
なまおじ氏も指摘していて、直接2人で話もしたのだが、Tansa節というのは既に我々の中に根付いているのではないだろうか? 長い音価の合間に突如現れる、16分で半音を駆け下りるフレーズ、そして再び弾き伸ばし。なんでこんなに心を締め付けられるのか。イントロヤバい。1A後半ヤバい。間奏ヤバい。全部ヤバい(語彙力)。
ピンと来ない方は、『黄昏のダイアリー』(RYUTist)の前奏の最後のところに注目して聴いてみてね。「パパパパパパヒャー↑ヒャラララ↓ヒャー」みたいなところよ。
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詞を書いた人間が歌を担当することの強みが出ているような気がしてならない。モノにしているというのだろうか。意味を掴んで歌っているからこその自信が声から感じられる。〈Big Bright Smile〉の語感も素晴らしいな。
そんでね、毎曲毎曲ソロがいいのよ……。アルバムを通してのテーマじゃなかろうか。ソロが強い。鍵盤弾きだから感じるところもある。強いだけじゃなくて、パターンが豊富。本作はかなりパーカッシヴなフレーズでカッコいいんだ。
M6. 夢射手 (feat. ぽすとん。)
Vocal:ぽすとん。
Lyrics:奏
Music:Happiya、奏
Arr.:Happiya、なっさん
Guitar:なっさん
ひええ鬼の高音だ!
和ロックの基本スタイルに忠実ながら、なっさんのギターソロはかなりハードコア的でアツさが存分に出ている。好き。
C→Dメロ後のプログレ色を出したシンセは一体なんですか!?? そんなんされたらしんでしまいます
〈丹田〉とか〈かけ〉とか、弓道にまつわる言葉が随所に出てくるのも、曲全体のイメージを引き締めているように思う。かけは弓掛のことだろうか。漢字一文字で書くと弽(あるいは韘)。これクイズ番組に出るぞー(黒板カンカン)
あと好きだなー、と思ったのは1-2番の間奏だろうか。【Ⅰm→Ⅶ/Ⅰ→Ⅵ/Ⅰ】と、主音が通奏してコードはマイナーダイアトニックを下ってくる。力強い音型!
M7. Line
Vocal/Lyrics:奏
Music/Arr.:Happiya
ここからの2曲は、コアメンバー2人による作品。
下に示すリズムが曲を纏め上げている。ベートーヴェン7番のような「リズムの支配」である。BPMは132。その歩みは着実ながら、軽やかさも感じるテンポだ。
7thの行ったり来たりは、何か郷愁を誘うような、でもそれだけでなくて、前への推進力もイメージさせるような。
1番と2番でAメロ前半のパターンが全く異なっていて、ここも耳目を引くね。
あーーーこれ! これだ! メロを2ndで終わらせるやつ!
数ある終止の中で一番好きなやつよね……M7の上に乗っているこれ。9thの香りがふわっとするんですよ。すとん、とあるべき場所には収まらないよ、次に進んでいくよ、っていう意識を感じるメロディ。私の中では2ndも解決しているうちに入ります(暴論)
これどっかで話したかな……、と思ったら、『逆光』(坂本真綾/作曲:伊澤一葉)だ!
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こんなにトニック終止を避けるなんて、私を歓ばせるために作られたアルバムなのだろうかと疑ってしまうほどである。
M8. 青春の架け橋
Vocal/Lyrics/Pf.:奏
Music/Arr.:Happiya
主に泣いてます(東村アキコ)
アーティキュレーションの使い方が効いた鍵盤が、この曲のエモーショナルな温かさを増幅させている。
2サビ前のウッドベース+鍵盤のユニゾン、泣かせに来ているな……。
〈終わらない夢を描くこの道には 数えきれないくらいの音 きっと僕の証〉
なんて良い歌詞でしょう。私も振り返ったときに、たくさんの愛すべき音たちが笑顔で迎えてくれるといいなぁ。
はーー、素敵な曲に囲まれて幸せ。
【参考】
なまおじ氏の感想記事もぜひぜひ。
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