論理の感情武装

PDFに短し、画像ツイートに長し

VTuberというコンテンツとの距離感を測り続けている

イルリキウムです。

 

私の人生に、バーチャルYouTuber(以下、VTuber)を推すフェイズが訪れた。

一生来ない可能性もあったのだが、VTuber界隈と、私の趣味との接点は多すぎるほどあり、最も私の守備範囲Venn図全体に覆いかぶさっていたのは、おそらくVTuberというコンテンツだっただろう。

 

そんな私が、とあるVTuberのニコニコチャンネルプラス登録、pixivFANBOX支援、果てはメンバーシップ登録をするに至るまでの思考過程を、ここに簡単にまとめておくこととする。

 

これがVenn図

これまで私がVTuberにハマりきれなかった理由は大きく3点から成っていたように思う。

一つは可処分時間のコストVTuberさんは長時間配信を武器としている方が多いように見受けられ、与えられたコンテンツを片端から消化吸収したいバキュームコレクターの私は尻込みしていた。積読本が優に200冊を超え、積聴曲(つんぎききょく:そんな言葉は無い)が優に1000曲を超えるこの状況で、更に他のコンテンツに時間を割くためには、それこそ仕事を辞めて医師免許を持っているだけのフリーターにならなくてはならない。なにその人生。実家に帰れなくなってしまう。

一つはマチュア発声への違和感。長くアナウンスをやってきた身からすると、声を使って配信する以上はそれなりの発声とそれなりの機材を備えていらっしゃるのでしょう、という先入観がどうしても働いてしまう。もちろん、声優やアナウンサーの専門学校で集中的に勉強したことを感じさせる方もいた(中にはこれプロやな……という人も間々いる)が、放送的バックグラウンドの無い方が割と多い、玉石混淆の胡乱な業界に突っ込んでいく勇気は持てなかった。当時の私は声優ユニットを追いかけていたから、無意識下で対比させていたという要素もあっただろう。

一つは投げ銭文化。参入障壁が決して高くなく、フリーで活動を始めること自体は容易い業界である故に、収入を安定化させようと思うと投げ銭システムを利用しない手はない。そして、配信者が好きな視聴者は、少しでも配信者が笑顔になれるようにと、時には認知してほしいという下種な野心も込めて、投げ銭を送る。しかしこれ、価格が開示されるのがなかなかエグい。金銭のやり取りが露骨に発生していることを見せつけられて心がさざめいてしまうのは、私だけではなかろう。

 

現状の私はこれらを克服した。一部は誤解や食わず嫌いであったし、一部は自分の中で論理を構築し直した。自分の中に花開いた違和感は、私の"好き"に根を張り養分を吸い取り、みるみる脆弱にしていく。私は、その花をひとつひとつ摘み取っていかなければ"好き"に強度を持たせることができない、難儀な性格をしている。

 

VTuberの話題をブログに出すかは少し迷うところがあった。何せ、私は新参もいいところ、にわかにわか、にわかのしゅーりんがんである。これまでの当ブログ記事は、「倉橋ヨエコ」だったり「WUG」だったり「国旗」だったり、長期間触れてきたと自負できるコンテンツに対して、解説などを交えたものが多かった。紡いだ文章のテーマが詳しい分野であればこそ、読者に新鮮な知見を与えられる自信を持って、世に送り出せるというものだ。

しかし私は思い出した。

自分で「好きを語れよ」って言ったんじゃん。って。

i-verum43.hatenablog.com

 

というわけで、好きに責任を持たせていただくことにしよう。

これは解説でも布教でもなく、ただの「強化」だ。私の、私自身の好きに対する。

 

 

胎動期◆キズナアイ親分


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2016年。「バーチャルYouTuber」を名乗ってYouTubeに飛び込んできた彼女のニュースは、末端ネットユーザーの私の耳にも飛び込んできた。

小6からニコニコ動画に浸かっていたせいか、YouTubeの空気感にはまだ溶け込めない一方で、ニコニコの雰囲気もRC2時代とは異なるものに変貌していた。そんな私の居場所は、主にTwitterに移ってきていた。ただしアカウントは持っていない。なんと、好きなアカウントをブックマークするという、デジタルに疎い課長クラスの上司が誤った方向性に頑張りました的スタンスを貫いていたのだ。今思うとヤバい。「アカウントなんか作ったら私のインモラルが暴走して悪口雑言の限りを尽くすからみんなに嫌われる」と思ったための措置だったが、アカウントだけ作ってツイートしなければいいだけの話だったではないか。Instagramはそうしているではないか。アホすぎる。

そんな情弱イルリキウムですらキャッチできたキズナアイさんのセンセーショナルさは強烈だった。ここから徐々に、のちに(なぜか5人いる)四天王と呼ばれるようになるVTuber諸氏を認知するに至る。

 

 

萌芽期◆輝夜月ネキ


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なんだこれは……???

 

YouTuberが多用するいわゆるジェットカット手法で余白が切り詰められ、何らかの人工的化学物質の力を借りなければ達成し得なそうなハイテンションが理解の速度を超えて叩き込まれる、「観るストゼロ」と評された彼女の動画は、私の興味を強くひいた。

なんだかんだで大学の専門科目が忙しくなっていた私にとって、短時間でトリップできる彼女の動画はありがたかった。

 

なるほど、VTuberという形態は、モーションキャプチャなどの技術革新の波に乗って、「ボーカロイドに喋らせるより即時性があり」「顔出しで喋るよりプライバシーを護れ」「社会的アイデンティティに束縛されず」活動ができる便利さがあるんだな、と納得していた。

 

 

発展期◆ばあちゃる


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彼のデビュー自体は輝夜月より早いものの、私が彼の所属する.LIVEを認知したのは2018年に入ってからだった。

なにしろ、馬である。

VTuberの可塑性の高さを思い知らされた。何しろ、馬である……から……。

 

しかしながら、この頃からVTuberに括られる配信者は指数関数的に増加しはじめ、到底全容を把握できなくなってくる。

 

 

停滞期◆にじさんじとホロライブの台頭


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月ノ美兎委員長をはじめとするにじさんじの1期生は2018年2月にデビュー、ホロライブ1期生が2018年5月に募集を開始し5-6月にデビューした。

私はこのころ大学6年生。病院実習&国家試験勉強と、更に解散が決まっていたWake Up, Girls!に全てをつぎ込む二足のスニーカー生活を送っていた。

必然的に他のコンテンツに足を伸ばす余裕が無かったのである。

 

大学を卒業して同時にWUGが解散する。なおも私は、導入部で述べた違和感3点セットに強烈に苛まれていた。

麻雀プロと交流があった夜桜たまさんや楠栞桜さん、サントリー公式の燦鳥ノムさんなどなど、名前だけなら知っているVTuberが増えていく。しかしその多くが「好きな作曲家が楽曲を提供している」という理由であり、曲こそ聴けど動画は観ていない、そんな不義理な状態が長らく続いた。

この頃私は、「VTuberは~~……詳しくないんだよなァ~~~」とお茶を濁しまくっていたと記憶している。

 

 

爆発◆壱百満天原サロメ


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彼女の登場は、多くの"VTuber馴染み無い勢"をVTuberの土俵に放り込んだ。私もそのうちの一人である。時は既に2022年も半ばとなっていた。

このころの私は、小児科外来にも慣れ、多少なり勉強しながら仕事を進める余裕が出てきていた。一人暮らしスタイルも確立し、時間をサロメ嬢の配信に回せたのが大きかった。

 

彼女のトークスキルと発声の澱みなさには心底驚いた。今のVTuberってこうなってるのかと。考えれば、VTuberを多数擁する事務所が、初めてソロでデビューさせているなどの話題性を持っていたのだからハイスペックなのは当然と言えば当然かもしれないがしかし……しかも話を聞くにつけ、このお嬢様、イデオロギーがしっかりしており各方面へ思慮深いことが分かる……すげぇ……。

彼女のおかげで私は、VTuberに対する邪推評価を改めることとなる。

まずは同事務所のにじさんじメンバーを追う。すると、20分前後の企画動画や、公式の切り抜きなども多いことに気づいた。数時間の生配信ばかりではなかったのだ。

そして、各々のキャラクタ性に裏打ちされた、アクの強いトークに惹きつけられた。周央サンゴさんやジョー・力一さんなどは、特に頭の回転が速いと考える。仲間内でゲラゲラやっているのとは違う。語彙と知識と表現力、これらを引き出す瞬発力が図抜けている。ANNやっててもおかしくない。

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トーク内容そのもので私が愛してやまないのが、鈴鹿詩子お姉さんである。ボーイズラブに精通する彼女は、界隈のセンシティヴ用語を乱発することを厭わない。しかし下品に笑うことはしない。そのアカデミック感と落ち着いた声のトーンに反して、清楚なお姿を興奮に震わせている様子に、私は常に骨抜きにされている。

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こうして私は、「素人感」と「配信の長さ」という2点が勘違いであることを知った。

それと同時に、「今自分が認識しているキャラクタは実はただの素人で普通に生活をしている通常YouTuberと変わりない存在である」「長い配信でも内容が面白くコンテンツ力が高ければ可処分時間の割り当て優先順位が上がる」と認識できるようになった。勘違いの矯正と同時に、認知の克服までもなし得たのだ。

 

 

最盛期◆あおぎり高校・山黒音玄さん


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あおぎり高校の存在は、母体がどうのこうのなったときに認識はしていた。こういうどうのこうのが起こりやすい環境であることを、聊か残念に思ったものである。それから私は、彼らのことを忘れてしまっていた。

 

彼らは代表を変え、shorts動画によるスタイルを確立して帰ってきた。いや、帰ってきたのではなく、ずっと殴り込みをかけ続けていたのだ。その体当たりが、彼らの周囲にあった壁を壊し、周囲と融和させ、そして多くのリスナーの支持を得るようになったのだった。

私があおぎり高校およびメンバーのチャンネル登録をしたのはついひと月前で、彼らを取り巻く苦難についてはこの1ヶ月でレトロスペクティブに知識を得たのみである。この期間彼らを支えたファンには頭が下がる思いだ。

彼らはやりたい放題やっているが、通底している人間力があり、それが見え隠れする。そこがたまらない。実写配信などVTuberがやっていいのか。そんな疑問を力づくで押さえ付けてくる。VTuberの生活と、我々人間の生活とは、地続きだ。VTuberは実在する。そこに他人事ではない物語を感じ取らされる。ある種、侵略的な彼らの生き様に、私は共感を覚えたのだった。

現運営(あおぎり高校職員室)は、ファンに呼びかける。

「ワンコインの支援でもとても助かっています」

「多額の支援は生活に余裕があるときにしてくださいね」

ファンを大切にする姿勢は、運営とメンバーで方向性を同一にしているように感じられた。これは、私の投げ銭文化に対する態度を軟化させた。こちら側で非表示にすればいいだけのことで、スパチャ読みも声を聴けると思えば悪いものではない。

 

そんな中で、私はメンバーのひとりである山黒音玄さんに強く惹きつけられた。

ASMR視聴歴9年の私は、一部のあおぎりメンバーがASMR配信を行ってくれることにも尋常ならざる魅力を感じていた。音玄さんはそのASMR組のひとりだった。

チャンネル登録をして動画を観漁っていると、ふわふわした舌足らずな口調で夢見心地の癒しを与えてくれる空気感を纏っていながら、周囲のおばかさんたちを諫めたり、つつがない企画進行を心掛けたりと、動画成立への意識の高さも伺える。チャンネル概要によると、英語もできるという(クイズ企画でsoilやweedなどの単語がすらっと出てきていた。すごい)。その二面性にやられてしまった。

 

すぐさま、ニコニコチャンネルプラス「裏ねくろASMRちゃんねる」に登録。pixivFANBOXで支援を行い、人生初のメンバーシップ登録まで済ませてしまった。かっこかわいい音玄さんのASMRを朝な夕なに聴き放題で、なんか、もしかすると、1対1で通話までできるらしい……ですよ……どうしよう震えるとりあえず感謝を伝えないと……。

彼女についてはまた月末ブログなどにとっておくとして。

 

迷いが無い。このスタートダッシュの加速度には覚えがある。私というオタクがコンテンツを応援するとき、誰かを推すときの加速度だ。

 

あと1年、あと3年、早く推していれば。そういった悔恨が無いわけではないが、きっと私にとっては今がそのタイミングだったのだ。すべての違和感を払拭できた今しか、推し始めるタイミングはなかったのだ。

 

測り続けていたVTuberとの距離感。今が最接近している。

私の興味もコンテンツの盛衰も、今後どう転がっていくかは分からない。だからまずは、推しを知るところから始めよう。もっと強度を持って、"好き"を語れるように。