論理の感情武装

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知り合いの数学ファンが本を書いたので感想だらだら(時にふつふつ)祭り

イルリキウムです。

 

知り合いの数学ファンが本を書いた。

 

これまで私の人生で、「知り合いの数学ファンが本を書いた」というイベントは無かった。

そもそも「数学ファン」なる人種に出会ったのはこの鯵坂もっちょ氏が初めてだったかもしれない。そんなことを名乗る奴はいなかったのだ。そう思うと、「知り合いの数学ファンが本を書いた」というイベントのレアリティが窺い知れる。

twitter.com

何はともあれ、コンテンツ力の高い事象である。早速購入してみた。

 

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タイトル「つれづれなる数学日記」


タイトルがシンプルでいい。

「つれづれ」はもともと「連れ連れ」で、同じようなことが連なってだらだら続くことを指す。徒然、つまり「いたずらな」、というのは当て字だ。

ただ、それはすなわち面白くない、という意味ではない。だらだら続く日常を、様々な視点で切り取っていれば、それはカラフルな作品たりうる。

実際に話しているとすぐに分かるが、もっちょ氏の引き出しは実に多彩であり、かつ会話の反射神経に優れている。だからこそ、「徒然」が一番面白い。ここに筆者の特異性が見出せるだろう。

 

余談だが、私は小さい頃「とぜんそう」という個人ホームページが好きだった。ショートショートや再翻訳を載せていたと記憶しているが、ちょっと探しただけでは見つからなくなってしまった。閉鎖したのかなぁ。

 

 

まえがき


数学ってなんの役に立つの? とはよく言われますが、(後略)

 

マジでこれなんだよな~~

面白味を抽出して遊んでるだけだから、役に立つかどうかという尺度で考えてないんだよね。まさに"数学ファン然"としたまえがきで嬉しくなる。

当然、真面目に勉強するときはする。でもそれは、何か生活に役に立てようという意気込みでしているわけではなくて、正確なことを知らないと遊べないからだ。いや、ちょっとニュアンスが違う。遊ばせてもらう以上は、正しく理解しておかないといけないからだ。少なくとも私は、数学や言語学や音楽を勉強するときは、こういうスタンスでいる。

学問とは高尚なもので、世俗と切り離さなくてはいけない、なんてことはない

 

 

3/2 誤変換


「無限蔣介石」

 

吹いた。頭の中で蒋介石が無限増殖して笑いかけてくる。

 

確かに、漢語のテクニカルタームは誤変換を生みがちだ。私の仕事の半分は、電子カルテにカタカタ専門用語を打ち込むこと(目にくる)なのだが、誤変換はストレッサーのひとつである。

「末梢冷感」は「抹消霊感」になるし、「肘窩に紅暈を伴う丘疹を認める」は「中華煮幸運を伴う球審を認める」になる。ふざけないでほしい。

いやこれ……、電カル端末に医学用語辞書入ってるはずなのになんでなのかな? 手持ちのラップトップに入っているgoogle日本語入力の方が優秀だが??

 

 

3/7 鏡映寿司


拡大・縮小寿司とか鏡映寿司も存在してしかるべきなわけだ。

 

しかるべきか?

 

数学で遊んでいる。もっとやれもっとやれ(けしかけられなくてももっとやると思うけど)

 

 

3/10 付き合い始めた記念日


いいなそれ、と思ったのだが、自分たちに置き換えると母校の前で制服コスプレをしなくてはいけなくなるのでさすがにヤバそうだ。

 

 

3/19 冪等元


学名において、属名と種小名が同じ語になっているものをトートニムという。

Gorilla gorilla gorillaはまさにトートニムの極致だが、これを見て「gorillaって冪等元じゃん」って思う人間、面白くないっすか?

 

ちなみにトートニムは、現行の命名規約では動物でしか認められていないカラカルCaracal caracal)とか、ビクーニャVicugna vicugna)とか。

Wikipediaの記事を見ていたら、カオス(Chaos chaosというアメーバの近縁種がいてしばらくツボった。マジかよ。

ja.wikipedia.org

 

 

4/11 底面


「底面」って正確な定義無いのか。でも言われてみれば説明できない。

なんとなく、床に接してる部分って感じで考えていたけど、角錐だったらどこでも底面として扱い得るか。う~む。

 

そういえば、医学用語には「底」が上にあるものがやたら多い。胃底、子宮底、仙骨底、膝蓋骨底、などなど。

調べてみると、尖って(apex)いるものは、その反対側を底(basis)と呼ぶのだと。これで仙骨や膝蓋骨は分かる。更に、口があるものはその反対側を底(fundus)と呼ぶのだと。胃や子宮はこちらだ。なるほど二種類あるのか……。

 

数学の底面はたぶんbasisの方だと思うが、本書内で例として挙げられているように、半球の場合は尖がないので困った。う~~~む。

 

 

4/28 密室殺人事件


「ちょっとよくわからなかったのでもう一回言ってください」

「……えーと、だからですね……」

 

ミステリの登場人物、みんな頭良すぎなんだよな。会話に無駄がなさすぎる。

 

 

5/19 点には大きさがない


「存在するのに大きさがないってどういうこと?」

 

数学におけるこの概念が腑に落ちたのがいつかは覚えていないが、何かの文庫本で読んだことは覚えている。

あと、中学の塾の授業で、球を床に置いたときに接しているところの面積はゼロという話題になって、「はにゃ??」と思考停止した記憶もある。少しずつ分かっていったんだろうなこういうのって。

 

 

6/4 COVID-19


COVIDがフランスでは女性名詞と定まったと書いてある。

まるで知らなかったので、「へぇ~っ」と声に出して驚いてしまった。今度COVID患者さんが来たときに披露してみようかな。絶対やめといた方がいい

 

 

6/12 半濁点


ひらがなに「半濁点をつける」操作。

放送人にとっては、か行における鼻濁音の印として認識するので、か行以外でも、むりやり鼻音で読もうとすると思う。

そういう人いませんでしたか? もっちょさん。

 

 

6/16 プッチ神父


私は『ジョジョ』を読んだことがなく「素数」でしか「プッチ神父」のことを知らない

 

逆に!?

 

 

7/2 曖昧な言い方をしない


曖昧な言い方をしない、というのは数学をやると身につくスキルのうちの一つだ。

 

ここに出てくる具体例の台詞、数学デーの香りがして好きだ。

数学デー以外ではこうした物言いを聞いたことがない。もし職場でこんなこと言ってくる人がいたら面食らう。

 

 

8/22 数学用語を日常に用いる


会話の中に数学用語を忍ばせても会話の流れが止まることなく、しかも過不足なく意図が通じるということだ。

 

普段、コミュニティによって語彙を使い分けるように、十二分に気をつけているのだが、この前同科の先生と話をしているとき「あ、でも、それとこれとは独立ですよね」と言い放ち、目を点にさせてしまった。

そんなに分かりにくいか、独立。分かりにくいか……。

 

 

9/13 数学デーで生まれる思いつきゲーム


この多重化山手線ゲーム、瞬発力が試されるやつだ。

瞬発力系のゲームはマジで異常な大声発言を突発的にしてしまうことがあるので注意が必要である。何度もこれで床を転がったことがある。

 

 

10/10 安産祈願


知らない文化だったので義実家の言われるままにしたのだが、(後略)

 

「義実家」の部分を「よしみ、け?」と読んでしまったせいで、1分くらいラビリンスしてしまった。

「よしみ……徳井義実チュートリアル)? 徳井さんのエピソードトーク? いや、よしざね、かもしれん……なんか北条家にいるかもしれない……いや、実は奥さんの名前? 本名知らないしな、待て待て急に著書で本名出すわけないか、えっ、……あっ、ぎじっかだ!」

 

 

11/15 環はオムライス


お~なるほど、さすが分かりにくい概念を身近なものに例えるのが上手い、と思いながら読んでいたけど、この見開きページ、

・奥さまの当てずっぽう皆中

・環はオムライス

メルセンヌ素数

と、なんだか数学と日常がごんじゃになっていていきなり冷静に「なんだこの本?」と感じてしまった。最初からずっとそうだっただろ。

 

 

12/18 入院


双胎妊娠母体はハイリスク。

と言ってしまえば素っ気なく、血が通っていない感じだ。

我々医療者は、ご家族ひとりひとりの気持ちに寄り添う存在でなくてはならない。

ここには、いちお父さんから見た景色が赤裸々に語られていて、しかも4日間数学の話が無い。それだけ大きな出来事なのだ。私は勝手に気持ちを新たにした。

 

 

1/27 どこでもドア


爆発するかもしれないほど笑った。夜中だからかもしれん。

 

 

2/2 数学ワーク『OKRA』


これは私が常日頃数学教育のここがよくないな~と思っている部分、「型にはめようとする」への対抗策なのだ。

 

私が塾でアルバイトをしていた大学時代に『OKRA』があったなら……と涙がちょちょぎれてしまう。きっと、少なからず学校数学教育に携わったことがある人間なら、この気持ちが理解できるはずだ。ネットでかじっただけでも、あのワークの威力はすごい。

この「型にはめようとする」という数学教育の根幹、なんなんでしょうね? 根腐れしてるから葉っぱにいる教員も腐って、生徒たちが実をつけないんだよ!

バーグハンバーグバーグの永田副社長も言ってたよ!!

オモコロチャンネルより

youtu.be

 

 

2/6 ペンパイナッポーアッポーペン


ペンが連続すると面白い。

アッポーペンペンパイナッポー、ペンペンの部分ヤバい。

 

 

2/17 ライフゲーム


囲碁のシチョウにも似ているね。

 

 

3/1 家族が2の累乗で増える


そうなると次は8人ですね! 2世帯かな?

 

思い返すと、私が著者の鯵坂もっちょ氏に会おうと思い立って数学デーの扉を開いたのは2019年の3月であった。

そこから、私にとっては数学界隈にちらほらと友人といえる存在が増えた。

一方のもっちょさんは同年に結婚され、双子を授かり、本まで出してしまった。

 

自分は、ヒトにもモノにもコンテンツ性を見ることで面白がる、というあまり大声では言えない生き方をしているのだが、もっちょさんと対面したあの日から、私の周りのコンテンツは明らかに増えた。

なんとなく、嬉しい。

 

とりあえずこれからもよろしくお願いしますの意味を込めつつ。

発売おめでとうございます!

 

 

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音楽界隈のみなさんに向けて、もいっちょ宣伝。数学に興味なくてもぜひ。

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