論理の感情武装

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魚座とアシンメトリー「side by side」を聴きながら散歩すると世界の煌めきと友達になれるって話

イルリキウムです。

 

中学生のころCubase Studioを入手した。大学生になるまでに、フュージョン系統の作品を15曲ほどは書いただろうか。

自分で作った曲は当然のように自分の性癖ドンズバで、iTunesの再生回数ランキングでは常に自分の曲が上位を独占している。「鬼滅の刃」状態。

しかし、DTMの勉強を半ば諦めた状態でここまで来てしまった。なんとも切ない話である。

 

Twitterを始めて、MONACAファンの皆さまとの音楽談義に参加させてもらう機会が生まれた。

楽器を演奏し、作詞・作編曲ができる方も少なくない。私はここ2年ほど、彼らから刺激を受けっぱなしである。

 

人生で出会える楽曲には限りがある。

そんな中で偶然にも出会い、私の鼓膜と心を揺らしてくれた愛すべき楽曲について、私ができることはなんだろう?

 


 

サークル魚座アシンメトリーさんの新譜『side by side』

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小倉さん(@Onigiritakusan)のジャケットイラストが超キュート

いいですよねこのジャケット……。

「ふたり」をテーマにしているアルバムとのことで、只ならぬ関係にありそうな2人の女の子が描かれている。

向かって左の、シンプルでありつつフェミニンなふわふわ感を醸す子は、顔をそれほど横に向けず、目線だけを右の子に向けている。ソファから下りた足が、床に届いていないのもいじらしい。←最初こう書いたけど普通にヒールあった

対して右の子は窓際に立っており、濃いめのパーカとショートパンツ、髪型もボブと、ややアクティヴな印象。左の子との対比が際立つ。だがパーカはオーヴァサイズ気味で、やはり可愛らしさが存分に出ている。

ふわっと微笑む二人の、時は止まる。お茶が冷めるのも厭わないだろう。

その少し上がった口の端だけで、二人だけに伝わるものがあるのだ。

……ッ……尊い!!(我慢できませんでした)

 

間で陽光に照らされる双葉が暗示的だ。ところで、これは夕陽だろうか、朝陽だろうか。夕陽だったとすれば、午後のひとときを一緒に過ごして、一頻り世間話をして、陽が落ちる頃に、軽いティータイムに洒落込んでいる感じだ。世界は彼女たちのために煌めきを鏤めている。朝陽だったとしたら……

……あ~~~尊い!!!(我慢できませんでした)

 

内容に進んでいこう。

全編produceは掛川さん、vocalはshiorinさんである。

 

M1. ティルナノーグ・プロローグ

Lyrics:桜木うみ
Music/Arr.:掛川
Guitars:なっさん


技巧に走らない、キャッチーでストレートなメロディライン!
曲に背骨を通すハモンドオルガングリッサンドオクターヴの厚みが心を鷲掴みにしてくるし、ロック寄りの力強いバンドに否応にも体が動いてしまう。

Aメロ後半、サビ後半に現れるノンダイアトニック。これが曲の快活さを出しているように思う。コード自体はマイナーとなっても、それが明るさの演出に一役買っているなんて、面白い話だ。

いやいや……1Bとか全人類好きでしょ?
スネア・ハーフオープンハイハットの4分連打だけでも唾液腺フル稼働なのに、上の重音を維持してベースだけがⅠ→♭Ⅶ→Ⅵ→♭Ⅵと下っていくこれ、ホント……、世が世なら禁止カードだよ?
実音が一緒だから、EW&Fの『In the Stone』を思い出して脳内麻薬が。

これしかも、2Bでギターソロに入っていく箇所だと、逆にルートをキープして最高音の上行クリシェになるんよね。展開の妙。

1Bのビートや、サビの8分裏拍などなど、随所に「好きな曲が似てるんだなあ」と感じさせる場所があって最高だ。

 

ティル・ナ・ノーグは、ケルト神話で、敗戦した神の一族が移住したこの世の鏡像のような世界、妖精の楽園を指す。

「若さの地」という意味合いの通り、迷いや暗い気持ちを感じさせない詞がまた良い。〈走り出したビートに乗っかって〉、ここはしっかり言葉のリズムとオケがハマっていて気持ちいいところだ。まさに”ビートに乗っかって"いる。

華々しい幕開け!

 

 

M2. ハッピー・ホリデー・エクスプレス

Lyrics/Music/Arr.:namaozi
Dialogue:夢芽

なまおじさんはそれなりに仲良しだと思っているので口調が雑になるがどうかご寛恕願いたい。

どうした? マジでどうした?

只野さんを降ろしたとしか思えない横文字遣い、整然としたおもちゃ箱に自ら飛び込んだようなカワイイポップには石濱翔を想起せずにはいられない。

初見時の印象を申し上げます。

[スティックのカウント]お、ロックか?

[パラパ……のスキャット開始1小節目]違った! ピチカート・ファイヴみたい! かわい!

[3小節目]えっ、フラットファイブ? スパイシーだ

[4小節目]こっちでシャープファイブ! 溶ける……!

[やがて]9thの往復はクリティカルです。神様今までありがとう私はもうダメです

3625進行の激カワリフレインの内声には、こんな魔物が潜んでいたのだ。魚類こわい。

 

ヴィーナスフォート〉と〈ビームス アース〉のところとか〈ジェノバ ペスカ パンチェッタ〉なんかはね、すごくその、言葉の"軽さ"みたいなものを信じているというか、響きを重視しつつも、字面にしたときに違和感を持たせない絶妙なラインを突いているというか。これ只野さんがよくやるやつなんだよなマジで……。

欲しいところに入ってくるトライアングルトリル。ありがとうございます。打楽器奏者の目立ちどころです。曲名の「エクスプレス」のように駆け抜ける女の子2人の休日デート、このトライアングルが列車の発車音にも聞こえてくる。

あとは1:20辺りのミュートギター、聴かせるねえ……。

 

息つく間もなくシロフォンソロ。かなり太めの毛糸を巻いたソフトマレットの音がする。個人的には薄いオレンジ色のマレットで叩きたい。これをきっかけにシロフォンが目立つようになるが、なまおじさんのセンスが光っているのは2:10~のパッセージだと思う。1番には無かったドレミ(♭)ファソファミレの往復。ちょこまかして可愛さを何倍にも膨れ上がらせる。もし生バンドでやる機会があったら、パーカス私に叩かせてくれませんか?

〈食べちゃおうかなんてね〉の〈なんてね〉、恐らくshiorinさんの歌い方によるものだろうけど、1番に比べて最初のファが当たっていて、ちょっとした変化が楽しめる。良い感じ。

台詞部分……言うことありませんね……。

 

ふわっふわの気分でいたら、ロックになってた。やってくれたな。怒涛の半音転調。短3度上がったことになるので、ヴォーカリストの裏声領域に入るかな? と期待していたら〈はいポーズ〉で上がらなかった。やってくれたな。でもこっちの方が可愛いからOKです!!

 

 

M3. セミロング

Lyrics:めがねこ
Music/Arr.:namaozi

 

スロウなヴィオラォンに掠れの風味のある横笛。ボッサはなまおじさんの得意分野と心得ている。内声の半音下行……このフレーズ何度も言ってるな、きっと今わの際でも言ってるな。

shiorinさんのウィスパー、すてきだね。全編このくらいの息混ざりの声で歌った曲も聴いてみたい。
話は飛ぶのだが、かつて友人が貸してくれた同人アルバムに、なまおじさんのM2, 3の中間みたいな曲が収録されていた。中央食堂さんの『魔女だって恋をする』の「カラフル」(歌・詞:みずたま/作曲:stremanic)。めっちゃくちゃにお気に入りで、愛聴し続けている。これもウィスパーが印象的な一曲。

 

笑顔が響いている(1番)、茜色の空が匂う(2番)という五感のすり替えは、感覚の鋭敏さが光る詩である。新出のメロディに乗る〈隣で聴かせてね 夏の横顔〉の箇所もかなりのポイント。少しだけ音が詰まった前半から、後半には5度上・d音への跳躍がある。9thなんだよ……。分かり手。

なまおじ曲は、テンションコードをしっかり飼い馴らしているのがさすがだ。作曲者が好みのコードを無理して詰め込んだ結果、違和感のあるコードワークになってしまっている、なんて曲に出会うことがあるが、そういうところが全く無い。曲に準じているし、殉じているといった感じだ。

 

シャッフルビートにウォーキングベースでジャズ的展開を見せる場所がある。手練れ過ぎてやっぱ魚類こわい。この展開は、何かオマージュ元があるわけではないのだろうか。寡聞にして存じないが、めっちゃきゅんとくる膨らませ方である。スキャットア・カペラで閉じるのも、「ふふっ」という主人公の微笑みが見えるようで、これ以上ないクロージングだ。

 

〈8月が〉〈消えて〉を受けて、同じく連用中止で〈セミロング〉が〈揺れて〉と来る箇所。髪が最後の夏の香りと、あの子との思い出を纏って気儘に揺れてるイメージ、なのかな? 「寂しさだけじゃなくて、だけじゃないけど、やっぱりさあ……」ってあの子のことを考えちゃって期待しちゃう感じかな? あっ、やべ、可愛い。

めがねこさん、やっぱり蓄積がすごい。引き出しの多さを感じる。

 

 

M4. heliotrope

Lyrics/Music/Arr.:掛川
Guitars:外舘大貴

 

複数ギターの厚いロックバンドテイストながら、清涼感を併せ持ったクールナンバー。黒須克彦さんのロックチューンを聴いて育ったみたいなところがあるので、こうした正直者のロック、大好物。

音は本当に真っすぐでアツいんだけど、3拍子を挟んだ間奏なんかは浮遊感があってよい。サビでもエフェクテッドなギターが視線を引き上げている。各楽器が朗々とうたい、バンドが渾然一体となり赫々と輝いている……こんな曲書けたらメジャーデビュー待ったなしじゃないですかね??
(聴き直して気付いたことだが、この部分、トータルすると4拍子で取り続けて問題無いんだな。譜面は4/4のままで、点線で見かけの小節を書いてもいいのかも)

 

サビのメロディ、ドミナント終止が私の好物って知ってるのか……? ロックには本当に似合う。好きで言ったら、サビ前半と後半のブリッジに使われている3, 4拍目の裏打ちシンバル、これも大大大好物だ。

ぐっ……、曲全体もサブドミ(9th)で終わらせるのか……私の好物ばっかり出してくるなこのアルバムずっとこわいな……。

 

言及を忘れるところだったが、この曲のイントロ、「一呼吸+ブレス(吸気)」なのである。ブレスがイントロ扱いになるポップスはよくあるが、その前の一呼吸を入れているのは珍しい。これは当初からの予定だろうか? レコーディングの際に何かインスピレーションが降りてきたとかだろうか? 教えて掛川さん!

 

〈君の顔は見えなくて それでも見ていたいと願った 今だけは それだけで〉。胸を打つ歌詞。

ヘリオトロープ、私には少し切ない色のイメージがある。あるいはhelios(太陽)+trepo(向く)という原義から、届かないあの子に向かって手を伸ばす主人公の暗示なのか。

 

……えーっと、言わない方がいいかもしれないけど、膠原病のひとつである皮膚筋炎に特異的な症状のひとつに「ヘリオトロープ疹」という眼瞼の浮腫性紅斑があるよ。医学用語には食べ物とか植物の名前を当てたものがそこそこあるんだよっていう豆知識……要らないね。ごめん。

 


 

今日もまた、素敵な楽曲たちに出会えたことに感謝。

 

追記:

良い曲は演奏したくなるので、ピアノメドレーアレンジをかましました。是非聴いてみてくださいね。