論理の感情武装

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『Wake Up, Girls! 新章』で気になった台詞を書き留める

イルリキウムです。

 

アニメ『Wake Up, Girls! 新章』の放送から季節が一巡りした。

先日、スマートフォン内のファイルを整理していると、「WUG新章」なるメモを発見した。
視聴時に、気になった台詞を纏めておいたものである。
そのメモは、あくまで台詞を羅列しただけの簡単なものだったので、コメントを加えて残しておこうと思う。

 


岡本未夕「おけまる水産~!」(第2話)

最初にこれか、という感じだが、未夕特有の言語センスや、いわゆる「JK語」を臆面なく用いる様子が変わらず見て取れる重要な相槌である。当時、「おけまる水産」や「あざまる水産」という言葉は確かに出現していたものの、局地的かつ一過性の流行であったようで、その認知度にはムラがあった印象である。だが、周りの誰も「なにそれ?」などという反応をしない。全員知っていたのか、未夕の言葉遣いだと思ってスルーしたのかは定かではない。おそらく後者だろうが。

また、これを発声するとき未夕は足をバタつかせる。隣の実波に比べて随分なはしゃぎようである。可愛い。

 

菊間夏夜「アイドルのカロリー消費ナメんなよ!」(第2話)

どこかで見たことあるような大食漢タレントと、どこかで見たことあるような番組「ゴトーチ! 紹介しまSHOW」に出演した際の夏夜の啖呵である。夏夜にとっては、コメント力で敵わない相手から、なお煽られたようなもの。彼女の矜持、負けん気の強さが暴走しており、奥野推しとしてはあの演技が聴けただけでも大満足である。

アイキャッチで完食した皿を掲げる夏夜の表情もまた良い。

 

司会「ズバリ、早坂さんにとってアイドルとは何ですか?」
早坂相「人はアイドルに生まれるのではない」
司「はい?」
早「さて、続く言葉は何だと思う?」
司「え、ええ、えっと……」
早「クイズの答えが、質問の答えだよ」(第2話)

意味の分からない言葉を使うのではなく、意味の分からない言い回しで相手を煙に巻く。早坂らしさ。この時点で、「人間の面白さ」というものに惹かれている早坂の姿が、仄かに現れている。

 

菊間夏夜「豚に悪いし!」(第2話)

体重やお腹周りが気になってきた夏夜が絞り出した言い訳。立ち上がって叫んでしまうあたり、切羽詰まっている。もはや豚は調理されてしまっているのだから、食べてあげない方が悪いのでは。冷静に考えると。

 

岡本未夕「もちろん、HKM! ハリキリまくりですよ~!」(第3話)

相変わらずDAIGOである。

 

林田藍里「こんばんは、シャーク林田です!」(第3話)

この姿を見た瞬間、「出たー!」と漏らしてしまった。周囲の大人たちが口をあんぐり開ける中、「一番落ち着くから」という理由を以て自分らしい格好で挑んだ藍里。メンバーがそれぞれの仕事において、求められているものや振る舞い方と、自分たちの経験や考えとの間で雁字がらめになっていた状態から、突破口を見つけ、徐々に軌道に乗っていく経緯を描いている中で、インパクトという点で突出していた。別に吹っ切れたという訳でもない、藍里の落ち着いた声音が印象的である。『咲 -Saki-』で、原村和がエトペンを抱いていた姿を思い出す。

 

丹下順子「アイドルがミュージカルやっちゃいけないって法律でもあるの?」(第3話)

「~って法律でもあるの?」なんて小学生が使いそうな嘯きなのに、菜々美に向かって浴びせたこの言葉は強い。凄みがある。バックグラウンドを考えると、冷や水に等しい。社長が垣間見せる手腕でもある。

 

片山実波「そうだよー! 嬉しいときは嬉しい、悲しいときは悲しい、美味しいときはうんめーにゃー! みたいな?」
岡本未夕「それそれ! 辛いときは、しょんぼり沈澱丸です~!」(第4話)

こうした台詞が聞かれると安心する。"みにゃみっぽさ"、"みゅーらしさ"を感じるからだろう。逆に、この2人がお気楽なことを言えなくなったら、相当心を揺り動かされてしまう。状況の深刻さを示すひとつの指標としている。

なお、「ガチしょんぼり沈澱丸」という言葉の派生元とされる「激おこぷんぷん丸」であるが、現代語研究上でも面白い位置づけにある。Wikipediaに詳細は譲ろう。

激おこぷんぷん丸 - Wikipedia

 

岩崎志保「迷惑かけるけど、その代わり、私絶対NG出さないから!」
島田真夢「……分かった。私も出さない」(第4話)

通して考えれば、この2人の関係性を詳細に描出するのが新章の持つ大きな役割だった。どちらかと言えば、ドラスティックに変わっていくのは志保である。アイドルとしても女優としても、真夢に負けまいと賭してきた中で、逆らえない帰還命令。志保の足下はぐらぐらだ。それでも、これ以上無いほどの決意を真夢に伝える志保。そしてそれに、まっすぐな瞳で「私も出さない」と返す真夢。さらっと流れる場面にしては、凄まじい熱量が籠っている。

 

速志歩「正直、自信は無いけど……。少しでもまゆしぃみたいになりたい、って、思っちゃったの……」(第5話)

思っ「ちゃっ」たという言い方が中学生の照れ隠しらしく、少し擽ったい。何にせよ、憧れは原動力だ。なりたい、という気持ちを持ち続けていれば、そこに努力や才能や運や、諸々のファクターが重なって、なれることだってある。

 

岡本未夕「あ゛ああっ!? 友情ワイドサスペンス……湯けむりシロクマ殺人事件!?」(第6話)

曖昧な発音だったので「友情」だったか微妙なところだが、この台詞の肝は頭のリアクションである。高木は天才。言うまでもない。確かに秋保温泉なんかはよく2時間サスペンスの舞台になる。

 

阿津木いつか「どうぞ。どうぞ。どうぞ。どうぞ」(第8話)

仙台駅前でビラ配りをするいつかの姿。あの無表情、ダウナートーン、才能である。あんな子がツカツカ近寄ってきたら、貰ってしまうかもしれない。

関係無いが、私は、2次RGRではいつか推しである。髪型が好みなのだ。Perfumeではのっち推しである。

 

丹下順子「コレでダメなら、……夜逃げね」(第9話)

また逃げようとしている。冗談だと思われない。

 

阿津木いつか「……卵未満はアメーバじゃないと思う」(第9話)

この切れ味。言葉自体は穏やかなのに、口調のなせる業だ。こうしたツッコミは好きだ。アメーバは生物分類的にはややこしい位置に存在している(そもそもアメーバという言葉自体が総称だ)が、どう考えても卵との連関は薄く、「未満」という言葉は当たらない。え、そういうことじゃない?

 

岡本未夕「ほら、何て言うんでしたっけ……総まとめ、みたいな……そうなんとか……元締め的な……」(第9話)

元締め。

 

菊間夏夜「出来るか出来ないかじゃなくて、それくらいの覚悟ってことだよね。いいじゃん、やろうよ!」(第9話)

ここで伝家の宝刀、「いいじゃん、やろうよ」の登場である。彼女がこの言葉を発すると、誰もが「やろう」という方向に舵を切れる。色々障害があるけど「いいじゃん」。達成できなくても「いいじゃん」。挑戦してみるのって「いいじゃん」。言葉は軽快だが、無双の力がある。

 

岡本未夕「はい! 拭いて取れるものは汚れ故、全て吹き飛ばすようよろしく頼むであります!」
守島音芽「了解でありまーす!」(第10話)

「拭いて取れるものは汚れ」という発想は無かった。そして中途半端な軍人的イメージ。似たノリのツインテ子分を手に入れて楽しそうである。

 

岩崎志保「I-1が変わっていくのは仕方ないと思ってる……。でも……失くしたくない……!」
島田真夢「志保……」
志「大事なの……みんなが……。あの子達と1から作り上げて、これからなのに……っ!」
真「うん。分かるよ」
志「今更、って思うかもしれないけど、初めて真夢がI-1を辞めた気持ちが解った気がする」 (第10話)

ドラマの制作発表会見でも「私のホームは博多」と言い切った志保である。アイドルがリップサーヴィスでこうした発言をすることは間々あるだろうが、彼女の場合は本気だった。今まで、言外に感じていただろうその本気に、いよいよ触れてしまった。真夢にも少なからず動揺があったように見える。

 

林田藍里「そうそう! 気が付いたこととかを書いておけば、いつでも読み返せるでしょ?」
奥野夏夜「いいじゃん、やろうよ!」(第10話)

夏夜はいいじゃん、やろうよ芸人になってしまったのだろうか? あまり乱発してほしくないのだが……。いつの間にか口癖のようになっていたということか。

 

七瀬佳乃「……!」
林田藍里「よっぴー?」
佳「何か……こういう感じ? 『WUGと言えば』って」
島田真夢「歌詞のテーマ?」
佳「うん。私たち一人ひとりは弱くて、足りないものがあって……。でも、お互い影響を与え合って、強くなっていく……!」
真「与え合う……。いいね、そういうの」
藍「まゆしぃと志保さんもそうじゃない?」
真「えっ? あ……、うん、そうかも!」
菊間夏夜「私たちが出会ってきた人たち、みんなとそうなれたらいいよね」
岡本未夕「なんか……なんか素晴らしいですぅ~!」
久海菜々美「まだ歌詞出来たわけでもないのに、泣くの早すぎでしょ」
片山実波「やっぱり、みんな仲良く! ってことでしょ?」
一同、笑う
佳「そうだね! ツアー、頑張ろう!」
全員「おー!」(第10話)

7人の会議シーン。同級生トリオが話を捏ね上げていき、夏夜と菜々美がまとめ、未夕がとぼけ、実波がオチをつける。彼女たちの良さが存分に表現されたシーンで、後半の山場だろう。

 

サム・ハインライン "This is an extreme perfection!! HAHAHAHAHA!!"
早坂相「……Thank you. ……『パーフェクト』、ね」
サ "Now I become so close to get my hands even on idol industry."
(第11話)

大手米ソフトウェア企業のCEOが、これほど慢心したように大口を叩くかどうかは演出上のこととしてさておき、早坂の超然とした表情が素敵だ。涅マユリ(『BLEACH』)の語った「"完璧"とは "絶望"だヨ」という言葉とは趣が異なる。人間の可能性を信じているからこそ、「完璧」という言葉を不用意に口にすることを厭悪するのだろう。数学を囓った人間が「無限」という言葉を用いるときに並ならぬ気を遣うように。

それにしても早坂。英語部分が怪しい。

 

早坂相
『却下。
イモはイモでもいいけど、
イモなりに新芽くらいだせ。
やり直し。』(第11話)

愛だなあ……。早坂を嫌えない理由である。

 

岡本未夕「モアヒントプリ~ズ~!」(第11話)

未夕の台詞率が高いのは、単純に私のツボだからである。

 

早坂相 "I just made something new to the people. It doesn't really matter if I did good or not."(第11話)

は、早坂……!? まあ確かに、ネイティヴ級の発音を披露されるより、このくらい日本語英語の方が彼のイメージらしいと捉える向きもある。ポーズやプロミネンスで英語らしく聴かせているので、その辺りはさすが鈴村さんといったところか。

 

絹宮サキ「おめだづのおがげがな」
岡本未夕「えっ?」
「あんだこんだけっぱってらおめだちどこ見てらっきゃ、やっばりうだいたくなってや」
風山唯「もいっぺん、やってみるべがなって!」
六代陽子「んだ!」(第11話)

台本には標準語で書いてあったというが、敢えて聞こえたままを書き起こした。青森出身の声優3人を揃えた男鹿なまはげーずが、これほど長尺で会話をしていたシーンは無いので、込み上げるものがあった。アイドルたちを繋ぐという未夕の企画、1期で登場した他のアイドルユニットたちを再登場させる演出が上手くハマっている。

 

早坂相「……及第点。ま、あの曲はあげてもいいよ」(第11話)

少女交響曲』を「くれてやるよ」と提供した早坂だが、『Polaris』は「あげてもいいよ」に。丸くなったか。それに加えて、不合格通知はメールだったのに、今回はわざわざ国際電話を掛けてくるあたり、本当に愛でしかない。

 

丹下順子「金の問題じゃない、って怒鳴り付けてやったけどね」
松田耕平「ええっ、金の亡者の社長が!?」(第12話)

このコンビは、丹下と松田のどちらかがまともなことを言って、どちらかがボケていることが多い。そして真面目丹下とボケ松田が異様に面白い。舞台で演じてくれた田中良子さんと一内侑さんは、まさに丹下と松田の顕現であった。

 

白木徹「餞別代わりに名前ごとくれてやった」(第12話)

白木の志保へ向ける愛情もまた、尋常ではない。表向きには何にも動じない厳格な非情さを貫いているようでいて、我が子同然のメンバーには捨てきれない情がある。丹下への接し方などを見ていれば瞭然である。志保を失った悔しさ、何がいけなかったのかという自責、淡々と部下に告げる言葉の裏から、そうした感情がひしひしと伝わってくる台詞だ。普通に泣いた。

 

早坂相「白木さん。Vドルと人間のアイドルとの違いは何だと思います?」
白木徹「アイドルとは偶像だ。どちらも相違は無い」
早「確かに。ただし人間の場合、一進一退して思惑通りには動かない。なのに彼女たちは、時に軽々とこちらの予想を超えてゆく。そこがたまらなく面白いとは思いませんか?」(第13話)

対立を解り易く際立たせるための台詞なのだろう。この時点で、もう白木は早坂の言いたいことが分かっていると思う。信念かあるいは意地か。早坂が人間の面白さを追い求めたのも、白木がアイドルの理想像を追い求めたのも、ヴァーチャルの存在が業界を引っ掻き回したことで鮮明になった。昨今の趨勢と合致したことも鑑みると、良い脚本だったように感じる。

余談だが、マイクトラブルで進退谷まったWUGが客席に下りたところ、ファンがモーセの開海のごとく彼女たちのスペースを作った。現実世界において、WUGが客席近くでもパフォーマンスを行える信頼関係の表現だろうか。これを描いてくれたのは嬉しいことだ。

 

白木徹「……君の仕業か。余計なことを」
早坂相「でも、盛り上がったでしょう? ファンにとっても、これが正しい答えなんですよ」(第13話)

早坂が「答え」というのはやや今までのイメージからすると直截的だ。しかし白木も、言葉で返せない。聴衆の盛り上がりが、アイドルの評価に直結すると分かっているから。

同じ世界を生きる者たちからのサプライズ演出が、その目撃者たちをも巻き込んで感動を届けてくれる様子を、我々はアニサマで、アニマで、まざまざと見せつけられてしまった。今、この13話を観ると、また違った感慨がある。

 

白木徹「したがって私はここに、新たな『アイドルの祭典』の復活を宣言する!」(……これが私の答えだ)(第13話)

電話をしまい、即座にステージへのぼった白木。後ろ盾である達磨との相談無しに大きな決断をした彼の、腹背の面を覗くことができたのかもしれない。